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コラム - 最新エントリー

「火星の人」アンディ・ウィアー著  その映画版「オデッセイ」(主演マットデイモン) 「絶対帰還」クリス・ジョーンズ著

1 新年元日の新聞には、宇宙に関係する記事が掲載されるということを皆さまご存知でしたか?
10年以上前になりますが、私は、上場企業新年会の来賓代表挨拶の際、当時関心の高かった宇宙の話をしました。話したかった題材は「人類が火星で暮らす日が近い」というものでした。当時、宇宙を仕事とする会社の法律業務をたくさん扱わせていただき、社長さんとお話しする機会が多く、誰かに話をしたいという誘惑がありました。でも、それ以降、宇宙の話題が下火になるにつれ気になっておりました。そのような経緯から、私が購読している元日の新聞には、宇宙に関係する記事が必ず掲載されるということに気付いたのです。
本年の朝日新聞は「月面へ国際レース」、日本経済新聞は「宇宙でごみ掃除。誰もやらないから面白い」を掲載しております。
朝日新聞は、月面での国際レースに日本からも参加を目指すチームがあるというものです。日本経済新聞は、宇宙の環境問題に取り組むベンチャー企業について紹介しております。

2 そうなのです。ずいぶん前とはいえ新年そうそう、数百名の方にお話ししたことからもお分かりのように火星に関するコラムを書きたくてうずうずしておりました。
弁護士らしく宇宙に関係する法律から始めるのが常道でしょうが、次回にさせてください。でも概略だけ述べておきます。2008年、既に宇宙基本法が成立し、昨年11月、宇宙事業に対して民間参入を認める宇宙活動法が成立しました。今後、宇宙事業は一気に本格化するでしょう。つまり今年の新年こそが、火星についてコラムを書くラストチャンスと判断されるのです。
でも今回は冒頭の題にもありますとおり、三つの書評等を併せて紹介したいのです。長年蓄えてきた題材ですから、国連の宇宙条約等法律の側面と併せて、次回、宇宙SF漫画「プラネテス」(幸村誠著)の書評と一緒に書かせていただくことにします。

3 2015年12月、文庫本で発行された「火星の人」(アンディ・ウィアー著 上・下 早川文庫SF)は、宇宙オタクでなくても十分楽しめる本です。
  最初の84頁迄は、火星探検に派遣された乗組員の一人が、事故から火星に取り残されてしまい、やむなく火星で生き延びることのできる環境づくりをする作業から始まります。火星に着陸する次の火星降下機は4年後、それも3200キロも離れた地です。それまで生きるとすると食料も水も不足しております。ここら辺は早読みが難しい。
人間の生きることのできる空気や水の話ですから高校生時代に勉強した知識フル動員です。水は酸素と水素でできていますが、酸素と水素という分子から話が進むのですから大変です。環境づくりのための電力も同じように工夫が必要です。その中で、私が楽しんだのは基地内でのジャガイモ造りです。土壌とバクテリアという微生物の関係には、のめり込みました。私が映画「オデッセイ」を見たくて堪らなくなったのはこのジャガイモ畑の様子を見たかったからです。
ああ話が飛びました。映画「オデッセイ」の話になってしまいました。でもジャガイモ畑と赤茶けた火星の砂漠のイメージ。これをどうしても掴みたくて映画「オデッセイ」を見てしまったのです。でも、どちらかにしろと言われたら、私は映画より小説である「火星の人」を勧めます。迫力が違いすぎます。

4 宇宙を飛ぶロケットなどの本物の科学知識があれば、もっと面白いと思いませんか。
その材料として、私が昔読んだ「絶対帰還 宇宙ステーションに残された奇跡の救出作戦」(クリス・ジョーンズ著 光文社 2008年発刊)を紹介しましょう。
この本は、宇宙に関係する基礎知識の吸収に役立ちます。つまり、宇宙開発をめぐるさまざまな出来事をてんこ盛りにしたノンフイクション作品なのです。ノンフイクションですから宇宙の基礎知識を吸収するのに安心です。
このノンフイクションは、宇宙飛行士の本当に残酷な世界を教えてくれると同時に、組織の世界であるNASA(米国航空宇宙局)の実態も皮肉なまでに書かれています。
そもそも火星にはまだ誰も行っていません。小説や映画が正しいかどうかはまだ立証されていません。読んでいて「本当かな」と思う煩わしさはどうしても取り除いておきたい。だって1969年アポロ11号の月面着陸は、NASAの陰謀だなどという話はネットを見ればたくさん出てきます。

5 中国が宇宙開発の「3強」を狙うという記事が昨年12月28日、日本経済新聞に出ておりました。
小説「火星の人」でも、映画「オデッセイ」でも、中国が火星に取り残された主人公を救う手助けをするという話が出てきます。秘密の国なので誰も知らないロケットが飛ばせるという奇抜な筋立てに感心しました。でも日本経済新聞の報道によれば、中国は2020年には火星探査機を打ち上げるそうです。
現在、アメリカとロシアが中心になって開発していることは皆が知っておりますが、小説が本当のような話になります。
面白くなりそうですね。

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1 ある上場企業の役員会に出席した際、公認会計士の先生から、先月出版された「黒い巨塔」という本の書評を求められました。先生には、前回のコラム「サピエンス全史」の書評をご覧いただいたのでしょうか。書評を求められたのは初めての経験です。
今回のコラムの題材が決まりました。

2 瀬木氏の著作については、2014年7月、当コラム「裁判員裁判」の項目、2回目で「絶望の裁判所」(講談社現代新書)を紹介したことがあります。「黒い巨塔 最高裁判所」という題を見ただけで同じような内容が書かれていることはすぐに分かります。
弁護士をやっておりますと、最高裁判所が、どうしても行政寄りに判断することは直ぐに分かることです。高校時代、司法は、三権分立の一端を担い、行政や立法をチェックする機関と教わりました。しかし、社会状況の変動に及ぶような判断は避けたいに決まっています。もちろん、瀬木氏の著作は、そのような常識を更に逸脱した最高裁判所の実態について、紹介というよりも暴露です。その内容はあまりにも凄まじい。
行政や時の権力者におもねる裁判官、私たちの言葉でいう「ヒラメ裁判官」(瀬木氏からは「ヒラメではない。中途半端なことを言うな」と怒られるでしょうが)のいやらしさを驚くほどの事実を示して、苦悩する若い裁判官と対比させて書いておられます。
公認会計士のような畑違いの先生に、このような最高裁判所の側面を紹介できることは面白いことです。

3 でも瀬木氏は、少し気を使いすぎです。最初に「フイクション」だと断っているのに、あとがきで再度同じことを繰り返しておられます。「この作品は、私の一八年ぶりの創作である」と断られただけでなく、これを「異例のあとがき」だと付け加えておられます。
では小説、或はフイクションそのものと言えるのでしょうか?
「黒い巨塔」が小説だと主張されるなら、私は、お読みになる方に対して110頁迄の最初のほうは、辛い読書体験になるとお話しせざるを得ません。主人公の活躍もなく、最高裁長官や最高裁事務総局の面々を登場させて紹介のような形で、どうしようもない人物の話がえんえんと続きます。ここには物語性など全くなく、飽きてしまうのです。
この本を読まれる方には、読み方に工夫してくださいと申し上げざるを得ないのです。

4 後半は、瀬木氏と同じような苦労をされたと判断される主人公、つまり事務総局民事局に勤める主人公が、主人公の親友である裁判官と共に悩み、その妹との不思議な関係が続き、更にはトバモリーと名付けられた猫が登場します。
小説なら、前半との統一性を工夫されないと面白くありません。苦言めいた読書評になってしまいますが、もう一つ。
瀬木氏ではなく、編集者かもしれませんが、単語や横文字、更には専門用語の分かりやすい表現に工夫してほしいのです。例えば、瀬木氏はいろんなところで「韜晦」なる表現を使われますが、これは一般的に難解です。「フイクション」と言いながら、読者対象者を我々法律専門家に絞っておられると判断せざるを得ないのです。
でも我々法律専門家は、前回の「絶望の裁判所」以上でないと満足しません(これ以上書きませんが、専門家は厳しいですよ)。

5 瀬木氏は、我が事務所副所長が愛読する民事保全法(判例タイムズ社発行)の著者であることからも分かる通り、民事訴訟実務の大家であります。
この民事保全法の「著者略歴及び著者目録」(第三版776頁)を見ると、何と実名による著作と、関根牧彦という筆者名による著作を列挙されています。学術書にこのような著作集をあげられる実務家は珍しい。「映画館の妖精」なるフアンタジー小説も書いておられるのですね。これまで、私は幻想小説を読む暇がありませんでしたが、この読書評を書いたからには読まざるをえないでしょう。

6 この本を読んで、今、一番大事なことだと思うことがあります。
  瀬木氏は、最高裁長官による強烈な思想統制、それを最高裁事務総局主宰の裁判官協議会に始まり、裁判官に対する任地への配置転換という、今日言われる「ブラック企業」以上の凄まじさで後半を展開します。そしてその題材を原発訴訟に求めます。瀬木氏は原発推進派や反対派という立場でなく、裁判所の機能を「当該原発につきシビィアアクシデントの可能性がほぼありえず、ほぼ確実に安全であるといえるか否か」(ママ)にあるとします。裁判所は客観的な第三者として、原発の安全性を厳格に審査し、社会におけるフェイルセイフ(危険制御)の機能を果たすのが本来の司法の役割としております(156頁)。
  昔の仲間から、経産省前テント広場の原発反対闘争、座り込み運動に勧誘されても応じえなかった主要な理由は瀬木氏と変わりません。

7 ここで申し上げたいことがあります。今後の司法の行方を見てもらいたいのです。その材料として「逆襲弁護士河合弘之」大下英治著(祥伝社文庫)の第七章「身命を賭して徹底抗戦」だけでも読んでいただくと(その前の章の、自慢話は省きましょう)、現状認識に便利です。何と言いましても、河合氏は、原発反対訴訟の元締めです。今後の裁判所の行方ですが、潮目が少し変わってきたことを強調させてください。連戦連敗だった原発運転差し止め訴訟につき、裁判所が大飯原発及び高浜原発の運転差し止めを言い渡す事例が出てきたのです。
今後の裁判所の行方を見定めるためにも注視する必要があります。

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疑問に答える本書の面白さ
1 皆様と同様、私もいろんな疑問をもって生活してきました。でも「サピエンス全史」は思考の方向性を示してくれているように思います。
  これまで疑問に思っていたことで本書に関係するものとしては、次のものがあります。
第一は、何故、我々が、猛獣或いは他のサピエンスを排して現在の地球上に残れるようになったのか?その原因が「知力」にあるとするなら、何故「知力」が生まれたのか?「知力」の仕組みとは?
第二に、人間は「知力」という武器を持ったのに、何故こんなに不自由な共同体(国も家族も含む)を作り、それに属することでしか生きていけないような結末になってしまったのか?
第三に、私が学生時代、夢中になったマルクス・エンゲルスのいう共産主義的な思考はもはや宗教と同程度なのか?或いは又、経済的な側面においても採用困難な思考なのか?
2 第一および第二の疑問については何となく考えるべき方向性が分かってきたように思います。
この本では「知力」とは、我々が何も知らないという事実を知ることから始まり、不知であるが故に探求心が生まれ、科学等の学問に発展し、文明が爆発するという経緯も説得的です。
そして開花した「知力」がどのような終末を迎えるのか、あるいは幸せな将来になるのかについては、決して油断できないことも結論付けされています。前回のコラムで、我々の将来に必然はなく、期待できない結果を招来するかもしれない場合についても書きました。
3 前回触れなかった農業革命の詳細について、楽しみたいと希望される方には次の書籍を勧めます。
4年前、当時ランキング第一位と言われて売り出されたジャレド・ダイアモンド著「銃・病原菌・鉄」です。この本も有名で「サピエンス全史」と一体となる本です。この本は、地球上の併合される以前の文明を紹介しながら、消滅する必然性を銃・病原菌・鉄に理由を求めます。読んだ当時、やはり書評を書きたいと思ったほどでした。
この本の著者は「サピエンス全史」の著者と交流があります。本書末尾の謝辞でジャレド・ダイアモンドに「全体像をつかむことを教えてくれた」と感謝している程です。
「銃・病原菌・鉄」は、論点の掘り下げ型で書かれているところに特色があり、具体的な事実が展開されます。特に太平洋に浮かぶ島々の先住民の文化、例えばニューギニアやオーストラリアの先住民(マオリ族やモリオリ族など)の論評は本当に楽しめます。
ところで研磨加工をほどこし、刃先の長い石器を最初に作ったのは日本人だったということは皆さま知らないでしょう?これはヨーロッパで石器が研磨される1万5000年も前のことだそうです。
4 三番目の疑問は、私の若き日の感傷のようなものです。
「サピエンス全史」を読む直前、「マルクスの心を聴く旅 若者よ マルクスを読もう番外編」(かもがわ出版)を楽しみましたが、このような単純な宣伝文句につられちゃうのです・・。
 ところで、ある事情があって昔の蔵書を整理することになり、レーニンやロシア文化人の本が大量に出てきて嫌になりました。中国文化大革命における凄惨な家族及び自己体験記、ユン・チアン著「ワイルド・スワン」は複数あり、一つは出版直後の英語版(当時、日本で出版されていなかった)だったこともショックでした。つまり挫折して最後まで読めなかったのです。
本論に入ります。マルクス経済学に対する批判は、いまだ経済的な側面については十分になされていないと言い訳してきましたが、現状、労働者階級なる概念はもはや通用しないでしょう。労働者も一元的ではありません。会社に属していても投資等のクレジットに取り囲まれて生活しており、単純に労働価値や剰余価値などのみで分析できない時代に入っております。
体験的に考えればもっと単純です。つまり中国文化大革命が日本で起きるなら最初に抑圧されるのは単純な私でしょう。詰まらない予測は別にしても、これまでの歴史を見れば分かることです。
いやー、若き時代の熱を冷ますのは大変です。
5 怒りを一つ。
先に紹介した本、「マルクスの心を聴く旅」のなかで「過去の日本の左翼運動には身体性がなかった」という記述、そして「パートタイムの学生運動だった」という感想には腹がたちました。
“遊び半分の学生運動は東大生だけでしょう”と言いたい。マルクスを訪ねるドイツやイギリスの旅に「いいな」と思っていたところ、終わりの211頁で呆れました。こんなことを言う大学教授(名前は書きません)が“マルクスの心を聴けるのか”と文句をつけたい。そもそも東大生には選択の幅があり、恵まれた学生でした。学生運動にのめりこんでいても選択の幅がありました。それ以外の学生は、人生における強烈な分岐点に立っていたのです。
文句はこれくらいにしますが、不服なら何時でも受けます。
6 そろそろ終わりにしましょう。
  長いけど気持ちがいいので「サピエンス全史」の冒頭を紹介します。
「今からおよそ一三五億年前、いわゆる「ビッグバン」によって、物質、エネルギー、時間、空間が誕生した。私たちの宇宙の根本を成すこれらの要素の物語を「物理学」という。
物質とエネルギーは、この世に現れてから三〇万年ほど後に融合し始め、原子と呼ばれる複雑な構造体を成し、やがてその原子が結合して分子ができた。原子と分子のそれらの相互作用の物語を「化学」という。
およそ三八億年前、地球と呼ばれる惑星の上で特定の分子が結合し、格別大きく入り組んだ構造体、すなわち有機体(生物)を形作った。有機体の物語を「生物学」という。
そしておよそ七万年前、ホモ・サピエンスという種に属する生き物が、なおさら精巧な構造体、すなわち文化を形成し始めた。そうした人間文化のその後の発展を「歴史」という。
歴史の道筋は、三つの重要な革命が決めた。約七万年前に歴史を始動させた認知革命、約一万二〇〇〇年前に歴史の流れを加速させた農業革命、そして僅か五〇〇年前に始まった科学革命だ。」

凄いテンポではありませんか。

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一 近時、電通事件の影響などから益々労務リスクが高まっているように思います。本当にブラック企業なのであれば当然の報いでしょうが、ブラック企業ではないにもかかわらずインターネット上でブラック企業認定などされてしまえば取り返しのつかないことになる可能性もあります(そのような状況になれば良い人材が取りにくくなり顧客も離れていくことは直ぐに想像できる事柄です。)
 労働基準監督署も、長時間労働に対しては刑事処分も含め厳しく対処するようになっていますので、会社としても十分に準備することが必要です。

二 会社によっては、弁護士は紛争が生じたときだけに必要と考え、労務コンサルタントや社会保険労務士だけと契約して労務管理を行おうとしている方もいらっしゃると思います。
 確かに、中には優秀な方もいらっしゃいますが、社会保険労務士の労基署対応がまずかったせいで、ブラック企業からは程遠い会社が多大な損害を被った事例については、以前のコラムでもご紹介した通りです。
 本コラムでは、現在、様々な制度を導入していらっしゃる会社であっても、弁護士のチェックを通していない場合、労基署が入ったり裁判になったりした場合には通用しない可能性が高いということについてお話ししたいと思います。

三 残業代請求リスクを減らすための制度として、管理監督者や割増賃金に対応する手当(固定残業代、定額残業代など)の支給があることは一般的に良く知られていますが、これらの論点については今までも何度もご説明差し上げていますので、本コラムでは省略します。
 本コラムでは、(1)事業場外労働のみなし労働時間制、(2)専門業務型裁量労働制、(3)企画業務型裁量労働制、という少々専門的な制度の導入を例にしてみたいと思います。

四 まず、事業場外労働のみなし労働時間制とは、外回り営業社員などの場合、使用者の指揮命令が及ばず、労働時間の把握が困難となることが多いことから、所定労働時間分働いたものとみなされる制度です。
 就業規則を見ていると、営業部員はみなし労働時間制を採用すると簡潔に規定されていることもあり、比較的利用されていることがある制度の一つではないかと思います。
 しかし、裁判所は、極めて厳しい判断をする傾向にあります。
 例えば、旅行会社の主催する募集型企画旅行の添乗業務について、第1審の東京地方裁判所はみなし労働時間制を認めておりましたが、最高裁判決(平成26年1月24日)では判断が逆転し、適用が否定されています。
 平成26年1月24日の判決ですから、それより前から制度を導入している企業の大多数が、裁判になった場合には敗訴すると推測できます。

五 次に、専門業務型裁量労働制とは、厚生労働省令などによって定められた業務を対象として、予め労使間で定められた時間分働いたものとみなす制度のことを言います。
 対象業務としては、新商品若しくは新技術の研究開発、システムコンサルタント、記者、編集者、インテリアコーディネーター、コピーライター、大学の講師などが含まれます。
 この制度についても、出版社など業種によっては利用されていることがあるようですが、(1)対象業務を遂行する手段及び時間配分の決定等に関して具体的な指示をしないこと、(2)健康・福祉を確保するための措置、(3)労働者からの苦情処理のための措置を定めなければなりません。また、(4)就業規則においても、適切な定めをして労基署長に届け出るなど要件が厳しく規定されていますので、弁護士の関与なしに制度が導入されている場合、無残な結果に終わることが多いと言わざるを得ません。

六 さらに、企画業務型裁量労働制とは、企業の中枢部門で企画・立案・調査・分析の業務に従事するホワイトカラーに関するみなし労働時間制のことを言います。
 これについても、「財務・経理を担当する部署における業務のうち、財務状態等について調査及び分析を行い、財務に関する計画を策定する業務」など対象となる業務が多そうに見えることから、導入されていることがあるようです。
 もっとも、厚生労働省の指針に違反する制度は、労基法違反となります。
 要するに、厚生労働省の指針に基づいて制度を運用することが必要なわけですが、(1)労使委員会の設置や決議、(2)労基署への届け出などが必要になり、(3)運営規程などを作成しないといけませんので、弁護士の関与なしで導入することは非常に困難であり、適切な制度になっていないことが大多数であると思います。

七 以上の通り、弁護士のチェックなしに労務リスクに対応することは困難な時代になってきております。
 これから制度を構築する場合には勿論ですし、既に制度を導入している場合であっても再検証し、問題がある制度については変えていく必要があると思います。
 残業代請求を受けてしまった場合、制度の導入・見直しをしたい場合には是非当事務所にご連絡頂きたいと思っております。
 

  なお、本コラムについては、下記ページもご参考にして頂けると更にお役に立てるのではないかと思っております。

https://www.okamoto-law-office.com/modules/pico/index.php?content_id=16

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近時、電通事件等を始めとして労働基準監督署の動きがメディアを賑わせることも多くなってきました。
労基署から連絡が来るのは所謂ブラック企業だけではありません。
実際に労基署から連絡が来た場合、或いは労基署から連絡が来る前であっても、十分な対応を取ることが必要です。

当事務所はこれまでも多くの労基署が入った事件を処理しておりますので、無料相談会の機会を設けさせていただくことにしました。
ご要望があれば、当事務所が提携している社会保険労務士法人酒井事務所と2人1組で行うことも可能ですので、気軽にお申し付けください。

1.相談日時:日祝日を除く午前10時〜午後20時のうち1時間弱
       (具体的な日時については適宜調整させて頂きます。)
2.相談場所:岡本政明法律事務所(丸ノ内線・新宿御苑前駅徒歩1分)
3.料金:無料

ご興味のある方がいらっしゃいましたら、お問合せフォームより気軽にお問い合わせください。どうぞ宜しくお願い致します。

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書評を書きたくなった動機
1 「サピエンス全史」(ユヴァル・ノア・ハラリ著 河出書房新社 上・下)は凄い本です。
この本を読むと宗教も哲学も不要になったという実感です。歴史学がこのような形で講義されるようになり、種々の学問の集大成として歴史学が語られる時代になったのです。
ところで、この本は結論で“人類は果たして幸福になったのか”という疑問を提起しています。つまり最終章の紹介になってしまいますが次のよう述べています。
「今日、ホモ・サピエンスは、神になる寸前で、永遠の若さばかりか、創造と破壊の神聖な能力さえも手に入れかけている」。
そして“我々はバイオニック生命体等で生物の生命に直接関与可能となり、しかも我々は永遠の生命を手に入れるかもしれない”とまで表現しています。日本経済新聞によって「人間の寿命は125歳が限界」とする米アルバート・アインシュタイン医科大学研究グループの報道(2016.10.6)があったばかりですが、これは別の話として本書の歴史学に魅了されてしまうのです。
しかも我々が神になったとしても、実際に「どこへ向かうのかは誰にもわからない」し、「自分が何を望んでいるかもわからない、不満で無責任な神々ほど危険なものがあるだろうか?」と結んでいます。
この結論は嫌です。近時の世界情勢をみるまでもなく理解できる話だから更に困るのです。
2 この本の中核は、上巻直ぐに始まる「第一部 認知革命」の著述でしょうね。読み始めた当初は、認知心理学で出てくるような用語に拒否反応がありました。
著者によると「認知革命」とは新しい思考と意思疎通の方法とされております。そしてサピエンスという我々の先祖に起こった認知能力を革命と表現しております。
具体的には「噂話」や「陰口」のように現実には存在しないことも語ることができる能力、つまりチンパンジーや旧人類にない能力、これこそ現在我々が地球上に生き残ることができた根本的理由だとしております。すなわち「想像上の現実」は嘘とは異なり、誰もがその存在を信じているものであるなら、その存在に対して共有される「信頼」が生じ、それが存続するかぎり、その「想像上の現実」は社会の中で力を振るい続けるとしております。そして我々がゴリラやチンパンジー且つ他の25種のサピエンス(更科功著「爆発的進化論 1%の軌跡がヒトを作った」新潮新書)に打ち勝てたのは、多数の固体や家族、そして大きな集団に結び付いていくという、このような想像上の接着剤である「信頼」を基盤とするというように話が進みます。
貨幣の流通だけでなく国や会社組織というように「想像上の現実」が「信頼」に基づくとすると、益々筆者の思うつぼに嵌まっていきます。新たな制度は、将来への信頼であり、それが信用=クレジットというように発達を遂げ、貨幣だけでなく国や会社制度というような種々の仕組みに発展していくのです。読んでください。納得できるから困るのです。現在は仮想通貨の時代に突入していますから・・
3 上記論法は、私が学生時代を終わるころ、ちょうど50年程前、思想書と言われた吉本隆明著「共同幻想論」に重なります。
 古すぎて直ぐに出てこない本なので、ウイキぺディアを引用してしまいます。「当時の教条主義化したマルクス・レーニン主義に辟易し、そこからの脱却を求めていた全共闘世代に熱狂して読まれ、強い影響を与えた思想書である。」
これは当時の状況を知らない人が書いた論評ですね。私がもう一つ共鳴できなかったところ、つまり経済的側面に関する分析の欠如があったために「熱狂して読まれた」というのは言い過ぎだと思います。でも国の在り方や個人の関係が古事記等から解きほぐされ、共同幻想や対幻想で語られるこの書は、今回紹介する本の著者ハラリさんに是非とも読ませたい本です。
吉本隆明氏は、科学(化学)の進歩がまだまだであった50年前、既に共同幻想論を言っております。彼を尊敬する先輩がいたこともあり、私も吉本隆明氏にお会いしたこともありますが、歴史的分析というより多少文学的であり、私の感性には馴染みませんでした。しかし、母の法事で会った甥っ子が吉本隆明にはまっていると話したことには驚きました。
4 「サピエンス全史」だけでは理解困難な部分を詰めておきましょう。
昨年4月号の「文芸春秋」で読んだ立花隆「脳についてわかったすごいこと」です。「意識とは何か」として脳の構造が科学的に分析され紹介されていました。
「死の瞬間の脳細胞」、「夢を自由に操る化学物質」、「臨死体験」等が話題の中心をなすのですが、脳神経細胞とシナプスなどの関係、或は脳のどこかの遺伝子(最小のニューロン集団の存在)、脳科学における「ゲノム計画」などにより明らかにされる将来を思うと「我思う、ゆえに我あり」という哲学すらも超えてきたと思わざるをえません。
つまり「意識」が科学的に明らかにされようとしている現実に接すると、行動主義心理学からの批判も吹っ飛んでしまいます。
5 宗教についても同様の感想になりました。
 神は全能で、神こそ死後の世界の主宰者であり、森羅万象の全てを教えてくれる。これを前提にして宗教は成り立つものでしょう。あるいは仏教では、仏の存在を仮定しないと人類は謙虚に生きることができなかった。故に宗教が必要になると思います。しかし死の瞬間、脳に快楽物質(セロトニン)なるものが放出されるなどと聞くと興ざめしてしまいます。
死の世界が意識の側面から分析され始めてきますと、神も信じられなくなるのです。否、人間こそが神に仮定されてしまうとこの本は述べているのです。
次回も、本書の論評です。

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一 第三者委員会の報道は面白い

1 前回のコラムで、形式的或いは権威主義的な株主総会は嫌いだと書きましたが、まさしく「第三者委員会」はその象徴ですね。
  特に笑ってしまったのは、東京都前知事舛添さんが「第三者の弁護士に厳しい調査を依頼した」という直近の事例です。記者会見に登場された弁護士、特に通称「蝮の善三さん」の記者会見は傑作でした。形式的な返答に終始し、最後は開き直り。これで舛添さんの得になったのか疑問でした。最初は腹を抱えて笑い、そのうちに本当に困ったことだと頭を抱えることになってしまいました。
報道陣の質問も紋切り型でしたが、そもそも「第三者の弁護士」としか言っておらず、第三者委員会ではないのですね。2名の弁護士では日弁連のガイドライン3名以上の枠組みにも反します。
「蝮の善三さん」については、私の関係した会社の不祥事の際、第三者委員会委員として登場していただいたこともあるため、余計に関心が高くなるのです。

2 第三者委員会とは、日弁連のガイドラインの要約によりますと、企業や組織において犯罪行為、法令違反、社会的非難を招くような不正・不適切な行為等が発生した場合或いは発生が疑われる場合に、企業や組織から独立した委員のみで調査をし、原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言する委員会とされています。
私は、日弁連が第三者委員会ガイドラインを出す相当前、ある顧問会社から第三者委員会の体裁をとって、不祥事で紛糾する株主等のステークホルダー達を押さえてもらえないかという依頼を受けたことがあります。この会社は外国人が社長をされておられ、第三者委員会のような紛争解決策をよくご存知でした。
私は悩みました。
だって、第三者委員会といえば聞こえはいいのですが、徹底的に会社の不正を暴くことを希望されている訳ではありません。むしろ会社の実態の何処までを話せばステークホルダー達に納得してもらえるかの限界点、即ちその調和点を探すことが使命なのです。そもそも会社が第三者委員会委員に金を支払って、会社が潰されるようなことを期待する訳がありません。深く考えなくとも当然のことです。
最終的に私が顧問から外れることのデメリットを考えていただきました。結論として、今の会社体制で今後も経営できることを前提とし、不祥事については徹底して謝罪し、企業活動を害さない範囲で役員を変更し、その他情報開示を行うとういう方針にて解決しました。

二 「蝮の善三さん」という弁護士

1 「蝮の善三さん」は、多くの第三者委員会委員をされておりますが、上記の点に関する理解力は悪い意味で素晴らしいと判断できます。
第三者委員会の報告書に関して「格付け委員会」(私的な検討委員会)なる組織もありますが、そのホームページを見ますと各報告書について点数も付けられております。ここで厳しく批判されている報告書は、社長のような最終権威者を庇うような形での決着、或いは組織存続を図るため一番重要なことは調査から外すというような種々の工夫をごらんいただけます。
「蝮の善三さん」は上記のテクニックに長けておいでで、ネットでも“汚職の守り神”のように書かれております。

2 ここで「東芝 粉飾の原点」という本を紹介しましょう。
「東芝 粉飾の原点」は日経ビジネスの記者が東芝の不正会計の構図を暴いた本で、次々と粉飾が暴かれる呆れた本です(日経BP社発行)。本コラム作成時、東芝は特設注意市場銘柄から外れるかどうかという瀬戸際にあります。株式投資に興味を持たれている方の中には、東芝株は今が買い時かどうか悩んでおられる方もおいででしょう。
でも“買い”に入るべきでないことがこの本で分かりました。ウエスチングハウスに関する粉飾は、第三者委員会報告書提出後4カ月も経過して、やっと“パンドラの箱”が開いたのだそうです。5000億円を投じて買収した東芝子会社、アメリカの原子力機器大手ウエスチングハウスの赤字の実態について詳細を知ると“買い”ではないですね。しかも将来展望として、東芝が原子力発電所の受注規模を、発表毎に順次縮小しつつも、現在も連結で45機(15年間で)、ウエスチングハウス単体で64基(同)の受注というのは先ず無理だと思います。
おっと!違いました。この本では、第三者委員会がウエスチングハウスについては調査しないことになっていたという暴露に驚いてほしかったのです。投資の話ではありませんでした。立て続けの粉飾が、最後ウエスチングハウスというのでは本当にひどい話です。子会社は調査をしないと約束したうえでの第三者委員会の報告書だと言われては、東芝に関係する利害関係者、ステークホルダーは何を信じればいいのでしょうか。

三 形式的第三者委員会にならないための対策

1 形式化した第三者委員会報告書に対する対策として、その前提事項を確認する必要があります。先ず、私と同様の悩みを持たないような弁護士とはお付き合いいただかないことです。“誠意”という人間としてあるべき姿が見えません。
もちろん不祥事の発生原因に関する調査と言いましても、企業にとって紛争解決にならないのでは、お金を支払って第三者委員会に依頼する意味がありません。この矛盾に悩まない弁護士に、利害関係人にとって納得される報告書など書ける訳がない。
現在、日弁連が指導する第三者委員会も、私が煩悶した当時と同様、日弁連ガイドラインとして、会社から時間給の形で報酬をもらえることになっております。

2 そこで違う形での対策を提案してみようと思います。
一つとして、企業不祥事の際に備えて第三者委員会委員に対する保険による仕組み造りです。私は複数の外部取締役もしておりますが、会社代表訴訟等に備えた保険に入っております。それと同様の保険による仕組み造りはどうでしょうか?
次に、上場企業の場合には、証券取引等監視委員会などの公的な立場からの依頼という形にしてはどうでしょうか。対象会社からは課徴金プラス第三者委員会委員分の報酬を上乗せして追徴する制度を作るのです。このような制度の検討は、ひいては上記保険の仕組み造りにも進展していくのではないでしょうか。
第三者委員会委員報酬の仕組みを変えない限り、形式的第三者委員会で終わるのは無理のないことだと思います。
今はその過渡期ともいえます。

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一 これまでの株主総会
 
1   前回のコラムでは、次回「ためにする不規則発言」とその対策等についてご紹介するとお話ししましたね。
近時「総会屋」なる用語は出なくなりましたが、昨年の総会シーズンでは、ある「特殊株主」について話題に出ることが多く、意外と緊張しました。新聞や週刊誌にも出たこの方からご紹介しましょう。
この方は76歳の男性で、元お医者さんです。ネット情報を要約させていただくと、2年前(平成26年度)には都内で179社の株主総会に出席され、124社で発言されたそうです。訳の分からない不規則発言や言動が多く、株主総会の進行を混乱させることもあって、我々株主総会担当者の間で評判になったのです。しかし何と昨年、株主総会真っ盛りの6月20日に逮捕されてしまいました。識者の見方としては、株主総会の円滑な進行を図るため、多分この時期に合わせて逮捕したのだと指摘されております。何故なら、すぐに出所しておりますから。
この男性は議長不信任動議を出しまくる方で、その動議が否決されても騒ぐため、やむなく退場命令を出されるような荒れた株主総会になってしまったこともありました。そもそも議長不信任動議を出す前の発言も要領をえず、これらの行為は明らかに業務妨害になります。もちろん刑事告訴した会社もあったと聞いております。
 
2  株主総会といえば作家濱嘉之氏
       毎年地獄のような株主総会が続く中で、「助っ人」として依頼した作家濱嘉之氏を紹介 
     しない訳にいきません。最近はテレビにもよく出ておられますね。濱氏は公安警察の世
  界を描かせると、この人の右に出る作家はいないと言われておりますが、平成の初め
  、警察を辞めて危機管理を業とされておられました。濱氏をネットで調べると本名は最
  後の方でしか出てきませんが、危機管理コンサルティング会社経営者と言う事実は、最
  初のほうで出てきます。危機管理を依頼していたのは、まだ作家になられる前でしたか
  ら、今から20年以上も前のことです。濱氏がいてくれると前に述べた異常な特殊株主さ
  んの心配もなく、準備した予定表・想定問答集に従って粛々と進行したものです。
濱氏は2007年に「警視庁情報官」(講談社)を出版され、作家としてデビューされました。当時、私は自ら幹事役を買って出て出版記念会の司会もさせていただきました。現役警察官が多く出席され、多少雰囲気が違って楽しかったです。
「警視庁情報官」は、私の好きな作家佐藤優氏が激賞したもので、公安捜査の紹介としては最初の本でしょう。ご一読ください。
 
二 株主総会指導書に書きにくい理念
 
1   「危ない株主総会」を多く経験しましたが、当然の突発事故も予定のうえです。どの株主総会も無事に終了しておりますが、その反動でしょうか?もっと株主の皆様にソフトな運営もできたという気持ちもあります。もちろん株主総会議長役の方の了解なくして勝手なことはできません。しかし、このような視点から、現在氾濫する株主総会指導書の一部には不満を持っております。今はやりの「IR」の意味を再度検証していただきたい。「IR」とはInvestor Relationsの略です。企業が株主や投資家に対し、投資判断に必要な企業情報を、適時、公平、継続して提供する活動のことをいうとされていますが、私は株主総会が形式的に、時には権威的に運営されることに疑問をもっております。「できるだけ開示」などと低次元のことを言っているのではありません。そもそも「IR株主総会」と言われる程度に、情報開示に努力した事前準備の想定問答集を作成してほしいのです。
確かに株主総会というものは出たとこ勝負の側面もあり、いくら事前に準備しても、突発事故の起きる可能性は排除しきれません。
私の経験でも、会社の製造物から被害を受けたとして、わざわざ株主になって株主総会で質問・謝罪を要求された事例や、会社役員個別に具体的な報酬額を明らかにするよう迫った質問で、異議まで出された経験もしております。ハンドマイクを持ち込もうとして受付で乱暴が行われた危ない事例から、笑ってしまうものとして、事業報告においては英単語を使わないで説明しろというようなこともありました。
 
2    会社法では、取締役説明義務の規定(314条)もありますし、同時に説明を拒絶できる事由についても規定しております(会社法施行規則71条)。説明義務を果たしたかどうかの判例も大量に出ております。
でも上から目線の対応は好きではないのです。このようなことを社長にどのように説明できるのかが私の近時の関心でもありました。
実は前回のコラムで、ソフトバンクでの副社長に支給してきた報酬取扱いのまずさを指摘しました。悪口のつもりで書いた訳ではありませんが、多少気分が良くないので、その後も孫正義社長の発言等を追っかけしておりました。
孫社長は、7月28日の決算説明会において次のような説明をしたそうです。「我々はリングに立つボクサーのようなもので、何発目に左を出すとは言わない。勝つことが大事で、勝つプロセスを説明することが大事ではない」。この説明は「IR株主総会」の説明義務の分岐点を示しております。つまり、株主に対する説明の範囲が明らかにされ、私も当事務所の依頼会社社長に、具体的に総会で説明するべき限度をお教えするのに使えます。権威主義が嫌いな私の考えに少し馴染まないところもありますが、このような議論をすることによって、少しずつ形式主義の壁が取り払われるのでしょうね。

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一 株主総会での予想しない事故
 
1   毎年6月は緊張します。6月は、顧問先或いは社外取締役を務める上場企業の株主総会が多数行われることが原因です。そのための模擬株主総会や、当日遅刻しないためのホテル宿泊もあって通常の月と違った緊張感があります。
2年前の6月には顧問先一部上場企業において発覚したある事件の関係で、長時間の株主総会を乗り切るため、成人男性用「おむつ」まで着用しました。議長である社長がトイレ休憩を上手にとってくださればよいのですが、紛糾した場合なかなか難しい。仮に上手に休憩を入れてくださったとしても、我々事務方は社長のトイレ休憩に併せてトイレに行くことができるとは限りません。
 
2    株主総会というものは出たとこ勝負の側面があります。いくら事前に準備しても、突発事故の起きる可能性を排除しきれるものではありません。皆様が、たいしたことではないとお考えになるはずの事例から紹介しましょう。
社長が株主総会に遅刻された、或は遅刻されそうになった経験も幾度かあります。いずれの社長も社内規定に通じておられ「定款の定めに従って、専務が開会宣言をし、その後も株主総会を運営して下さい」と自信満々に指示されました。これは事故といえるようなものではないかもしれませんが、専務のお顔を拝見するなら、私が青ざめるのも無理がないと思います。
 
3   でも皆様、事前準備もなくして専務が株主総会を仕切れると思われますか?株主を無視した形式的株主総会ならできるかもしれません。しかし議事運営においては、株主の疑問には“きちんとお答えする”という気持ちを込めた事前準備なくして、株主に満足な進行は困難だと思います。
 
二 突発事故は株主総会指導書にも書かれていない
 
1    ところで今期のソフトバンクグループの株主総会では、事前に取締役候補として株主に通知されていたインド人副社長ニケシュ・アローラ氏を株主総会では取締役に選任しなかったという話が報道されました。かって同様の経験をしたことがあったため、報道に注意を払っておりましたが、私が経験をした当時は、インターネットのWeb情報等の利用もなく、株主総会の在り様もずいぶん違いがありました。
私の事案は、株主総会の前日、それも夜遅くになって、取締役を入れ替えたいという相談がありました。株主総会担当者は悲壮でしたね。当時はこのような事態に関する解説書もありませんでした。
私が大事なこととして配慮したことは、株主の意思を尊重した総会運営にするというものでした。
結論としては、ソフトバンクグループの株主総会と同様、会社提出の議案を撤回することは同じですが、私の場合は、更に新たな取締役の選任が必要になります。そこで株主の自主性を尊重し、株主より、役員として適切な役員選任の緊急動議を出してもらいました。そして株主提案の議案を先に討議し、会社提案は後回しにして撤回の処理にしました。今回、ソフトバンクに関する種々の解説を見ましたが、私の処理は間違っていなかったと自慢できると思います。
 
2    でもソフトバンクグループの株主総会処理には後味の悪いものが残ります。例えば、当時の当該副社長の役員報酬は64億7800万だと報道されていますが、株主総会説明責任は果たされているのでしょうか?純利益は4741億ですから、こんな高額報酬は疑問だと主張される株主もいらっしゃるはずです。ところが驚くべきことは、ソフトバンクの株主総会では役員報酬全体の上限額を「年額8億円以内」と決議されているというのです。上記8億円は役員全体の金額ですよ。
何故こんな無茶なことができるのかと思い、調べてみました。何とソフトバンクグループからは9900万円しか払われておらず、残りは全て子会社から支払い、会社法の規制を事実上免れていたというのです(日経ビジネス2016.07.18「役員報酬、規律なき膨張」16頁)。
世界に誇る会社にしようとされているのですから、コーポレートガバナンスはどうなるのでしょうか?法に従い、堂々と処理され、株主に説明するべきだと私なら言います。
 
三 株主総会は会社理念検証の場
近時「開かれた株主総会」或いは「株主に対する説明責任」が株主総会運営理念に掲げられることが多くなりました。弁護士用の株主総会指導書も昔と様変わりしております。昔は“とにかく無事に乗り切れればいい”という、その場しのぎのものが殆どでした。株主を尊重しようという姿勢よりも、結論として形骸化した民主主義、即ち“株主さまが王様です”と持ち上げながら、実態は形式的な、その場凌ぎのものという印象でした。私はこのような傾向に嫌気がさし、ずいぶん前に“ソフトバンク”と同様の株主総会指導をしていたことになります。
私は幸せだと思います。私が関与させていただいている上場企業は株主を大切にされております。例えば、株主総会の直後に、株主総会と同様の形で会社説明会を長時間もたれている一部上場企業、あるいは別の日程を設けて、経営方針説明会を開催されている会社もあります。会社の将来について株主に真剣に説明される社長の気概は本当にうれしい。
ところが近時、「特殊株主」について議論されることが多くなりました。「ためにする不規則発言」対策等を考えると、総会運営担当者には“気の休まる6月”などというものは、当分やってこないのです。
次回は、このような体験と対策を書こうと思います。

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一 昔の株主総会はきつかった
 
1   平成初めの株主総会は、法律の整備も不十分なだけでなく、景気の悪さも手伝い大変厳しいものでした。
宇宙開発を業とする会社の株主総会は、毎年、特別に大変でした。日本に帰化された社長は、世界的な頭脳の持ち主でいらっしゃいましたが、二時間以上、受け答えされるとさすがに答弁が困難になりました。社長とは今でも親しくさせていただいておりますが、アジア最大の国の解放軍とのいざこざで、私が破産処理させていただきました。当時の株主の皆様には「毎年必死で議論し、真摯にお付き合いさせて頂きましたのに、大変申し訳ありませんでした」と申し上げます。
その後、上記の国の人工衛星打ち上げニュースを聞くたびに、今でも怒りが沸いてまいります。
 
2    もちろん、上記宇宙開発の会社も、定款で「株主の代理人は株主に限る」旨の制限規定を設けておりました。しかし、株主の代理人として、株主でない弁護士が来られましても株主総会に出席していただいておりました。弁護士の独占的紛争解決機能(弁護士法第3及び72条等)に敬意を払っていたからだと判断します。
当時既に、最高裁は、代理人資格を制限する各会社の定款規定について有効と認めてはおりましたが、神戸地裁尼崎支部の次のような判例が出る時代的な背景もありました。
「弁護士が代理人になった場合、株主総会を混乱させるおそれがあるとはいえない」として定款規定の解釈運用を誤ったものとする判例(神戸地裁尼崎支部平成12年3月28日)もありました。つまり代理人の制限をすると、上記判例に従い、株主総会決議が取消される可能性もあったのです。株主総会指導弁護士としては窮地に陥ります。
 
二 違和感のある株主総会指導書
 
1    ところで最近の株主総会指導解説書等を読みますと、株主に限るとの定款規定を一段と重視する傾向が強くなっております。
例えば、株主でない弁護士の株主総会代理出席を拒否した事例において、東京高等裁判所が、株主でない代理人に関して個別的に判断することは受付を混乱させるとして、形式的に限定することに関し一定の合理性を認めたことから(平成22年11月24日)、巷に氾濫する解説書は一気に強気になりました。
でも長年株主総会指導をしてきた私には非常に不思議です。受付の混乱回避を理由にする上記判例は穴だらけだからです。もちろん判例は事実に即しているだけですから、この判例に責任はありません。
 
2    つまり、受付が混乱しない方法で弁護士の代理出席の要請があったらどうするのですか?例えば、株主総会の通知発送直後に、株主より当日は代理人として弁護士を出席させると通知してきたらどうするのですか?
時間もたっぷりあります。十分に本人から真意を調査できますし、受付の始まる、はるか前ですから受付に混乱など生じえません。
 
3    株主総会の指導をされる信託会社等の専門家に聞きますと、弁護士の解説書のような回答はまず返ってきません。先ほどまで自信満々に厳しく社長指導をされていた方が、驚くほど言葉を濁されるのです。そして最後に「難しい問題ですね。結論として会社にご判断いただいております。」つまり訴訟リスクの回避を考えておられるのです。
 
三 総会屋対策の延長では納得できない
 
  1      私は、20代の終わり頃、総会屋の方から「総会屋にならないか」とリクルートされたことがあります。忘れもしない歌手加藤登紀子さんのお父さんが経営される新宿のロシア料理店でのことでした。
       その当時のように総会屋が問題視される時代なら、非株主弁護士の代理出席を認めないのも一理あるとは思います。でもそんな時代は過去のものと言っていいでしょう。もっと柔軟に考えない限り、訴訟リスクはついて回るのではないでしょうか?いやいや、そんなことよりも弁護士の紛争解決機能について、どう考えておられるのか聞いてみたいものです。株主総会は紛争とは無関係という回答は変です。株主代表訴訟もあるのですから。
 
2    上記疑問を持ち続けていた私は事務所の若い先生に次のようなお題を出してみました。お題は「粉飾決算に揺れる会社で、代理人は株主に限るとの定款規定はあるものの、非株主弁護士の株主総会代理人出席は一律拒否でいいのか?」というものです。ヒントはこれまでの記述で十分だと思いますが、次のような考え方は如何でしょうか?
事前に代理出席を申し出られた株主様には「事前に質問書を出していただきたい。事前に質問書を出していただけるなら、弁護士の代理出席も検討致します」という内容の文書を送るのです。事前の質問であれば、粉飾に揺れる会社でも十分整理して回答することができます。しかも会社にとって重要な説明責任も十分に果たせることになります。先に示しました神戸地裁尼崎支部の事例は、事前に弁護士代理出席の通知があった事例ですから裁判官の悩みが伝わってくるようです。
   驚くべき経験もあります。粉飾で揺れていた会社で、弁護士が代理出席されたのですが、非常識且つ繰り返しの質問に会場が紛糾していた際、理路整然とした弁護士の質問がその場の雰囲気を変えたのです。さすがは弁護士という経験ですね。
 
3   若い弁護士の先生方、現在の株主総会指導書に疑問をお持ちになりませんか?否!あなたの職域を狭めておりませんか?
これは弁護士の在り方を問う問題でもあります。

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