新宿の顧問弁護士なら弁護士法人岡本(岡本政明法律事務所)
当事務所では、上場企業(東証プライム)からベンチャー企業まで広範囲、かつ、様々な業種の顧問業務をメインとしつつ、様々な事件に対応しております。
コラム - 最新エントリー
立退き料に関する取材
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- 借地借家
当事務所弁護士である岡本直也のコメントが「東洋経済ONLINE」の「不動産会社vs.テナント、「立ち退き料」の経済学 大規模な再開発の陰で立ち退き訴訟が増加中」という記事に掲載されました。
https://toyokeizai.net/articles/-/315440?page=3
ご覧頂けると幸いです。
「危急時遺言」を無効とした判例から学ぶこと
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- 相続事件
本判決評論を読んで驚いた内容の第一は、今回の民法改正に際し、「危急時遺言」に関しても、法改正として検討されるべき事項があると気づかせてくれたことです。本判決には、そのような指摘としてしか読めない個所もあり、随分、踏み込んだ判決だと感心しました。「危急時遺言」制度は、これまであまり利用されてこなかったものです。新版注釈民法(28巻)にも、昭和の時代で、年間200件を超えない程度と記されているくらいです(146頁)。でも、今後は利用者が激増するでしょうから、今回の民法改正で検討すべき事項でした。
第二として、「危急時遺言」を利用しようとする場合、本判例が警告する内容をよく吟味し、注意が必要だということです。今後、増大する高齢者の方々が、医療の進歩、或いは“最後の時を自宅では迎えない”という不思議な実態から、病院で最終意思を表明される機会が増えるであろうと予想されます。今回紹介する「危急時遺言」を利用する場合には、十分に注意しないといけません。本判決の認定のとおり、せっかくの遺言が無効になってしまう場合があるという指摘です。
第三に驚いたことは、本判決は、本件「危急時遺言」を取り扱われた弁護士に対する警告まがいの指摘がなされ、本件遺言が無効であると認定されているのです。本当に、弁護士として十分な心構えが必要だと認識しました。
2 早速、判決を通して事案を見てまいりましょう。
本件も相続事件の通例として多数の訴訟が、双方より提起されております。多数の訴訟手続きが起きる事例として、その訴訟事件の内容を紹介しておきましょう。
第一事件は、今回、紹介する遺言無効確認請求事件です。即ち、遺産の受取人でない方が、本件遺言について無効であると主張され、訴訟を提起されました。第二事件は、逆に、遺産の受取人から訴訟提起されたものです。遺言内容を実現するために、不動産の明け渡しを請求されておられます。第三事件は、遺言が有効とみなされた場合に備えて、遺言の無効を主張された方が、予備的に遺留分減殺請求をされております。遺留分減殺請求に関しては、今回の法改正により、物件的請求権でなく、金銭債権のみが発生するものとされております。故に、遺留分減殺請求については参考としてお読みください。
私の経験からも、相続事件は幾種類もの訴訟が互いに提起され、通常、訴訟合戦になることが避けられません。しかし、本件では遺言の無効を争われた第一事件に絞ってみてまいりましょう。
3 第一事件の遺言は「緊急時遺言」として病院でなされました。
「緊急時遺言」には、特殊なものとして「伝染病隔離者の遺言」(民法第977条)や、「在船者の遺言」(同第978条)、或は「船舶遭難者の遺言」(同979条)等、特殊なものがあります。しかし、本件は「疾病その他の事由によって死亡の緊急に迫った者が遺言をしようとするとき」(同976条)という場合の「死亡の緊急に迫った者の遺言(緊急時遺言)」として、病院にてなされた遺言です。
このような事例が増えることについては、本件判例解説者も同様の意見を開陳されており、しかも、本件については、遺言が無効になった珍しい事案として紹介されております。
4 第一事件(本件遺言書が有効か無効か)の紹介に入ります。
これまで述べてきましたが、遺言者は、証人3人(医師、弁護士、遠い縁者の3人)の立ち合いの上で、病院において緊急時遺言が行われた事案です。そして、民法976条4項の「遺言の日から20日以内に」家庭裁判所の確認を得ているのです。ここでの家庭裁判所の確認審判がどのような意味をもつのかが最大論点となります。本確認審判は、危急時遺言の効力発生要件ではあるものの、既判力がありません。そのように解されております。民法改正の是非にまで発展する理論的な可能性を楽しまれる方は、通常の「自筆証書の検認の制度」(民法1004条)と比較・検討してみてください。私は、新版注釈民法第28巻で楽しみました。
もちろん、本判決でも「危急時遺言の確認の審判の制度(民法976条4項)は、そのような不正のリスクを排除する機能が不十分な制度であることに留意すべきである」と論述し、警告しております。本判例の評釈者も、遺言確認審判制度は不正排除リスクが不十分な制度であると警鐘を鳴らし「控訴審判決は、危急時遺言無効確認の本案訴訟においては、確認の審判があったことそれ自体を重視することは、適当でないと説示している。」と本判例を評釈しておられます。
5 そろそろ急所です。本件遺言が無効と認定された骨子です。
本件遺言には、弁護士が関与しております。その証人となった弁護士が聞き取りしておりますが、詳細な判旨を読み取る限り、この聞き取りが不十分であることは明白です。もちろん、意識障害の程度を示すものとして「Japan Coma Scale」の評価が低かったことや、立会した証人になった医師の専門領域が循環器内科の医師で、意思能力の有無の鑑別に関する専門家でないこともポイントになります。しかし、緊急時遺言の指導をした弁護士は、本遺言により遺産を受け取る被告から相談を受けた弁護士であったこと、そして証人になった弁護士との人的な関係まで暴露して、本件遺言を無効と認定しているのです。
小説のような判決ですね。
相続放棄による不動産放棄
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- 不動産の放棄
私の生まれ故郷の近くに居住される方から電話がきたときは、ついつい、こちらから具体的な内容に踏み込んでしまいました。「その畑では、猪や鹿が山から降りてきて、彼らが生活しているような状況ではありませんか?」、私自身が何とかしたいと思い、「近くの畑や山の所有者と、工夫できないかどうか相談していますか?近隣や役所との相談が絶対に必要ですよ」という具合です。
最近の電話相談は、私のコラムをよく勉強されている方々が多い。例えば、「もはや管理できない不動産があるので、相続放棄したい。でも相続放棄をすると、次に、この不動産を相続する遠い親戚に、どんな迷惑がかかるでしょうか?」、或いは「全く価値のない不動産だけ、相続が始まる前に処分しておきたいのですが?」というようなものが多いですね。このような一般的な質問であるなら、再度、本コラムを書く必要もありません。
2 次の電話相談には衝撃を受けました。
相談者は、「売却も放棄もできないで困っている不動産があるのですが、100円で買ってくれるという業者に売却してもいいでしょうか?」というのです。びっくりした私は「それはありがたい。でも信じられないのですが、本当ですか」と返答しました。相談者は「ヤフーのページで閲覧できます」と言うのです。電話中でしたが、慌ててヤフーの検索欄に「不動産の放棄」と入れたところ、確かに“100円で買います”という趣旨の表示が見出し欄にありました。私は、詐欺かもしれない、或は外国人の買い付けかもしれないと考え、その欄をクリックしてホームページを読みました。その広告記事と思われる内容からは、コンサルタント料、登記費用、それに物件調査費用として合計80万円程度、支払いが必要なことが分かりました。でもこれで終わりになるのかどうかは分かりません。私は、「経費が値上がりする可能性もあります。話を聞いて十分検討してください。でも、近い将来、国が放棄できる法制度を作る可能性が高いと思うのですが、それまで待てませんか?」というようなアドバイスをしました。相談者には、注意深くやって下さるようお願いし、この相談自体は終わりになりました。
3 ところで、不動産放棄のコラムについて、私の思いを書かせていただきます。私自身は、不動産放棄のコラムは、数年前の連載で終了したものと考えておりました。ところが昨年、当該論点に関係する国の法制度見直しの準備状況について、お付き合いさせていただいている方から、勉強させていただき、国の姿勢に感心しておりました。その後、その内容が大きく新聞報道されました。直ぐに、この内容を本コラムに掲載し、本当にすっきり終わったと思っておりました。数年前は「不動産の放棄」を論じること自体が珍しく、当時は、講演に引っ張り出されたり、各種の報道機関から取材を受けたりして大忙しでした。でも本件論点について、相続放棄やその他、周辺制度と区別して認識していただく機会を作れたと喜んでおりました。つまり、今後、不動産放棄に関係したコラムを書くことはないと考えていたのです。
しかし、前項記載のような電話相談を受けたことにより、数年前、数回に亘って連載した本コラムから、その後に変化した事実(特に、「相続財産管理人による不動産の放棄と国庫への帰属」は、一歩進んだと言っていいでしょう)は書いておいたほうがよいと思うようになりました。そもそも社会状況も変わっております。九州の面積より広い所有者不明の土地が、更に増大しているというように、やかましく言われる時代になり、私がコラムを書いた当時と全く違ってきました。前項のような「負動産」と言われる不動産の処分について、これに関与する業者等(司法書士や弁護士も含む)も多数出現し、その広告も多数目にする時代になっております。
4 相続放棄に関係して、相続財産管理人の相続人不存在による不動産の放棄が、一昨年、平成29年6月27付理財局国有財産業務課長事務連絡により変化し、国庫で引き取る方針に変わったのです。
私も相続財産管理人の不動産放棄に際し、四苦八苦した経験があります。本コラムでも、詳細は触れませんでした。民法第959条があるのに引き取ってもらえないなど、弁護士としてあってはならない事象だと考え、影響の大きさにも配慮したからです。
残り頁が少ないので「相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務」(著者正影秀明氏 288頁)から引用させていただきます。
「財務省の方針が変わったこと自体は、あまり知られてはいない状態であるのが現実である。国庫が引き取る方針に変わったといっても、実際に引き渡すにはどうすればいいかが、噂のようにいろいろ飛び交っている。例えば、建物は解体しないといけない、境界が確定しないと引き取らないなど様々な噂が飛び交い、現実がどうなのかは、まだまだはっきりしない。」
そうなのです。私の案件でも私道部分等の境界が判然とせず、当時、本当に困りました。
書評その3 「国境の銃弾」著者濱嘉之(文春文庫出版)
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1. 「国境の銃弾」は、先月(8月)10日、文春文庫より出版されました。
2. ところが8月23日、各新聞が一面大見出しで報じました。
3. 問題点は何か?
4. もちろん、「国境の銃弾」は小説ですから、上記のような論点を飛躍する部分もあります。北朝鮮主席の暗殺計画や北朝鮮の内部に宗教組織が絡んでいるなど、小説だから書けるのでしょうが、本当のことは分からないものの、さもありなんと思ってしまうのです。
5. 濱さんの小説は、話の進行が二人語り形式(会話形式で物語が進行する)で進行することが多いのですが、今回、同じ朝鮮との関係から、昔からの愛読書「徳川家康 全16巻」(著者山岡荘八 講談社文庫出版)を思い出しました。歴史上、「文禄・慶長の役」と言われる豊臣秀吉の朝鮮に対する出征ですが、第14巻「明星瞬くの巻」から第16巻までがこの時期の話になります。対馬から直線距離で僅か50キロしかない距離での戦いであっても、秀吉不利となる歴史小説です。山岡荘八さんの小説は、その登場人物の心理描写が中心になって、歴史に関連付けされて進行します。濱さんの作風と比較し、その違いに驚きます。
今回の相続法の改正では、配偶者居住権など目新しい内容もありますが、それらの紹介よりも、弁護士にとって「相続事件に対する対応が如何に面倒なのか」をご説明するほうが、読み物としては面白いと思います。でも面白くて当然です。亡くなった方、或いは亡くなる予定(言い方が変だけど)の方は様々な生きざまのなかで、大変な苦労をされたと思います。その方の人生の締めくくりの一つが相続なのです。「大変だったですね」と声をかけたくもなりますが、その方を取り巻く家族の方々の経験も様々で、その思いも多種多様です。相続事件は、相続される方々の複雑な関係に「けり」をつけることも目的の一つと言っていいでしょう。想像するだけで難しい事案が出てくるのは当たり前のことなのです。
相続事件として受任する弁護士は、そのような複雑な絡みを事案として受け止め、誠実に対処しなければなりません。
今回は、弁護士の方の失敗事例を紹介しましょう。もちろん、具体的に関係づけられるような内容は書きませんが、複数の弁護士が関与された20年以上前の事件です。
2 相続事件は、その発端となる遺言書作成業務から受任することが多いのですが、その弁護士を連れてきた人が相続人の一人であるなら、既に複雑な様相を呈し始めております。当該利害関係にある相続人は、自分にとって有利な遺言書を作ってもらうよう、弁護士に無形の圧力を与えていると言っても過言ではないと思います。私など、そのように感じてしまうのです。そもそも、遺言書作成業務だけを引き受けるなら、それで終わりにもなるのでしょうが、紹介していただいた相続人の方の事件も受任する予定なら(遺言執行者になる場合も多いです)、被相続人の気持ちも含めると複雑になりそうだと思いませんか。相続人間で深刻な争いがある場合、どうしたらいいのでしょうか?
今回、紹介しようと考えております相続事件は、まさしく上記懸念の典型例でした。問題となる弁護士の先生が、その発端となる遺言書作成業務を受任され、しかも、当該遺言書により遺言執行者として指名されているのです。遺言書を作成されたお母さまには、7人の相続人(お子様)がおられますが、そのなかで圧倒的に多くの遺産を与えられている相続人である長女の方の紹介で、遺言書を作成されました。紹介者の長女の方が、お母さまと同居されていた関係もあり、長女の方に有利な遺言書になっております。
3 弁護士先生の第一段階の失敗から紹介しましょう。
遺産の大半を占める都心一等地のかなり広い土地・建物について、既にお母様がその5分の3を所有されておりました。遺言書の内容は、次のようなものでした。上記の不動産の「持分5分の3のうちの5分の1を長女に遺贈する」というものです。
私の依頼者は相続人の一人でしたが、「遺言書のとおりに掛け算すると長女の遺贈分は25分の3になるはずですね」と相談にまいりました。私は、「数学的にはそうなりますね」と答えたところ、遺言書作成に関与された弁護士の先生は「私がお母様から直接聞取りして、5分の1を長女に遺贈するということで記載しました。とにかく5分の1ですから、25分の5が長女の取り分です」と絶対に認めないというのです。他の相続人も弁護士に相談しているとのことでした。
遺言執行人でもある当該弁護士は、「皆様の納得がなくても遺言書通りの執行をします」と回答してきたそうです。
他の相続人の場合と異なり、私の依頼者は、まだ私を正式な代理人に選任してくれていませんでした。でも私は経験則に基づき「長女に25分の5(つまり5分の1)の登記にすると言っても、登記官が受理してくれないのではないですか」と回答しておきました。
何と、後日、本当に登記ができなかったという報告がきました。まだ私には何の依頼もなかったのですが、私の相談者は、「それからが大変だった」というのです。
つまり、遺言書作成の間違いを犯したその弁護士は、遺言執行者という名目ではありますが、長女有利な結論を押し付けてくるというのです。他の相続人も何とかしてくれと言って弁護士に頼んでいるようだけど、全く進展がないというのです。そして何とかしてくれれば私と契約をするというのです。
私は、何回も相談を受けて、本件は、当該弁護士(遺言執行者)を除けば、後は、本人たちで解決できそうだという目途がたっておりました。その弁護士の排除だけは受任したほうが良いと判断し、「遺言執行者解任の申立」事件(民法第1019条)として受任したのです。家庭裁判所に上記申立書を提出し、第一回期日を迎えました。当日、裁判官の訴訟指揮にびっくりしました。なんと私を法廷にほったらかしにして、相手方である遺言執行者の弁護士だけを、法廷とは別の場所に連れて行きました。30分も経った頃、法廷に戻った裁判官は、「遺言執行者は自ら辞任されますので、本件申立ては取り下げてもらえますか」と言われたのです。その訴訟指揮には驚きました。
4 そもそも、遺言執行者は、民法第1015条によって、相続人の代理人とみなされますが、相続人一人の方の代理人ではないと解されております。弁護士の先生方は、弁護士職務基本規程について十分に勉強をお願い致します。
遺言書「花押」に関する最高裁判決評論に寄せて
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最高裁判決まで争われた遺言書作成者は、琉球王国時代の名門の出の方で、花押を署名として使用することについては、日常生活に溶け込んでおられる方でありました。判例評論では、江戸時代、琉球王国が薩摩藩に服属した際の起請文等に書かれた花押も指摘されており、花押の使用について、通常の日常生活に馴染んでいた事実の指摘も十分になされております。
種々の花押や花押の歴史に関する説明もあり、興味の尽きない判例評論として読ませていただきました。
しかしながら、花押が、当該遺言者やその親族にとって、何ら特別のものでないのなら、本件に限って認めてもよかったのではないでしょうか。日本に帰化された白系ロシア人の方の遺言書で、当人の署名だけしかなく、押印のない遺言書を有効とされた最高裁判決もあります。確かに、この事案では遺言書自体が英文ではありますものの、遺言者等の周辺環境は似ていると判断できると思います。白系ロシア人の方の遺言書が、有効と認められた判例は、昔から模範六法にも掲載されている判決で有名です(最判昭49.12.24民集28-10-2152)。
私は、若いころから、「花押」や掛け軸等に書かれた「賛」(掛け軸等に書き添える詩文等を言う)には多大の関心をもってきました。私の故郷にある父母の菩提寺である住職であられた沢庵和尚の種々の記念品を見せてもらっていた折、板に書かれた「はっきりしない絵」の賛は、宮本武蔵が書いたものと説明されて、思わず本当かなと思ってしまった高校生時代の記憶も蘇りました。
今回のコラムでは、上記判決によって蘇ったお話をしてみましょう。
2 実は、私は、押印の代わりに花押を使用して作成された遺言書の相談を受けたこともあります。
昭和の終わり頃の相談でした。当時は土地バブルに沸いており、遺言書作成の相談も本当に多かったのです。でもこの遺言書作成者は、まだ元気でいらっしゃいました。私は早速お会いして、「花押がおじい様のお名前のようには、とても読めないのですよ」と申し上げました。実際にも、花押の殆どが署名と違い、その方の名前とは直ちに結びつかないことが多いのです。そこで「実印はお持ちですか」とお聞きしましたら、実に立派な印鑑を見せられました。
でも、この立派な印鑑を押してもらったのではありません。私は、公正証書遺言の趣旨を説明し、公正証書による遺言書を作成しました(遺言書を作るなら公正証書遺言にしてくださいね。公証人は動けない方のためなら、自宅まで来てくれますよ)。
実際、民法の条文通りに遺言書を作るのは大変です。いろんな遺言書も見ました。カレンダーの裏に書かれた遺言書もありましたし、そもそも訂正箇所に訂正印が押されていないものもありました。ところで民法の条文上では、「自書と押印」となっておりますが、押印に代わって指印で足りるという最高裁判決もあるのです(最判平1.2.16)。
3 今回の民法改正では、遺言書の関係では期待したほどの改正はなかったと考えております。財産目録だけは自書でなくてもよいとなりましたが、目録の毎葉(ページ)ごとに署名押印しなければなりません。訂正箇所に関係するやり方も従来通りです。
遺言書の作成は、やはり面倒ですが、私にとっては、ありがたい改正がありました。これまで私は、お預かりした遺言書を保管するため、銀行から貸金庫を借り続けてきたのです。大事な遺言書が火事などを原因として無くなったりしては大変なことになるからです。
今回、作成された遺言書を法務局に預かってもらうことのできる制度ができました(「法務局における遺言書の保管等に関する法律」といいます。この法律は、来年2020年7月20日に施行されることになりました)。
「貸金庫」は、上記法務局預かり制度を見て、解約するつもりです。
4 最後に、米澤穂信著「満願」というミステリー小説を紹介したいのです。
この小説は、島津公からいただいたという達磨大師の絵にかかれた「賛」が鍵になっております。最高裁判決評論にある薩摩藩つながりと、{花押}と{賛}ということで、この小説を思い出したのですね。この小説は、4年ほど前、山本周五郎賞を受賞し、当時の「読んでみたいミステリー」第一位でした。今回、再度読み直してみました。
新人弁護士が、司法試験受験時代にお世話になった女性の弁護(なんと殺人罪です)をするミステリー小説です。ミステリー小説の多くは弁護士にとって納得できない筋回しや、或いは法律論として飛躍がある作品が多いのです。4年前には、その結末に違和感がなく、むしろ司法試験受験時代の苦しみを彷彿と思い出させるこの小説におおいに感動したものです。でも再度読み直してみたところ、奇想天外な結末に驚きました。殺人を犯した女性が、島津候の掛け軸に書かれた賛を守るために、どのような工夫をしたのかについては、本書の種明かしになってしまいますので、止めておきましょう。
そもそも、本コラムは、弁護士の先生方が読まれることも多いとして評判をとっております。私も受験時代の苦労は大変でした。司法試験受験時代の、あの苦しかった時代が、ふつふつと思い出されてくる「満願」をお読みください。
民法改正の内容は極めて広範に及ぶため、早急に対応を検討するとともに、契約書を見直して修正すること等が必要です。
本コラムでは、契約書の修正や債権の管理等に役立つ「消滅時効」「債権譲渡」に関する改正内容を、説明させていただきます。
二 まず、消滅時効に関し、短期の消滅時効制度が廃止されるなど、時効期間が大きく変わりました。
具体的には、権利を行使することができる時から10年で消滅するという時効期間は維持しつつ、権利を行使することができることを「知った時」から5年という時効期間を追加しました。
また、不法行為に基づく損害賠償請求権については、損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時(=権利を行使することができる時)から20年で消滅するという従前の規定のままですが(従来は除斥期間だったものが、消滅時効に改正されました)、生命・身体の侵害による損害賠償請求権については、知った時から5年、権利を行使することができる時から20年で時効消滅しますので、注意が必要です。
さらに、時効の完成猶予と更新という制度に再構成されました。
例えば、債務者が債権者に対して債務を「承認」すれば、経過した時効期間がリセットされ、直ちに新たな時効期間が進行することになりました。また、債権者による裁判上の請求(訴えの提起)などがあれば、時効期間がリセットされ、裁判の確定等により新たな時効期間が進行することになりました。
時効が完成しそうな場合には、権利について協議を行う旨の合意を書面又は電磁的記録で行えば、時効の完成が猶予されることになった点、天災等による時効の完成猶予期間が3カ月間に伸長された点も特徴的です。
実務上重要な改正点としては、連帯保証人(連帯債務者)の一人に履行の請求を行っても、主債務者(他の連帯債務者)に対して効力を及ぼさないことになりましたので、今後は、契約書にしっかりと、効力を及ぼす旨を明記する必要があります。
三 債権譲渡につきましても、譲渡制限特約(譲渡禁止特約)などの規定が大幅に改正されました。
具体的には、改正前は譲渡制限特約が付いている債権の譲渡は原則無効とされていましたが、改正後は、原則として譲渡制限特約が付いている債権の譲渡が有効となりました(預貯金債権を除く)。
また、債務者は、悪意重過失の譲受人に対しては支払を拒絶し、譲渡人(元の債権者)に対する弁済等をすれば、譲受人に対抗することができる(免責される)ことになりました。
その一方で、譲受人の保護をするため、債務者が譲受人から履行の催告を受け、相当の期間内に履行をしないときは、債務者は、譲受人に対して履行をしなければならないことになりました。
譲渡制限特約のついた債権が譲渡されたとき、債務者は、供託することができるようになったとともに、譲渡人が破産したときは、譲受人は、債務者に債権の全額に相当する金銭を供託するよう請求することができる(譲渡人への弁済は、譲受人に対抗できない)ことになりました。
このような改正の結果、債権譲渡制限特約が付いている債権を譲渡しても契約違反(債務不履行)とはなりませんので、債権譲渡による資金調達をすることが見込まれるようになりました。
また、将来債権の譲渡が有効であることが明記されました。
将来債権が譲渡され、債務者対抗要件を具備した後に譲渡制限特約が締結された場合には、債務者は譲渡制限特約を譲受人に対抗することができないことなども規定されました。
四 以上の通り、消滅時効及び債権譲渡に関する規定が大幅に改正されたことがお分かりのことと思います。
そのため、早急に、皆様がお使いの今までの契約書を見直し、修正する必要があります。
また、債権管理に関する取扱いについて、弁護士と相談しながら再検討する事項が多数存在することもご理解頂けたと思います。
当事務所において顧問契約(月5万円)を締結して頂いている場合には、そのような対応について、別途費用を1円も頂かずに顧問契約の範囲内で対応しております(契約書の「作成」については、量によって例外もあります)。
これを機に顧問契約の締結も含めてご検討いただけると幸いです。
以 上
民法改正の内容は極めて広範に及ぶため、早急に対応を検討するとともに、契約書を見直して修正すること等が必要です。
特に「保証」に関する条項が大幅に変わりましたので、本コラムでは、契約書の修正等に役立つ「保証」に関する改正内容を、説明させていただきます。
二 まず、個人根保証について極度額を設定しなければならないことになりました。
こう言うと非常に分かりづらいと思いますが、具体例としては、①賃貸借契約に基づいて賃借人が負担する債務の一切を個人が保証する保証契約、②代理店等を含めた取引先企業の代表者との間で損害賠償債務や取引債務等を保証する保証契約、③介護、医療等の施設への入居者の負う各種債務を保証する保証契約等において、極度額(担保することができる債権の上限)を設定しなければならなくなりました。
御社が賃貸借契約の保証契約を締結する際、極度額を定めていたというようなことは殆ど無いと思いますので、今すぐに対応する必要があります。
このような場合、前回のコラムでも記載しましたが、「極度額は賃料の3ヶ月分」というような記載だけでは保証が無効になりかねませんので注意が必要です。
三 次に、「事業」のために負担した「貸金等債務」を主たる債務とする保証契約は、契約締結前1ヶ月以内に作成された公正証書で、保証債務を履行する意思を表示する必要があります(保証意思宣明公正証書)。
具体的には、保証人本人が出頭し、公証人による保証意思の確認がなされるなど厳格な手続が取られることになります。保証意思宣明公正証書は、保証契約とは別になりますので、それ自体に執行認諾文言を付けることはできません。
もっとも、主債務者が法人の場合に取締役等を保証人とする場合、或いは、主債務者が個人の場合で「主債務者が行う事業に現に従事している主債務者の配偶者」等を保証人とする場合は、保証意思宣明公正証書を作成する必要がありませんので、注意が必要です。
また、監査役、監事、評議員、執行役員(従業員)、書類上事業に従事していることになっているだけの配偶者、事実婚の配偶者などを保証人とする場合についても、保証意思宣明公正証書を作成する必要がありません。
四 また、主債務者は、「事業」のために負担する債務を主たる債務とする保証等の委託をするときは、保証人に対し、①財産及び収支の状況、②主債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況、③主債務の担保として提供するものの内容等に関する情報を提供しなければならなくなりました。
この義務は、「貸金等債務」には限られず、事業に関する債務であれば履行する必要がありますので、注意が必要です。
そのため、御社が、事業に関する保証契約を締結してもらっている場合、今すぐ対応する必要があります。
そして、この義務に違反した場合、保証人は、債権者の悪意・有過失等の要件を満たせば、保証契約を取り消すことができます。
債権者とすれば、自らが直接関与していない主債務者の義務違反によって保証契約が取り消されることにもなりかねませんので、注意する必要性が非常に高いと思われます。
民法改正後、事業に関する保証契約を締結したいと考える債権者の方は、弁護士に相談しながら、保証契約が取り消されないようにしておく必要があります。
五 債権者は、主債務者から委託を受けた保証人(法人も含む)から請求があったときは、主債務の元本、利息及び違約金等に関する①不履行の有無(弁済を怠っているかどうか)、②残額、③残額のうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならなくなりました。
この点についても、実務上非常に重要であり、今すぐ対応する必要が高いです。
御社が、この情報提供義務をどのようにして履行していくのかについて、弁護士と相談しながら検討しておく必要があります。
六 主債務者が期限の利益を喪失したときは、債権者は、保証人(法人は除く)に対し、その喪失を知った時から2か月以内に、その旨を通知しなければならなくなりました。
仮に2か月以内に通知をしなかったときは、債権者は、期限の利益を 喪失した時からその後に通知を現にするまでに生じた遅延損害金については、保証債務の履行を請求することができません。
七 さらに、民法改正前は、連帯保証人について生じた事由が主債務者に効力が及ぼすこと(絶対的効力)とされていた事由のうち、「請求」等については、主債務者に効力を及ぼさないことになりました。
要するに、民法改正後は、連帯保証人に請求をしても、主債務者に対して請求をしたことにはなりません。
そのため、契約書等を修正して、連帯保証人に対する請求が主債務者にも効力を及ぼすように規定しておく必要があります。
八 以上の通り、保証に関する規定が大幅に改正されたことがお分かりのことと思います。
そのため、早急に、皆様がお使いの今までの契約書を見直し、修正する必要があります。
また、保証に関する取扱いについて、弁護士と相談しながら再検討する事項が多数存在することもご理解頂けたと思います。
当事務所において顧問契約(月5万円)を締結して頂いている場合には、そのような対応について、別途費用を1円も頂かずに顧問契約の範囲内で対応しております(契約書の「作成」については、量によって例外もあります)。
これを機に顧問契約の締結も含めてご検討いただけると幸いです。
以 上