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新宿の顧問弁護士なら弁護士法人岡本(岡本政明法律事務所)

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コラム - 最新エントリー

 

一 不動産バブル時代
不動産は持っていて損はないと言っていた時代のことを覚えておられますか。昭和48年の石油ショック当時、私は不動産会社に勤務していました。当時、不動産、特に土地は無くなることがないのだから、持っていても損はないという信念がありました。今、私にはそれがなくなり始めています
そもそも国家は、この不動産神話によって成立し、それを法律構成し、税制を作っております。国の税収を支える固定資産税のことなど些細なことです。そもそも領土こそが国家の前提事項です。それが世界の共通認識でした。
すなわち我が国に限定して見てみましても国取り合戦によって歴史が作られてきました。土地に対する信仰は尖閣列島を巡る問題をお話ししなくても、国の制度の骨幹であり、それを基本にして法律もできております。我妻栄という偉い民法学者の先生の教科書を今回見直しました。不動産の放棄についてはきちんと触れてありません。解釈論はおろか、その来歴すらも記述されていないのです。
では放棄と言えば相続放棄と言われる法律制度と比較してみましょう。相続財産の放棄の制度を検討しますと所有者責任がリアルに実感できるのですから不思議です。即ち、不動産の放棄ができない結論の妙が相続放棄でも同じように浮かび上がってくるという手品のような話が続きます。
 
二 単なる放棄と相続放棄は違う
  相続放棄の原因
相続放棄は、亡くなった方が有していた遺産を相続することによって発生する問題であり、民法第938条によって「家庭裁判所に申述」することと方式まで定められています。民法では、相続人の順位や相続割合をきちんと定められていますが、相続放棄は一人に遺産を集中する場合などの遺産分割協議のような事例を除いて、通常は負債が多くて相続したら困る場合に生じる問題です。
民法第939条では「相続の放棄の効力」として規定されておりますが、「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」ものであって、不動産だけの放棄ではありません。相続人全員で協議して相続財産を区分して不動産だけ別にすることはできますが、単なる不動産の放棄とは全く違う概念なのです。ヤフーやグーグルを見ていると、双方を同じ閲覧場所にアトランダムに掲載していますが、全然法律が分かっていない証拠です。
 
2 驚いたことには、相続財産の放棄には、国庫に帰属させる手続規定として相続財産管理人の制度がおいてあるのです。単純に不動産を放棄する場合には、その登記手続が用意されていないのですが、それとは違う取扱いなのです。
そもそも相続財産管理人の制度は「相続人不存在」の項として第六章において規定されております。相続財産管理人は「相続人のあることが明らかでないとき」に選任されます。管理等により処分されなかった相続財産は、民法第959条によって「国庫に帰属する」と定められているのです。とうとう国庫帰属規定が出てきました。
この場合の登記手続ですが、注釈民法という全部で30巻前後の解説書をみないと出てきません。その記述も簡単です。
「(相続財産)管理人の引継書に基づいて、国庫帰属による所有権移転登記(登録)手続を国が申請することになる」と記載されています。私も引継書の段階までしか実務をしておりません。詳細は家庭裁判所の書記官実務書でも読まねば分かりません。
 
 不動産放棄はできないのですから、逆に解釈すると、相続財産管理人を選任しないと不動産を国庫に帰属できないと言っていることと同じなのです。
しかしながら、この条文から推測しましても、民法制定時、不動産放棄に関し考慮されなかったなどと言うことは考えがたいのですが・・。
 
4 ここからが急所です。
次の民法の規定を見てください。土地の放棄が可能な方法である相続放棄をしても、次の管理人が管理を始めることができるまで「自己の財産におけると同一の注意」を払わないといけないと規定されているのです(民法940条)。つまり相続放棄をしても、他に相続人がいない場合には、相続財産管理人を選任して、不動産を国の所有権に帰属させておかないと所有者責任と同じ責任を負わされ続けるという結論になるのです。
民事事件となって損害賠償責任があることは紹介済みですが、刑事責任にまで及ぶことを思い出して下さい。
 
5 変な話なのですが、実態は違うのです。
相続放棄をしてもこの制度を利用する人は少ないという事実です。この事実は空き家管理条例でも紹介しますが、相続財産管理人の制度を知っていても、お金がないと相続財産管理人になる方に費用等を支払えません。相続財産管理人制度を利用しますと、地方の裁判所でも最低数十万円は費用として予納する必要があると言われております。これでは固定資産税を支払うほうが安い場合が多い。そもそも放棄した人は借金の支払いができず、或いは支払いたくないから放棄するのですよね。わざわざ費用のかかる相続財産管理人の選任申立などしません。
私自身の経験を申し上げましても、相続財産管理人の選任を受けたのは抵当権を執行したい立場の債権者である金融機関の依頼を受けて受任したものばかりです。
そもそも相続放棄は相続人の財産は一切もらいませんと言って家庭裁判所に届け出れば受理されます。従って、相続放棄をした人でもこのような制度は知らないと返答する人が多いはずです。
矛盾があるのですね。
 
三  まとめ
以上、相続財産の国庫帰属規定より分かりますことは、民法制定者は不動産の所有者責任について十分意識していたということです。
 今後は、劣悪不動産を持っていても固定資産税その他の管理費用がかかるだけで何の利益もないのにかかわらず、最悪の場合には、所有者・管理者責任まで課されることが分かりました。故に、相続財産に劣悪不動産がある場合、多少の遺産しかないのであれば、遺産全部を放棄してしまう事例も増えるのではないかと予想できます。
 
 
 次回は条例との関係で考えてみましょう。

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一 相続放棄や破産事件での放棄と混同するな!
 
1   今回は、前回のコラムと異なり、法律家らしい所見を開陳しますが、読んで少し疲れる方も、我慢して読んでいただきたいコラムであります。実は、本コラムの内容は、本年初頭、新年会で講演する内容の原稿を下敷きにしておりますが、一部上場企業不動産会社の尊敬する社長さんからも絶賛されたものであります。
 
2  ヤフーで「不動産の放棄」と入れて検索すると、殆どと言っていいほど相続放棄に関するコメントが出てきます。
平成251012日現在では、初めの3件でかろうじて「不動産の放棄」として閲覧はできますが、しかし、その他の欄では、相続放棄や破産事件関係での不動産放棄に関する説明ばかりです。6ページ閲覧しても、しかも弁護士記載のページですら、まともな回答は1件しかなく、それも私を満足させるものではありません。でも本年初頭今回と同じように「不動産の放棄」で検索しました際には、直接答えるページは1003件もあればいい程でした。法律上の解釈すらもなく、弁護士の先生の勉強不足を嘆いたものであります。
 
3  結論からいきましょう。
「民法だけでなく、現在の法律では、『不動産の放棄』は予定されていない概念」というのが正確なのです。
エッと驚かれる方もおられると思いますが、前回のコラムで指摘しましたように「不動産の格差社会」という新しい社会現象が出てくる社会になって初めて、このような結論に種々疑問が生じるのです。
 
二  不動産に関する法律の規定
1 民法の規定
 日本は憲法第29条において財産権を保証し、私的財産制度を採用しております。
 私的財産制度を定めている民法からみていきましょう。
 動産は放棄することができます。
 野生の狸を岩穴に追い込み、入口を石で塞げば所有権を取得するという相当古い有
 名な判例もあります。これを「無主物先占の法理」(民法239条)と言いますが、「お札を
 私の前で捨ててください」と願望する人は多いですかね?(比喩が悪いか)。
 では不動産はどうでしょうか?
   民法第177条では、「不動産に関する物件の得喪及び変更」として、不動産登記法
 める登記をしないと第三者に対抗できないとしております。もっとも民法第239条 
2 項では「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」と規定しております。
   このような条文があることから、弁護士の先生方に、不動産の放棄はできますかと  
問すると、不動産を放棄したい人は国に不動産を帰属させることにより放棄できる
いう結論が多くの方の回答でした。
  別に意地悪をしているのではありません。整理回収機構不動産部の顧問時代に
は、私もそのように考えて民事局まで聞くようにと若い先生に指示を出しております。
 
2   民事局の回答
  単に聞いてきましたでは都合も悪いでしょうから、多少古くなりますが、昭和418
27日付民事甲第1953号民事局長回答を紹介しましょう。
   昭和41年、ある神社から二点照会がなされました。第一の質問は「神社所有地の
部が崖地のため、崩壊寸前にあって、神社は勿論付近の氏子住家数件も危険状
にあるため、これを防止すべく考慮したのであるが、この工事に要する費用が数千
を見込まねばならず、到底神社においては、これを負担する資力はなく、然しなが
らこのまま放置することは危険である」、したがって「不動産土地所有権を放棄して所
有権を国に帰属せしめたい」。第二の質問は「前項の不動産放棄の登記上の手続き
方法を指示してほしい」という照会です。
   なんと国の回答はにべもなく「所有権の放棄はできない」、故に、登記手続きについ
ては「前項により了知されたい」という乱暴なものであります。
   上記相談事例は、前回のコラムの「放棄したい不動産」とほんとに似ていますね。

 
三 不動産の放棄ができないと所有者責任が続く
 1  所有者・占有者責任とは何か?
所有者責任は民法第717条「土地の工作物等の占有及び所有者の責任」という規定をみるのが早いでしょう。本条は土地の工作物ですから典型的には建物(念を押しておきますが、建物は典型的な不動産です)から考えればいいのです。
ここは丁寧に条文からみましょう。「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害が生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない」とあるのです。
平成16130日付最高裁の判例を紹介しておきましょう。
この判例は、国に対する損害賠償請求を一部認容した控訴審に対して上告された事件ですが、最高裁はこれを棄却しました。宮城県盛土崩壊事件といい、国が管理する道路沿いの私有地斜面に盛り土がされていましたが、豪雨で崩壊する危険性を予知している場合には道路管理者に管理責任があるとして一部損害賠償を認めた判例であります。
上記717条の解釈に対する適当な事例の一つです。
 
2 刑事責任
所有者責任は刑事責任まで発展するのですから、大変な責任なのです。
最高裁が業務上過失致死傷罪の成立を認めた平成51125日付決定であるホテルニュージャパン火災事件は古くて聞いたこともないという方もおありでしょう。
枚挙にいとまがありませんが、記憶に新しいJR福知山線脱線事故を例に、多少詳しく説明しましょう。この事故で107名が亡くなられた当時について思い出していただけるでしょうか。
この事故で、平成2178日、神戸地方検察庁は、当時の社長を業務上過失致死傷罪で在宅起訴をしています。起訴理由は、この事故が起きた地点の線形に注目し、当該区間にATS-Pを設置すれば事故が防ぐことができた趣旨の発言を社長がしていることを理由にしました。社長は危険性を認識していたことが起訴理由になるのです。ATS-Pの設置は条文で見た先ほどの「工作物」になるでしょう。
本コラムでも、神社所有土地の崖崩壊事例を紹介しました。崖の崩壊を認識して照会した神主の方か、その氏子総代になるのか知りませんが、崖が崩壊する可能性があるとして国に照会までしているのですから、照会した人を始め関係者はその危険性を知っていたことになります。
崩壊すれば、その方々は刑事責任を追及される可能性があることになります。恐ろしいことです。
 
  次回は、今回の「不動産を放棄できない」という恐ろしい結論の纏めと「相続放棄の制度」とを比較してみましょう。

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一 自由競争は格差社会
 
1 あなたの周りには激しい格差が生じておりませんか。
   あなたのことを言うのは余計なお節介ですから、私の業界である弁護士業界と格差社会の典型であるアメリカについて話しましょう。
  弁護士業界での格差、即ち食べていける弁護士と、プアーな弁護士との格差が司法改革後すごい勢いで進んでおります。司法改革全部を悪いとは申しません。どんな職業であろうと利用者からの選別、即ち自由競争原理にさらされることは必然の成り行きだからです。
そもそも日本経済がグローバルスタンダードと言われる新自由主義の波を受けるのは、アメリカがその模範型なのですから必然のことでしょう。でも司法改革は自由競争の理念を先取しただけでなく、十分な検証もせず、フランス並みの弁護士人口と言って弁護士を爆発的に増大させました。マスコミ等の報道機関は自らの特権を顧みることなく、弁護士をその特権階級の見本の如く見做して全く擁護しませんでした。私は日弁連法曹人口問題委員会の当初のメンバーでしたが、既に数年前「宅弁」の実態を調べてほしい(意味は後述)などと日弁連執行部に都合の悪いことを言うためか、すぐに排除されました。寧ろ名誉ですね。
 
  アメリカの絶望的なまでの格差社会については、堤未果著「ルポ貧困大国アメリカ」(岩波新書発行)を読んでいただければ唖然とされるはずです。この本は、世上いわれるブラック・ユーモア「盲腸になると破産する」という話が真実であることを証明している本なのです。
アメリカの所得格差の拡大は歯止めがかからなくなっています。人口1%の人が全体の富の約20%を握るという統計は、今後もどんどん増大するでしょう。
今日の新聞にオバマ大統領の暫定予算の編成について年度内成立の目途が立たなくなったと報道されております。オバマケア(医療保険改革法)の柱である個人への医療保険加入義務付けに関し一年延期が争点ですが、共和党が反対する根本理念は自由競争原則に反するというものです。自由競争といっても平等なスタートラインに立って公平に競争している訳ではないのですが、しかしながらアメリカにおける労働力の補充政策、今後も移民を受け入れ続ける状況を考えると自由競争という理念は絶対に放棄できない哲学なのでしょうね。
上記「ルポ貧困大国アメリカ」では、格差社会の原因として医療保険制度があることを指摘しています。我が国でも問題になっているTPPの論点も弁護士である我々は知的財産関係を問題視していますが、TPPでの重要争点は医療制度にあるように考えたほうがいいでしょう。
 
  今回は問題指摘だけにしておきますが、弁護士業界に話を戻しますと、我が国の弁護士業界でも格差社会は激しい勢いで進行しております。法律事務所に入れてもらう形だけで給与のない「軒だけ借りる弁護士(通称、軒ベン)」、事務所がなく携帯電話だけで業務を行う「携帯電話弁護士(通称、ケー弁)」、自宅で法律事務所を開業する「自宅開業弁護士(通称、宅弁)」(人数の調査をしない儘放置)など面白おかしく新聞をも賑わすほどであります。もっとも私と同様の立場の経営者弁護士に景気はどうですかと聞いてみても、収入が増大したという弁護士は全くいないのが不思議です(ラッキーな事件は必ずありますがね?)。弁護士は増えすぎなのです。犯罪に手を染める弁護士も急増しています。
 
二 不動産を持っていれば何とかなるか(不動産神話の崩壊)
 
   「不動産格差社会の到来」は前項に述べました自由競争とは少し場面を異にして発生しております。しかし価値観が崩壊する経緯を見ると、その近似性に唖然とせざるを得ません。
      その昔から土地という不動産に執着してきたのが歴史です。不動産神話を前提にした対応、不動産を持っていれば何とかなるという意識が通用しない場合もある新しい時代の到来なのです。
 
    そこで、先ず今回は不動産に格差が生じている相談事例をみて、次回は「不動産は放棄できない」という法律論を説明しましょう。放棄できないことによる絶望的状況と相続放棄等の法律論、更に「空き家管理条例」等も検証してみましょう。皆様ご期待の、このような場合に取り得る対策があるのかまで検証する意図も勿論あります。
このテーマは、現在の社会状況に端を発するものでありますから数回のコラムで終わるのか疑問なくらいです。とにかく「不動産の格差」という言葉が意味するところを先ず紹介します。このような序論を書いておりますと、私は、人間社会のあるところ、必ず全てにおいて格差が生じるという哲学的な話をしたいのかなとも思います。しかし弁護士の枠からは拡散しないように戒めております。
 
三 所有不動産を放棄したいという相談
 
1 整理回収機構(いわゆる「RCC」)時代
  10年程前、私は整理回収機構の不動産部を創設した顧問の立場にあったことは既に本コラムでも紹介しております。採用時の面接で専務から「好きにやっていいですよ」と言われた話は今回省きます。
   皆さん、整理回収機構は潰れた金融機関の整理が業務であったことはご存知ですよね。どんな立派な銀行であっても、どのようにしても処分できない不動産を借金のかたに取得したなどということはあると思いますが、RCCでの業務は本当に潰れた銀行の清算です。どうしようもない不動産が大量にありました。
   田舎の一軒家のような限界集落の話のような皆様が考える物件だけでは面白くありません。例えば海の潮位が上がって、一日のちょっとの時間しか現れない土地、三重県の田舎に廃棄自動車が埋めまくられていて売るに売れない山林、産業廃棄物で健康に影響があって生活できない土地や値の付かない湯口権などがありました。処分の方向性について、いろいろ検討はしましたが、最後には、経済的に割の合う方法として、若い先生に不動産が放棄できるかどうかの法律調査までさせています。
 
2 近時の相談案件
   最近、不動産を放棄したいという相談が急激に増えました。何故だか分かりますか?土地をもっていると固定資産税がかかり、税金がもったいないからというような「まっとうな回答」ではコラムにする価値がありません。
世の中の常識はどんどん変わっていきますが、「所有者責任」という理念が浸透してきたことも重要な一因です。
小学校の傍の土地を借金のかたに取り上げたが、井戸や段差があって土地の管理責任を尽くすように町からやかましく言ってくる。「井戸を埋めてください」、「子供が侵入しないように長い柵を設けてください」まではよかったが、最近は草を刈ってくださいとまで言ってくる。しかも細長い土地で、街道に接しているものの段差があって有効利用の工夫もできない。駐車場にしたくとも車を置いてからの交通手段もない。誰も買ってくれないので、結論として捨ててしまいたいという相談です。
捨ててしまいたい相談はまだあります。
崖のある高所の土地を買ったが、雨がすごくて崩壊する恐れが出てきた。崩壊して下の人の生命身体に何かあれば所有者責任だと責められている。雨が怖くて、このままではノイローゼになりそうだ。誰も買ってくれる人もいない。あげると言っているが誰も貰ってもくれない。所有者責任は刑事事件になる可能性もあると脅され、本当に怖い。
このような社会状況は「不動産の格差社会」と言わざるを得ませんね。

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1 パターン?の事例紹介
    (1) 会社支配を巡る民事再生型パターン
 ここで紹介するパターン?の事案の場合も社長の解任を発端にしております。元社長派が貸している債権の返済のないことを理由にして債権者破産の申立をしました。?の事案と異なり、現社長は元社長のやり方では事業が継続できないとして叩き出したのですから対抗心むき出しです。破産手続中止の申立、多少遅れて民事再生の申立をしました。
私は当初より調査委員に任命され、主として再生計画を遂行できるかどうかの調査をしたことになります。民事再生を分かりやすく説明しておきますが、要は、「経済的に窮境にある債務者」(民事再生法第1条による)を建て直すため、再生手続開始決定後も、従来の役員が引き続き会社を経営して(このような民事再生を「DIP型」と言います)再生計画案に基づいて事業を継続して再生させることを認めた法制度なのです。こんなありがたい制度はないでしょう。調査委員は利害関係人の申立による場合もありますが、裁判所の裁量で決まります。
 
 (2)  パターン?の論点(再生計画の弁済率は低額)
現経営陣は何としても現在の経営を続けていきたいというものでありますが、弁済期 にある債務を返済できないなら債務不履行となり、裁判所は破綻原因と認定するしかありません。現経営陣の当初の見込みも空しく旧経営陣に対する返済金は集められませんでしたが、現金商売ができる見込みがたったことから民事再生の申立をしました。
民事再生は、各債権者に対して総債権額の一定割合による返済をすることで企業の存続を目的にする制度なのですが、旧経営陣は再生計画案を認めることはないのですから、難しい案件になります。
大雑把な講義になってしまいますが、民事再生では、返済するべき債権額に関し、本当に低い弁済率で、且つ何年にも分割にして返済計画案を作ります。債権者(議決権者)の出席過半数及び議決権総額の2分の1以上の賛成を得ないと認可されません。旧経営陣からの賛成は期待できませんが、でも皆さん、債権者集会での賛成率の実態を知られれば驚かれることでしょう。私の近時の経験では50パーセントぎりぎりの賛成しか得られない案件ばかりが続いております。薄氷を踏む思いとはこのことなのです。
本件も本当にぎりぎりで返済計画案が賛成されました。私の職務は3年間の監督により、そして債権者名簿を裁判所に提出して終了となりました。
 
2 パターン?の事例紹介
(1)  営業譲渡をする民事再生型パターン
 最後のパターン?の案件は、会社の支配権を巡り経営権を取得した現社長派が破産申立をしたが、解任された元社長グループは事業譲渡を内容とする民事再生の申立をして争った大変珍しい案件です。職種は申せませんが、世界的企業につながる業界でも有名な会社でした。
現経営陣は、破産申立直前に設立した別会社による事業の継続を図り、旧経営陣は新会社を設立して、その会社に対して事業譲渡(事業承継)を目論むという企業支配では通常考えられそうな典型事例でした。私は、調査委員、保全管理人そして破産管財人に順次任命されました。
当時、部の最も偉い裁判官から、営業譲渡までを想定した保全管理人による処理の仕組みを破産部の制度として作り上げたいとして依頼された経緯もありました。しかし、所詮、いずれの主張が破産法・民事再生法の理念に適合するかの調査・検討です。
双方が提起する諸条件を法律に従って調査・検討するのですが、双方の陣営の猛烈に緊張した熱い歓迎ぶりには、当事務所所属で私が代理人として選任した2名の若い先生方も刺激的な交渉だったと思います。
 
(2)  論点1(破産会社財産の取り込み)
先ず現経営陣グループの破産申立は、破産する会社の重要財産を別途設立した会社に殆んど取り込むという破産法にいう詐欺破産罪にも問擬しうる悪質さでした。経営紛争に起因する破産申立の場合、注意点はここにもあります。この会社は大会社でしたので珍しく関係ありませんでしたが、通常は、社長も破産申立を同時にします。社長も破産申立をしていたならば、本件では免責が得られなかったでしょう。免責制度は悪質な処理への歯止めとしても十分に機能しています。
私の財産取戻しは苛烈を極めたと思いますが、別会社の担当部長は最後には随分協力してくれたことが私の自慢であります。刑事告訴や損害賠償責任の追及にならなかったことだけでも、ましな結果だとご判断ください。
 
(3)  論点2(営業譲渡)
幾度も述べました事業譲渡が次の論点です。でも民事再生により行う場合、結論から言えば譲渡価格の適正性に尽きると断言できます。本件も著作権や無形の暖簾代が争点となりました。これらの財産は事業承継に不可欠なものですが、専門的な説明をしてもつまらないでしょうから省きますが、やはり「相当な価格」というのは高いですね。旧経営陣にも厳しい結果となりました。
裁判所から任命された私の職務は、双方のグループの思惑にまどわされることなく、法に従い適正に処理することです。双方が提起する条件を厳しく検討させていただき、営業譲渡後に破産決定を得て無事終了させました。偉い裁判官のご指示通り、東京地裁20部(破産部)のみの関与にて決済されたことになります(この運用は前々回のコラムを読んでいないと分からないだろうな?)。
 
3 破産事件コラムの感想 
法をまとっても思惑は人の欲望に忠実であります。言葉を換えればその思惑は単純明快であります。パターン?の事件では迷惑を受けた者として別々の会社に区分される結果となった従業員「労働者としての苦渋」を書きたかったのですが、またの機会にしたいと思います。つまり破産関係のコラムは刺激的でもありますが、ちょっとした人としてのユーモアやアイロニーも少なく、味わいも「ギトギト」し過ぎて詰まらないと思うようになりました。
次回からは私が単なる「イケイケドンドン」の弁護士ではないことを示したいと思います。事件の関係者は繊細であり、事件処理に限っても「イケイケドンドン」だけでは通用しません。そもそも細やかな配慮と熱心に事件に向き合うこととは矛盾しないのです。
従って、学術的な側面も加味して「不動産の格差社会・不動産は放棄できるのか?」を論点として書こうと思っております。

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1 具体的な事例紹介
 
(1)       パターン?の紹介
この原稿は早めに書いておりますが、「会社支配権と破産手続(その1)」において、掲載する事案をパターン化した当時、三井造船との合併を推進していた造船・重機業界第二位の川崎重工業の社長が臨時取締役会で取締役から解任されたという記事が報道されました。合併構想を阻止するための事実上の社内クーデターという報道内容でした。株主総会を直前に控えた経営トップの解任劇として注目に値する案件でした。
ところで、既に紹介しております?の事案も派遣等の特殊な労働者をいれると○万人以上を抱える親会社の経営支配権を巡る紛争により派生的に発生した破産事件といえます。
親会社の社長は伝説的な人物で、その方の死亡により親族内で経営支配権を巡る紛争が激化し、本件は、当時週刊誌に幾度も報道された数多くの訴訟事件の一つです。破産会社の出資者で、同時に多額の貸付けもしていた親会社は、当時、未上場企業であっても誰しもが知る有名な会社でした。親会社による債権者破産の申立をされた子会社社長は、現社長でない未亡人をその企業の継承者に押しましたので、経営支配権の行く末が定まれば、現社長に糾弾されるべきは当然のことでありましょう。親会社から返済期限が到来した貸付金の一挙返済を迫られれば、その会社は破産するより方法がなかった事案です。本来話し合いで解決されるべき案件でしょうが、紛争の経緯から懲罰的会社整理もやむをえないとも判断できます。
 
(2)       本件の処理
裁判所から私が保全管理人、その後に破産管財人として選任されました。本件は民事再生も事業譲渡の準備すらもできないまま、突然に会社を整理された案件です。
当事務所の事務員が、「在庫の宝石を勘定するだけでも一日以上かかる、重要な処理が何もできない」と言って、これらの在庫整理を親会社社員に任せっぱなしにしたのには頭にきましたが、それもやむを得ない程に慌ただしい終末整理でした。
いずれにしましても、破産管財人としては債務超過という破綻原因があれば、粛々と整理するしかございません。
破産会社は、親会社のある一部門を担っておりましたので、驚くような内容は種々ございますが、これ以上記載しますと当時を知る人には何の事件かも分かってしまいます。
2 債権者破産等の破産申立について
 
(1)  事例での紹介
パターン?の事案のような債権者破産の申立は、当時数多くありました。
議員等に対して、債権者破産の申立が頻発したのも当時のことではなかったかと思います。そもそも破産者になると議員としての資格がなくなることを逆手にとり、国会議員等に対して破産の申立をして借金返済を迫ることが、手っ取り早い債権回収の手法であるとして相談を受けたことも多々ありました。下品だなと思いながら、返済されない場合には債権者破産の申立をしますとの趣旨を記載した内容証明は出しておりますね。当時は、本当にひどい議員が多かったのですが、著名な本にはこのような方法は破産法の本来の趣旨に反すると批判されています。
 
(2)  債権者破産の申立方法
債権者破産の一般的な説明をしておきましょう。難しいことは、支払不能の証明です。金を支払ってくれないというような債務不履行事由だけでは裁判所は破産原因と認めてくれないからです。パターン?は親会社ですから、会計帳簿一切を持っていました。支払不能の証明は容易な事案でした。
次の難しい論点は裁判所に予納する費用が、少額管財事件より多額になるということです。既に少額管財事件は法人にも適用され、予納金は20万程度で認められます。しかし、従来は債権者破産の申立には100万円単位の予納が常識でした。これは最近の話ですが、若い弁護士が「申立費用は、財団債権として申立債権者に必ず戻される」と確定的な説明を債権者にしていたため、財団形成のない返還困難事案であったことから、裁判所をまじえて混乱したことがあります。破綻会社の財産状況について、都合のよい説明をすることは危険ですから、若い先生はリスク管理を自覚して下さい。もっとも私の扱った事件では、上記を除き、そのほとんどを債権者に返金しています。
 
(3)   準自己破産の申立(代表者がいなくなった場合)
 随分昔の事件を思い出しました。破産事件の受任翌日、代表者が自殺された案件です。受任した翌日、会社の状況調査のため、朝一番で会社所在地に行ったところ、警察の車が多数止まっておりました。直ぐに理解できましたが、ご遺体の傍で警察の方から渡された私宛の遺言書を読んだのが忘れられません。
この時に一番困ったことは代表者の他に取締役がいなくなっていたことです。債権者破産だと費用負担に耐えられません。関東の北部にある裁判所が管轄でしたが、申立権のない監査役である親族の上申書等を添付して準自己破産として取り扱っていただきました。
昔はこのような深刻な事件が多かったですし、裁判所のほうも現在よりも機械的ではない「暖かい気持ち」があったように思います。

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1 会社の利益と職業選択の自由のせめぎあい
(1)安倍政権が安定し、今後の政治課題として雇用改革が論点の一つになってくると考えられています。終身雇用制が崩れ、雇用が流動化していくことになるのでしょうか。
   会社としては「問題社員」に辞めてもらいやすくなることは好ましいでしょうが、優秀な社員まで退社してしまうのは考え物でしょう。優秀な社員であればあるほど退社後は今までのキャリアを生かして同じ業種で一旗あげたいと考えるはずです。
   今後、退職後の競業避止義務特約を締結するかどうか十分な検討を必要とする例が増えてくると思われます。 
(2)もっとも、みなさんご存知の通り、退職後の社員には職業選択の自由があります。職業選択の自由は憲法に規定されている人権です。
   そのため、会社と元社員が退職後の競業避止義務特約を締結したとしても簡単に有効になるわけではありません。
 
2 裁判例の考え方
(1)不正競争防止法で規定されている範囲内のことを定めたにすぎない場合(例えば「営業秘密」の持ち出し)の特約は原則として有効になると考えられます。(不正競争防止法の具体例については以前より当コラムで紹介しておりますので、ちらをご覧ください)
   問題は、不正競争防止法で定める範囲を超えて新たに競業避止義務を作り出してしまったような場合です。
   このような場合、裁判例の考え方からすれば、使用者の確保しようとする利益と労働者が受ける不利益とを比較して、制限の範囲が合理的だと判断される限度でしか有効だと認められません。
   具体的には、退職前の地位と役職(地位が高いか)、競業行為の態様(地位を利用しているか)、競業が禁止される職種・業種の範囲、期間、地域が限定されているか、代償措置の有無などを基準にして判断されることになります。 
(2)会社の方に、期間や地域が限定されている必要があります、というお話をすると、では何年なら良いのか、と聞かれることがあります。
   しかし、競業避止義務を退職後2年に限定している例について、長いと判断した裁判例も短いと判断した裁判例もあります。
   もちろん、短ければ短いほど特約の有効性は高まりやすくなることになりますが、裁判例はそれだけで判断しているわけではないということです。 
(3)退職後の競業避止義務を有効と判断した主な裁判例を挙げると次の通りです。
   東京地裁平成19年4月24日判決(ヤマダ電機事件)は、元従業員が全社的な営 業方針、経営戦略等を知ることができる地位にいたことなどを重視していると一般的に考えられています(期間は1年間)。
   東京地裁平成16年9月22日決定(ト―レラザールコミュニケーションズ事件)は、代表者に次ぐ高額給与を支給されていたことや会社のノウハウが利用されてしまえば価格競争を展開することで取引を奪うことが容易であることなどを判示しています(期間は2年間)
   東京地裁平成14年8月30日判決(ダイオーズサービシーズ事件)は、市場支配するためには相応の費用を要することなどを判示しています(退職後の秘密保持義務を前提として、期間は2年間、区域は隣接都道府県、職種はマット・モップレンタル類のレンタル事業、態様は顧客収奪行為に限定)。
   東京高裁平成12年7月12日判決(関東ライティング事件)は、長時間経費をかけて営業して始めて利益を得られる業態であることなどを判断の要素としています(期間は6ヶ月、対象は得意先に限定)。 
(4)以上の裁判例からわかることは、裁判所は決して2年間なら無効だが1年間なら有効というように画一的に判断しているわけではなく、会社が当該競業避止義務特約を必要とする理由と元従業員の不利益を比較考量して判断しているということです。
 
3 会社の対策
(1)会社の対策で重要なこととして、まずは、退社時に有効な競業避止義務特約にするよう努力することです。
   何も考えず単に競業避止義務を負わせたとしても無効になることは火を見るよりも明らかです。
   後で使えるものにするためにも実態に合わせて作成する必要があります。 
(2)仮に裁判をせざるを得ないような事情になったときは、当該競業避止義務特約が必要な理由をしっかりと立証していくことです。2年で短いから有効です、などという主張だけしていてもあまり意味がないと思います。
   特約の必要性と比較して元従業員の不利益がそれほど大したものではないと立証できるかどうかがポイントです。
 
    (今回の記事は岡本直也弁護士が担当しております。)

 

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1 破産手続利用の思惑と実態
 
(1) 末期的状況での事業譲渡の思惑
  事業譲渡を考察の中心にしますと、少しでも金に変えたいという切羽詰まったものを除き、民事再生を含む破産手続を利用される方々の意図は、次のように把握されるでしょう。要は会社が赤字で破産手続をとらざるを得ないものの、ある部門を営業譲渡して本体は民事再生により企業再生を図る通常の場合、或いは破産会社の中心的な部分を別会社に移して別会社で営業を継続したいというずるい意図が見え隠れするもの。つまり企業の看板となる会社名、人材、ノウハウ、特許権、一部の営業部門或いは重要設備等何でも営業譲渡できます。ですから営業譲渡をコラムの中心にしても経営権を巡る紹介材料に事欠きません。しかし経営の継続ではなく、労働環境の保全のみを考えて事業譲渡をした事件も経験しております。
以前、本コラムでも紹介しましたが、私が顧問であった中規模の病院を、そっくりそのまま全国的に展開する大医療機関に対して営業譲渡した事案は、看護師等多数の労働者の職場環境の維持が目的でした。経営者はきれいさっぱり破産により清算されました。本事案は産業再生機構の公開ネットにて事業譲渡の見本として閲覧できるようになっていると以前コラムで紹介しておりますが、上記の目的まで記載されていて驚きます。
 
(2) 事業拡大という思惑
他方事業譲渡を受ける全国的な大医療機関にとっては、まさしく事業拡大というMAそのものです。同じく関与するのなら、MAをする側にいたいと「変なアカデミック」志望の方には喜ばれるコラムになるのではないかと邪推(?)しておりますが、とんでもない。弁護士の業務としては事業譲渡をする側の業務こそ圧倒的に難しく、且つ弁護士の関与の仕方だけで事件の成否を分けます。MAの契約書チェック作業などは面倒なだけのつまらない実務作業だと思います。
 
(3) 逆に会社破綻の懸念がなかった珍しいパターン
パターンで紹介した?の案件は、会社破綻の懸念はなかったと言っても過言ではない破産事件です。しかし「思惑」と言う意図が、あからさまで「会社支配権の意味」を強く認識させられる事件です。
親会社(巨大企業)である関係会社からの資金援助は厚く、従来の資本構成からは一括返済を迫られる状況などありませんでした。整理する側の主張される建前は不採算部門の整理でした。しかしそうであるなら、会社法などの法的手段により、穏健に話し合いでなされるのが常識的で、通常そのようにして整理されます。その意味では、?のパターンは特殊であり、週刊誌の格好の標的にもならざるをえない側面がありました。すなわちこのような珍しい案件は、親会社の経営権を巡る深刻な紛争の渦中にあって、商法による穏当な手法を採用できない煮詰まった状況があったのです。?の事案は、次回再度紹介しますが、破産手続によって、やみくもに整理してしまった案件です。
他の弁護士先生がお書きになる企業小説に出てくるような悲喜こもごもの話もありました。就職面接に来てくれた方々の興味には応えられそうです。巨大企業といえども所詮人が経営するものですから、紛争の根の深さとして事実は小説よりも奇なりと言えましょう。
 
2 破産手続と民事再生手続の区分
 
 (1) 東京地裁運用の詳細説明
営業を継続することを目的とする場合には、民事再生の申立により会社を存続させて手続を進めるのが無難な方法であります。営業している会社を譲渡するのですから、破産申立のように申立と同時に営業の停止をしては企業価値を損ねるだけです。もちろん事前に譲渡相手との交渉があったとしましても債権者から詐害行為或いは破産の申立をされるなどのリスクが残り、問題は残されたままです。前回のコラムでは書きたいことが多すぎて、東京地方裁判所の運用の紹介が不十分でした。当該案件は、営業譲渡を前提にして、最終的には破綻会社を破産にして会社清算をするが、その場合であっても企業価値を損ねないように営業活動を存続させる必要があった特殊な場合であります。東京地裁の取扱いはこのような事案は破産部(20部)でなく商事部(8部)とするのが慣行です。前回、調査委員として任命され、破産と民事再生双方の申立を検討後、保全管理人の任命という破産手続のみで進行させる方法の紹介をしました。結論として、破産となるのですから、この運用のほうが実際に適しております。本事案は、民事再生と破産という二つの申立が併存し、両陣営のそれぞれの思惑が見え隠れする特殊な案件ではありました。私は、裁判所の意向に従い、破産法による保全管理人制度にて事件を終了させました。
 
(2) 保全管理人制度
保全管理人制度の紹介をしましょう。保全管理人は破産法でも民事再生法でも法律に規定されている制度であります。しかし民事再生法でも保全管理は事業継続が困難となり破産に移行することを前提とした制度と言えます。そもそも民事再生においては会社の業務活動は会社に任せられており、私は単に監督業務を行うだけでしかありません。監督委員は主体的な財産保全業務は行わないのです。つまり最初から、破産法上の保全管理人が財産処分をし、その後破産管財人になるなら、商事部に移管する必要もないのです。
実際の実務の理解がないと、裁判所の運用も理解困難ですが、これでも難しいですかね?

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1 会社支配権を巡る破産手続の利用
 
(1) 小説のような題材が必要
  今回から、多少アカデミックに、且つ多少センセーショナルに“会社支配権を巡る企業紛争、それも破産手続を利用する場合”に関し、4回に渡って書いてみます。
何故こんな題材にしたくなったかは、当事務所に就職を希望する司法修習生や弁護士採用面接での質問にあります。当事務所の企業法務の内容に関心を寄せる質問が多いのには驚きます。
でも「企業法務ではどのような事をされていますか」と質問をされてもどのように答えたらいいのか迷うのですね。
「何でもありますよ。時には刑事事件もね」と本当のことを言いますと、その顔つきから「何だ、アカデミックでないな」という反応が分かるからです。もう少しましな返答をしようと思って「やはり労働法に関係した相談は多いですよ」と再度本当のことを言うと殆ど無視ですね。労働法の人気のなさが分かりますし、「そんな泥臭いことは期待していないのだ、やはりアカデミック(?)でないとね」という気持ちがありありと分かるという具合です。私のやるせない気持ちを分かってほしいものです・・。
 
  (2) 当事務所の企業法務度のチェック
私の監査役に関する質問も多くの方から寄せられました。しかし監査役は、少なくとも当事務所の企業法務とは関係ありません。
監査役は、その会社に紛争があっても代理人はなれないですし、私は会社の役員ですから当事務所の若い先生に任せる業務など本来ないからです。会社法を勉強されていれば直ちに予想できることなのに、何故そんなことに関心をもたれるのかと疑問に思います。当事務所の企業法務の程度を確かめておられるのでしょうが、そもそも私はある顧問会社を監査役に振り替えたことについては大変後悔しております。顧問業務は監査役と異なり、会社に対しては外部から第三者的な立場において関与できます。故に、事務所全体で取り組む課題も多く、その違いは大きいのです。
以上のような雑感のなかで、それなら思い切り小説風の題材にして満足していただくのも一興だと思いました。「会社支配権を巡る破産手続の利用」として書きましょう。
 
 (3) 東京地裁破産部のアカデミックな運用
この題材は、東京地方裁判所破産部の事業譲渡に関するアカデミックな運用をも説明することができるのです。
すなわち営業財産に関して事業譲渡が必要な場合、通常は事業譲渡を目的として民事再生の申立をし、事業譲渡をした後に民事再生申立会社については破産決定をして破産手続にのせるという面倒な手続が必要です。保全管理人の制度を使うなら当初より破産決定前の保全管理人として任意売却による財産保全を行い、民事再生手続を省略できるのです。二重の手続を破産のみで済ますことができるのですから、さすが破産部の裁判官は実践的だと当時感心させられました。
 
2  会社の支配権と破産手続のパターン
 
 (1)通常の顧問業務
  通常の顧問業務ではこれから書きます題材は多くはありません。
当事務所では、この事態に至るまでに何らかの結論を出しております。確かに親子紛争だとか兄弟紛争、或いは専務派との争いとかもあります。しかし当事務所では「それどころではないでしょう。もっと前向きに議論しましょう」と言って、仲介に立つのが通常です。当事務所の顧問先が中小企業だからと言われればそのとおりかもしれません。でも、そんな紛争に巻き込まれる前に何らかの工夫をするのが私の職務だと思っております。
確かに末期的状況を迎えて経営方針を巡って争いになり、その相談に来られる案件もあることはありますが、それはそんなに劇的でもありません。
  従って、前回からの流れを尊重し、破産関係のコラムの続きとして紹介するのが適当でしょう。紹介する案件は、当時週刊誌に面白おかしく報道されたものと、破産関係情報として流布されたものです。それでも固有名詞の使用を避けるなどして、紹介しましょう。このような心構えこそ氾濫するネット情報社会に対する姿勢とすべきではないかと痛感しております。このように考えます理由は、近時扱った事件の教訓であり、必然として神経質にならざるをえない心境にあるのです。
 
 (2)    会社の支配権と破産手続のパターン
私が東京地方裁判所破産部から調査委員、保全管理人或いは破産管財人として選任された経験の中から企業支配に関係する事案のパターンを三つ程度あげてみましょう。
?    会社の大株主でもある関係会社が現経営陣を追い落とすため巨額の貸付を理由に債権者破産の申立をしたが、現経営陣は当然に争った案件
?    社長追い落とし派が社長を解任して代表者となったため、元社長派が債権者破産の申立をしたものの、現社長派が破産手続中止の申立、後に民事再生の申立をして争った案件
?    会社の支配権を巡り現経営陣が破産申立をしたが、元社長グループは事業譲渡を内容とする民事再生の申立をして争った案件
次回は、破産手続をお考えになる意図から考察しましょう。

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1 免責制度とは
 
(1)    皆さん、破産申立をしたら、破産手続で配当されなかった残金はなくなるとお考えですね。破産をするメリットはこれしかないという弁護士もおります。前回のコラムで書きました破産者に「経済生活の再生の機会」を与えるということです。
これを免責制度と言いますが、このような重大な効果を有する制度ですから、泣き笑いのエピソードは枚挙にいとまがありません。
 
(2)    免責を受けるためには裁判所より別途免責許可の決定を受けなければなりません。私が弁護士になった頃は、個人破産即ち免責を求める事例はあまり多くはありませんでした。破産申立と免責申立が別の制度として存在するような形になっていたことから「木に竹をつないだ制度」などと言われておりました。バブル経済が破綻し個人の倫理観の変遷を経て、平成に入ってから爆発的に免責事件が増加しました。平成18年からの倒産法制の見直しで改正がなされ両制度を統一的なものにしたのはごく最近のことなのです。
 私の笑えないエピソードの紹介から始めましょう。私は、20数年前、約束事により多くの事件を他の弁護士に引き継いでもらったことがあります。今回の改正では破産の申立をすると免責の申立も同時にしたものとみなされるのですが、当時は免責の申立は別途しなければなりませんでした。引き継いでもらった事件には個人破産の申立事件もあったのですが、引き継がれた先生は、破産廃止後うっかりして1カ月以内の申立期限を超過することになったのです。あわてて調べたところによりますと免責申立期限の徒過は、当時機械的に弁護士会より戒告処分に付されるとの情報も得ました(戒告処分は、弁護士にとっては大変なことなので、この近時の改正は大変ありがたい?)。依頼した先生のミスとはいえ、申し訳なくて大騒ぎをしましたが、官報公告が遅れていて助かったことを昨日のことのように思い出します。
 
2 免責されない場合としての浪費
 
(1) 免責されない場合については、免責不許可事由として破産法に列挙されております。
    その要件にあてはまると免責を受けられず借金がなくならないのもご存知ですね。浪費
    や賭博をして借金をしていると免責にならないことも有名です。
 
2) 浪費の事例はたくさんあります。浪費とは「当該破産者の職業、収入、資産状況に照ら
     して社会通念上、不相応な消費的支出をする全ての行為をいい、収入に比して支出の
     程度が過大である場合」をいいます。具体的には、飲食費、高価品の購入、海外旅行
     費、エステ、化粧品、布団、補正下着、英会話、自己啓発セミナーの受講料、株取引、
     投資目的の不動産購入、接待費等も入るのです。
以上は、これまで経験した事例をあげたのですが、これ以外にも競馬の馬主になっている事案もありました(これは浪費でなく、賭博ですかね。本人は馬を見るのが趣味と言っていましたが)。
発覚したきっかけは、破産者の郵便物が破産管財人の私の元に全て転送されてくるのですが、ある日、破産者の所有馬が入選して高額の賞金が出ることになったとの通知がきたのです。驚きましたねー。賞金はかなり高額で破産申立ではなく任意の整理も可能になる金額だったので、徹底して調査をしました。ここで知ったことは、馬も生きていくためには毎日飼い葉を食べないといけない、解約したくても馬の飼い葉料の関係で容易に解約できないこととか勉強になりました。これまでその馬が入賞することなどなかったので、どうせ分からないだろうと放置していた破産者は本当に驚いておりました。
 
(3)    そもそも破産法の改正前(ちょっと前のことです)、浪費は破産懈怠罪として5年以下の懲役になるという条文があったことを知っておられたらビビりませんか。
改正前は、法廷という威厳のある場所で免責審尋期日を入れて丁寧に裁判が行われておりました(今はこんな「丁寧」さはありません)。この免責審尋の法廷で、エステや高額化粧品の購入をばらされたこともありますし、裁判所に意見書が送付されてきたことも多々あります。一つ例を挙げますと「自分は高級クラブでよく酒を飲んでいるが、破産者もよく飲みに来る、許せない」とありました。
頭に来たのは海外旅行しているとの書面が送られてきましたので、書面について説明しないままで破産者を呼び出したら、日焼けした真っ黒な顔で「イヤー、グァムに潜りに行ってましてねー」と悪びれない態度には本当に頭にきましたね。
 
3 その他の免責不許可事由
 
    免責については書き出すときりがありません。
次回は、免責のこと以外を書きたくなる可能性があります。したがって、自宅を親族に売却(廉価売却が通常ですが・・)したことにし、自分の居住場所を確保して破産申立をする方、親族の借金を債権者名簿にあげないで、返済は破産管財人に告げないまま返済を継続するという事例が多々あることについて触れておきましょう。自宅に担保が設定されているのであれば、担保権者により追及されますからこのようなことは起こりにくいのですが、たまたま無担保の自宅の場合には意外とよく起きる事例だと思います。
私が破産申立代理人となる場合には、これらが裁判所に問題にされることを事例で説明し、むしろ逆に危険であるとお話します。これらの行為は、破産債権者を害する行為とい   ことで免責不相当となりますが、破産管財人には容易に見つけられてしまうと警告しております。

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1 破産法の規定
 
(1)   破産法上でも破産管財人の規定は種々おかれております。破産法に強い先生方でも国税徴収法において定義規定(第2条)にまでおかれていることはご存じないようです。私は、破産者の社長さん等が菓子折りなどを持参されるような場合に、お断りする説明として本条文も使わせていただいております。
  もちろん破産法上、破産管財人に関し、収賄罪・贈賄罪の規定があり(第273及び274条)、懲役まで定めてあることは公務員と同様です。その反面、破産管財人の業務が厳重に保全されており、「破産管財人等に関する職務妨害の罪」(第272条)までもあります。これらは皆様にぜひ知っていただきたいことです。
 
(2)  では破産管財人の定義から業務内容を見てみましょう。
前回、破産法第1条、すなわち破産法の目的を書きました。この目的規定を受けて第2条に破産管財人の定義規定があります。それには「破産管財人とは、破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者をいう」とされております。実は、破産管財人は、公平な配当の実施のために所有者と同等の処分権まで与えられているのです。
前回コラムで引用した裁判官著作の「破産・民事再生の実務」を見てみましょう。
「破産管財人は、・・破産者に代わって・・狭義での破産財団の管理・換価を行うほか、否認権を行使して財団を巡る実体的法律関係を整理したりすることで、その管理下にある破産財団を本来あるべき財団の範囲に一致させ、配当の基礎となる財団を作り出す。他方で、配当の相手方となる破産債権者の権利内容を調査し、配当を受領すべき債権者の範囲及び債権額を確定させる。このほか、破産管財人は、特に破産者が個人の場合であるが、免責審理に際しての調査・報告にみられるように、破産手続のもう一つの目的である『債務者について経済生活の再生の機会の確保を図る』こと、すなわち破産者の経済的再生にも注意を払わなければならない。」とされています。
 如何ですか?具体的に話したほうがよさそうですね。
 
2 破産管財業務のエピソード
 
(1)  破産管財人の仕事は、先ず破産者の有する財産を確保することから始まります。申立代理人である弁護士が財産全部を整理されて当事務所に持参されれば問題はありません。しかし持ってくることのできない物もあります。その典型は不動産です。事務所、工場、倉庫、社宅等全て決定が出るのと並行して現地を調査するのが私のやり方です。こんなこともありました。会社本社事務所が賃貸であったため、その巨大ビルの管理会社から入室を物理的に妨害されたこともあります。まだ決定が出ていないということで相手の弁護士までも関与してきた案件も2件あります。私はこのような状況も予想して対応してきました。これらの案件でも社長を同道させておりましたので物理的に押し切って入室しました。抗議のあった弁護士には当事務所職員が裁判所から決定書を受領に走っているから、私を妨害できないこと、そして決定がすぐ出るので弁護士が物理的に抵抗されるなら破産法第84条に基づき「警察上の援助」により入室するとも伝えました。
昔の破産事件は派手でしたね。ここ10年程はこんなに揉めることもありません。
 
(2)  もう一つ愉快な事例(「みっともない」かな?)を紹介しましょう。私が破産管財人として管理している工場に、深夜、上場企業の会社が何台ものトラックで乗りつけ、リース物件である巨大機械を運び出そうとした事件がありました。この事件は機械を朝までに持ち出せず未遂に終わりました。実は、破産会社の社長さんはこのようなことが起こることも予想され、人の出入りできる出口を除いて全てのカギ穴を蠟で塞いでおられたため、手間がかかりすぎて未遂に終わったのです。でもこれは犯罪です。当時はこんな馬鹿なことも起きると予想しないと「辣腕の破産管財人」とは言えない時代でした。
 
(3)  破産会社の財産確保は以上のようですが、「破産・民事再生の実務」で次に出てくる否認権の行使は難しい。これまでコラムで書きました「築地事件」ではつい最近でも否認訴訟を2件やっております。当然相手方も上場企業ですから徹底抗戦してきます。一勝一敗というのが正直なところで、当事務所は訴訟で負けることなど殆どないのですから、とても許される結果ではありません。
事件の一つは破産申立前に営業権を担保に入れた事案、もう一つは破産直前に3億程度の債務の返済を受けたものです。これらの担保設定行為や支払不能後の弁済は他の破産債権者を害することを知って行ってはならないのです。入門編で利用される先生方のために注意点だけをお話ししておきましょう。つまり訴訟というものは早期に終わらせることは大変に難しい。でも破産事件ですから、通常の訴訟のような経過をたどるのでは破産裁判所に苦情を言われます。何年も要するであろう否認訴訟を、如何に当方有利に早期決着させるかという工夫こそが腕の見せ所なのです。
そろそろ時間切れです。次回は破産管財人の業務として重要な「免責」のお話をしないとなりません。しかし一か月を経過しますと違うことを書きたくなるのです。その時は諦めてくださいね。

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