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新宿の顧問弁護士なら弁護士法人岡本(岡本政明法律事務所)

当事務所では、上場企業(東証プライム)からベンチャー企業まで広範囲、かつ、様々な業種の顧問業務をメインとしつつ、様々な事件に対応しております。

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コラム - 最新エントリー

 

一 相続法理と遺留分
 
1 日本国民の政治思想を分析される学者の方は、相続法理と遺留分の制度がどのような実態にあり、それがどのように定着しているのか調査をされるのも面白いのではないでしょうか。今回のテーマは、日本の将来を心配される方には変わった視点からの題材を提供します。
遺留分制度の多少面倒な法理論が、我が国の民主主義の在り方にまで影響するということは驚きだからです。でも政治的な宣伝ではございませんので、安心してお読みください。
 
2 遺言により遺産を処分することは、資産所有者が有する最後の自由であります。つまり遺言書を書いて好きなように遺産を処分することは所有者の全能の権利であるはずです。既に本コラムでもそのように書きましたが、しかしこの自由は制約を受けてきました。中学生の社会の講義のようですが、遺留分規定もまさしくこの自由権の制約なのであります。
  そもそも遺留分の制度は、戸主処分権の制限として明治民法時代から定められており、その制度を現民法も引き継ぎました。つまり遺留分制度は古い家族共同体的な制度を連想させるのです。血の繋がる者には、かなりの割合において遺留分が認められます。しかし家という封建的な側面でなく近代的な法律構成が必要になります。私が司法試験を受験した頃の法律学全集には「遺留分法は、個人主義的処分自由に対する家族主義的家産擁護の防塞である」と明記されていました。
封建的な匂いがする本制度に対しては、論述をすすめるのも面倒で、学者の方からは敬遠されていたのだと思います。
 
3 早速、家族法が民主主義を左右するという学者の先生を紹介しましょう。
ソビエト連邦の崩壊について人口統計学の手法を用いて予想を的中させた「家族人類学者」エマニュエルトッドという先生です。日本でも講演をされましたが衝撃的でした。“相続法理が民主主義の成否を握る”という学説を私なりに要約してしまいます。
彼によりますと、差別意識は、子供の頃植え込まれた差別意識により発生し、その意識は将来も免れられない先験的なものとなって存続し、その後も表出されるというものです。そして、そのような国では、他者への差別意識が民主主義に対する阻害となって表出するというのです。そして、同氏はなんと日本を平等相続の国ではなく、「直系相続の国」だと言っております。
「直系相続」は平等相続ではありません。
 
二 日本の相続法理
 
1 日本は直系相続の国なのでしょうか?
そもそも、日本は、国の行く末というような重要事項については、皆様と一緒に決定に関与できる民主主義国家です。しかも民法では兄弟姉妹の相続分を平等としております。どこに「直系相続の国」などと言われる要素があるのでしょうか。これでは二流国家のようです。
しかし、事実はそう簡単ではないのです。
 
2 私の故郷は江戸時代より続く城下町にあります。家に対する認識は日本伝来のものがありました。両親は、家を継ぐ者が家業等一切を承継すると常に言っておりました。これは遺言と同様の価値があるものです。エマニュエルトッドに言わせると、上記認識は直系相続、つまり先験的な差別意識の萌芽なのですが・・。
思い出話にもう少しお付き合いください。
大学時代の私は「家族帝国主義」と言って家族主義を批判していた割には、父母の言うことには報いたいという気持ちが強く、辛い介護等を目の当たりにして遺留分制度に納得のいく側面も見出しました。遺留分制度が家産の維持でなく、遺族の保護、即ち遺言者の保護に通じるものであるという理屈です。法制度趣旨をこのように捉えるのは難しいかな・・?私は、学生時代、法律に関する専門授業に関し憲法以外一度も出たことはありません。受験生になって驚いたことは過激な労働法教科書の記載と、その逆の遺留分制度の記述です。
エマニュエルトッドに言わせると、「先験的な差別意識の萌芽」との間で揺れていた当時の思い出話です。
 
3 個人成育史、つまり相続法理が民主主義をも左右するという学説を紹介しましたが、最近はこの民主主義についても定義をきちんとしろとか、戦後民主主義と区分けして論じろとか言われる過渡期の時代のように思われます。しかし、民主主義にバイアスをつける必要はないはずです。人は皆「平等に」という基本概念、そして民法ならば、その相続法理に従って弁護士の業務を行えばいいはずです。それ以上の価値など、どのように民主主義概念をいじろうとも上記理念に敵うはずがありません。
 
三 今回の「纏め」と中小企業経営承継円滑化法
 
  我が日本民法の自由と平等を理念とした相続法理において、遺留分の規定は異色です。支配的学説は「近親者の扶養乃至生活保障」にあるとして近代法の理念に矛盾のない解釈をしております。しかし遺言の自由と言いながら、子供には2分の1もの遺留分があるのは生活保障としては多額でしょう。しかも生活の豊かな者にもこの権利は保障されるのです。そうであるなら、遺留分としては認めないイギリスのように、その都度、生活保障分を認定する制度のほうが余程分かりやすいのですが・・。
  平成20年制定された中小企業経営承継円滑化法は、まさしく遺言と遺留分を論点とし、遺留分を制限するものとして立法されました。

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 当事務所は使用者側の労働事件を多く解決しているため、豊富な知識と経験に基づき
創業25年以上にわたって社労士業務を行っている社会保険労務士法人酒井事務所
http://www.profit21.co.jp/sakai/gyoumu.html
と提携して業務を行っております。

そこで、人事労務に関する不安を抱えているお客様(使用者側)向けに当事務所の弁護士と
社会保険労務士法人酒井事務所の社会保険労務士が2人1組で相談会を行う機会を
設けたいと考えております。具体的には以下の通りです。

1.相談内容:人事労務・法務に関わるあらゆる問題
2.相談日時:土日祝日を除く午前10時〜午後20時のうち1時間弱
       (具体的な日時については適宜調整させて頂きます。)
3.相談場所:岡本政明法律事務所(丸ノ内線・新宿御苑前駅徒歩1分)
(ご事情によってはお客様の事務所等で行うことも可能な場合があります。)
4.料金:無料

ご興味のある方がいらっしゃいましたら、お問合せフォームより気軽にお問い合わせください。どうぞ宜しくお願い致します。

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一 テレビ及び週刊誌の過熱報道
 
 1 「遺産は全て家政婦に渡す」という遺言書
(1) 朝の出勤前はテレビをつけっぱなしにしております。たまたま気づいたのですが“家政婦に遺産全額を遺贈したところ、実の娘たちと訴訟になり娘側が負けた”と報道しておりました。私の経験則では“遺言書が有効と見做されるのは通常のこと。裁判所はなかなか遺言書を無効になどできない。通常ありきたりの判決”と思い聞き流しておりました。ところが、知り合いの弁護士がコメントに出演しましたので、つい全部見てしまいました。
このコメントをしていた弁護士の舌足らずな解説に“こんなコメントだったら不要。専門家の名前が泣く。しかも、せっかく出るのなら遺留分についても説明するべきだ”などと苦情を言いたくなり、つい全部見てしまったことが不快でした。
誰しもが、この報道に疑問をもたれる内容の第一は、この娘たちは遺留分の主張をしなかったのかどうか?でしょう。この娘たちは遺留分として遺産の2分の1を主張できるのですから、それで十分ともいえるからです。
 
(2) 上記報道を聞いた後、2月4日号の週刊文春で「家政婦vs実の娘 遺産相続訴訟 高齢の母が残した遺言は有効」という記事を読み、また報道が過熱していることも知りました。
事案は単純です。
97歳で亡くなられた女性資産家が、50年以上親身に仕えてくれた家政婦に、遺言書で全財産を遺贈していたようです。親身に世話をしてくれた家政婦に比較して、娘たちは、「海外に移住するという名目で3000万円を援助させ」、無心を繰り返していた旨記載されています。
このような事件は、裁判になる場合の典型的な相続事件の一例でしかなく、どうして過熱報道になるのか、私には不思議です。
先ず、娘側の訴えは、遺言無効による遺産の返還及び家政婦が着服した約6000万円を支払えとするもので、家政婦側は、死去当日、娘が預金口座から3000万円を引出している現金等遺産全ての返還を要求しています。
判決文は見ておりませんが、上記記事の内容からすると、娘側は遺言書を無効と判断したのか遺留分の請求をしなかったようです。遺留分についてはどの報道も教えてくれません。
遺留分の請求権は、正確には減殺請求権と言い、その時効は1年という短期消滅時効にかかります。ここでは弁護士が受任した時期が問題になります。つまり問題になる1年以内に弁護士が受任しており、何らの事情もなく行使しなかったとするなら、この弁護士業務は手落ちであると批判されるでしょう。
仮に、遺言書が無効と判断されても、予備的に遺留分の請求をしておくのが常識です。内容証明郵便で証拠を残しておきましょう。
 
  今回の報道に対する疑問
 今回の報道による自筆証書遺言は、遺言能力がある限り老女の最終的な意思として当然に有効です。遺言は、所有する者の全能の権利と言っていいでしょう。今回と同じく、全ての財産を血の繋がらない者に対してした包括遺贈も「公序良俗に反しない」という古い判例(大審院当時)もあるくらいです。
従って、本件遺言書に関する争いは、この女性に遺言能力があるか否かが争点になりますが、報道された内容では、遺言書は8年も前に作成されたもののようです。
 
3 でもこの事案は、私が前回のコラム(相続事件簿3)で紹介した事件程劇的ではありません。
前回のコラムの老女は天涯孤独と称し、自らの相続人の存在すら信じておりませんでした。遺言書の無効を訴える相続人は、その姉の養子なのです。そもそも姉には遺留分もありません。遺留分の制度については次回ふれますが、遺留分がないということは「家という家族共同体に属しない」ことを意味するといえます。相続法理における調整は予定されていないのです。しかも、お世話した弁護士は、老女の自筆証書遺言に多少不安をもっていたのでしょうか、自ら公証人に関与させ秘密証書遺言にしております。
この相続紛争のほうがよほどミステリアスで展開も複雑です。
この案件の面白さにはかなわないはずなのに、やはり「家政婦は見た」的な論調に負けてしまうのでしょうね。
 
二 私の思い―次回のテーマは「遺言と遺留分」
     過熱報道に接し、民法の最も未解決と言われる遺留分について思いが及びます。「家族主義と民主主義」にも関係する私の従来からのテーマを書いてみましょう。
遺留分の制度は上記考察をするには、最も適した分野です。遺留分の制度に関し、ある 解説書では、次のように記載しております(基本法コンメンタール相続第五版213)。「(遺留分制度については)かなりの部分が今なお発展途上にある。遺留分制度論自体が今なおわが国では創成期にあるあるといってよい。」
次回は「遺言と遺留分」をテーマにし、相続法理に関係したコラムを書くことにします。

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一 京都地裁平成25411日判決の紹介
 
上記判決掲載の判例時報2192号による事件の流れ
(1) 遺言書を残された方は会社を経営する女性の方でした。
彼女は京都祇園で舞妓・芸妓さんをされていたそうですが、東京で呉服商を営んでいた男性と結婚されました。その男性が祇園で呉服商を開かれ、会社組織にされ、大阪や名古屋にも支店を出されております。ご主人の亡くなられた後も経営は順調だったようです。
判決文を追っていきますと、ご主人が亡くなられた約27年後に最初の自筆証書遺言を作成されておられます。その内容は“私の遺産はお任せしている弁護士○○に遺贈します”という平仮名まじりの内容で、その女性にはお子様がおられませんでした。ご両親やお子様がおられませんので(兄弟姉妹に遺留分はありません)、その女性の遺産は全て弁護士○○に渡ることになります。
 
(2) 遺言をされた2年後、その自筆証書遺言を秘密証書遺言にされました。もちろん遺言執行人として二人目の弁護士も登場しますが、 弁護士○○は将来の紛争を恐れて、念を入れられて秘密証書遺言にされたのでしょうね。
ところで秘密証書遺言とは、民法970条によるもので、そんなに難しく考えることはありません。当事務所でも、遺言者の入院先は当然、自宅にも公証人の先生をお連れして作成しております。
本件もそのような感じで作成されております。前項の自筆証書遺言を公証人や証人の前で、自筆証書封紙に署名押印する手続きでされたようです。
 
(3) この事例紹介では、相続財産についても詳細に触れております。
 その女性が、結婚直後に自宅不動産を自分名義で取得されているものを別にしても、預貯金だけでも3億円を越えております。本件で特に問題とされた会社の株式については、純資産方式で2億円を越える資産であったとあります。
 ところで預貯金に関し、その弁護士○○が17000万ほどの払い戻しに関与されていたようです。これも別途裁判が行われている旨の記載があります。姉の養子という方が登場し、どんどん小説のような感じで広がっていくのですね。
 
本事例の争いの骨子「認知症と遺言書作成能力」
(1) 本件遺言書に関する争いは、この女性に遺言書を書く能力、即ち遺言能力があるかどうかが最大の争点になります。この女性の姉の養子になられた方が、この女性は「認知症であって遺言能力はない」と主張され、原告として秘密証書及び自筆証書遺言の無効訴訟を提起されたのです。無効になれば原告は、女性の兄弟姉妹の養子ですから、自ら遺産相続人として登場できるのです。
もっとも「この女性の姉の養子」という身分関係自体も深刻な争いの対象になっております。上記身分関係の判旨を読んでおりますと、女性の複雑な生い立ちが直ちに分かることになります。この女性は自らを「天涯孤独の身で相続人はいない」と自称する女性ですから、当時の日本の社会状況・世相をよく表しているのです。
 
(2) ところで、この女性が自筆証書遺言を作成された当時、彼女は87歳で、その翌年にはアルツハイマー病と診断され、痴呆の状況は「?」段階とされているのです。
認知症に関する医学的所見や日常生活の状況を読んでいく限り、この女性の判断能力には疑問が生じざるを得ません。認知症で悩まれる相続人の方がいらっしゃれば、是非とも一読してください。
特に本件は株式の遺贈に論点があてられております。確かに会社経営に関して100%の株式が弁護士○○のもとに渡ってしまうのです。高度な判断能力が要求されるでしょう。姉の養子となられた女性は、祇園店の店長をされ、会社運営に尽力されていた方でした。
 
二 遺言能力に関する裁判所の判断
 裁判所の判断を抜き書きするだけで十分なほどです。
まず「遺言能力の相対性」の項目から見ましょう。判例は、近代法の原則から解きほぐしています。「私的自治といえども正常な意思活動に基づくことが前提」としております。次に纏めの部分を見ましょう。
20歳以上の者であれば誰でも有効に契約が締結できるわけではないし、15歳以上の者であれば誰でも有効に遺言ができるわけではない。・・遺言を行うのに要求される精神能力は特に「遺言能力」呼ばれる。意思表示がどの程度の精神能力がある者によってされなければならないかは、当然のことながら、画一的に決めることはできず、意思表示の種別や内容によって異ならざるをえない(意思表示の相対性)」
「しかしながら、本件遺言は文面こそ単純であるが、数億円の財産を無償で他人に移転させるというものであり、本件遺言がもたらす結果が重大であることからすれば、本件遺言のような遺言を有効に行ううためには、ある程度高度(重大な結果に見合う程度)の精神能力を要するものと解される。」
 
以上により、秘密証書遺言を無効とし、次にその2年前に作成された自筆証書遺言も同様に無効としました。
 
三 感想
お医者さんやその家族から「患者さんより、遺産全部をあなたに遺贈する遺言書を作ると言われているが」という相談は、枚挙にいとまがありません。羨ましい職業ですね(弁護士にはないです)。でも「面倒なことに巻き込まれることもありますよ」とアドバイスしております。

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一 新年にあたってのご挨拶と思い出
 
  本年も宜しくお願い致します。
 
1   新年を迎えまして、「新年の始めには遺言書を書こう」と宣伝していた10数年前のことを思い出しました。
      当時、私は、東京にある三つの弁護士会が作っていた法律相談センターを構成員とする東京法律相談連絡協議会の議長をしておりました。各々の弁護士会が、別個に組織していた法律相談センターを纏める組織としての協議会ですから(当時新しい弁護士会館ができ、三弁護士会を束ねる組織がやっと機能し始めた頃です)、この協議会の影響力は大変なものがありました。そこで種々議論をした結果、新年の始めには、「遺言書を作成すると言う習慣」を作って頂きたいという宣伝活動をすることになったのです。現在、各弁護士会には遺言センターなども組織されておりますが、当時は遺言書の作成について、組織として議論する環境はなかったのです。
 
 2   弁護士会のことなど、どうでもいいのですが、「新年の始めに、遺言書を書きましょう」と提案したことには特別な意味があると思います。これは“死後の相続争いを避けるため”という実用的な面だけではなく、人生の締めくくりや希望の意味を込めて、年の始めに自分の思いを遺言書で残すことも大切な習慣になるはずです。
      ところで遺言書の作り方はネットで氾濫しております。私のコラムではそんなつまらないことは書きたくありません。毎年作成するということに疑問をお持ちの方に説明しておきますが、民法の定めに従って作成していただく限り、最後に作成された日付けの遺言書が有効になります。従って、前の遺言書が残っていても何の問題もありません。このような私の思いのせいでしょうか、当事務所の貸金庫には遺言書が大量に保管されていたこともあります。
 
二  遺言書を巡る事件
1    遺言書に関係する事件も本当にたくさん扱ってきました。遺言書作成当時の遺言能力に疑問を感じ、医療鑑定をした経験もありますし、自ら長谷川方式で認知症テストまでしたこともあります。遺言書の筆跡鑑定程度の事件なら、たくさん扱ってきました。
今回は、一つ目として、遺言書の作成で受任した弁護士が失敗した事例を紹介しましょう。この事案なら私の依頼者と関係がありません。そして、もう一つは、一昨年「判例時報」という弁護士にとっては有名な雑誌に紹介されていた事案を紹介しましょう。この事案のような、まるで時代小説のような事件も経験しましたが、公開されている事例を紹介するのですから、遠慮なくその詳細をご紹介できます。
 
2   最初の事件ですが、弁護士が遺言書の作成で失敗したにもかかわらず、その後始末にも失敗された事案です。つまりその遺言書で自らを遺言執行人に指定されておられました。私はその弁護士(巨大事務所の有名弁護士さんです。一度事務所をお尋ねしましたが、驚くほど広かった)の遺言執行人解任の申立(民法10191項)のみ受任しました。その際、関係する相続事件等には一切関与しておりません。                                                          
        この事案は、遺言書の作成について注意するべき論点の一つです。
 
       本論ですが、有名な弁護士さんは、超資産家の顧問のような立場におられたのでしょうか?奥様の話を聞いて自筆証書の遺言書を自ら下書きされたようです。二点の曖昧な記述部分についての説明で、弁護士さんは他の相続人に対し、以上のような説明をされたそうです。
          不明点の一つは、超高級賃貸マンションの奥様の持ち分5分の3(5分の2は、元々長男所有)の遺贈に関する規定が疑問でした。この弁護士さんは「この持分五分の参のうちの五分の壱」を長男に相続させると記載されたのです。通常の常識からは「うちの五分の壱」ですから、全体で25分の3になります。しかし、この弁護士さんは奥様から直接、長男の取り分を5分の1にしてくださいと話されていたと主張されました。つまり25分の5です。長男には絶対的な持ち分ということ以外に、何十億の物件なのですから、金額としても大変な違いなのです。
          皆様、面白いでしょう。単純に5分の1になるように計算して表記すればよかったはずです。或は奥様の言う通りに書いてしまってもよかったのです。もちろん登記できない表現では、長男が遺言書に基づいて単独で登記できませんから、弁護士として失格ですが・・。
          結論として、有名な弁護士さんの言うとおりの登記申請は法務局が受理せず、遺言書に基づく登記はできませんでした。やはり失格です。
 
4   第二は、重要文化財クラス()の骨董品等の所有権の来歴を調査されないまま、奥様の申されるとおりに長男への遺贈として下書きされたようです。これは先に亡くなったご主人の遺産分割協議書等、多少調査されれば事実が違うこともすぐに分かったはずです。
        弁護士さんは、その後も遺言執行人として「奥様の話しを直接聞いた」として長男の弁護をされ続けたため、私は遺言執行人解任申立事件のみ受任しました。家庭裁判所裁判官は「みっともない」と感想をもらされ、私の知らないところで有名弁護士さんに「辞任する」ことで話をつけられ、私は依頼者の説得を頼まれ、事件は終了しました。
       上記事件の依頼者は、優秀な方で資産家ですから、その後の相続については「普通に終わりました」という報告しか受けておりません。つまり弁護士さんの介入がなければ何の問題もない事件だったのです。
予定ページになってしまいました。第二の事件紹介は次回のコラムに譲らざるを得ません。
次回は、「時代小説もどき」の紹介ですね。

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一 この一年間の感謝の言葉
 
   皆様、本コラムを読んでいただき、本当にありがとうございます。
   年末、いろんな方々から私のコラムを「読んでいるよ」というお言葉と感想をいただきました。正直なところ、このような反響は想像もしておりませんでした。よく考えてみますと、昨年、毎日新聞の「週刊エコノミスト」の記者からコラムを読んだとして執筆依頼があったことに続き、メデイアから種々取材のあったことから推測して、読者の皆様の存在に気付くべきであったのです。
私のコラムがそんなに読まれているなどと思いもせず、そろそろコラムを卒業し、違う形のものを書きたいと考えていました。「不動産の放棄のコラム」については、出版社から原稿依頼があったこともあって、他のことができないかと、いろいろ模索しておりました。でも、私の思いを楽しんでくださっている方々がたくさんいらっしゃることに初めて気づきました。
感謝の気持ちで一杯です。
 
二 相続事件の多様性
 
1  これから暫くは「相続関係」に想いをはせようと考えております。 
       我が国の老人人口の伸び率は凄いものがあります。現在4人に一人が高齢者という人口構成では、今後、どんどん社会のひずみが表面化してくるのは当然のことです。
老人国家に移行するにつれ、当事務所における受任事件も「老人社会問題へ移行」(?)しております。相続関係事件が日々増大し、その急激な伸びには当事務所副所長も驚いております。
 
2   相続に関係した事件を大量に取り扱っておりますと、深刻な家庭内紛争にも出会い、相談しているだけでも落ち込みます。そして気づきますことは、単純に相続事件と言いましても、実に多様性を示す事件が多いということです。
       今回は、30年近く前、自殺されたことが、相続法理としてどのような法律構成ができるのか悩んだ事件を紹介しましょう。
内容は「家出をして行方不明になっていた認知症気味の父が、賃借アパートで自殺したため、大家さんから、相続人である妻とお子さん宛に動産撤去、原状回復、滞納分家賃の請求、誰も借りてくれないことによる損害を賠償するよう請求されている」というものでした。
 
3    当時、自殺に触れた判例はありましたが、アパート経営者に大打撃を与えることを前提に、全面的に認容した判決は見当たりませんでした。ましてや賃借物件であるマンションに居住していた者の自殺が、相続事件として取り扱われるものは見聞できない状況でありました。
しかし、そもそも民法は、896条で「被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」とされています。亡くなった方の「一切の権利義務」というのですから、その幅は確かに広い。自殺しないことが契約上の義務なのか一般不法行為なのかを別にして、損害を請求する大家さんの気持ちは分かります。そうすると、貸せなくなったことによる損害は契約責任なのかどうかも弁護士の関心の的になります。不法行為として構成する電車投身自殺を思い出してください。
 
  賃貸マンションでの自殺
 
   私が弁護士になった頃、売主である著名な一部上場企業を相手にし、自殺について説明しなかった説明義務懈怠を理由に損害賠償請求をしたことがあります。当時は売買契約についても、売買目的物での自殺について種々議論があり、認容を前提とした判例はありました。しかし確定とまで言える状況ではありませんでした。売主である一部上場企業のエリートサラリーマンも、証人尋問で自信を持って証言しておりました。その意味で本判決は、今弁護士のあいだで流行の「不動産売買と自殺」シリーズ、弁護士コラムの草分け的な存在です。当時は判例の取扱いが慎重だったように思います。あの勝訴判決はどうなったのでしょうか?判例集に載せたければ、低い損害賠償金額に拘らず、契約の解除まで主張すればよかったのかもしれません。でも依頼者は、転売目的で購入された業者でしたから、解除まで希望されておりませんでした。
 
2  本題です。相続人は自殺した方の何を相続するのでしょうか?
       自殺者は死なれた瞬間この世におられません。大家さんは、何故損害賠償請求できるのかの法律構成ができなければ相続人に対して請求できません。もちろん不法行為構成も可能ですが、これは契約関係に基づく法理ではありません。不法行為ですと、大家さんには賃借人の過失に関する立証責任が課されます。前記相談事例の行方不明の父が認知症で意思(責任)能力がなく、しかも行方不明ということですから妻やお子さんに監督できない状況があります。これは請求が難しい。
手っ取り早く判例を見てみましょう。自殺事件では、必ず引用される東京地方裁判所判例を紹介します(平成19810日付判決)。
「賃貸借契約における賃借人は、賃貸目的物を・・返還するまでの間、賃貸目的物を善良な管理者と同様の注意義務をもって使用収益する義務がある(民法400条)。・・自殺により・・心理的な嫌悪感が生じ、一定期間、賃貸に供することができなくなり、(賃料が低下することは)常識的に考えて明らかであり・・自殺しないように求めることが加重な負担を強いるものとも考えられない」としているのです。
 
3  抽象的な規定である善管注意義務違反を相続するのですね。私も当時、賃借人には使用貸借準用の「用法義務違反」とは考えておりましたが・・。「悩む法律家はまどろっこしい」と思われますか?

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一  当事務所が数多くの立退き案件を取り扱っていることは、これまでいくつかのコラムの  中でお話しした通りです。
 
二  当事務所は、主として貸主又は不動産業者の立場から受任することで多くの成果を挙げておりますが、借主から依頼を受けることもあります。
    以前のコラムにおいて、借主から依頼を受けた事案で賃料200ヶ月分の立退き料を獲得した事案を紹介いたしましたが、つい最近も賃料100ヶ月分を超える立退き料を獲得した事案もございます。
    近時の裁判例は、耐震性に関して貸主の立場である正当事由の認められる可能性を増大させているように見受けられます。
   注意されねばならない論点が増えております。
 
三  近時、開発案件などで立退きのご相談を頂く機会が増えておりますので、改めて立退き料の動向についてご紹介させて頂きます。

立退き料
平成26年12月19日東京地裁判決
3237万3000円
耐震性能不足に起因する本件建物の取壊しの場合、賃貸人だけに負担させるのは相当でない。立退料は、賃料差額を1344万円(〔月額新規支払賃料206万円−月額実際支払賃料150万円〕×補償期間24か月)、一時金運用益を32万8000円(〔新規月額賃料206万円×10か月−本件賃貸借契約の保証金1240万円〕×運用利回り2%×2年)、新規契約に関する手数料等及び移転費用、営業補償費、内装費補償費、広告宣伝費等を1860万5000円とした合計額とする。
立退き料
平成26年12月10日東京地裁判決
3318万9825円
(賃料の36ヶ月分超)
立退料は、移転までの空白期間について、本訴提起前の交渉経過とほぼ同程度の期間である約1年半程度と想定し、その間の賃料等相当額に直接剰余を加えた程度の額とする。
立退き料
平成26年7月1日東京地裁判決
5120万円
5215万円
180万円(賃料約2年分)
立退料は、移転実費、借家権そのものが有する財産的価値(借家権価格)及び営業上の損失に対する補償額を考慮した上、そのうち立退料以外の事情による正当事由の充足度を踏まえた一定額とする。
左記はいずれも異なる店舗である。借主が平成25年8月以降営業を行っていない状況を考慮している。
立退き料
平成26年4月17日東京地裁判決
124万8000円
(賃料6ヶ月分)
借主は既に本件建物での営業をやめているのに対し、貸主は道路拡幅工事のための用地買収に応じるために本件賃貸借契約を解約して本件建物を取り壊す必要がある。
賃貸人からの解約申入れの猶予期間が本件賃貸借契約において6か月間と定められていたことなども考慮している。
立退き料
平成25年12月11日東京地裁判決
215万円
借主が家財を搬出して退去する費用相当額、新たな賃貸物件等住居を確保するために要する費用相当額、相当期間についての当該物件の賃料と借主が本件貸室について支払っていた賃料との差額相当額を考慮している。
立退き料
平成25年6月14日東京地裁判決
4130万円
耐震補強工事に代えて建替えを行うことは貸主にとっても費用対効果上メリットであること、建替えが結果的にもたらす敷地の高度利用化という利益も専ら貸主が取得することなどを総合考慮し,借家権価格(鑑定の結果)の半分相当額とする。※賃料月額315万円
立退き料
平成27年3月20日東京地裁判決
0円
木造住宅であり、少なくとも増改築前の部分についてはその建築から50年を優に超えていること、貸主は現在67歳の単身生活者であること、50年を超える長期にわたって本件建物の所在地を生活の本拠とし今後も本件建物を建て替えて同所で生活する意思を有していることなど貸主側の立場を考慮している。
他方で、借主における本件貸室の用途は専ら経理関係の書類等の保管にすぎないことを考慮している。
立退き料
平成25年1月23日東京地裁判決
0円
耐震性能を現行法の水準にまで高める工事をすることは建物所有者として合理性を有する。本件建物の耐震性能は相当低く、倒壊する危険がある。残寿命は10年程度であり、本件建物を取り壊して新たな建物を建築する等する必要性の高いことを考慮している。
他方で、借主は、本件建物を居住用に使用しているわけではなく、現在は転借人もいない。借主は自ら賃貸物件を多数抱える不動産業者であり、新たな物件の調達にさしたる困難があるともいえないこと等を考慮している。
請求棄却
平成25年9月17日東京地裁判決
正当事由なし
 
建物の倒壊の危険性から取壊しを要すると主張する以上、貸主は本件建物の倒壊の危険性を具体的に立証することが必要であるが、本件建物の耐震性について耐震判断審査を行っていない。なお、貸主は立退き料を支払わないと明言していた。

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1    当事務所が病院やクリニックの顧問弁護士を務めさせて頂いており、様々な形で医療に関与する事件を取り扱っていることは当ホームページをご覧いただいている方には既にご存知のことと思います。
そのような中で、近時、厚生局等から保険診療に関する個別指導や監査があった際に、保険医等が弁護士を同席させることが多くなったという話を良く聞きます。

2    保険医等が個別指導・監査を受けた場合、最悪の場合には保険医指定取消にもつながり得るものですが、過去には行き過ぎた個別指導・監査により保険医が自殺したのではないかと取り沙汰されたこともありますし、国会で取り上げられたこともあります。
東京歯科保険医協会は、平成19年10月4日付けで、個別指導・監査に関連して抗議文を出しております。
そして、当該抗議文には、「一年にわたる長期間の指導を受けたうえ、監査直前に本会会員のM先生は心身ともぼろぼろになり、あげくの果て自殺にいたった。」「最初の個別指導では『こんなことをして、おまえ全てを失うぞ!』『今からでもおまえの診療所に行って調べてやってもいいぞ、受付や助手から直接聞いてもいいんだぞ!』など『恫喝で終始』した。その後も指導時の技官の態度について『なぜあそこまで人権を無視したことを言われなければいけないのか』と涙ながらに訴えていた。」「一回目の指導中断から再開まで九ヶ月もかかり『今まで経験したことのない苦しい時を』過ごし精神的に追いつめられていた。苦しみ抜いたうえでの自殺である。」という衝撃的な内容が掲載されています。

3    医師や歯科医師らからは、弁護士会に対して個別指導・監査の在り方に関して人権救済申立がなされ、平成26年8月26日、日本弁護士連合会は、厚生労働大臣及び都道府県知事に対し、「健康保険法等に基づく指導・監査制度の改善に関する意見書」を提出しています。
日本弁護士連合会は、「手続の不透明性」や「指導の密室性」に問題点があると指摘し、保険医等の適正な手続的処遇を受ける権利を保障するため、改善等を求めています。

4    保険医の方の中には、個別指導・監査の際には必ず弁護士の帯同をした方が良いとおっしゃる方もいるようです。
そして、平成23年10月26日付けで厚生労働省保険局医療課が発行した「事務連絡」には、「地方厚生(支)局が第三者たる弁護士の個別指導等への帯同を認めることはあり得る」と明記されています。
要するに、個別指導に弁護士が同行することも可能ですので、保険医の先生が一人で悩む必要性はありません。個別指導にどのように対応すれば良いのか不安な保険医の先生方は是非一度弁護士に相談して頂いた方が良いと思います。

5    弁護士は医療の専門家ではないとはいえ、法的な立場からアドバイスを差し上げ、場合に応じて個別指導に立ち会うことにより保険医の方々の権利を守ることの手助けになると考えております。

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一.     はじめに

1.       毎月配送される判例時報を纏めて見ておりますが、最高裁判所は、昨年3月6日付にて「(第一審で付加金の支払いを命ずる判決が出されたにも拘わらず)控訴審の口頭弁論終結前に未払割増賃金等の全額を支払って(使用者における)義務違反の状況が消滅したときには、裁判所は付加金の支払いを命ずることができなくなる」旨の判決を出しております。
 上記判例は、従来の最高裁判決で疑問になっていた部分に関し、明白にしたものです。つまり、控訴審という第二審であっても口頭弁論終結前であれば、未払い割増賃金等を支払って義務違反の事実をなくしてしまえば、制裁である倍返しのルールが適用されないということを明らかにしたものです。

2.       そもそも付加金という倍返しのルール、即ち労働基準法114条「付加金支払」条項については、若かりし時代より特別な思いで対応してまいりました。私の過去などお話ししたくもありませんが、弁護士になって数年で一弁人権擁護委員会副委員長或はその後すぐに日弁連人権擁護委員会委員となった私にとって、倍返しのルールには敏感でありました。テレビドラマ「半沢直樹」シリーズで有名なせりふ「倍返し」ではありませんが、左翼を称される弁護士の世界?では、付加金命令を取ったことがあるかどうかは自慢の種になったものです。その「自慢大会」?に知らぬまに参加したこともあるくらいです。

3.       付加金とは、解雇手当、休業手当、割増賃金、有給休暇の際の平均賃金を支払わない使用者に対して、裁判所は、それらの未払い金のほか、更にそれと同一額の金額を労働者に支払うように命じることができるというもの(法律学辞典引用)で、法律を守らない使用者に対する制裁として裁判所が付加する裁判であります。付加金が訴えの対象となる訴訟物として計算に入れるのか議論したことが思い出されますし、裁判所の命令なので労働審判事件では審判の対象にならないのですが、でも通常裁判に移行する場合も考えて、付加金の申立ても同時にされる弁護士もおられます。

二.     付加金と固定残業代

1.       付加金に関係する残業代といえば、労働基準法に規定のない「固定残業代」をテーマにするのが自然でしょう。必然的に、今回も優秀な社会保険労務士の先生とタイアップして対応しなければならないという結論になってしまいます。
 そもそも固定残業代とは、一定の時間外割増賃金(残業代)を毎月の賃金などに加算して固定的に支給する制度です。固定残業代とすることについては判例も認めておりますが、しかし判例が指摘してきた要件をみたす必要があるのです。
 通常、残業代を基本給の一部に含まれるものとして支払われている場合、経営者の方は当社は固定残業代として法律通りに定めていますと説明されます。しかし、実際のところ、判例の基準から外れていることが多いというのが実状です。社会保険労務士の先生など専門家に聞いた上で作っていると仰っている会社でも、判例の基準から外れた規定になっていることが、あまりにも多いので驚きます。

2.       仮に、判例の基準から外れた規定をしていた場合、経営者の方からすれば既に支払っていたつもりの残業代をプラスし(それも残業代を含む高い支給基準の基本金額を計算基礎とする)、更に付加金として二重に支払わなければならないことになります。場合によっては1000万円以上支払う金額になることもあり、労働基準法上の刑事罰すらありうるのです。
 平成2438日付最高裁判決、櫻井裁判官の補足意見の要旨「固定残業代の定めがなされている場合、雇用契約上もそれが明確にされている必要がある。支給時、支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示され、且つ時間を超えて残業が行われた場合には、その所定の支給日に別途上乗せして支給する旨もあらかじめ明らかにされている必要がある」からも分かりますが、固定残業代には今後も厳しい判断が続くものと思われます。

三.     訴訟にしない準備と訴訟になった場合の対応策

1.       残業代請求事件は、いつでもどのような企業でも起こりうる事件です。
従業員に愛を傾けておられる経営者の方に申し上げます。紛争が起きる前に、優秀な社会保険労務士・弁護士等の専門家を入れて事前の検討を行い、「ブラック企業」などと呼ばれない準備が必要です。

2.       仮に、不幸にも訴訟になってしまった場合、労働者側の主張が正しいのかどうかを徹底的に検証して、不当なのであればしっかりと反論していくことが重要です。残業代請求事件は労働者側が有利という前提のため、会社側の大雑把な反論を見受けることも少なくありません。しかし、残業代請求事件における基本的な主張・立証責任は労働者側にあります。会社側で十分に証拠を収集して反論することで、労働者側の主張を弾劾できることも少なくありません。
 その例ですが、残業代請求事件において、使用者側の抗弁により、東京高裁で認められた金額と東京地裁で認められた金額に合計1000万円以上の差があったという裁判例を紹介します(東和システム事件 判例タイムズ136749頁)。
 結論として、ポイントを押さえた主張・立証活動と、しかも粘り強い丁寧な反論が必要であるということです。

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一 「労務管理」という言葉は嫌いですか? 
(1)  企業経営者の皆様、自分の会社で働いてくれている社員を宝だと思っておられますね。当事務所は、会社側の代理人として対応することが通常ですが、社長の真摯な姿勢に感激する体験を幾度もしてまいりました。
  でも会社の健全な成長のためには、愛だけでは不足です。「労務管理」という言葉を聞くと嫌な気持ちになるという経営者の方は、それはそれで立派なのですが、会社の成長なくして、従業員に報いることはできません。その事実は、あなたが一番ご存じのはずです。日々の成長に苦しまれる貴方こそが、「労務管理」の必要性を一番ご存じのはずです。 
(2) 幾度か体験した労働災害の実例、今回は、従業員の死亡の場合について紹介しましょう。
  私が弁護士になったころと比較しますと、近時、従業員の自殺が労働災害の紛争として激増している印象です。私の経験だけでも自殺事件は10件を超えているのですが、その例として皮肉にも「愛の示し方」の失敗により、泥沼状況になった例をあげてみましょう。
  自殺の報を聞いて、一番に駆け付けた営業部長が泣きながら「会社にも非があったと思う」と述べたことから、労働災害による自殺として労基署に申請されました。この案件は、後に双方の感情がエスカレートし、本当に残念な経過をたどりました。また、葬儀に出席された幹部社員のお詫びの言葉によって、会社に強い要求がなされた案件もありました。これらが上場企業の実例だとお話ししたら、あなたは驚かれるのではないでしょうか。
  更に、従業員の病死までも含めますと、残業代、パワハラによる損害賠償請求を巡って、共産党系の弁護士と弁護士会館で怒鳴りあいの交渉になった経験も幾度かあります。この方々は、事実により判断するのでなく、感情的に主張される例が本当に多い。何故か、相手の指定する喫茶店での交渉で、下品な罵詈雑言に対し(この方も、残念ながら弁護士)、「事実に基づいて主張しろ!」と怒鳴り返したのは、私が血気盛んな頃の話です。
 
二 社会保険労務士(以下、「社労士」と言います)の先生 
(1) 労務管理はどうされていますかとお聞きしますと、人情味のある経営者幹部の方の多くは、従業員の就業規則や労働保険、更には給与計算まで全面的に、社労士の先生にお任せしているから大丈夫ですとおっしゃる方が多い。
  確かに、当事務所で提携しているような優秀な先生を除き、全く大丈夫でない実例をお話ししてみましょう。 
(2) 社労士の先生方の未熟な対応により、紛争になった事例は本当に多いのです。かっては社労士の判断ミスによって、懲戒解雇が労働訴訟になった事例はたくさんありました。労働訴訟になれば弁護士の出番であり、社労士では処理できません。訴訟を経験しないで微妙な法的判断をすることが難しいのは誰が考えても分ります。
   最近懲戒解雇の正当性を巡る社労士の典型的な失敗事例は減ってきたように感じます。社労士会等の自覚で講演や実習等をされていることも知っておりますが、むしろ経営者の方々の知識が高まり、懲戒事例の場合には早期に弁護士に相談されるからでありましょう。 
(3)  しかし、労働災害事件は、社労士のミスによる案件が逆に増えている印象があります。
   事件の端緒ともなりますが、労災請求に関して労働基準監督署から関係資料の提出依頼が来た場合、会社の対応としては、社労士に相談することはあっても、弁護士には相談されないということが原因ではないでしょうか。
   驚いたことに、社労士の先生が、「この案件は、どう考えても労働災害として認定されることは無いでしょう」と言われたため、放置していたら労災が認定されてしまったという事件もありました。更には、社労士の先生が作成された書面や発言が逆に会社にとって不利に扱われてしまったという事件も経験しております。
 
三   結論=「社労士と弁護士との協同作業が会社を支える」
     社労士の先生は、訴訟の専門家ではありません。訴訟の代理人にはなれませんし、代理が可能な民間紛争解決手続きにおいても120万円などという制限もあります。訴訟となった場合、二重経費の計上となる弁護士と社労士の先生双方に依頼することは通常ありません。弁護士は登録さえすれば社会保険労務士としての資格も具備できるのですが、残念ながら、弁護士業務と並行して社労士業務である社会保険の代理申請や給与規定のチェックをする弁護士は知りません。両者の業務システムには大きな違いがあるからです。
当事務所は、社労士業務に関しては優秀な先生にお願いしています。何故なら、日常業務となる社労士の先生との協同こそが大切なのです。優秀な社労士の先生は、訴訟になることまで見込んで、日常の労務手続を進めていただけます。根本的なことは、労務管理においては、弁護士と社労士との双方が協同関係をもって、即ち双方の専門家が何時でも連絡を取り合えることを前提として、日常の労務管理を行うことが要諦なのです。このような「企業活動を支える仕組み」を作りましょう。
当事務所は、経験豊富な社会保険労務士法人酒井事務所と勉強会を開くなどして、日常的に連携を取り合い、これまでも様々な事案に対応してきました。

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