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コラム - 202006のエントリ
書評 その4 「動脈爆破」著書 濱嘉之(文春文庫)
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1 今回のコロナ騒動では、いろんな本を読みました。今まで読めずにいた大量の買い置き本にも挑戦しました。
念のため、3月の終わりに新宿の紀伊國屋書店に行ったところ、新宿通りに面する店頭に、うず高くコロナ関係の本が積まれておりました。「ペスト」(カミュ著・新潮文庫)と「首都感染」(高嶋哲夫著・講談社文庫)が中心でしたので、この2冊と、店内に入って「カラスは飼えるか」(松原始著・新潮社発行)、「生きる稽古 死ぬ稽古」(藤田一照 伊東晶美著・日貿出版社)等、数冊を購入しました。
2 大量に読み始めて驚きました。好きな本に対する一体感が、前と違っているのです。
例えば、私の愛する宮部みゆきさんの買い置き本を読み始めると、作り物めいていて最後まで読めない自分を発見しました。宮部みゆきさんの小説は、見れば直ぐに買ってしまうほどの大ファンでしたので、作品の中に没入できない自分に驚きました。考えてみますと、昨年、体調を壊してから、食べるものに注意する生活をしており、今回のコロナ騒動で相当に精神がまいっていたように思います。自分の経験と違う世界や、作り物めいた世界には、のめり込むだけの柔軟性がなくなり、我慢して読むだけの余裕がなくなったのかなと疑問に思いました。でも「生きる稽古 死ぬ稽古」も最後まで読めません。何回か挑戦しましたが、「まだ早い」とでも感じているのでしょうか?
このような精神状態のなかで、買い置き本の一冊「ニッポン泥棒」(大沢在昌著・角川文庫)は、大喜びで読了しました。脇役で登場する「細田」という男が気にいったのです。この脇役は、私の人生と似ている側面があると感じ入りました。買った当時、本の紹介欄をみただけで、読む意欲を失い、長い間放置されていた本ですが、著者の思惑と多分違う場面で楽しみました。後半、この脇役の自分らしさを出す場面が減ったのは不満です。
「ペスト」ですが、実は大昔、一度挑戦して読みづらくて放棄した過去があります。今回も挑戦しましたが、読むのに苦労し、他に読みたい本があるので止めました。翻訳がまずいのか、文章のみが、だらだらと続くという感じで、一気読みできないのです。
同時に購入した「カラスは飼えるか」(松原始著・新潮社発行)は、楽しく読了しました。
読む人への配慮も必要なのですね。
3 今回、書評したいと考えた小説は、濱嘉之さん「警視庁公安部・片野坂彰」新シリーズ第二弾「動脈爆破」です。
現在の世界状況を踏まえた最新の小説で、未知の情報で一杯です。新聞報道でも、シリア内戦、リビア内戦、ロシアとトルコの介入など国際情報がよく掲載されていますが、濱さんの小説はこれを越えていて、つい中東地域の地図を広げてしまいました。本作品は、シリアの北部、トルコとの国境に近いアレッポという町で、日本人3人が行方不明になるという事件から始まります。
現在の電子情報戦に関係するスパイ活動などを超える面白さです。私は、前回の「国境の銃弾」の書評で、文藝春秋の昨年9月号の特集目次を挙げて、濱さんの情報の新規性を示しました。
今回の作品では、物語性も十分に組み込まれています。特に、誘拐された男性が、自ら生き延びるために、シリアの反政府勢力の一員として戦闘に参加するという筋書きは本当に面白い。奇想天外ですが、小説として最高の着眼点だと思いました。
中東の武装組織が、爆破にドローンを使うというのにも驚きました。しかも、それを日本の新幹線の爆破に使うというのですから着想が凄い。否、着想でなくて、実際にイスラム原理主義者によって計画されている事実だとしたら・・。
コロナで危ぶまれていますが、オリンピックの開催等を考えると、本当に計画されているのではと?思わず考えてしまうのですから、本当に怖い小説なのです。小説の枠を超えてる・・と思いました。
ドローンは、私の家でも一台購入しているぐらいですが、実際に、ぞっとする話なのです。
4 「ペスト」と一緒に購入した「首都感染」ですが、10年前に出版された小説とは思えない、現時点における急所を突いた傑作です。
今回のコロナウイルスと同様、致死率の高い、強毒性インフルエンザ・ウイルスに対処する作品です。ものの見事に東京都を封鎖して感染拡大の防止と、ワクチン開発を猛スピードで実行する話なのですが、実際に現在のコロナ騒動と似ております。
上記のような展開を実行するため、この小説の主人公は、WHOで働いていたことのある専門の医師を配置しております。しかも、彼は、時の総理大臣の息子であり、且つ、厚生労働大臣と個人的な関係があるということになっております。これが味噌なのです。つまり、逆に言うなら、首都封鎖とか、緊急のワクチン開発とかのためには、上記のような人間関係がないと実行できないということになりませんか?
今回のコロナに対する政府の対応等を思い出しながら、この小説を楽しんでください。
この本を紹介することは、今回の政府の対応策と比較して諸種の論争を引き起こす可能性が出てきます。このようなことは、本コラムにふさわしくないと思い、上記の程度で終わりにします。