新宿の顧問弁護士なら弁護士法人岡本(岡本政明法律事務所)
当事務所では、上場企業(東証プライム)からベンチャー企業まで広範囲、かつ、様々な業種の顧問業務をメインとしつつ、様々な事件に対応しております。
コラム - 201911のエントリ
立退き料に関する取材
- カテゴリ :
- 借地借家
当事務所弁護士である岡本直也のコメントが「東洋経済ONLINE」の「不動産会社vs.テナント、「立ち退き料」の経済学 大規模な再開発の陰で立ち退き訴訟が増加中」という記事に掲載されました。
https://toyokeizai.net/articles/-/315440?page=3
ご覧頂けると幸いです。
「危急時遺言」を無効とした判例から学ぶこと
- カテゴリ :
- 相続事件
1 本年4月21日発行の判例時報(2397号)を読み始めたところ、掲載されている平成30年7月18日付東京高裁判決(平成30年(ネ)第878号)には驚きました。
本判決評論を読んで驚いた内容の第一は、今回の民法改正に際し、「危急時遺言」に関しても、法改正として検討されるべき事項があると気づかせてくれたことです。本判決には、そのような指摘としてしか読めない個所もあり、随分、踏み込んだ判決だと感心しました。「危急時遺言」制度は、これまであまり利用されてこなかったものです。新版注釈民法(28巻)にも、昭和の時代で、年間200件を超えない程度と記されているくらいです(146頁)。でも、今後は利用者が激増するでしょうから、今回の民法改正で検討すべき事項でした。
第二として、「危急時遺言」を利用しようとする場合、本判例が警告する内容をよく吟味し、注意が必要だということです。今後、増大する高齢者の方々が、医療の進歩、或いは“最後の時を自宅では迎えない”という不思議な実態から、病院で最終意思を表明される機会が増えるであろうと予想されます。今回紹介する「危急時遺言」を利用する場合には、十分に注意しないといけません。本判決の認定のとおり、せっかくの遺言が無効になってしまう場合があるという指摘です。
第三に驚いたことは、本判決は、本件「危急時遺言」を取り扱われた弁護士に対する警告まがいの指摘がなされ、本件遺言が無効であると認定されているのです。本当に、弁護士として十分な心構えが必要だと認識しました。
2 早速、判決を通して事案を見てまいりましょう。
本件も相続事件の通例として多数の訴訟が、双方より提起されております。多数の訴訟手続きが起きる事例として、その訴訟事件の内容を紹介しておきましょう。
第一事件は、今回、紹介する遺言無効確認請求事件です。即ち、遺産の受取人でない方が、本件遺言について無効であると主張され、訴訟を提起されました。第二事件は、逆に、遺産の受取人から訴訟提起されたものです。遺言内容を実現するために、不動産の明け渡しを請求されておられます。第三事件は、遺言が有効とみなされた場合に備えて、遺言の無効を主張された方が、予備的に遺留分減殺請求をされております。遺留分減殺請求に関しては、今回の法改正により、物件的請求権でなく、金銭債権のみが発生するものとされております。故に、遺留分減殺請求については参考としてお読みください。
私の経験からも、相続事件は幾種類もの訴訟が互いに提起され、通常、訴訟合戦になることが避けられません。しかし、本件では遺言の無効を争われた第一事件に絞ってみてまいりましょう。
3 第一事件の遺言は「緊急時遺言」として病院でなされました。
「緊急時遺言」には、特殊なものとして「伝染病隔離者の遺言」(民法第977条)や、「在船者の遺言」(同第978条)、或は「船舶遭難者の遺言」(同979条)等、特殊なものがあります。しかし、本件は「疾病その他の事由によって死亡の緊急に迫った者が遺言をしようとするとき」(同976条)という場合の「死亡の緊急に迫った者の遺言(緊急時遺言)」として、病院にてなされた遺言です。
このような事例が増えることについては、本件判例解説者も同様の意見を開陳されており、しかも、本件については、遺言が無効になった珍しい事案として紹介されております。
4 第一事件(本件遺言書が有効か無効か)の紹介に入ります。
これまで述べてきましたが、遺言者は、証人3人(医師、弁護士、遠い縁者の3人)の立ち合いの上で、病院において緊急時遺言が行われた事案です。そして、民法976条4項の「遺言の日から20日以内に」家庭裁判所の確認を得ているのです。ここでの家庭裁判所の確認審判がどのような意味をもつのかが最大論点となります。本確認審判は、危急時遺言の効力発生要件ではあるものの、既判力がありません。そのように解されております。民法改正の是非にまで発展する理論的な可能性を楽しまれる方は、通常の「自筆証書の検認の制度」(民法1004条)と比較・検討してみてください。私は、新版注釈民法第28巻で楽しみました。
もちろん、本判決でも「危急時遺言の確認の審判の制度(民法976条4項)は、そのような不正のリスクを排除する機能が不十分な制度であることに留意すべきである」と論述し、警告しております。本判例の評釈者も、遺言確認審判制度は不正排除リスクが不十分な制度であると警鐘を鳴らし「控訴審判決は、危急時遺言無効確認の本案訴訟においては、確認の審判があったことそれ自体を重視することは、適当でないと説示している。」と本判例を評釈しておられます。
5 そろそろ急所です。本件遺言が無効と認定された骨子です。
本件遺言には、弁護士が関与しております。その証人となった弁護士が聞き取りしておりますが、詳細な判旨を読み取る限り、この聞き取りが不十分であることは明白です。もちろん、意識障害の程度を示すものとして「Japan Coma Scale」の評価が低かったことや、立会した証人になった医師の専門領域が循環器内科の医師で、意思能力の有無の鑑別に関する専門家でないこともポイントになります。しかし、緊急時遺言の指導をした弁護士は、本遺言により遺産を受け取る被告から相談を受けた弁護士であったこと、そして証人になった弁護士との人的な関係まで暴露して、本件遺言を無効と認定しているのです。
小説のような判決ですね。
本判決評論を読んで驚いた内容の第一は、今回の民法改正に際し、「危急時遺言」に関しても、法改正として検討されるべき事項があると気づかせてくれたことです。本判決には、そのような指摘としてしか読めない個所もあり、随分、踏み込んだ判決だと感心しました。「危急時遺言」制度は、これまであまり利用されてこなかったものです。新版注釈民法(28巻)にも、昭和の時代で、年間200件を超えない程度と記されているくらいです(146頁)。でも、今後は利用者が激増するでしょうから、今回の民法改正で検討すべき事項でした。
第二として、「危急時遺言」を利用しようとする場合、本判例が警告する内容をよく吟味し、注意が必要だということです。今後、増大する高齢者の方々が、医療の進歩、或いは“最後の時を自宅では迎えない”という不思議な実態から、病院で最終意思を表明される機会が増えるであろうと予想されます。今回紹介する「危急時遺言」を利用する場合には、十分に注意しないといけません。本判決の認定のとおり、せっかくの遺言が無効になってしまう場合があるという指摘です。
第三に驚いたことは、本判決は、本件「危急時遺言」を取り扱われた弁護士に対する警告まがいの指摘がなされ、本件遺言が無効であると認定されているのです。本当に、弁護士として十分な心構えが必要だと認識しました。
2 早速、判決を通して事案を見てまいりましょう。
本件も相続事件の通例として多数の訴訟が、双方より提起されております。多数の訴訟手続きが起きる事例として、その訴訟事件の内容を紹介しておきましょう。
第一事件は、今回、紹介する遺言無効確認請求事件です。即ち、遺産の受取人でない方が、本件遺言について無効であると主張され、訴訟を提起されました。第二事件は、逆に、遺産の受取人から訴訟提起されたものです。遺言内容を実現するために、不動産の明け渡しを請求されておられます。第三事件は、遺言が有効とみなされた場合に備えて、遺言の無効を主張された方が、予備的に遺留分減殺請求をされております。遺留分減殺請求に関しては、今回の法改正により、物件的請求権でなく、金銭債権のみが発生するものとされております。故に、遺留分減殺請求については参考としてお読みください。
私の経験からも、相続事件は幾種類もの訴訟が互いに提起され、通常、訴訟合戦になることが避けられません。しかし、本件では遺言の無効を争われた第一事件に絞ってみてまいりましょう。
3 第一事件の遺言は「緊急時遺言」として病院でなされました。
「緊急時遺言」には、特殊なものとして「伝染病隔離者の遺言」(民法第977条)や、「在船者の遺言」(同第978条)、或は「船舶遭難者の遺言」(同979条)等、特殊なものがあります。しかし、本件は「疾病その他の事由によって死亡の緊急に迫った者が遺言をしようとするとき」(同976条)という場合の「死亡の緊急に迫った者の遺言(緊急時遺言)」として、病院にてなされた遺言です。
このような事例が増えることについては、本件判例解説者も同様の意見を開陳されており、しかも、本件については、遺言が無効になった珍しい事案として紹介されております。
4 第一事件(本件遺言書が有効か無効か)の紹介に入ります。
これまで述べてきましたが、遺言者は、証人3人(医師、弁護士、遠い縁者の3人)の立ち合いの上で、病院において緊急時遺言が行われた事案です。そして、民法976条4項の「遺言の日から20日以内に」家庭裁判所の確認を得ているのです。ここでの家庭裁判所の確認審判がどのような意味をもつのかが最大論点となります。本確認審判は、危急時遺言の効力発生要件ではあるものの、既判力がありません。そのように解されております。民法改正の是非にまで発展する理論的な可能性を楽しまれる方は、通常の「自筆証書の検認の制度」(民法1004条)と比較・検討してみてください。私は、新版注釈民法第28巻で楽しみました。
もちろん、本判決でも「危急時遺言の確認の審判の制度(民法976条4項)は、そのような不正のリスクを排除する機能が不十分な制度であることに留意すべきである」と論述し、警告しております。本判例の評釈者も、遺言確認審判制度は不正排除リスクが不十分な制度であると警鐘を鳴らし「控訴審判決は、危急時遺言無効確認の本案訴訟においては、確認の審判があったことそれ自体を重視することは、適当でないと説示している。」と本判例を評釈しておられます。
5 そろそろ急所です。本件遺言が無効と認定された骨子です。
本件遺言には、弁護士が関与しております。その証人となった弁護士が聞き取りしておりますが、詳細な判旨を読み取る限り、この聞き取りが不十分であることは明白です。もちろん、意識障害の程度を示すものとして「Japan Coma Scale」の評価が低かったことや、立会した証人になった医師の専門領域が循環器内科の医師で、意思能力の有無の鑑別に関する専門家でないこともポイントになります。しかし、緊急時遺言の指導をした弁護士は、本遺言により遺産を受け取る被告から相談を受けた弁護士であったこと、そして証人になった弁護士との人的な関係まで暴露して、本件遺言を無効と認定しているのです。
小説のような判決ですね。