新宿の顧問弁護士なら弁護士法人岡本(岡本政明法律事務所)

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コラム - 201908のエントリ

1 週刊誌も新聞も、相続に関係した記事で埋まっております。弁護士のために発刊されている書籍でも、相続事件に関係するものが一挙に増えました。
 今回の相続法の改正では、配偶者居住権など目新しい内容もありますが、それらの紹介よりも、弁護士にとって「相続事件に対する対応が如何に面倒なのか」をご説明するほうが、読み物としては面白いと思います。でも面白くて当然です。亡くなった方、或いは亡くなる予定(言い方が変だけど)の方は様々な生きざまのなかで、大変な苦労をされたと思います。その方の人生の締めくくりの一つが相続なのです。「大変だったですね」と声をかけたくもなりますが、その方を取り巻く家族の方々の経験も様々で、その思いも多種多様です。相続事件は、相続される方々の複雑な関係に「けり」をつけることも目的の一つと言っていいでしょう。想像するだけで難しい事案が出てくるのは当たり前のことなのです。
 相続事件として受任する弁護士は、そのような複雑な絡みを事案として受け止め、誠実に対処しなければなりません。
 今回は、弁護士の方の失敗事例を紹介しましょう。もちろん、具体的に関係づけられるような内容は書きませんが、複数の弁護士が関与された20年以上前の事件です。

2 相続事件は、その発端となる遺言書作成業務から受任することが多いのですが、その弁護士を連れてきた人が相続人の一人であるなら、既に複雑な様相を呈し始めております。当該利害関係にある相続人は、自分にとって有利な遺言書を作ってもらうよう、弁護士に無形の圧力を与えていると言っても過言ではないと思います。私など、そのように感じてしまうのです。そもそも、遺言書作成業務だけを引き受けるなら、それで終わりにもなるのでしょうが、紹介していただいた相続人の方の事件も受任する予定なら(遺言執行者になる場合も多いです)、被相続人の気持ちも含めると複雑になりそうだと思いませんか。相続人間で深刻な争いがある場合、どうしたらいいのでしょうか?
 今回、紹介しようと考えております相続事件は、まさしく上記懸念の典型例でした。問題となる弁護士の先生が、その発端となる遺言書作成業務を受任され、しかも、当該遺言書により遺言執行者として指名されているのです。遺言書を作成されたお母さまには、7人の相続人(お子様)がおられますが、そのなかで圧倒的に多くの遺産を与えられている相続人である長女の方の紹介で、遺言書を作成されました。紹介者の長女の方が、お母さまと同居されていた関係もあり、長女の方に有利な遺言書になっております。

3 弁護士先生の第一段階の失敗から紹介しましょう。
 遺産の大半を占める都心一等地のかなり広い土地・建物について、既にお母様がその5分の3を所有されておりました。遺言書の内容は、次のようなものでした。上記の不動産の「持分5分の3のうちの5分の1を長女に遺贈する」というものです。
 私の依頼者は相続人の一人でしたが、「遺言書のとおりに掛け算すると長女の遺贈分は25分の3になるはずですね」と相談にまいりました。私は、「数学的にはそうなりますね」と答えたところ、遺言書作成に関与された弁護士の先生は「私がお母様から直接聞取りして、5分の1を長女に遺贈するということで記載しました。とにかく5分の1ですから、25分の5が長女の取り分です」と絶対に認めないというのです。他の相続人も弁護士に相談しているとのことでした。
 遺言執行人でもある当該弁護士は、「皆様の納得がなくても遺言書通りの執行をします」と回答してきたそうです。
 他の相続人の場合と異なり、私の依頼者は、まだ私を正式な代理人に選任してくれていませんでした。でも私は経験則に基づき「長女に25分の5(つまり5分の1)の登記にすると言っても、登記官が受理してくれないのではないですか」と回答しておきました。
 何と、後日、本当に登記ができなかったという報告がきました。まだ私には何の依頼もなかったのですが、私の相談者は、「それからが大変だった」というのです。
 つまり、遺言書作成の間違いを犯したその弁護士は、遺言執行者という名目ではありますが、長女有利な結論を押し付けてくるというのです。他の相続人も何とかしてくれと言って弁護士に頼んでいるようだけど、全く進展がないというのです。そして何とかしてくれれば私と契約をするというのです。
 私は、何回も相談を受けて、本件は、当該弁護士(遺言執行者)を除けば、後は、本人たちで解決できそうだという目途がたっておりました。その弁護士の排除だけは受任したほうが良いと判断し、「遺言執行者解任の申立」事件(民法第1019条)として受任したのです。家庭裁判所に上記申立書を提出し、第一回期日を迎えました。当日、裁判官の訴訟指揮にびっくりしました。なんと私を法廷にほったらかしにして、相手方である遺言執行者の弁護士だけを、法廷とは別の場所に連れて行きました。30分も経った頃、法廷に戻った裁判官は、「遺言執行者は自ら辞任されますので、本件申立ては取り下げてもらえますか」と言われたのです。その訴訟指揮には驚きました。

4 そもそも、遺言執行者は、民法第1015条によって、相続人の代理人とみなされますが、相続人一人の方の代理人ではないと解されております。弁護士の先生方は、弁護士職務基本規程について十分に勉強をお願い致します。

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