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コラム - 201707のエントリ

1.      前回、証人尋問の劇場性について書きましたが、書いた後、面白い社会現象に気づきました。

我が国で、裁判員裁判制度の導入が具体的になった頃、裁判所の内部を案内する業者のような方が出てきたと噂になりました。当時、新たなビジネスが生まれたと驚いたものです。しかし、今では、このような業者の方の話が出てこなくなりました。つまり、裁判員裁判制度が導入されたからと言って、外国の陪審裁判のように「ショー」になる要素は殆どありません。裁判所内部の見学は、司法制度の勉強にはなっても、劇場性もなく、面白味が全くないからです。日本で裁判所巡りをするより、観光地巡りのほうが面白いと言われるのは心外です。

従って、今回は、誰でも参加できた30年程前の“陪審裁判の模擬法廷”のお話しをし、当時は「ショー」としての側面も楽しんでもらうため、一生懸命頑張っていた昔の話をしてみたいと思います。  平成16年5月28日、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が成立し、やっと我が国にも国民の司法参加が可能な裁判員裁判制度が実現することになりました。法曹界で、国民の司法参加が強く主張されるようになったのは、それ程、昔のことではありません。第一東京弁護士会で、そのための「下働き」を一番長く続けたのは私であると自負しております(この経緯に詳しい人なら反対する人はいないでしょう)。ですから当時のエピソードを紹介できる適役だと思っております。

2.      ここで申し上げておかねばならないことがあります。私は、我が国の裁判を「ショー」或は劇場性のあるものにしようなどと思ったことは絶対にありません。

その証明というには大袈裟ですが、原体験の一つをお話しします。

司法試験合格後、司法研修所における最初の刑事裁判での授業のことでした。その最初の授業で“陪審裁判について考察しよう”と問題提起されました。クラスの皆さんは、陪審裁判を無批判に受け入れるか、チンプンカンプンのようでした。私は、敢えて“民主主義が徹底してから陪審裁判を考えればいい”と自己の体験と参審員裁判を念頭に置いた所信を述べました。今でもその考え方は正しいと判断しております。

その意味としましては、私は、あくまで主権者である我々(皆さま)が司法制度に参加できるようにし、官僚一色の、しかも悪弊はびこる日本の司法制度に問題提起をし、風穴を開けたかったのです。

当時、模擬陪審裁判に参加していた多くの弁護士も、私と同じ思いであったと信じます。

3.      早速紹介ですが、関係者を含め数百人規模の、且つ賑々しい模擬陪審裁判は、東京では二回ありました。この二つの模擬陪審裁判については、当時出版された本がありますので(現在では入手不能です)、それに基づいて紹介しましょう。

一つ目は、平成6年(1994年)9月30日、銀座ガスホールで開催しました。第一東京弁護士会と第二東京弁護士会の共催です。

当時、小さな模擬陪審法廷を開催することには飽きてきておりました。しかも劇場性においても工夫がなくなっておりましたので、新宿御苑にある青年劇場と、舞台監督として有名な宮崎監督にもお願いし、銀座ガスホールを借り切ったのです。失敗は許されませんよね。

私は、一万円を盗んだ被告人の役を演じました。その基本となる無罪事件の発掘は、シナリオチームの優秀な岩崎先生が選定されたように記憶しております。私は、「無罪」色が強すぎるシナリオに疑問を持ち、「有罪」色を強めるため、即ち劇場性を強めるために、当該事件を扱われた千葉県の弁護士さんに突然電話をして、指導を受けたことが鮮明に記憶に残っています。

でも「ショー」としてはもう一つだったのです。

当時、出された「模擬陪審裁判の実践と今後の課題」には、陪審員として参加された方の直後のアンケートが残されておりました。その方は、次のように述べておられます。「被告人の人柄が良過ぎて初めから心証が良かった、もう少し品のないキャストにしたほうが良い」と記載されているのです。

笑ってしまいませんか。私は俳優失格です。しかしながら、この本には、私の息子である中学生時代の副所長が参加してくれたアンケートの記録がありました(中学生の参加者は、一人のみとの記録あり)。今回始めて、中学生時代の副所長の心構えを知りました。

4.      もう一つは、弁護士会館竣工記念として平成7年(1995年)10月14日、できたばかりの弁護士会館3階、大講堂「クレオ」にて開催しました。この模擬陪審裁判は日本弁護士連合会と東京3弁護士会の4者共催で行いました。私は、事務局次長として、「第8章 広報・総務チームの総括」として、如何に報道に関心を持たせる工夫をしたかをメーンに、一番長い報告書を書いております。

 この模擬陪審裁判も劇場性において失敗しております。弁護士役の先生が、大反省をされておりますので紹介しましょう。

「しかし、やってみると、自分は分かりやすくやっているつもりなのに、全然わからないと、練習中に随分演出の先生に言われまして、そういうものなのか、知らず知らずに私たちは業界の言葉で染まっていたんだなというのを改めて感じました」。ショーは、難しいのです。

5.      今回は「弁護士の能力」というテーマから大分離れました。でも優秀な弁護士は、模擬陪審裁判でもその能力を発揮しておられます。つまり、弁護士としての優秀さは、その時の「見極め」にあるのです。

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