新宿の顧問弁護士なら弁護士法人岡本(岡本政明法律事務所)

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コラム - 201705のエントリ

1. ずいぶん昔のことですが、陪審裁判を研究することが花盛りだった頃、証人尋問の能力を自慢する弁護士の方が多数おられました。アメリカ映画で描かれる弁護士を見て、証人尋問のうまい弁護士に頼みたいとおっしゃった一般の方もおられました。 私も弁護士になった頃は、“証人尋問のコツは陪審裁判にあり”と考え、証人尋問の仕方を随分勉強したものです。模擬陪審裁判の弁護士を演じるため、舞台監督の方にお願いしたこともあります。

2. でも長年弁護士稼業をやっておりますと、証人尋問を上手にできるということが、即、弁護士の優劣を決するということとは全く関係ないということが分かります。

 証人尋問も弁護士の仕事ではありますが、単なる一つの業務というほどのものでしかないのです。結局、証人尋問を上手に行うためには、事件の終着点に関する見通し力と、その終着点を左右する徹底的な事実調査力に帰結するのです。

 我が国の裁判員裁判制度の採用から、アメリカの裁判と類似させて証人尋問の劇場性を強調される方もおられましたが、陪審員のみで有罪・無罪を決する陪審裁判とはやはり異なります。大切なことは、民事裁判での証人尋問まで考察するなら、その劇場性は殆どなくなってしまうのです。

 つまり、民事裁判において証人尋問をする際、相手方弁護士の目指す結論は、互いの準備書面において主張整理され、周知の事実になっております。そもそも判断をする裁判官の理解が前提になるのですから、劇場性など絵空事でしかないことが直ちに理解いただけるでしょう。

 自らの主張を裏付ける具体的な事実について、裁判官の理解を得るために、判断の基礎となる事実をたくさん集め、且つどれを強調するか工夫し、裁判官を事前に説得できねば、勝訴は見込めません。

3. 証人尋問能力を敢えて積極的に認める前提で定義するなら、それはプレゼンテーション能力というほどのものでしかありません。

 プレゼンテーションということは、他者に対する働きかけといえますが、それが効果的なものになるということは相当な能力とも言えます。

 しかし、臨機応変に対応ができるということは長年の訓練により可能になると誤解されてはいけません。経験も必要でしょうが、臨機応変に対応できるよう、その事件の分岐点、先読みに関する取り組み以外にないのです。事件に関する理解を深め、その分岐点となる事実を、どれだけ発掘できるかに尽きるのです。

4. 一つ例をあげましょう。 その事件は、集団訴訟と言って、たくさんの弁護士が将来の「飯の種」を探して被害者なる者を集め、集団で訴訟を行うものでした。その弁護士さんの中には、現在、弁護士会で活躍されている方もおられますので、詳細は省きます。

 結論から言いますと、この訴訟の帰趨を分けたのは、被告が「儲かります」と言って、客を集めたかどうかに尽きます。 この事件の長い経緯を、膨大な時間をかけて聞いていきますと、詐欺的な結末となったのは意図的なものでなく、“バブルの崩壊”によるものであることが分かります。その事実を集める苦労は、“筆舌に尽くしがたい”という言葉そのものでした。

 分岐点の一つを示しておきましょう。

 被告担当者が、原告の一人である女性と、フアミリーレストランで営業中、その真実を語る出来事の一つがありました。その時、女性の知り合いの方が、座る席がなくて偶然同席になった際、知り合いに対する彼女の話がありました。当然、被告担当者の陳述書にも、準備書面にも書きましたが、裁判官達には原告の主張は崩せないと判断したようです。当方に億単位の和解を迫るのですから、結局、証人尋問になりました。

 裁判官の思い込みをどう崩すかが、当方のプレゼンテーションです。 最後の手段として、先ず裁判官が反対尋問を続ける私に、「その質問は止めてください」と異議を出させるまで原告の女性に対し、何時「儲かる」と言われたかの種々の場面を示して、回答を迫りました。いくつもの事例を出していたところ、思い通りに裁判官が介入してきました。そこで初めて、私は、“あなたがこの知り合いと、どのような話をしたか”について具体的な内容を聞きました。警戒していた担当者は、当時、景気の変動もあるし、保証まではできないと言っていたのです。彼女は、私が原告方の弁護士になっていれば、まず考えられない状態、“真っ白”になって支離滅裂の証言になっていったのです。

 これは、原告弁護団の勉強或は準備不足以外の何ものでもありません。これらの事実は、被告担当者の陳述書にも、準備書面にも書いてあるのですから、徹底的に準備しなかった原告弁護団の責任です。

5. 当事務所は、証人として法廷に立っていただく方に対しては、徹底して準備及び復習することが常識です。教育のようになってしまいますが、前項のように、極度に緊張される方もいらっしゃるのです。故に、相手方の質問を予想し、幾通りものパターンを作って事前の準備をします。究極は、劇場性など生じないようにすることです。事件の終着点と、その見通しがつけられるなら、その準備などそれ程難しくありません。

 結論ですが、劇場性のあった証人尋問が演じられるなら、むしろ演じさせられた証人の弁護士は、無能なのです。

でもこんなことを書いていては、コラムとして面白くありませんね。 従って、次回は、証人尋問の劇場性について書いてみます。 私が、諸外国の裁判制度、O.Jシンプソンの裁判視察など、当時興味をもったことを中心にして、紹介したいと思います。

 

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