新宿の顧問弁護士なら弁護士法人岡本(岡本政明法律事務所)

当事務所では、上場企業(東証プライム)からベンチャー企業まで広範囲、かつ、様々な業種の顧問業務をメインとしつつ、様々な事件に対応しております。

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コラム - 201605のエントリ

 

一 以前紹介した経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上に向けて」(平成28年2月8日公表)というハンドブックのうち、今回は有効な競業避止義務契約を締結するための基準を紹介したいと思います。
 
二 これまで本コラムでも紹介しております通り、従業員退職後の競業避止義務規定を定めることについては、職業選択の自由を侵害し得るため、判例上制限的に考えられております。
   具体的には、①守るべき企業の利益があるか、②従業員の地位について、③地域的な限定があるか、④競業避止義務の存続期間、⑤禁止される競業行為の範囲について必要な制限がかけられているか、⑥代償措置が講じられているか、が重要な基準になると考えられております。
   経済産業省のハンドブックにおいては、上記①~⑥について裁判例がどのように判断しているかを詳細に検討しておりますので、ご紹介します。
 
三 まず、守るべき企業の利益について、経済産業省のハンドブックは、不正競争防止法上の「営業秘密」とまでいえなかったとしても、営業方法や指導方法等に係る独自のノウハウについては、企業側の利益があると判断されやすい傾向があるとされています。
   実際に当事務所が対応している案件において良くある反論として、あくまで従業員が個人的に人的関係を構築して営業活動を行っていたので会社の財産ではない、というものがあります。
もっとも、経済産業省のハンドブックは、「人的関係の構築が企業の信用や業務としてなされたものである場合には、企業側の利益があると判断されやすい」としていますし、実際に当事務所で対応している経験からしましても企業の業務の一環として構築された人的関係の場合には会社側の主張が認められ易いように感じております。
 
四 従業員の地位について、経済産業省のハンドブックは、合理的な理由なく全従業員を対象にした契約、特定の職位にある者全てを対象にしている契約は有効になりにくいとしています。
    言うまでもないことですが、使用者が守るべき利益との関係で当該従業員の具体的な業務内容が重要であるといえなければ、競業避止義務は有効になりにくいと言わざるを得ません。
 
五 地域的限定について、経済産業省のハンドブックは、「地域的限定について判断を行っている判例は少ない」とした上で、「地理的な制限がないことのみをもって競業避止義務契約の有効性が否定されている訳ではない」としています。
   もっとも、地域的制限ができるのであれば、制限をしておいた方が競業避止義務契約の有効性が認められ易くなることは言うまでもありません。
 
六 期間について、経済産業省のハンドブックは、「1年以内の期間については肯定的に捉えられている例が多い」とした上で「近年は、2年の競業避止義務期間について否定的に捉えられている判例がみられる」としています。
   当事務所が実際に相談を受けている印象としても、一般的に2年の競業避止義務を課している契約書や誓約書等が未だに多いと考えられますので、注意が必要だと考えています。
 
七 禁止行為の範囲について、経済産業省のハンドブックは、「禁止対象となる活動内容や職種を限定する場合においては、必ずしも個別具体的に禁止される業務内容や取り扱う情報を特定することまでは求められていないものと考えられる」としています。
    もっとも、一般的・抽象的にしか規定されていなければ有効性が認められない可能性が高いわけですので、実際に契約を締結する場合には注意が必要です。
 
八 代償措置について、経済産業省のハンドブックは、「代償措置と呼べるものが何も無い場合には、有効性を否定されることが多い」とした上で、「みなし代償措置」のようなものでも肯定的に判断されているとしています。
   実際に当事務所で相談を受けている事案を考えてみても、代償措置がなされていないケースが極めて多く、競業避止義務契約を締結する際には工夫が必要です。
 
九 以上の通り、有効な競業避止義務契約を締結するために必要な考え方を紹介しましたが、実際にどのような契約を行えば良いかどうかについては非常に微妙な判断が必要になりますので、是非一度ご相談ください。

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一 以前紹介した経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上に向けて」というハンドブックのうち、今回は従業員に向けた具体的な情報漏洩対策を紹介したいと思います。
 
二 従業員に向けた具体的な対策として一般的によく挙げられるのが、秘密情報を閲覧・利用することができるアクセス権者の範囲を適切に設定し、アクセス制限を行うことです。
   このことは、不正競争防止法上の「営業秘密」に該当するかどうかを判断する際の基準としてもよく挙げられる基準であり、非常に重要と考えられています。
   具体的には、書類等については施錠された書庫等に分離して保存した上で入退室を管理することが重要ですし、電子データについてはアクセス権を有する者のIDのみからアクセスできるようにすることが重要です。
   経済産業省のハンドブックでは、小規模企業でも行える施策としてペーパーレス化や電子化された秘密情報のうち、印刷できるデータの内容を限定すること等も挙げられています。
 
三 秘密情報の持ち出しを困難にさせる施策も重要とされています。
具体的には、秘密情報が記載された会議資料等に通し番号を付けて出席者と関連付けして把握した上で会議が終了した際に全て回収して管理すること、従業員の私物USBメモリなどの持ち込みを禁止すること等です。
   また、実際に当事務所が扱っている事件においては、刑事告訴した際に、警察などから「社内のパソコンについてUSBメモリ等の外部記録媒体への書き込みができない設定にしているか」という点を問題にされることも少なくありません。
   そこまでの対応は大企業でなければ難しい場合が少なくないと思いますが、せめて電子データを暗号化するなど可能な限り従業員が秘密情報を持ち出せないようにする施策を講じる工夫が必要です。
 
四 仮に秘密情報の漏洩を行ったとしてもすぐに見つかってしまう状況になっているということを従業員に認識させることも重要とされています。心理的効果によって、故意による秘密情報の漏洩を防止できるからです。
具体的には、秘密情報が保管されている書庫や区域に「関係者以外立ち入り禁止」という掲示を行ったり防犯カメラを設置したりすること、情報システムにおけるログの記録や保存を行っていることを周知すること等です。
これらの対策は、実際に秘密情報の漏洩が発覚した後に証拠にもなり得ますので是非とも実施されることをお勧めします。
 
五 さらに、不正な行為を行った従業員に言い逃れをされないようにすることも重要です。
具体的には、可能な限り多くの従業員が参加している会議や朝礼などにおいて、何が秘密情報であり、どのようなルールになっているかを確認するなどして、従業員に秘密情報の取り扱いルールを周知したり、秘密保持誓約書等を締結したりすることが重要とされています。
   当事務所が扱っている案件においては、専門家による研修を行ったり、従業員の理解度を確認するためのテストを行ったりすることによって、言い逃れされないようにしている会社が見受けられます。
 
六 以上のような対策の他にも経済産業省のハンドブックには様々な対策が具体的に記載されていますし、従業員に向けた対策の他にも退職者、取引先、外部者に向けた対策を取ることも必要です。
   情報漏洩の具体的な対策を検討している方は気軽に当事務所にご相談いただければ幸いです。
 

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一 当事務所で秘密情報の漏洩に関する相談が増加しており、様々な案件に対応していることはこれまでも本コラムで記載してきたとおりですが、経済産業省は平成28年2月8日付けで「秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上に向けて」というハンドブックを公表しました。
   「大企業の約40%、企業全体の15%弱が、『自社の営業秘密の漏えいがあった若しくはそのおそれがあった』と回答」(平成26年経済産業省調査)しているにもかかわらず、「営業秘密の漏えい防止策について、企業全体の約35%、中小企業の約40%が『取り組んでいない』と回答」(平成26年帝国データバンク調査)しているとのことですから、このような現状を見るとまだまだ秘密情報の漏洩は続くものと判断せざるを得ません。
経済産業省としても上記ハンドブックを公表して秘密情報管理に関する啓蒙活動を行わずにはいられないということなのだろうと思われます。
 
二 秘密情報を管理することの重要性は改めてお伝えする必要がないかもしれませんが、一番大きいと思われるのは、競争力を失うことです。
   いうまでもなく、競合他社に対して秘密情報が漏洩すれば競争力を失い、競合他社に顧客を奪われてしまう可能性が強いでしょう。
   また、秘密情報を漏洩させてしまったという事実自体が、企業の社会的信用を低下させることにもつながりません。
   そればかりか、秘密情報が顧客情報の場合には、顧客情報を漏洩したことにより、顧客から訴えられる可能性も出てくるのです。
   このように、秘密情報の漏洩は企業にとって致命的な事態を及ぼしかねません。
 
三 経済産業省のハンドブックには、概ね、秘密情報を決定する際の考え方、情報漏洩対策の具体例、秘密情報管理にあたっての社内体制、紛争への備え、情報漏洩事案への対応方法などが事細かに記載されております。
   また、当該ハンドブックには、秘密情報管理に関する就業規則例、情報管理規程例、秘密保持誓約書例、秘密保持契約書例なども細かく記載されており、実務にも大変役立つ内容になっています。
   もっとも、当該ハンドブックは100ページを大幅に超える大作であり、法律的な裏付けに基づいて記載されておりますので、軽く読んですぐに全てを理解できるというものでもありません。
   そこで、本コラムでは、数回にわたり、当該ハンドブックの内容を簡潔に紹介したいと思っております。
 秘密情報の管理に向けて社内規程の整備を検討されていたり、情報漏洩事案への対応を検討されたりしている場合には、当事務所にご相談いただければ幸いです。
   

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一 夫契約の生命保険が離婚した先妻のものになるのかという質問
 
1 今回も前回と同様、20年ほど前、旧知の友人から受けた相談です。
彼とは大学時代、一緒に絵描きの仲間として付き合っておりました。彼は不思議なほど女性の方から相談を受けることが多いのです。私には羨ましい存在なのですが、彼はこのコラムの愛読者でもあります。彼は具体的な内容は話さず、しかし要点を外さない相談を持ち掛けるのが常です。このような対応を含めて不思議な魅力のある友人でありますが、その相談は次のようなものでした。
今回の相談相手も女性で、次のような内容でした。「主人が亡くなり、調べていたら、主人が生命保険に入っていたことが分かったそうだ。すぐ保険会社に連絡したが、保険会社から、あなたには払えないと言われたらしい。保険金受取人がずいぶん前に離婚している元妻の名義になっているからだという話しだ。でも元妻は再婚していて、主人の生命保険を貰う理由がない。こんなことが許されるのだろうか」というものであります。
友人は、保険会社も関連企業にもつ有名企業のエリートサラリーマンですが、自分でも保険会社の説明はおかしいと思うので相談の連絡を入れたというのです。
 
2  私は、昔この判例を読んでしっくりこなかったことを思い出しました。ついでだから、この判例を精査したいと思いました。
当時、会う楽しみを優先させた恩着せがましい提案をしました。つまり、彼は何時も、自分の勤める会社の顧問弁護士達より私のほうが圧倒的に優秀だと褒める反面、相談ばかりで金になる仕事を回してきたことはありません。そんなこともあって、この相談を私の楽しみに変えようと思いました。
そこで「保険が遺産でないことは君のようなエリートが知らない訳がないよね。受取人に「妻○○」という記載がそのままで、その後離婚していても、最高裁の判決は保険会社の言う通りなんだ。しかも元妻は再婚して姓も変わっているんだものね。君が納得できないという気持ちはよく分かる。自分も、昔勉強した時、一度この判決を精査したいと考えていた。俺が無能だからという訳ではない。君は、俺ができる弁護士だと何時も言ってくれているよね。だから時間を頂戴。事務所で相談しようぜ。あとは飲もうぜ。」と「調べる楽しみ」と、「飲む楽しみ」を確保しました。
ところで、今回このコラムを読む友人に、当時の私の気持ちを知ってもらえれば、20年ぶりの話題を肴に、再度美味しい酒が飲めるというものです。
 
二 最高裁判決に疑問を持つことは健全か?
 
1  早速友人が納得できる資料収集に邁進したのですが、私の感覚は当時から冴えていますね。私の違和感は最高裁上告理由書まで読んでやっと得心できました。
 
2  調べたい最高裁判決(昭和589月8日第一小法廷判決)ですが、先ず、私の自宅の書斎を埋め尽くしている何十冊もの一冊「最高裁判例解説 民事篇 昭和58年度」(法曹会出版)を読んでみました。この解説書は有名な注釈本を百倍にした程度ではありますが、私の感性に訴えてくるものがありません。そもそも上告理由書がないのです。
     でも驚きました。元妻は自らの不貞を理由に夫と離婚しているのです。しかもこの保険は団体定期保険だというではないですか。夫は医師で○○県医師会の団体保険に加入していたというのですから、私が弁護士会の団体保険に加入しているのと全く同じです。私だって弁護士会の団体保険がどうなっているのかなど関心がありません。受取人の名義変更を放置していた状態というのはよく分かります。
 
3   早速、弁護士会の図書館に行って保管されている最高裁判例を調査しました。昭和58年の判決ですから当時は最近の判例と言っても不思議ではないのですが、なんと裁判長はあの有名な団藤重光博士でありました。あの尊敬する団藤先生が事情の勘案もされず、私にとっては一方的と言えるほどの保険会社寄りの判決をお出しでした。そもそも上告理由書を読んで自分の大学時代を思い出したと言うのが正直なところです。私の学生時代、大学の閉鎖性や古い体質改善を求めて運動した学生が7名除籍され、その当時の学友を思い出しました。この調査当時、7名の除籍者のうち3人目の自殺者がお茶の水聖橋から投身自殺しております。
 
4  上告理由書の「はじめに」だけでも読んでください(原文のママ)
 「上告人が心から希うところは、万人の納得に値する判例の樹立である。我国における資本主義体制は、永年に亘る助長政策によって、遂に発展の極度にまで達し、今や、そのための必要悪とせられておった非道義性の修正をもって、緊急の課題とする時点に至った。同時に、その間逼迫を已むなくせられていた、我民族固有の道義感は、正に、甦生の時を得たといえるのである。この際に当たってなされた、原審判決の内容たるや、旧態依然たる大量契約保護主義の残滓以外の何ものも、これを認めることができないものであって、これを、現時代における公正なる社会通念として、よく黙視することは、到底あり得ないのである。本件は、正に、時代を画すべき試金石といえるであろう。くしくも、被上告人らの第一審における答弁書の付記は、このことを暗示する感が深いのである。」
  私は上記最高裁判決を形式的なものと思わざるを得ません。名義の書換えが放置された経緯をもっと検討するべきであったと思います。

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