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コラム - 201604のエントリ

 

一 葬式費用、お墓はどうなるのかという質問
 
1 旧知の友人から、突然電話がかかってきて、葬式費用やお墓の相談を受けたことは数え切れません。
私の友人達は、ちょうどご両親が亡くなられる時期を迎えておりましたから、このような緊急の相談が多かったのは当然のことでしょうね。訃報を聞いてとりあえず集まった子供たちが相談するのは葬儀の費用負担であります。葬儀屋さんをお呼びして話しをしますと、ではお墓はどうなるのだろうという疑問が生じ、再度私に相談の電話が来るというワンパターンの経緯を辿ります。
 
2 最近は、一度に全てを教えてしまうようにしております。意外とみんな驚いてくれますが、これは通常お墓も相続財産だと考え、こう考えるのが近代民法だという刷り込みがあるからなのでしょうね。
  先ず、これに関係する民法をみましょう。民法第897条です。「祭祀に関する権利の承継」という条文です。条文を読めばある程度理解できます。つまり「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先祭祀を主宰すべきものが承継する」と規定され、前条の大原則第896条「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」の例外法理として慣習を持ち出すのです。でも私の友人の多くは「その慣習が分からない」と言いますので、本当に時代は変わりました。
 
3 また第897条には「葬式費用」が書いてないじゃないかと疑問を提起する友人もおります。その際には私から「誰が香典を貰うの?」と質問することにしております。香典は「主宰者」が貰うはずです。ところで漢字に注意してください。「主催者」ではありませんよね。つまり最近は相続人が主催者にならない「お別れ会」方式のものも流行しておりますので、短時間で説明するときには、「普通の葬儀だよね」と念押ししないと危険です。もちろん“葬祭費は、その儀式の実質的主宰者が負担するべきものである”という判例も出ております。
 
4 葬祭費を相続人で分担する例も増えておりますが、お墓はどうなるのでしょうかね。慣習が分からないのでお寺さんにその地方の風習を聞くようにアドバイスすることもあります。
でも「お骨を返せ」、或は「分骨させてください」という事件依頼には「慣習」とは違う解決を模索しないとならない場合もあります。
本来、お骨の所有権の帰属も前項の条文に従い主宰者のものとなりますが、相手に内容証明を送るまでして裁判になったことはありません。前項で示しました第8972項によりますと、「慣習が明らかでないときは・・家庭裁判所が定める」としております。しかし裁判までするということには疑問をもっております。やむを得ない場合を除いて、裁判を主張される弁護士が果たして有能な弁護士なのでしょうか?お骨の主人公が生きておられればお怒りになるでしょう。
私は、お骨と一体となって生活したいという依頼者の覚悟をお話しして、分骨をお願いしてはどうかと説得しております。既に納骨されておりますと分骨はお寺さんとの関係処理も出てきますので丁寧にお願いして結論を出すようにしております。これまで、こじれた例はありませんでしたから、私の依頼者は“きちんとした方”ばかりです。
 
二 日本の相続は、いまだ「家制度」が必要なのか?
 
1 「相続事件簿その5遺言と遺留分」を読んで、ある方から日本の家族に対する認識が従来と大分変遷しているのではないかという感想が寄せられました。私のコラムに対する真摯な感想が寄せられることはうれしいのですが、“日本の民法学者は古い”或は“新たな家族理念に基づく解釈乃至立法活動が必要”という批判と分かります。
確かにエマニュエル・トッドのいうように、日本はまだ直系相続の国なのでしょうか?今の我々は民主主義が十分に根づいている、否、家族の崩壊という理由により劣等国家のような状況は最早ない、と反論する読者が出てきても不思議ではない時代になりました。
 
2 民法第897条のコンメンタール解説書を見ると確かにそうです。
「本条は、系譜、祭具及び墳墓等の祭祀財産について特別の承継ルールを定める。戦前の旧規定では祭祀財産は『家督相続人の特権に属す』とされ、家督相続人が独占的に承継した。しかし、戦後家督相続が廃止され遺産相続に一本化された後も、なお一般の相続原則の例外とした趣旨は、従来の慣行や国民感情に配慮したことと、祭祀財産は分割相続になじまないことにある。しかし、祖先崇拝と結び付いて家制度を温存するとの批判も強い」とあります。
 
3 「相続事件簿その5」のコラムでは個人成育史まで書いたことにより、皆様の関心はいただきましたが、本当に難しい問題なのです。
家制度、特に直系相続などについて興味を持たれる方には、「日本の起源」という3年ほど前に出版された歴史本を紹介しましょう。「日本の起源」は、3年前かなり売れた本ですが、新進気鋭の歴史学者である東島誠氏と與那覇潤氏の対談本です。
この対談の趣旨は、日本の歴史が卑弥呼の時代から、つまり天皇制が始まる前から分析され、「家制度」がとられざるを得ない必然性を分析し、その必然性から歴史は反復してきたという内容を解説した快著で、家制度に対する幻想も吹き飛びます。
では「家制度」は、もはや現代文化からほど遠い「慣習」とも言えない文化状況になったのでしょうか。私自身の経験からしますと、次世代に期待したいという「ずるい結論」になるのですが・・。
皆様はどうお考えでしょうか?

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一 特別受益が問題になった事例
 
1  今回は特別受益が問題になり、その解決に大変苦労した事例を紹介し
ましょう。
前回と同様、バブル景気に湧いた当時の事例です。
問題の発生はバブル景気を遡り、失われた10年と称された不景気のど真ん中、昭和50年頃のことです。当時、相談者のお父さん(以下、父といいます)が、借地上に建物を建てて相談者のご長男家族と同居されていました。昭和50年頃は不動産価格もどん底で、当時、お困りになった地主さんから底地を買い取ってくれないかとお願いされたそうです。ご高齢の父には資力がなく、同居していた長男である相談者がその底地を買い取ることで話がつきました。相談者ご夫婦は、当時より、父母の介護を続けてこられましたが、ご両親が亡くなられたバブル景気の頃には、その土地の値段は驚くほど高騰していたのです。
 
2   相談者のご兄弟は、父の遺産分割を主張されました。
相談者は、父の遺産については、預金と僅かな株式、本件で問題となる価値のない建物しかないと反論していたところ、ご兄弟に弁護士がついて「被相続人には借地権という莫大な遺産がある。それを処分なりして法律に従って分配して下さい」と言ってきたというのです。
これは大変なことです。建物に価値などありませんが、借地権は土地そのものであり、しかも都心にある一等地なのです。
路線価により借地権割合7割とすると、億単位の話しになってしまい、相談者に支払える金額ではありません。しかも相談者は父のお願いによって底地を買われたのであり、その後何年もの間、父母の介護に努めてこられました。
 
二 多岐に渡る論点
 
1 論点整理
借地権は存続しているのか?消滅しているのか?借地権が存続しているなら、父の借地料等は何故支払われなかったのか?
借地権が消滅しているのなら、父の建物の利用権はどのように評価すればいいのか?
借地権が消滅している場合、底地を購入した相談者には借地権価格を除いた底地価格で購入したのであるから、借地権価格が贈与となり、特別受益にならないのか?
特別受益とすると、特別受益とされる借地権の評価は何時の時点で考えるのか?
特別受益とすると、黙示による持戻し免除の意思表示が検討される必要があるのではないか?
 
2  今回のような事例、或いはこの変形は、実は多いのです。
通常、相談者は、相続税に関する税法上の配慮もあり、借地権は消滅したと主張されることが多いようです。法理論としては民法179条による混同の法理ですね。「同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は消滅する」と言う法理です。
上記主張をする場合には、更に底地相当の価格分に関する贈与を受けたとして、特別受益の認定がなされるでしょう。これは底地の評価額ですから莫大な金額を相続分として持戻しせねばなりません。
上記の場合には、次の理論による手当てが必要です。即ち、父が「黙示で特別受益としない」、つまり相続分として持戻ししなくてよいという「持戻し免除の意思表示」があったと主張しないとなりません。ここまで裁判所に認定されないと勝負の意味がないのです。微妙です。
では、借地権が消滅しないとする主張も考えてみましょう。
消滅しないなら、父は建物を所有しているのですから借地料等を支払わねばならないはずです。父は上記事実に頓着せず、当然に賃料等の費用に関する支出はありません。上記の状況で借地権が存在すると言っていいのでしょうか?当事者の誰も借地権が存続すると考えていなかったというのが本件の素直な解釈で、黙示の合意とも言えます。
以上のように考察し、これを使用貸借に変じたとされる学者或いは判例も当然に出てきます。親族間の建物所有に関し、土地の使用貸借は、例え借主が死亡しても当然には契約終了にならないとし、民法599(使用貸借の終了)の適用を否定する考え方です。事案に素直ですね。
本件においては、父の相続人は父の使用貸借という法的立場を相続し、相続人間で相続法理に基づいて決着するという流れになります。
しかしながら、使用貸借として評価される金額は、借地権と比較し大幅に低額です。
 
三 本件の解決
   何が解決の急所になるのか、「生もの」の事案は不思議ですが、本件は相談者ご夫婦が、長年父母の介護を続けてこられたことが解決のポイントになりました。ご兄弟も相談者ご夫婦の長年の労苦を知っておられましたので、最後まで無理を言われる対応をされませんでした。
   ご兄弟の弁護士は、最終的に土地の使用貸借相当分の評価額でよいという姿勢を示されたのです。古い非堅固建物であることからして、評価額は1割程度と認定するのが我々の常識です。
税法上の工夫も必要であり(税理士の先生との共同作業です)、総合的な評価・検討が不可欠です。当時は相談者の寄与分まで検討しました。
結論として、上記評価額及び預金等を各兄弟に分割してお支払いするという内容で和解しました。でもバブル期の高騰した相続時を基準にした評価額ですから、支払いはそれなりの金額になりました。
その後のバブル崩壊まで考慮されないのが残念ですね。

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