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コラム - 201312のエントリ

 

一 地方公共団体の努力
 
 1 今回は条例との関係を見ていきましょう。
    皆さんに「迷惑な不動産」と聞けば、山村の家屋等を思い出されるでしょう。地方公共団体は崩壊寸前の家屋や土地上の工作物により、その危険性を防止するため本当に困っております。
「限界集落」という言葉はご存知ですよね。65歳以上の高齢者が当該地方公共団体の総人口の過半数を占める状態になると限界自治体と言います。急激な高齢化或いは都市一極集中により、再来年には限界自治体が51団体になるという恐ろしい数字も予想されております。
そしてその後「消滅集落」になるのです。住んでいる人がいなくなってしまうのですから、当然、管理できる方もいません。不動産は荒れたままに放置され、私の田舎の山里では、猪や鹿と共存する居住空間に変貌したそうです。
 
2  条例、特に今制定が増加している「空き家管理条例」は、不動産の放棄或いは相続放棄に関係せざるを得ず、今まで説明してきました法律の「罠」に嵌ってしまわないようにする注意が必要なのです。
       そもそも今回のコラムを書こうと思った「きっかけ」は、「空き家管理条例」が制定され始めた最初の頃(と言っても僅か23年前にすぎません)、注意せねばならない重要な視点が欠落しているのではないかと思ったことです。これでは有効性のない条例に終わってしまうぞとも思いました。
つまり「地方公共団体の顧問弁護士の先生よ!しっかりしてくれ!」というエールのつもりが「きっかけ」なのです。
 
  都市町村の地方公共団体は近時1,700を超えているとされています。
         地方公共団体は、憲法によって法律の範囲内で条例を制定できることになっております。地方公共団体は条例を制定して危険物の排除つまり工作物の取壊し等をできるように行政代執行の定めを置くものも登場してきました。先ほど紹介しましたとおり「空き家管理条例」の制定は、今地方公共団体でブームになっています。多分、制定そのものは雑草除去条例のほうが先だったと思いますが、三重県名張市では行政代執行による強制除草をできるようにまで予定して作られております。なかなか頑張っている地方公共団体もありますね。
ところで最も強制力の強い行政代執行ですが、平成24年初め、制定されたばかりの条例に基づいて、秋田県大仙市が雪の重みで倒壊する恐れのある家屋を代執行で撤去しました。その勇気は称されるのですが、残念ながらその代執行費用約178万円の回収が困難になったのです。早速、地方自治法の学者先生から、費用の回収ができないことも含めて住民訴訟の恐れもあるなどと指摘されております。「そんなに責めないで」と地方公共団体担当の方に変わって言っておきます。
 
4   地方公共団体では、これまで産業廃棄物の処理関係、環境保護関係等の条例制定が先行しておりました。例えば、バブル景気頃の産業廃棄物の排出はすさまじいものがありました。他人の土地に不法廃棄する産廃業者。或いは産業廃棄物を自らの土地に集積させて小銭を稼ぐ土地所有者の出現。それによる環境破壊はすさまじく、人の住めない環境になっていく状況に地方公共団体は困り果てました。
       以上を見ていくと、一回目コラムの相談事例がそのまま条例でも問題になっているのですから、驚きませんか?
 
二 条例での注意点
 
1   空き家管理条例に関心をもった最初の「きっかけ」ですが、制定する地方公共団体では、自分の内部のことだから市民たちの個人情報を勝手に見られると思っているのではないかと疑問に思ったことです。地方公共団体は市役所や役場ですが、地方の権力を握っております。個人情報に関しては謙抑的であり、且つ情報開示にも尽くさねばなりません。つまり弁護士等の職業人ですら戸籍謄本を始め個人の情報を取得するには種々条件が付せられるのに、役所なら何をしても平気ということはないでしょう。例えば、住所が同じ市町村内にあり、戸籍謄本或いは除票等まで、同じ役所の中で見られる場合であっても、制度として個人情報の取得ができる規定を制定しなければいけないと判断されます。それが法治主義でしょう。
   このような疑問を感じて条例制定などを検討する地方公共団体の方々の書かれるネットを見ていると、それ以外にも何故もっと突っ込んだ検討をしないのかとアドバイスを送りたくなったのです。
 
2  その一つは、他の地方公共団体や家庭裁判所の利用の仕方です。
空き家の場合、所有者が分からない状態になっていることが多く、登記簿謄本だけでは所有者或いは占有管理者等が判明しない例が多いのです。我々が通常調査をする戸籍謄本や除票或いは附票の取り寄せが必ず必要になります。これらを取得する内部規定或いは外部の地方公共団体と関係する規定を整備しなければなりません。
次に相続放棄をしているかどうかまで調査する必要が出てくるでしょう。放棄をした最後の相続人は、国庫に帰属させるまで不動産を管理しなければならないことは何回か前のコラムで紹介しました。民法第940条ですね。
つまり放棄をしているのかどうか、相続財産管理人を置いているのかどうかについて家庭裁判所に問い合わせをするシステムを立ち上げ、得た情報に基づき、不動産所有者或いは管理者に対して、調査・連絡・警告・その後の処置のシステム作りが必要なのです。
これだけでも、私が当時の空き家管理条例を不十分だと思った理由は分かっていただけるかと思います。
私は、これら検討事項以上に、地方公共団体の方々にもっと自信をもって前にすすめてもらいたいと思う事項もあります。
 
3   代執行の是非論等はさておき、危険不動産を国等の管理に委ねる相続財産管理人制度の利用までを取りこんではどうかということです。
    劣悪建物等の工作物は、最終的に行政代執行の問題にもなりますが、今後は放置された土地も増加するはずです。土地はなくなりません。国土の一部ですから残ります。そこで相続財産管理人制度を利用し、所有権を国に帰属させてはどうでしょうか。確かに相続財産管理人制度には費用がかかることは前のコラムでお教えしました。であるならその費用を公費で負担する制度も検討して良いでしょう。
確かにこれらの検討事項は、国の政策になるかもしれません。でも、そうであるなら、そのような意見を地方公共団体から国にあげてほしいのです。不動産による危険性は今後も増大し続けると思います。
その具体的な例として適切かどうか疑問は残りますが、生活保護法の場合も参考にできます。生活が困窮しているものの価値のない不動産を持っている場合、援助が必要であるなら、当該不動産等必要な調査をした後に支給されております。
代執行費用の経費も前もって予算に取り込む、また管理者等に請求できない場合も予め決めておけば、貸し倒れ等の心配は生じません。そもそも家庭裁判所と相談をして予納金の割引を申し入れるぐらいのことはしてもいいと思います。
根本的には、不動産の放棄条項に手をつけるなど、相続財産管理以外の全く違う制度の検討が必要なのかもしれません。
 
今回は、私もあまり取り扱わない条例に絞ってみました。


 

 

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