新宿の顧問弁護士なら弁護士法人岡本(岡本政明法律事務所)
当事務所では、上場企業(東証プライム)からベンチャー企業まで広範囲、かつ、様々な業種の顧問業務をメインとしつつ、様々な事件に対応しております。
コラム - 201310のエントリ
不動産の格差社会到来(その1)
- カテゴリ :
- 不動産の放棄
一 自由競争は格差社会
1 あなたの周りには激しい格差が生じておりませんか。
あなたのことを言うのは余計なお節介ですから、私の業界である弁護士業界と格差社会の典型であるアメリカについて話しましょう。
弁護士業界での格差、即ち食べていける弁護士と、プアーな弁護士との格差が司法改革後すごい勢いで進んでおります。司法改革全部を悪いとは申しません。どんな職業であろうと利用者からの選別、即ち自由競争原理にさらされることは必然の成り行きだからです。
そもそも日本経済がグローバルスタンダードと言われる新自由主義の波を受けるのは、アメリカがその模範型なのですから必然のことでしょう。でも司法改革は自由競争の理念を先取しただけでなく、十分な検証もせず、フランス並みの弁護士人口と言って弁護士を爆発的に増大させました。マスコミ等の報道機関は自らの特権を顧みることなく、弁護士をその特権階級の見本の如く見做して全く擁護しませんでした。私は日弁連法曹人口問題委員会の当初のメンバーでしたが、既に数年前「宅弁」の実態を調べてほしい(意味は後述)などと日弁連執行部に都合の悪いことを言うためか、すぐに排除されました。寧ろ名誉ですね。
2 アメリカの絶望的なまでの格差社会については、堤未果著「ルポ貧困大国アメリカ」(岩波新書発行)を読んでいただければ唖然とされるはずです。この本は、世上いわれるブラック・ユーモア「盲腸になると破産する」という話が真実であることを証明している本なのです。
アメリカの所得格差の拡大は歯止めがかからなくなっています。人口1%の人が全体の富の約20%を握るという統計は、今後もどんどん増大するでしょう。
今日の新聞にオバマ大統領の暫定予算の編成について年度内成立の目途が立たなくなったと報道されております。オバマケア(医療保険改革法)の柱である個人への医療保険加入義務付けに関し一年延期が争点ですが、共和党が反対する根本理念は自由競争原則に反するというものです。自由競争といっても平等なスタートラインに立って公平に競争している訳ではないのですが、しかしながらアメリカにおける労働力の補充政策、今後も移民を受け入れ続ける状況を考えると自由競争という理念は絶対に放棄できない哲学なのでしょうね。
上記「ルポ貧困大国アメリカ」では、格差社会の原因として医療保険制度があることを指摘しています。我が国でも問題になっているTPPの論点も弁護士である我々は知的財産関係を問題視していますが、TPPでの重要争点は医療制度にあるように考えたほうがいいでしょう。
3 今回は問題指摘だけにしておきますが、弁護士業界に話を戻しますと、我が国の弁護士業界でも格差社会は激しい勢いで進行しております。法律事務所に入れてもらう形だけで給与のない「軒だけ借りる弁護士(通称、軒ベン)」、事務所がなく携帯電話だけで業務を行う「携帯電話弁護士(通称、ケー弁)」、自宅で法律事務所を開業する「自宅開業弁護士(通称、宅弁)」(人数の調査をしない儘放置)など面白おかしく新聞をも賑わすほどであります。もっとも私と同様の立場の経営者弁護士に景気はどうですかと聞いてみても、収入が増大したという弁護士は全くいないのが不思議です(ラッキーな事件は必ずありますがね?)。弁護士は増えすぎなのです。犯罪に手を染める弁護士も急増しています。
二 不動産を持っていれば何とかなるか(不動産神話の崩壊)
1 「不動産格差社会の到来」は前項に述べました自由競争とは少し場面を異にして発生しております。しかし価値観が崩壊する経緯を見ると、その近似性に唖然とせざるを得ません。
その昔から土地という不動産に執着してきたのが歴史です。不動産神話を前提にした対応、不動産を持っていれば何とかなるという意識が通用しない場合もある新しい時代の到来なのです。
2 そこで、先ず今回は不動産に格差が生じている相談事例をみて、次回は「不動産は放棄できない」という法律論を説明しましょう。放棄できないことによる絶望的状況と相続放棄等の法律論、更に「空き家管理条例」等も検証してみましょう。皆様ご期待の、このような場合に取り得る対策があるのかまで検証する意図も勿論あります。
このテーマは、現在の社会状況に端を発するものでありますから数回のコラムで終わるのか疑問なくらいです。とにかく「不動産の格差」という言葉が意味するところを先ず紹介します。このような序論を書いておりますと、私は、人間社会のあるところ、必ず全てにおいて格差が生じるという哲学的な話をしたいのかなとも思います。しかし弁護士の枠からは拡散しないように戒めております。
三 所有不動産を放棄したいという相談
1 整理回収機構(いわゆる「RCC」)時代
10年程前、私は整理回収機構の不動産部を創設した顧問の立場にあったことは既に本コラムでも紹介しております。採用時の面接で専務から「好きにやっていいですよ」と言われた話は今回省きます。
皆さん、整理回収機構は潰れた金融機関の整理が業務であったことはご存知ですよね。どんな立派な銀行であっても、どのようにしても処分できない不動産を借金のかたに取得したなどということはあると思いますが、RCCでの業務は本当に潰れた銀行の清算です。どうしようもない不動産が大量にありました。
田舎の一軒家のような限界集落の話のような皆様が考える物件だけでは面白くありません。例えば海の潮位が上がって、一日のちょっとの時間しか現れない土地、三重県の田舎に廃棄自動車が埋めまくられていて売るに売れない山林、産業廃棄物で健康に影響があって生活できない土地や値の付かない湯口権などがありました。処分の方向性について、いろいろ検討はしましたが、最後には、経済的に割の合う方法として、若い先生に不動産が放棄できるかどうかの法律調査までさせています。
2 近時の相談案件
最近、不動産を放棄したいという相談が急激に増えました。何故だか分かりますか?土地をもっていると固定資産税がかかり、税金がもったいないからというような「まっとうな回答」ではコラムにする価値がありません。
世の中の常識はどんどん変わっていきますが、「所有者責任」という理念が浸透してきたことも重要な一因です。
小学校の傍の土地を借金のかたに取り上げたが、井戸や段差があって土地の管理責任を尽くすように町からやかましく言ってくる。「井戸を埋めてください」、「子供が侵入しないように長い柵を設けてください」まではよかったが、最近は草を刈ってくださいとまで言ってくる。しかも細長い土地で、街道に接しているものの段差があって有効利用の工夫もできない。駐車場にしたくとも車を置いてからの交通手段もない。誰も買ってくれないので、結論として捨ててしまいたいという相談です。
捨ててしまいたい相談はまだあります。
崖のある高所の土地を買ったが、雨がすごくて崩壊する恐れが出てきた。崩壊して下の人の生命身体に何かあれば所有者責任だと責められている。雨が怖くて、このままではノイローゼになりそうだ。誰も買ってくれる人もいない。あげると言っているが誰も貰ってもくれない。所有者責任は刑事事件になる可能性もあると脅され、本当に怖い。
このような社会状況は「不動産の格差社会」と言わざるを得ませんね。
会社支配権と破産手続(その4)
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- 破産事件
1 パターン?の事例紹介
(1) 会社支配を巡る民事再生型パターン
ここで紹介するパターン?の事案の場合も社長の解任を発端にしております。元社長派が貸している債権の返済のないことを理由にして債権者破産の申立をしました。?の事案と異なり、現社長は元社長のやり方では事業が継続できないとして叩き出したのですから対抗心むき出しです。破産手続中止の申立、多少遅れて民事再生の申立をしました。
私は当初より調査委員に任命され、主として再生計画を遂行できるかどうかの調査をしたことになります。民事再生を分かりやすく説明しておきますが、要は、「経済的に窮境にある債務者」(民事再生法第1条による)を建て直すため、再生手続開始決定後も、従来の役員が引き続き会社を経営して(このような民事再生を「DIP型」と言います)再生計画案に基づいて事業を継続して再生させることを認めた法制度なのです。こんなありがたい制度はないでしょう。調査委員は利害関係人の申立による場合もありますが、裁判所の裁量で決まります。
(2) パターン?の論点(再生計画の弁済率は低額)
現経営陣は何としても現在の経営を続けていきたいというものでありますが、弁済期 にある債務を返済できないなら債務不履行となり、裁判所は破綻原因と認定するしかありません。現経営陣の当初の見込みも空しく旧経営陣に対する返済金は集められませんでしたが、現金商売ができる見込みがたったことから民事再生の申立をしました。
民事再生は、各債権者に対して総債権額の一定割合による返済をすることで企業の存続を目的にする制度なのですが、旧経営陣は再生計画案を認めることはないのですから、難しい案件になります。
大雑把な講義になってしまいますが、民事再生では、返済するべき債権額に関し、本当に低い弁済率で、且つ何年にも分割にして返済計画案を作ります。債権者(議決権者)の出席過半数及び議決権総額の2分の1以上の賛成を得ないと認可されません。旧経営陣からの賛成は期待できませんが、でも皆さん、債権者集会での賛成率の実態を知られれば驚かれることでしょう。私の近時の経験では50パーセントぎりぎりの賛成しか得られない案件ばかりが続いております。薄氷を踏む思いとはこのことなのです。
本件も本当にぎりぎりで返済計画案が賛成されました。私の職務は3年間の監督により、そして債権者名簿を裁判所に提出して終了となりました。
2 パターン?の事例紹介
(1) 営業譲渡をする民事再生型パターン
最後のパターン?の案件は、会社の支配権を巡り経営権を取得した現社長派が破産申立をしたが、解任された元社長グループは事業譲渡を内容とする民事再生の申立をして争った大変珍しい案件です。職種は申せませんが、世界的企業につながる業界でも有名な会社でした。
現経営陣は、破産申立直前に設立した別会社による事業の継続を図り、旧経営陣は新会社を設立して、その会社に対して事業譲渡(事業承継)を目論むという企業支配では通常考えられそうな典型事例でした。私は、調査委員、保全管理人そして破産管財人に順次任命されました。
当時、部の最も偉い裁判官から、営業譲渡までを想定した保全管理人による処理の仕組みを破産部の制度として作り上げたいとして依頼された経緯もありました。しかし、所詮、いずれの主張が破産法・民事再生法の理念に適合するかの調査・検討です。
双方が提起する諸条件を法律に従って調査・検討するのですが、双方の陣営の猛烈に緊張した熱い歓迎ぶりには、当事務所所属で私が代理人として選任した2名の若い先生方も刺激的な交渉だったと思います。
(2) 論点1(破産会社財産の取り込み)
先ず現経営陣グループの破産申立は、破産する会社の重要財産を別途設立した会社に殆んど取り込むという破産法にいう詐欺破産罪にも問擬しうる悪質さでした。経営紛争に起因する破産申立の場合、注意点はここにもあります。この会社は大会社でしたので珍しく関係ありませんでしたが、通常は、社長も破産申立を同時にします。社長も破産申立をしていたならば、本件では免責が得られなかったでしょう。免責制度は悪質な処理への歯止めとしても十分に機能しています。
私の財産取戻しは苛烈を極めたと思いますが、別会社の担当部長は最後には随分協力してくれたことが私の自慢であります。刑事告訴や損害賠償責任の追及にならなかったことだけでも、ましな結果だとご判断ください。
(3) 論点2(営業譲渡)
幾度も述べました事業譲渡が次の論点です。でも民事再生により行う場合、結論から言えば譲渡価格の適正性に尽きると断言できます。本件も著作権や無形の暖簾代が争点となりました。これらの財産は事業承継に不可欠なものですが、専門的な説明をしてもつまらないでしょうから省きますが、やはり「相当な価格」というのは高いですね。旧経営陣にも厳しい結果となりました。
裁判所から任命された私の職務は、双方のグループの思惑にまどわされることなく、法に従い適正に処理することです。双方が提起する条件を厳しく検討させていただき、営業譲渡後に破産決定を得て無事終了させました。偉い裁判官のご指示通り、東京地裁20部(破産部)のみの関与にて決済されたことになります(この運用は前々回のコラムを読んでいないと分からないだろうな?)。
3 破産事件コラムの感想
法をまとっても思惑は人の欲望に忠実であります。言葉を換えればその思惑は単純明快であります。パターン?の事件では迷惑を受けた者として別々の会社に区分される結果となった従業員「労働者としての苦渋」を書きたかったのですが、またの機会にしたいと思います。つまり破産関係のコラムは刺激的でもありますが、ちょっとした人としてのユーモアやアイロニーも少なく、味わいも「ギトギト」し過ぎて詰まらないと思うようになりました。
次回からは私が単なる「イケイケドンドン」の弁護士ではないことを示したいと思います。事件の関係者は繊細であり、事件処理に限っても「イケイケドンドン」だけでは通用しません。そもそも細やかな配慮と熱心に事件に向き合うこととは矛盾しないのです。
従って、学術的な側面も加味して「不動産の格差社会・不動産は放棄できるのか?」を論点として書こうと思っております。