新宿の顧問弁護士なら弁護士法人岡本(岡本政明法律事務所)
当事務所では、上場企業(東証プライム)からベンチャー企業まで広範囲、かつ、様々な業種の顧問業務をメインとしつつ、様々な事件に対応しております。
コラム - 201308のエントリ
1 会社の利益と職業選択の自由のせめぎあい
(1)安倍政権が安定し、今後の政治課題として雇用改革が論点の一つになってくると考えられています。終身雇用制が崩れ、雇用が流動化していくことになるのでしょうか。
会社としては「問題社員」に辞めてもらいやすくなることは好ましいでしょうが、優秀な社員まで退社してしまうのは考え物でしょう。優秀な社員であればあるほど退社後は今までのキャリアを生かして同じ業種で一旗あげたいと考えるはずです。
今後、退職後の競業避止義務特約を締結するかどうか十分な検討を必要とする例が増えてくると思われます。
(2)もっとも、みなさんご存知の通り、退職後の社員には職業選択の自由があります。職業選択の自由は憲法に規定されている人権です。
そのため、会社と元社員が退職後の競業避止義務特約を締結したとしても簡単に有効になるわけではありません。
2 裁判例の考え方
(1)不正競争防止法で規定されている範囲内のことを定めたにすぎない場合(例えば「営業秘密」の持ち出し)の特約は原則として有効になると考えられます。(不正競争防止法の具体例については以前より当コラムで紹介しておりますので、こちらをご覧ください)
問題は、不正競争防止法で定める範囲を超えて新たに競業避止義務を作り出してしまったような場合です。
このような場合、裁判例の考え方からすれば、使用者の確保しようとする利益と労働者が受ける不利益とを比較して、制限の範囲が合理的だと判断される限度でしか有効だと認められません。
具体的には、退職前の地位と役職(地位が高いか)、競業行為の態様(地位を利用しているか)、競業が禁止される職種・業種の範囲、期間、地域が限定されているか、代償措置の有無などを基準にして判断されることになります。
(2)会社の方に、期間や地域が限定されている必要があります、というお話をすると、では何年なら良いのか、と聞かれることがあります。
しかし、競業避止義務を退職後2年に限定している例について、長いと判断した裁判例も短いと判断した裁判例もあります。
もちろん、短ければ短いほど特約の有効性は高まりやすくなることになりますが、裁判例はそれだけで判断しているわけではないということです。
(3)退職後の競業避止義務を有効と判断した主な裁判例を挙げると次の通りです。
東京地裁平成19年4月24日判決(ヤマダ電機事件)は、元従業員が全社的な営 業方針、経営戦略等を知ることができる地位にいたことなどを重視していると一般的に考えられています(期間は1年間)。
東京地裁平成16年9月22日決定(ト―レラザールコミュニケーションズ事件)は、代表者に次ぐ高額給与を支給されていたことや会社のノウハウが利用されてしまえば価格競争を展開することで取引を奪うことが容易であることなどを判示しています(期間は2年間)
東京地裁平成14年8月30日判決(ダイオーズサービシーズ事件)は、市場支配するためには相応の費用を要することなどを判示しています(退職後の秘密保持義務を前提として、期間は2年間、区域は隣接都道府県、職種はマット・モップレンタル類のレンタル事業、態様は顧客収奪行為に限定)。
東京高裁平成12年7月12日判決(関東ライティング事件)は、長時間経費をかけて営業して始めて利益を得られる業態であることなどを判断の要素としています(期間は6ヶ月、対象は得意先に限定)。
(4)以上の裁判例からわかることは、裁判所は決して2年間なら無効だが1年間なら有効というように画一的に判断しているわけではなく、会社が当該競業避止義務特約を必要とする理由と元従業員の不利益を比較考量して判断しているということです。
3 会社の対策
(1)会社の対策で重要なこととして、まずは、退社時に有効な競業避止義務特約にするよう努力することです。
何も考えず単に競業避止義務を負わせたとしても無効になることは火を見るよりも明らかです。
後で使えるものにするためにも実態に合わせて作成する必要があります。
(2)仮に裁判をせざるを得ないような事情になったときは、当該競業避止義務特約が必要な理由をしっかりと立証していくことです。2年で短いから有効です、などという主張だけしていてもあまり意味がないと思います。
特約の必要性と比較して元従業員の不利益がそれほど大したものではないと立証できるかどうかがポイントです。
(今回の記事は岡本直也弁護士が担当しております。)
1 破産手続利用の思惑と実態
(1) 末期的状況での事業譲渡の思惑
事業譲渡を考察の中心にしますと、少しでも金に変えたいという切羽詰まったものを除き、民事再生を含む破産手続を利用される方々の意図は、次のように把握されるでしょう。要は会社が赤字で破産手続をとらざるを得ないものの、ある部門を営業譲渡して本体は民事再生により企業再生を図る通常の場合、或いは破産会社の中心的な部分を別会社に移して別会社で営業を継続したいというずるい意図が見え隠れするもの。つまり企業の看板となる会社名、人材、ノウハウ、特許権、一部の営業部門或いは重要設備等何でも営業譲渡できます。ですから営業譲渡をコラムの中心にしても経営権を巡る紹介材料に事欠きません。しかし経営の継続ではなく、労働環境の保全のみを考えて事業譲渡をした事件も経験しております。
以前、本コラムでも紹介しましたが、私が顧問であった中規模の病院を、そっくりそのまま全国的に展開する大医療機関に対して営業譲渡した事案は、看護師等多数の労働者の職場環境の維持が目的でした。経営者はきれいさっぱり破産により清算されました。本事案は産業再生機構の公開ネットにて事業譲渡の見本として閲覧できるようになっていると以前コラムで紹介しておりますが、上記の目的まで記載されていて驚きます。
(2) 事業拡大という思惑
他方事業譲渡を受ける全国的な大医療機関にとっては、まさしく事業拡大というM&Aそのものです。同じく関与するのなら、M&Aをする側にいたいと「変なアカデミック」志望の方には喜ばれるコラムになるのではないかと邪推(?)しておりますが、とんでもない。弁護士の業務としては事業譲渡をする側の業務こそ圧倒的に難しく、且つ弁護士の関与の仕方だけで事件の成否を分けます。M&Aの契約書チェック作業などは面倒なだけのつまらない実務作業だと思います。
(3) 逆に会社破綻の懸念がなかった珍しいパターン
パターンで紹介した?の案件は、会社破綻の懸念はなかったと言っても過言ではない破産事件です。しかし「思惑」と言う意図が、あからさまで「会社支配権の意味」を強く認識させられる事件です。
親会社(巨大企業)である関係会社からの資金援助は厚く、従来の資本構成からは一括返済を迫られる状況などありませんでした。整理する側の主張される建前は不採算部門の整理でした。しかしそうであるなら、会社法などの法的手段により、穏健に話し合いでなされるのが常識的で、通常そのようにして整理されます。その意味では、?のパターンは特殊であり、週刊誌の格好の標的にもならざるをえない側面がありました。すなわちこのような珍しい案件は、親会社の経営権を巡る深刻な紛争の渦中にあって、商法による穏当な手法を採用できない煮詰まった状況があったのです。?の事案は、次回再度紹介しますが、破産手続によって、やみくもに整理してしまった案件です。
他の弁護士先生がお書きになる企業小説に出てくるような悲喜こもごもの話もありました。就職面接に来てくれた方々の興味には応えられそうです。巨大企業といえども所詮人が経営するものですから、紛争の根の深さとして事実は小説よりも奇なりと言えましょう。
2 破産手続と民事再生手続の区分
(1) 東京地裁運用の詳細説明
営業を継続することを目的とする場合には、民事再生の申立により会社を存続させて手続を進めるのが無難な方法であります。営業している会社を譲渡するのですから、破産申立のように申立と同時に営業の停止をしては企業価値を損ねるだけです。もちろん事前に譲渡相手との交渉があったとしましても債権者から詐害行為或いは破産の申立をされるなどのリスクが残り、問題は残されたままです。前回のコラムでは書きたいことが多すぎて、東京地方裁判所の運用の紹介が不十分でした。当該案件は、営業譲渡を前提にして、最終的には破綻会社を破産にして会社清算をするが、その場合であっても企業価値を損ねないように営業活動を存続させる必要があった特殊な場合であります。東京地裁の取扱いはこのような事案は破産部(20部)でなく商事部(8部)とするのが慣行です。前回、調査委員として任命され、破産と民事再生双方の申立を検討後、保全管理人の任命という破産手続のみで進行させる方法の紹介をしました。結論として、破産となるのですから、この運用のほうが実際に適しております。本事案は、民事再生と破産という二つの申立が併存し、両陣営のそれぞれの思惑が見え隠れする特殊な案件ではありました。私は、裁判所の意向に従い、破産法による保全管理人制度にて事件を終了させました。
(2) 保全管理人制度
保全管理人制度の紹介をしましょう。保全管理人は破産法でも民事再生法でも法律に規定されている制度であります。しかし民事再生法でも保全管理は事業継続が困難となり破産に移行することを前提とした制度と言えます。そもそも民事再生においては会社の業務活動は会社に任せられており、私は単に監督業務を行うだけでしかありません。監督委員は主体的な財産保全業務は行わないのです。つまり最初から、破産法上の保全管理人が財産処分をし、その後破産管財人になるなら、商事部に移管する必要もないのです。
実際の実務の理解がないと、裁判所の運用も理解困難ですが、これでも難しいですかね?