新宿の顧問弁護士なら弁護士法人岡本(岡本政明法律事務所)

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コラム - 相続事件カテゴリのエントリ

1  昨年11月19日、日本経済新聞に「相続財産の算定評価基準 路線価否定判決に波紋」という記事が報道されました。
 相続財産の算定評価基準となる路線価については、以前から大きな関心を持っておりました。本件訴訟の内容が、判例雑誌等に報道されるのを待って本コラムを掲載しようと思っておりました。でも、報道された相続人は控訴されたのでしょう、続報がありません。むしろ、上記新聞では、本年2月29日、「賃貸経営 節税封じ」、その副題として「税制改正 富裕層を監視」なる特集記事が全面に掲載される状況になっております。
 今回のコラムでは、相続税や贈与税の評価基準として、その基本となる「路線価」を巡る争いについてみていきましょう。
 皆さん、国税庁が発表している路線価表を見たことがありますか?皆さんが住んでおられる土地の値段に関して、ある程度知ることができるように地図として表にされているのです。当事務所では、相談に来られた方が、たまたま土地がらみの紛争であるような場合、相談に立ち会っている弁護士の一人が、すぐにその表をパソコン画面に出してくれます。紛争の程度が直ちに分かる訳ですが、本当に重宝しています。

2 早速、冒頭の日経新聞報道内容を引用します。引用するだけで衝撃的です。
 「東京地裁が路線価に基づく相続財産の評価を『不適切』としたのは、2012年6月に94歳で亡くなった男性が購入していた東京都内と川崎市内のマンション計2棟。購入から2年半~3年半で男性が死亡し、子らの相続人は路線価などから2棟の財産を「約3億3千万円」と評価。銀行などからの借り入れもあったため、相続税額を「ゼロ」として国税側に申告した。だが男性が購入した価格は2棟で計13億8700万円で、路線価の約4倍だった。」という事案です。
 この事案では、国税側は路線価による評価は適当ではないと判断し、相続税の申告漏れとして約3億円の追徴課税の処分を行いました。
 先ず、以前から感じている第一の疑問は、路線価については相続税の評価基準として国税庁が定めるものです。国税庁の定める認定の約4倍が実勢価格という実態を国税庁は把握できていなかったのでしょうか?ここまで差が出る国の評価には何処か問題があるのではないかと疑問を感じるのです。確かに、路線価は土地取引の目安となる公示地価の8割程度とされていますが、ここでは何の問題もない程度でしかありません。しかも国の定める評価を自ら見直しできる通達制度、財産評価基本通達第6項(これが追徴課税処分できる根拠です)にも疑問を感じます。国税庁の評価が時の流れについていけないのなら、逆に、このような制度の見直しもやむを得ないと思ってしまうのは私だけでしょうか。
 もっとも、上記行政庁の認定に対しては、我々は裁判所に上記認定が適正かどうか訴訟することが可能であり、本件追徴課税について争うことができます。国税庁である行政庁の認識を改めることが可能なのですから、弁護士である我々の任務の重要性が認識できます。

3 次に紹介する判例(東京地裁平成19年8月23日付判決 判例タイムズ1264号)は、有名です。争いの内容は、親族から土地である不動産を購入した原告らに対して、時価と比較して「著しく低い価額」で買ったのであるから、時価と本件売買代金との差額は贈与と見做されるという行政庁の認定が下されたのです。「著しく低い価額」で購入した原告にはその差額分に関して贈与税が課されることになります。
 原告らは、本件売買代金額は相続税評価額である路線価方式に基づいて算定した額であり、相続税法上の時価そのものであると主張しました。本件訴訟では相続税法第7条、或は、「著しく低い価額」の判定基準等の争点もありますが、ここでは路線価が、時価と比較して著しく低額なのかどうかについて問題を提起し、訴訟をしたことについて、意味を見出してほしいのです。
 本判決は、負担付贈与通達の適用自体は否定しませんでした。しかしながら、同通達第2項(著しく低い対価で財産の譲渡を受けた場合について規定)に関し、個々の事案に対して当該基準を硬直的に適用するならば、結果として違法な課税処分をもたらすことは十分に考えられるとして、本件の課税処分を取り消したのです。
 原告代理人弁護士は、よく頑張ったと評価されるべき事案です。

4 7月23日、羽鳥慎一モーニングショーで、評判のコメンテーター玉川さんが「世界と比較して、日本でPCR検査が少ないのは、PCR検査に誤診の可能性が多少あって、行政は、それで訴訟になるのが怖いと言っている」と特ダネのように話しておりました。
 すごく良く分かる話なのですが、現在のコロナ騒動のなかで、行政が損害賠償請求訴訟をそれ程恐れる必要はないと思います。
 確かに、医療過誤訴訟もあるでしょうが、緊急事態を招いている現状では、裁判所もPCR検査で陽性だと言われ、それが誤診で損害を受けたと主張する個人を保護するとは思えません。もちろん、重大な過誤があり、受診者に莫大な損害が生じるなど、例外的な場合もあるでしょうから、ここで一刀両断することはできないでしょうが・・。
 しかしながら、我々弁護士も法の安定を祈念して業務を行っております。
 どうか、皆さまも現在の危機的状況を乗り越えるため、PCR検査の拡充をお考え下さい。

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1 本年4月21日発行の判例時報(2397号)を読み始めたところ、掲載されている平成30年7月18日付東京高裁判決(平成30年(ネ)第878号)には驚きました。
 本判決評論を読んで驚いた内容の第一は、今回の民法改正に際し、「危急時遺言」に関しても、法改正として検討されるべき事項があると気づかせてくれたことです。本判決には、そのような指摘としてしか読めない個所もあり、随分、踏み込んだ判決だと感心しました。「危急時遺言」制度は、これまであまり利用されてこなかったものです。新版注釈民法(28巻)にも、昭和の時代で、年間200件を超えない程度と記されているくらいです(146頁)。でも、今後は利用者が激増するでしょうから、今回の民法改正で検討すべき事項でした。
 第二として、「危急時遺言」を利用しようとする場合、本判例が警告する内容をよく吟味し、注意が必要だということです。今後、増大する高齢者の方々が、医療の進歩、或いは“最後の時を自宅では迎えない”という不思議な実態から、病院で最終意思を表明される機会が増えるであろうと予想されます。今回紹介する「危急時遺言」を利用する場合には、十分に注意しないといけません。本判決の認定のとおり、せっかくの遺言が無効になってしまう場合があるという指摘です。
 第三に驚いたことは、本判決は、本件「危急時遺言」を取り扱われた弁護士に対する警告まがいの指摘がなされ、本件遺言が無効であると認定されているのです。本当に、弁護士として十分な心構えが必要だと認識しました。

2 早速、判決を通して事案を見てまいりましょう。
 本件も相続事件の通例として多数の訴訟が、双方より提起されております。多数の訴訟手続きが起きる事例として、その訴訟事件の内容を紹介しておきましょう。
 第一事件は、今回、紹介する遺言無効確認請求事件です。即ち、遺産の受取人でない方が、本件遺言について無効であると主張され、訴訟を提起されました。第二事件は、逆に、遺産の受取人から訴訟提起されたものです。遺言内容を実現するために、不動産の明け渡しを請求されておられます。第三事件は、遺言が有効とみなされた場合に備えて、遺言の無効を主張された方が、予備的に遺留分減殺請求をされております。遺留分減殺請求に関しては、今回の法改正により、物件的請求権でなく、金銭債権のみが発生するものとされております。故に、遺留分減殺請求については参考としてお読みください。
 私の経験からも、相続事件は幾種類もの訴訟が互いに提起され、通常、訴訟合戦になることが避けられません。しかし、本件では遺言の無効を争われた第一事件に絞ってみてまいりましょう。

3 第一事件の遺言は「緊急時遺言」として病院でなされました。
 「緊急時遺言」には、特殊なものとして「伝染病隔離者の遺言」(民法第977条)や、「在船者の遺言」(同第978条)、或は「船舶遭難者の遺言」(同979条)等、特殊なものがあります。しかし、本件は「疾病その他の事由によって死亡の緊急に迫った者が遺言をしようとするとき」(同976条)という場合の「死亡の緊急に迫った者の遺言(緊急時遺言)」として、病院にてなされた遺言です。
 このような事例が増えることについては、本件判例解説者も同様の意見を開陳されており、しかも、本件については、遺言が無効になった珍しい事案として紹介されております。

4 第一事件(本件遺言書が有効か無効か)の紹介に入ります。
 これまで述べてきましたが、遺言者は、証人3人(医師、弁護士、遠い縁者の3人)の立ち合いの上で、病院において緊急時遺言が行われた事案です。そして、民法976条4項の「遺言の日から20日以内に」家庭裁判所の確認を得ているのです。ここでの家庭裁判所の確認審判がどのような意味をもつのかが最大論点となります。本確認審判は、危急時遺言の効力発生要件ではあるものの、既判力がありません。そのように解されております。民法改正の是非にまで発展する理論的な可能性を楽しまれる方は、通常の「自筆証書の検認の制度」(民法1004条)と比較・検討してみてください。私は、新版注釈民法第28巻で楽しみました。
 もちろん、本判決でも「危急時遺言の確認の審判の制度(民法976条4項)は、そのような不正のリスクを排除する機能が不十分な制度であることに留意すべきである」と論述し、警告しております。本判例の評釈者も、遺言確認審判制度は不正排除リスクが不十分な制度であると警鐘を鳴らし「控訴審判決は、危急時遺言無効確認の本案訴訟においては、確認の審判があったことそれ自体を重視することは、適当でないと説示している。」と本判例を評釈しておられます。

5 そろそろ急所です。本件遺言が無効と認定された骨子です。
 本件遺言には、弁護士が関与しております。その証人となった弁護士が聞き取りしておりますが、詳細な判旨を読み取る限り、この聞き取りが不十分であることは明白です。もちろん、意識障害の程度を示すものとして「Japan Coma Scale」の評価が低かったことや、立会した証人になった医師の専門領域が循環器内科の医師で、意思能力の有無の鑑別に関する専門家でないこともポイントになります。しかし、緊急時遺言の指導をした弁護士は、本遺言により遺産を受け取る被告から相談を受けた弁護士であったこと、そして証人になった弁護士との人的な関係まで暴露して、本件遺言を無効と認定しているのです。
 小説のような判決ですね。

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1 週刊誌も新聞も、相続に関係した記事で埋まっております。弁護士のために発刊されている書籍でも、相続事件に関係するものが一挙に増えました。
 今回の相続法の改正では、配偶者居住権など目新しい内容もありますが、それらの紹介よりも、弁護士にとって「相続事件に対する対応が如何に面倒なのか」をご説明するほうが、読み物としては面白いと思います。でも面白くて当然です。亡くなった方、或いは亡くなる予定(言い方が変だけど)の方は様々な生きざまのなかで、大変な苦労をされたと思います。その方の人生の締めくくりの一つが相続なのです。「大変だったですね」と声をかけたくもなりますが、その方を取り巻く家族の方々の経験も様々で、その思いも多種多様です。相続事件は、相続される方々の複雑な関係に「けり」をつけることも目的の一つと言っていいでしょう。想像するだけで難しい事案が出てくるのは当たり前のことなのです。
 相続事件として受任する弁護士は、そのような複雑な絡みを事案として受け止め、誠実に対処しなければなりません。
 今回は、弁護士の方の失敗事例を紹介しましょう。もちろん、具体的に関係づけられるような内容は書きませんが、複数の弁護士が関与された20年以上前の事件です。

2 相続事件は、その発端となる遺言書作成業務から受任することが多いのですが、その弁護士を連れてきた人が相続人の一人であるなら、既に複雑な様相を呈し始めております。当該利害関係にある相続人は、自分にとって有利な遺言書を作ってもらうよう、弁護士に無形の圧力を与えていると言っても過言ではないと思います。私など、そのように感じてしまうのです。そもそも、遺言書作成業務だけを引き受けるなら、それで終わりにもなるのでしょうが、紹介していただいた相続人の方の事件も受任する予定なら(遺言執行者になる場合も多いです)、被相続人の気持ちも含めると複雑になりそうだと思いませんか。相続人間で深刻な争いがある場合、どうしたらいいのでしょうか?
 今回、紹介しようと考えております相続事件は、まさしく上記懸念の典型例でした。問題となる弁護士の先生が、その発端となる遺言書作成業務を受任され、しかも、当該遺言書により遺言執行者として指名されているのです。遺言書を作成されたお母さまには、7人の相続人(お子様)がおられますが、そのなかで圧倒的に多くの遺産を与えられている相続人である長女の方の紹介で、遺言書を作成されました。紹介者の長女の方が、お母さまと同居されていた関係もあり、長女の方に有利な遺言書になっております。

3 弁護士先生の第一段階の失敗から紹介しましょう。
 遺産の大半を占める都心一等地のかなり広い土地・建物について、既にお母様がその5分の3を所有されておりました。遺言書の内容は、次のようなものでした。上記の不動産の「持分5分の3のうちの5分の1を長女に遺贈する」というものです。
 私の依頼者は相続人の一人でしたが、「遺言書のとおりに掛け算すると長女の遺贈分は25分の3になるはずですね」と相談にまいりました。私は、「数学的にはそうなりますね」と答えたところ、遺言書作成に関与された弁護士の先生は「私がお母様から直接聞取りして、5分の1を長女に遺贈するということで記載しました。とにかく5分の1ですから、25分の5が長女の取り分です」と絶対に認めないというのです。他の相続人も弁護士に相談しているとのことでした。
 遺言執行人でもある当該弁護士は、「皆様の納得がなくても遺言書通りの執行をします」と回答してきたそうです。
 他の相続人の場合と異なり、私の依頼者は、まだ私を正式な代理人に選任してくれていませんでした。でも私は経験則に基づき「長女に25分の5(つまり5分の1)の登記にすると言っても、登記官が受理してくれないのではないですか」と回答しておきました。
 何と、後日、本当に登記ができなかったという報告がきました。まだ私には何の依頼もなかったのですが、私の相談者は、「それからが大変だった」というのです。
 つまり、遺言書作成の間違いを犯したその弁護士は、遺言執行者という名目ではありますが、長女有利な結論を押し付けてくるというのです。他の相続人も何とかしてくれと言って弁護士に頼んでいるようだけど、全く進展がないというのです。そして何とかしてくれれば私と契約をするというのです。
 私は、何回も相談を受けて、本件は、当該弁護士(遺言執行者)を除けば、後は、本人たちで解決できそうだという目途がたっておりました。その弁護士の排除だけは受任したほうが良いと判断し、「遺言執行者解任の申立」事件(民法第1019条)として受任したのです。家庭裁判所に上記申立書を提出し、第一回期日を迎えました。当日、裁判官の訴訟指揮にびっくりしました。なんと私を法廷にほったらかしにして、相手方である遺言執行者の弁護士だけを、法廷とは別の場所に連れて行きました。30分も経った頃、法廷に戻った裁判官は、「遺言執行者は自ら辞任されますので、本件申立ては取り下げてもらえますか」と言われたのです。その訴訟指揮には驚きました。

4 そもそも、遺言執行者は、民法第1015条によって、相続人の代理人とみなされますが、相続人一人の方の代理人ではないと解されております。弁護士の先生方は、弁護士職務基本規程について十分に勉強をお願い致します。

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1 先月発行(2019年6月1日号)の判例評論に「いわゆる花押を書くことと民法968条1項の押印の要件(最二判平28.6.3)」と題して遺言書に書かれた花押に関する最高裁判決の論評が掲載されておりました。
 最高裁判決まで争われた遺言書作成者は、琉球王国時代の名門の出の方で、花押を署名として使用することについては、日常生活に溶け込んでおられる方でありました。判例評論では、江戸時代、琉球王国が薩摩藩に服属した際の起請文等に書かれた花押も指摘されており、花押の使用について、通常の日常生活に馴染んでいた事実の指摘も十分になされております。
 種々の花押や花押の歴史に関する説明もあり、興味の尽きない判例評論として読ませていただきました。
 しかしながら、花押が、当該遺言者やその親族にとって、何ら特別のものでないのなら、本件に限って認めてもよかったのではないでしょうか。日本に帰化された白系ロシア人の方の遺言書で、当人の署名だけしかなく、押印のない遺言書を有効とされた最高裁判決もあります。確かに、この事案では遺言書自体が英文ではありますものの、遺言者等の周辺環境は似ていると判断できると思います。白系ロシア人の方の遺言書が、有効と認められた判例は、昔から模範六法にも掲載されている判決で有名です(最判昭49.12.24民集28-10-2152)。
 私は、若いころから、「花押」や掛け軸等に書かれた「賛」(掛け軸等に書き添える詩文等を言う)には多大の関心をもってきました。私の故郷にある父母の菩提寺である住職であられた沢庵和尚の種々の記念品を見せてもらっていた折、板に書かれた「はっきりしない絵」の賛は、宮本武蔵が書いたものと説明されて、思わず本当かなと思ってしまった高校生時代の記憶も蘇りました。
 今回のコラムでは、上記判決によって蘇ったお話をしてみましょう。
2 実は、私は、押印の代わりに花押を使用して作成された遺言書の相談を受けたこともあります。
 昭和の終わり頃の相談でした。当時は土地バブルに沸いており、遺言書作成の相談も本当に多かったのです。でもこの遺言書作成者は、まだ元気でいらっしゃいました。私は早速お会いして、「花押がおじい様のお名前のようには、とても読めないのですよ」と申し上げました。実際にも、花押の殆どが署名と違い、その方の名前とは直ちに結びつかないことが多いのです。そこで「実印はお持ちですか」とお聞きしましたら、実に立派な印鑑を見せられました。
 でも、この立派な印鑑を押してもらったのではありません。私は、公正証書遺言の趣旨を説明し、公正証書による遺言書を作成しました(遺言書を作るなら公正証書遺言にしてくださいね。公証人は動けない方のためなら、自宅まで来てくれますよ)。
 実際、民法の条文通りに遺言書を作るのは大変です。いろんな遺言書も見ました。カレンダーの裏に書かれた遺言書もありましたし、そもそも訂正箇所に訂正印が押されていないものもありました。ところで民法の条文上では、「自書と押印」となっておりますが、押印に代わって指印で足りるという最高裁判決もあるのです(最判平1.2.16)。

3 今回の民法改正では、遺言書の関係では期待したほどの改正はなかったと考えております。財産目録だけは自書でなくてもよいとなりましたが、目録の毎葉(ページ)ごとに署名押印しなければなりません。訂正箇所に関係するやり方も従来通りです。
 遺言書の作成は、やはり面倒ですが、私にとっては、ありがたい改正がありました。これまで私は、お預かりした遺言書を保管するため、銀行から貸金庫を借り続けてきたのです。大事な遺言書が火事などを原因として無くなったりしては大変なことになるからです。
 今回、作成された遺言書を法務局に預かってもらうことのできる制度ができました(「法務局における遺言書の保管等に関する法律」といいます。この法律は、来年2020年7月20日に施行されることになりました)。
 「貸金庫」は、上記法務局預かり制度を見て、解約するつもりです。

4 最後に、米澤穂信著「満願」というミステリー小説を紹介したいのです。
 この小説は、島津公からいただいたという達磨大師の絵にかかれた「賛」が鍵になっております。最高裁判決評論にある薩摩藩つながりと、{花押}と{賛}ということで、この小説を思い出したのですね。この小説は、4年ほど前、山本周五郎賞を受賞し、当時の「読んでみたいミステリー」第一位でした。今回、再度読み直してみました。
 新人弁護士が、司法試験受験時代にお世話になった女性の弁護(なんと殺人罪です)をするミステリー小説です。ミステリー小説の多くは弁護士にとって納得できない筋回しや、或いは法律論として飛躍がある作品が多いのです。4年前には、その結末に違和感がなく、むしろ司法試験受験時代の苦しみを彷彿と思い出させるこの小説におおいに感動したものです。でも再度読み直してみたところ、奇想天外な結末に驚きました。殺人を犯した女性が、島津候の掛け軸に書かれた賛を守るために、どのような工夫をしたのかについては、本書の種明かしになってしまいますので、止めておきましょう。
 そもそも、本コラムは、弁護士の先生方が読まれることも多いとして評判をとっております。私も受験時代の苦労は大変でした。司法試験受験時代の、あの苦しかった時代が、ふつふつと思い出されてくる「満願」をお読みください。

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1 相続法が改正されます。これを機会に改正相続法に関係するコラムを書こうと思いました。でも、今回の改正の目玉でもあります配偶者居住権の創設などを一つ一つ説明しましても、知識だけであり、それほど面白くないと思います。
 そこで、私も驚いた体験を一つの課題として、その課題を中心にお話してみようと思います。
今回は、相続事件において、不動産がどれ位面倒になる可能性を秘めているのかについてお話しします。

2 困った事例の最初は、不動産にかけられる相続税で、この体験は 本当に多いのです。
 相続事件に関する相談で、私の事務所所属の若い先生に指摘されたことがあります。私は、最初に面接した際、必ず現金の有無を確かめるそうです。もちろん、私は、「預金はどれ位残されていましたか」というように間接的に質問しているつもりです。つまり現金の有無を直接確認するような、失礼な質問はしません。でも、さすが弁護士の先生は見破っているのです。
 相続財産が不動産中心というのは本当に多い事例ですが、その相続税はびっくりするほど高いのです。課税される不動産の概算価格は、国が作成している路線価表から調べればいいのですが、その概算を見ただけで、相談者は相続税が支払えるのかと心配になる事例は多いのです。特に、自宅の敷地が都心一等地で、ある程度の広さがある場合、しかし、相続財産がそれしかないような場合は本当に困りますね。遺産争いなどしている場合ではないと忠告したくなります。相続税の支払いの目途は、お亡くなりになって10か月です。税務署はうるさいですよ。
 ここで大事なことは、必ず相続税に強い税理士に相談してください。土地や家屋の相続税については、種々低減できる評価方法や、特例などもあり、専門家の助言が必要な場面なのです。

3 山間部にある膨大な不動産が相続財産という事例も扱いました。
 数年前ですが、私が「放棄できない不動産」というテーマで本コラムを書いていたところ、出版社や新聞社等から随分インタビューの申し込みを受けました。講演を依頼されたこともあります。このようなコラムを書き始めたのは、相続してしまった不動産をもてあまして、私も一緒に困惑した事件が多かったからです。
 東京に住む私の依頼者は、故郷であっても、田も畑も、山の中の土地も不要でした。だからといって山間部・農村の土地は、売却も困難です。故郷の跡継ぎのお兄さんは、自分の自宅以外なら「どの土地でも風呂敷に包んで、どんどん持って帰って頂戴」と冗談を言われるのです。相続放棄も検討して、結局、少額の現金で妥協しました。この傾向はこれからも続くでしょうね。山間部の住民が激減しているのですから、地方公共団体の利用計画や観光地化など工夫がない限り、売却処分をして財産を分配することなど無理でしょう。

4 非上場の株式を相続する場合に困ったことがあります。
 不動産を賃貸して相当な賃料を回収されている場合、このビジネス形態を法人化される手法は、種々のメリットがあります。
 この非上場の少数株式を、同族と判断される方が相続した場合、驚くような相続税が課されることがあるのです。少数株主は少額の配当でも受けられれば感謝なのですが、同族と判断される相続人が相続されますと、少数株式の評価が資産、つまり不動産の時価にて評価されることになります。具体的な事例については、「少数株主」(牛島信著 幻冬舎文庫)という本を紹介しましょう。
 この本では、大日本除虫菊(金鳥という蚊取り線香の会社)の少数株式を相続したおばあさんが、自己評価で500万円のところ、税務署に1億6000万円も課税され、争われた実例が出ております。
 上記の本は、「非上場会社にコーポレートガバナンスを導入するべきだ」という理念のもとに書かれた本で、面白いですよ。

5 最後に、弁護士報酬が問題になる場合です。相続事件によくある
とですが、不動産が相続財産の殆どを占める事例です。
 遺産分割請求事件や遺留分減殺請求事件の弁護士報酬は、通常、対
象となる相続分・遺留分の時価相当額とされております。相続の全体価額が数億円であっても、不動産が依頼者の相続財産の中心であって、金銭が殆どない状態で分割される場合、弁護士報酬を単純計算すると、報酬額が、依頼者の分配取得現金を上回る場合も出てくるのです。
 このような場合、弁護士は本当に困ってしまいます。私は、このような場合を含めて当初の契約時に、弁護士報酬の考え方の基礎となる「経済的利益」について十分に説明するようにしております。しかし、それでも契約後に少数株式が出てきた場合もあるのです。
 そこで、経済的利益について、依頼者の要求する請求額と事件の相手方が当方依頼者に提案している金額の差額とすることが分かり易いと考えております。しかし事件の内容によっては、相手方の要求額が分からない場合もあります。特に、遺留分減殺請求事件の場合には、依頼者に当該権利が認められるかどうかが争点になる場合もありますから、やはり、依頼者の請求額全額が経済的利益となってしまいます。上記のような遺留分減殺請求事件でしたが、争いのない部分を作り出し、一部を時価相当額の3分の1に計算し直して、依頼者に納得していただいた場合もあります。
 今回はこの辺で。

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一.    相続法が約40年ぶりに大改正されます。
 主に平成31(2019)年7月31日から施行されますが、一部については、既に平成31(2019)年1月13日から施行されていますので、注意が必要です。
 相続や事業承継はどなたにとっても非常に重要なことですから、是非ともしっかり対策して頂くことが必要だと思います。

二.    まず、配偶者居住権(配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に住んでいた場合に、終身または一定期間、その建物を無償で使用することができる権利)が創設されました。
 ①遺産分割における選択肢の一つとして、或いは②被相続人の遺言等によって、配偶者に配偶者居住権を取得させることができるようになります。
 このことによって何が起きるかと申しますと、例えば、相続人が妻及び子、遺産が自宅(2000万円)及び預貯金(3000万円)の場合のことを考えると分かりやすいです。

(改正前)
妻:預貯金500万円+自宅
子:預貯金2500万円

(改正後)
妻:配偶者居住権(1000万円) 預貯金1500万円
子:負担付の所有権(1000万円) 預貯金1500万円

 妻にとって、預貯金を多めに受け取ることができるようになっていることがお分かりいただけるはずです。

三.    また、相続法改正により、結婚期間が20年以上の夫婦間で、配偶者に対して自宅の遺贈または贈与がされた場合には、原則として、遺産分割における計算上、遺産の先渡し(特別受益)がされたものとして取り扱う必要がなくなります。
 例えば、相続人が妻と子、遺産が自宅(2000万円)、空き家(1000万円)、預貯金(3000万円)の場合で空き家を共有にするとした場合、預貯金は、

 改正前 妻:500万円+自宅 子:2500万円であったものが
 改正後 妻:1500万円+自宅 子:1500万円

 となります。
 やはり、妻がかなり有利になっていることがお分かりいただけると思います。
 配偶者の権利に関しては、配偶者短期居住権(配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に居住していた場合に、遺産の分割がされるまでの一定期間、その建物に無償で住み続けることができる権利)も創設されており、保護されております。

四.    自筆証書遺言(自筆で作成する遺言書)については、改正前は、添付する目録も含め、全文を自書して作成する必要がありました。
 しかし、改正後は、遺言書に添付する相続財産の目録について、パソコンで作成した目録や通帳のコピーなど、自書によらない書面を添付することによって作成することができるようになりました。
 財産目録の書式は自由で、遺言者本人がパソコンで作成する場合以外にも、遺言者以外の者が作成することも可能です。
 併せて法務局で自筆証書による遺言書を保管する制度が創設されました。全国にある遺言書保管所において、遺言書が保管されているかどうかを調べること(「遺言書保管事実証明書」の交付請求)、遺言書の写しの交付を請求すること(「遺言書情報証明書」の交付請求)ができ、また、遺言書を保管している遺言書保管所において遺言書を閲覧することもできるようになっています。

五.    さらに、被相続人(お亡くなりになった方)名義の預貯金の払い戻しについても改正されます。
 改正前は、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済など、お金が必要になった場合でも、相続人は遺産分割が終了するまでは被相続人の預貯金の払戻しができませんでした(平成28年12月19日最高裁判決)。
 しかし、改正後は、①遺産分割前にも預貯金債権のうち一定額(ただし、同一の金融機関に対する権利行使は、150万円が限度)については、家庭裁判所の判断を経ずに金融機関で払戻しができるようになります。
 なお、単独で払戻しをすることができる額=(相続開始時の預貯金債権の額)×(3分の1)×(当該払戻しを求める共同相続人の法定相続分)ですので、例えば、預貯金600万円、子2人の場合、100万円となります。 また、②仮払いの必要性があると認められる場合には、他の共同相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の判断で仮払いが認められるようになります。

六.    その他にも、相続法改正により、処分された財産につき遺産に組み戻すことについて処分者以外の相続人の同意があれば、処分者の同意を得ることなく、処分された預貯金を遺産分割の対象に含めることが可能になります。
 遺留分についても、金銭債権化され、不動産が複雑な共有関係になることを回避できるようになります。
 また、遺言書で「相続させる」と記載することにより、長男が被相続人所有の空き家を取得する場合(被相続人は長男と次男の2人の場合)、改正前は、相続債権者が、「空き家の登記は被相続人名義のままなので、次男が相続した法定相続分での差押をしよう」としても、常に長男が優先することになっていました。
 しかし、改正後は、相続させる旨の遺言についても、法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を具備しなければ、第三者に対抗することができないことになります。
 さらに、相続人以外の親族が被相続人の療養看護等を行った場合、一定の要件のもとで、相続人に対して金銭の支払を請求することができるようになります。

七.    以上の通り、相続法の大改正により、様々な項目が変わることになります。一読して頂いただけでは良く分からない難しい内容もたくさん含まれていると思います。
 この機会に、弁護士に相談しながら相続法改正のメリットを享受できないかご検討いただいた上で、遺言書を作成された方が良いと思いますし、身近な方に遺言書の作成をお勧めされた方が良いと思います。既に遺言書を作成されている方は、作り直しもご検討いただくのが良いと思います。
 事業承継の際にも注意した方が良いとも思いますので、いずれの場合でも、是非一度当事務所にご相談いただけると幸いです。

 

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一 驚いた弁護士
 
1   本コラムの読者層ですが、若い弁護士の先生が多くて驚いたと本コラムに書いたことがあります。親しい先生方からも「読んだぞ」とお声がかかることもあります。私もかなり年季の入った弁護士になったのですから、皆様の関心の深い弁護士の実像についてお話しすることも面白いと思います。
つまり交渉や事件として接触していて驚いた経験をお話しすれば、直接弁護士の品格についてお話しすることになります。驚いた弁護士について書きましても、個人情報とは関係ないでしょうし、しかも微妙であれば抽象的に記載し、皆様が不快と思われないように配慮するつもりです。
考えてみますと、今まで弁護士の品格に関係する事件で、「ひどい弁護士だ。驚いた」と思った事例は相続事件が圧倒的であります。
 
2  弁護士の実像が出てくる事件は、やはり高額報酬事件が多いですね。高額報酬事件といえば、相続事件がその一つです。しかも30年前の土地バブルの時代、土地の高騰は「天井知らず」でした。おじいちゃん、おばあちゃんの住んでいるそれ程広くない土地を見るだけでも、呆れるほどの値段になりました。「土一升、金一升」と称される時代でしたから、それに関係する事件は当然高額報酬が期待できます。当時の世の中の常識・気風も今より荒れておりました。
家屋を明渡しさせるため、現実に商売をされている店に、直接トラックで突っ込むという神田の事件も報道されましたが、さもありなんという危険な匂いがする時代的な背景もありました。乱暴な稼業の方も頑張っておられ、交渉の相手方となることも日常的でした。
 
二 有利な遺言書を残すための工夫?
 
1    最も弁護士の品格が疑われる事件は、依頼者に有利な遺言書を書かせる或いは既に遺言書があるが、自分の依頼者に有利なものに書き換えさせるため、居住先からおじいちゃん、おばあちゃんを誘拐するというものです。
    不思議に思われるかもしれませんが、当時、誘拐に類する事件は本当に多かったのです。誘拐行為自体はしなくとも、このような非常識な事態を弁護士が黙認していたという事件も経験しております。
 
2   今になっても思い出す事件を紹介しますが、この事件は誘拐と言えるのか疑問でした。
認知症が進み、毎日の介護が必要なおじいちゃんが長女のお世話になっておりました。次女から自分の家に遊びに来ないかという誘いがあり、軽い気持ちで遊びに出したのですが帰ってこなくなりました。次女に聞いても理由が良く分からなかったらしいのです。ちょっとの間でも介護疲れが癒されるというような事情もあったのでしょう。
このおじいちゃんはかなりの財産家でしたが、1カ月以上経過して、やっと戻ってきました。どうも知り合いの弁護士が出てきて遺言書を書かされたようだというので、いろいろ聞いていると、公証役場のような話も出てきたようです。どうも遺言書を書いたようだという結論になりました。
驚いた理由はこれからです。帰ってすぐに、おじいちゃんの署名が必要になり名前を書かせたら、自分の名字が略字でしか書けなくなっていたというのです。従来、本人は略字を嫌っておりましたから、辛抱強くその訳を聞いたところ、妹の家で毎日略字を書く訓練をしていたと話したのです。それも公証役場に行って以降は正式な自分の名字が書けなくなっていると推測するしかないというのです。
字の訓練にまで弁護士が絡んでいるとなると、皆さん笑ってしまわれるでしょう。
 
3  相談の第一は、公正証書遺言の内容を調べてほしいというものでした。おじいちゃんは介護をしてくれていた長女に感謝して財産の全部を長女にあげるという遺言をしておりました。次女も納得されるような内容ではなかったので、今回の事件に発展したのでしょう。
でも今回登場する弁護士は、長女も面識のある方だったので、長女はすぐに問合せをしております。しかし、その弁護士からは、知っているかどうかを含めて一切お答えできないという返事であったため、遺言書は作成されているとの確信になりました。その弁護士は妹が本来の依頼者だったから、こんなことになったと言って相談にきたのです。
 
4   長女は、その弁護士の関与を知りたがっておりました。しかし現在行われている遺言検索システムは、本人以外の相続人は遺言者が亡くなっていないと検索できません。しかも本人は自分の名字も書けない訓練をされております。私もおじいちゃんにお会いして種々テストをしてみましたが、今日の曜日も答えられず、通常では、公証人に公正証書遺言を作成してもらえないと判断されました。
ここからが秘策です。おじいちゃんには毎日自分の名前を書く訓練や曜日の会話等をしてもらいました。そして、その弁護士の先生の近くの公証役場の幾つかにおじいちゃんと一緒に回ってもらいました。該当する公証役場は意外と早く割り出せました。
私はおじいちゃんと長女を同道して、当該公証役場にお伺いして遺言書の作成をお願いしたところ、何の聞取りもなく、おじいちゃんは認知症ではないかと聞かれたのです。しかし、これでごく最近、その公証役場で遺言書を作成したことが判明しました。おじいちゃんの意識はその当時と殆ど変化はありません。当時と何の変化もない状況を説明して、本人から、再度公正証書遺言作成を依頼してもらいました。

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一 夫契約の生命保険が離婚した先妻のものになるのかという質問
 
1 今回も前回と同様、20年ほど前、旧知の友人から受けた相談です。
彼とは大学時代、一緒に絵描きの仲間として付き合っておりました。彼は不思議なほど女性の方から相談を受けることが多いのです。私には羨ましい存在なのですが、彼はこのコラムの愛読者でもあります。彼は具体的な内容は話さず、しかし要点を外さない相談を持ち掛けるのが常です。このような対応を含めて不思議な魅力のある友人でありますが、その相談は次のようなものでした。
今回の相談相手も女性で、次のような内容でした。「主人が亡くなり、調べていたら、主人が生命保険に入っていたことが分かったそうだ。すぐ保険会社に連絡したが、保険会社から、あなたには払えないと言われたらしい。保険金受取人がずいぶん前に離婚している元妻の名義になっているからだという話しだ。でも元妻は再婚していて、主人の生命保険を貰う理由がない。こんなことが許されるのだろうか」というものであります。
友人は、保険会社も関連企業にもつ有名企業のエリートサラリーマンですが、自分でも保険会社の説明はおかしいと思うので相談の連絡を入れたというのです。
 
2  私は、昔この判例を読んでしっくりこなかったことを思い出しました。ついでだから、この判例を精査したいと思いました。
当時、会う楽しみを優先させた恩着せがましい提案をしました。つまり、彼は何時も、自分の勤める会社の顧問弁護士達より私のほうが圧倒的に優秀だと褒める反面、相談ばかりで金になる仕事を回してきたことはありません。そんなこともあって、この相談を私の楽しみに変えようと思いました。
そこで「保険が遺産でないことは君のようなエリートが知らない訳がないよね。受取人に「妻○○」という記載がそのままで、その後離婚していても、最高裁の判決は保険会社の言う通りなんだ。しかも元妻は再婚して姓も変わっているんだものね。君が納得できないという気持ちはよく分かる。自分も、昔勉強した時、一度この判決を精査したいと考えていた。俺が無能だからという訳ではない。君は、俺ができる弁護士だと何時も言ってくれているよね。だから時間を頂戴。事務所で相談しようぜ。あとは飲もうぜ。」と「調べる楽しみ」と、「飲む楽しみ」を確保しました。
ところで、今回このコラムを読む友人に、当時の私の気持ちを知ってもらえれば、20年ぶりの話題を肴に、再度美味しい酒が飲めるというものです。
 
二 最高裁判決に疑問を持つことは健全か?
 
1  早速友人が納得できる資料収集に邁進したのですが、私の感覚は当時から冴えていますね。私の違和感は最高裁上告理由書まで読んでやっと得心できました。
 
2  調べたい最高裁判決(昭和589月8日第一小法廷判決)ですが、先ず、私の自宅の書斎を埋め尽くしている何十冊もの一冊「最高裁判例解説 民事篇 昭和58年度」(法曹会出版)を読んでみました。この解説書は有名な注釈本を百倍にした程度ではありますが、私の感性に訴えてくるものがありません。そもそも上告理由書がないのです。
     でも驚きました。元妻は自らの不貞を理由に夫と離婚しているのです。しかもこの保険は団体定期保険だというではないですか。夫は医師で○○県医師会の団体保険に加入していたというのですから、私が弁護士会の団体保険に加入しているのと全く同じです。私だって弁護士会の団体保険がどうなっているのかなど関心がありません。受取人の名義変更を放置していた状態というのはよく分かります。
 
3   早速、弁護士会の図書館に行って保管されている最高裁判例を調査しました。昭和58年の判決ですから当時は最近の判例と言っても不思議ではないのですが、なんと裁判長はあの有名な団藤重光博士でありました。あの尊敬する団藤先生が事情の勘案もされず、私にとっては一方的と言えるほどの保険会社寄りの判決をお出しでした。そもそも上告理由書を読んで自分の大学時代を思い出したと言うのが正直なところです。私の学生時代、大学の閉鎖性や古い体質改善を求めて運動した学生が7名除籍され、その当時の学友を思い出しました。この調査当時、7名の除籍者のうち3人目の自殺者がお茶の水聖橋から投身自殺しております。
 
4  上告理由書の「はじめに」だけでも読んでください(原文のママ)
 「上告人が心から希うところは、万人の納得に値する判例の樹立である。我国における資本主義体制は、永年に亘る助長政策によって、遂に発展の極度にまで達し、今や、そのための必要悪とせられておった非道義性の修正をもって、緊急の課題とする時点に至った。同時に、その間逼迫を已むなくせられていた、我民族固有の道義感は、正に、甦生の時を得たといえるのである。この際に当たってなされた、原審判決の内容たるや、旧態依然たる大量契約保護主義の残滓以外の何ものも、これを認めることができないものであって、これを、現時代における公正なる社会通念として、よく黙視することは、到底あり得ないのである。本件は、正に、時代を画すべき試金石といえるであろう。くしくも、被上告人らの第一審における答弁書の付記は、このことを暗示する感が深いのである。」
  私は上記最高裁判決を形式的なものと思わざるを得ません。名義の書換えが放置された経緯をもっと検討するべきであったと思います。

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一 葬式費用、お墓はどうなるのかという質問
 
1 旧知の友人から、突然電話がかかってきて、葬式費用やお墓の相談を受けたことは数え切れません。
私の友人達は、ちょうどご両親が亡くなられる時期を迎えておりましたから、このような緊急の相談が多かったのは当然のことでしょうね。訃報を聞いてとりあえず集まった子供たちが相談するのは葬儀の費用負担であります。葬儀屋さんをお呼びして話しをしますと、ではお墓はどうなるのだろうという疑問が生じ、再度私に相談の電話が来るというワンパターンの経緯を辿ります。
 
2 最近は、一度に全てを教えてしまうようにしております。意外とみんな驚いてくれますが、これは通常お墓も相続財産だと考え、こう考えるのが近代民法だという刷り込みがあるからなのでしょうね。
  先ず、これに関係する民法をみましょう。民法第897条です。「祭祀に関する権利の承継」という条文です。条文を読めばある程度理解できます。つまり「系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先祭祀を主宰すべきものが承継する」と規定され、前条の大原則第896条「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」の例外法理として慣習を持ち出すのです。でも私の友人の多くは「その慣習が分からない」と言いますので、本当に時代は変わりました。
 
3 また第897条には「葬式費用」が書いてないじゃないかと疑問を提起する友人もおります。その際には私から「誰が香典を貰うの?」と質問することにしております。香典は「主宰者」が貰うはずです。ところで漢字に注意してください。「主催者」ではありませんよね。つまり最近は相続人が主催者にならない「お別れ会」方式のものも流行しておりますので、短時間で説明するときには、「普通の葬儀だよね」と念押ししないと危険です。もちろん“葬祭費は、その儀式の実質的主宰者が負担するべきものである”という判例も出ております。
 
4 葬祭費を相続人で分担する例も増えておりますが、お墓はどうなるのでしょうかね。慣習が分からないのでお寺さんにその地方の風習を聞くようにアドバイスすることもあります。
でも「お骨を返せ」、或は「分骨させてください」という事件依頼には「慣習」とは違う解決を模索しないとならない場合もあります。
本来、お骨の所有権の帰属も前項の条文に従い主宰者のものとなりますが、相手に内容証明を送るまでして裁判になったことはありません。前項で示しました第8972項によりますと、「慣習が明らかでないときは・・家庭裁判所が定める」としております。しかし裁判までするということには疑問をもっております。やむを得ない場合を除いて、裁判を主張される弁護士が果たして有能な弁護士なのでしょうか?お骨の主人公が生きておられればお怒りになるでしょう。
私は、お骨と一体となって生活したいという依頼者の覚悟をお話しして、分骨をお願いしてはどうかと説得しております。既に納骨されておりますと分骨はお寺さんとの関係処理も出てきますので丁寧にお願いして結論を出すようにしております。これまで、こじれた例はありませんでしたから、私の依頼者は“きちんとした方”ばかりです。
 
二 日本の相続は、いまだ「家制度」が必要なのか?
 
1 「相続事件簿その5遺言と遺留分」を読んで、ある方から日本の家族に対する認識が従来と大分変遷しているのではないかという感想が寄せられました。私のコラムに対する真摯な感想が寄せられることはうれしいのですが、“日本の民法学者は古い”或は“新たな家族理念に基づく解釈乃至立法活動が必要”という批判と分かります。
確かにエマニュエル・トッドのいうように、日本はまだ直系相続の国なのでしょうか?今の我々は民主主義が十分に根づいている、否、家族の崩壊という理由により劣等国家のような状況は最早ない、と反論する読者が出てきても不思議ではない時代になりました。
 
2 民法第897条のコンメンタール解説書を見ると確かにそうです。
「本条は、系譜、祭具及び墳墓等の祭祀財産について特別の承継ルールを定める。戦前の旧規定では祭祀財産は『家督相続人の特権に属す』とされ、家督相続人が独占的に承継した。しかし、戦後家督相続が廃止され遺産相続に一本化された後も、なお一般の相続原則の例外とした趣旨は、従来の慣行や国民感情に配慮したことと、祭祀財産は分割相続になじまないことにある。しかし、祖先崇拝と結び付いて家制度を温存するとの批判も強い」とあります。
 
3 「相続事件簿その5」のコラムでは個人成育史まで書いたことにより、皆様の関心はいただきましたが、本当に難しい問題なのです。
家制度、特に直系相続などについて興味を持たれる方には、「日本の起源」という3年ほど前に出版された歴史本を紹介しましょう。「日本の起源」は、3年前かなり売れた本ですが、新進気鋭の歴史学者である東島誠氏と與那覇潤氏の対談本です。
この対談の趣旨は、日本の歴史が卑弥呼の時代から、つまり天皇制が始まる前から分析され、「家制度」がとられざるを得ない必然性を分析し、その必然性から歴史は反復してきたという内容を解説した快著で、家制度に対する幻想も吹き飛びます。
では「家制度」は、もはや現代文化からほど遠い「慣習」とも言えない文化状況になったのでしょうか。私自身の経験からしますと、次世代に期待したいという「ずるい結論」になるのですが・・。
皆様はどうお考えでしょうか?

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一 特別受益が問題になった事例
 
1  今回は特別受益が問題になり、その解決に大変苦労した事例を紹介し
ましょう。
前回と同様、バブル景気に湧いた当時の事例です。
問題の発生はバブル景気を遡り、失われた10年と称された不景気のど真ん中、昭和50年頃のことです。当時、相談者のお父さん(以下、父といいます)が、借地上に建物を建てて相談者のご長男家族と同居されていました。昭和50年頃は不動産価格もどん底で、当時、お困りになった地主さんから底地を買い取ってくれないかとお願いされたそうです。ご高齢の父には資力がなく、同居していた長男である相談者がその底地を買い取ることで話がつきました。相談者ご夫婦は、当時より、父母の介護を続けてこられましたが、ご両親が亡くなられたバブル景気の頃には、その土地の値段は驚くほど高騰していたのです。
 
2   相談者のご兄弟は、父の遺産分割を主張されました。
相談者は、父の遺産については、預金と僅かな株式、本件で問題となる価値のない建物しかないと反論していたところ、ご兄弟に弁護士がついて「被相続人には借地権という莫大な遺産がある。それを処分なりして法律に従って分配して下さい」と言ってきたというのです。
これは大変なことです。建物に価値などありませんが、借地権は土地そのものであり、しかも都心にある一等地なのです。
路線価により借地権割合7割とすると、億単位の話しになってしまい、相談者に支払える金額ではありません。しかも相談者は父のお願いによって底地を買われたのであり、その後何年もの間、父母の介護に努めてこられました。
 
二 多岐に渡る論点
 
1 論点整理
借地権は存続しているのか?消滅しているのか?借地権が存続しているなら、父の借地料等は何故支払われなかったのか?
借地権が消滅しているのなら、父の建物の利用権はどのように評価すればいいのか?
借地権が消滅している場合、底地を購入した相談者には借地権価格を除いた底地価格で購入したのであるから、借地権価格が贈与となり、特別受益にならないのか?
特別受益とすると、特別受益とされる借地権の評価は何時の時点で考えるのか?
特別受益とすると、黙示による持戻し免除の意思表示が検討される必要があるのではないか?
 
2  今回のような事例、或いはこの変形は、実は多いのです。
通常、相談者は、相続税に関する税法上の配慮もあり、借地権は消滅したと主張されることが多いようです。法理論としては民法179条による混同の法理ですね。「同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は消滅する」と言う法理です。
上記主張をする場合には、更に底地相当の価格分に関する贈与を受けたとして、特別受益の認定がなされるでしょう。これは底地の評価額ですから莫大な金額を相続分として持戻しせねばなりません。
上記の場合には、次の理論による手当てが必要です。即ち、父が「黙示で特別受益としない」、つまり相続分として持戻ししなくてよいという「持戻し免除の意思表示」があったと主張しないとなりません。ここまで裁判所に認定されないと勝負の意味がないのです。微妙です。
では、借地権が消滅しないとする主張も考えてみましょう。
消滅しないなら、父は建物を所有しているのですから借地料等を支払わねばならないはずです。父は上記事実に頓着せず、当然に賃料等の費用に関する支出はありません。上記の状況で借地権が存在すると言っていいのでしょうか?当事者の誰も借地権が存続すると考えていなかったというのが本件の素直な解釈で、黙示の合意とも言えます。
以上のように考察し、これを使用貸借に変じたとされる学者或いは判例も当然に出てきます。親族間の建物所有に関し、土地の使用貸借は、例え借主が死亡しても当然には契約終了にならないとし、民法599(使用貸借の終了)の適用を否定する考え方です。事案に素直ですね。
本件においては、父の相続人は父の使用貸借という法的立場を相続し、相続人間で相続法理に基づいて決着するという流れになります。
しかしながら、使用貸借として評価される金額は、借地権と比較し大幅に低額です。
 
三 本件の解決
   何が解決の急所になるのか、「生もの」の事案は不思議ですが、本件は相談者ご夫婦が、長年父母の介護を続けてこられたことが解決のポイントになりました。ご兄弟も相談者ご夫婦の長年の労苦を知っておられましたので、最後まで無理を言われる対応をされませんでした。
   ご兄弟の弁護士は、最終的に土地の使用貸借相当分の評価額でよいという姿勢を示されたのです。古い非堅固建物であることからして、評価額は1割程度と認定するのが我々の常識です。
税法上の工夫も必要であり(税理士の先生との共同作業です)、総合的な評価・検討が不可欠です。当時は相談者の寄与分まで検討しました。
結論として、上記評価額及び預金等を各兄弟に分割してお支払いするという内容で和解しました。でもバブル期の高騰した相続時を基準にした評価額ですから、支払いはそれなりの金額になりました。
その後のバブル崩壊まで考慮されないのが残念ですね。

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