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コラム - 自救行為或いは自力救済カテゴリのエントリ

一 我が国の法律は自力救済を否定するのか
1 自力救済は法律も是認している

(1) 刑法講座と言う大変有名な本の第二巻を読んでみましても、民法での占有訴権については触れられているものの(民法第2022項)、反対に解釈される竹木の根の自力切除権(民法第2332項)については触れられておりません。民法第2332項を素直に読めば自力救済を認めた規定と読まざるを得ないはずです。学者の先生の価値観で考え方が変わります。価値観が問われるため書きにくい論点なのでしょうね。

 STAP細胞の小保方先生、理科学研究所の偉い先生方、最後にはノーベル受賞者を巻き込む近時の大騒動には事実主義を標榜する我が事務所では呆れてしまうだけですが、自力救済或いは自救行為の論点においても学者の先生には迷走があります。私は楽しんで読んでいるだけですが、学者の先生をめった切りにする研究論文も面白いでしょうね。前回のコラムで書いた私の憲法期末試験のように、学界からは無視されるだけでしょうが。

(2) 自力救済を書かれる研究者、つまり学者の先生には言っておきたいことがあります。

自力救済を認めない理由として、裁判所が国民から司法権を任され、その裁判所が是か非かを問う場合の唯一の判断機関であるということを前提にされておりますね。そして当然これらを法治主義で説明されますね。であるなら破産事件で苦しんできた私にとって言いたいことがあります。税務署の滞納処分は自力救済そのものではないですか?結論を言いますと「法律に定めがあるから、裁判所の判断を得ないで自力執行が認められる。これを自力救済規定と言う」と解説して下さい。自力救済の解説で、何故これも書かれないのでしょうか?
学者の先生の解説では見つからず、面倒なのでネットで調べてみましたら、フリー百科事典ウィキペディア、自力救済の項目ですぐに見つかりました。「国税滞納処分は自力執行権である」と記載されております。つまり自力救済の思考は根本において認めざるを得ない概念であり、我が国の法律でも随所に採用されております。
自力救済は、依然として根強く我々の価値観を形成しているのです。

(3) 安倍総理大臣が集団的自衛権を唱えるのも、自力救済の必要性を強く認識しているからでありましょう。私の大学時代の「やんちゃ」な姿を見る思いです。しかしながら、何とか自力救済を先に延ばそうとか、最後の最後まで発動させないようにしようなどという工夫がありません。

安倍総理は「やはり危ない、無邪気すぎる」と感じられるようになったのは、少しは私も大人になったのでしょうか。
 
 安倍総理と同様、自力救済の思想で育ち、後に分かったこと

(1)  私の思い

弁護士のコラムなのですから、判例を最初に書いてほしいと言う気持ちは分かります。しかし私は、私の学生時代、自力救済を合言葉のように唱えていた時代を書きたかったのです。学生時代は、安倍総理とは逆の意味で、国民側からの目線のつもりで、反権力が合言葉でした。国民の自由を守るためには、権力と対峙する必要があり、自ら体を張って異議の申立をしないと真の国民主権は成り立たないと考えていたのです。しかし年寄りになって、逆に危険であることに変わりはないと気付きました。まず自力救済を発動させない工夫をしなければならないのです。共産主義的思考に絶望したことも「大人?」になれた原因でしょうかね。
いずれにしても、当時のやり方では碌な世の中にならないと言う意味で・・。ある人から、分かるのが遅すぎると言われましたが・・

(2) そもそも民主主義は、暴力で解決することを排除した思想です。暴力は、最後は人命を失ったりすることで、割りが合わないという合理的思考から生まれました。政治思想もこれを根源としています。そして他者の自由を侵害するような事項については、多数決により決めることにした人類の知恵が、現実主義に即して思想となったのです。本コラムを読んでくれている若い方々、興ざめしませんか。

しかし私の学生時代は、自力救済を唱える時代だったのです。自己責任を自覚するなら、それはそれで自分の肌合いにぴったりでありました。しかし自力救済は相互に恨みを残し、また恨みは続き、未解決となり、経済的にも、否、精神的にも合理的ではありません。
 
二 判例紹介とその射程範囲
 
 1 判例は、当初、自力救済と言うだけで既に否定的でした。
自力救済の可能性を認めた判例は昭和301111日の最高裁判例が有名です。事件の内容は、他人所有の玄関間口8尺程度を切り取った自救行為です。最高裁は当該行為について適法とは認めませんでした。しかし具体的な事情によっては自救行為として認められる場合もあるとその可能性を述べたのです。
自力救済を認めた横浜地裁判例も紹介します(昭和6324日)。
マンションの前で、3か月間も車が停められていたので、住人が再三に渡り車名義人にどけるよう督促を繰り返しました。しかし名義人は応じませんでした。故意による放置と判断した住人はやむなく車を処分してしまったと言う事案です。裁判所は、本件については「やむを得ない特別の事情がある」として車名義人からの損害賠償請求を認めませんでした。
以上からも分かりますが、当初の賃貸借のコラムで紹介しましたとおり、「やむを得ない特別の事情」を認める判例は少ないのです。
 
2 自力救済のコラムを終えるにあたって
 
  若い弁護士の先生。自力救済を論じられる姿勢は本当に素晴らしい。しかし自力救済は相手方に禍根を残すこともあります。さらには懲戒になってはたまりません。「やむを得ない特別の事情」の発動ですから、十分に事件内容を吟味してください。そしてやる時には勇猛果敢に!
今回は私がずっと考えてきたテーマを纏めてみました。書き上げてから、本コラムの内容を副所長に話しました。
副所長から、自力救済は抵抗権かと質問されました。私は、自力救済は人類の持つ自然権であり、抵抗権にも通じると話しました。副所長から、お客さんが増えそうもない哲学は、本コラムに意味がない旨のお話もいただきました。
でも「こんなことを書いていないと楽しくない」と返しました。
 

    

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一 国際司法裁判所
 
1 国際捕鯨取締条約
 
(1)  自力救済の最終稿を書こうとしていたところ、「調査捕鯨で日本が敗訴」の報道がありました(本原稿は41日着手)。結論は別にして、国と国の紛争も「裁判でけりをつけられる」形が定着するということは、「経済的に割のよい一つの解決手段」を選択したという意味において評価すべきことだと思われます。裁判でけりをつけるということは、我々のように法による解決を専門職業とする弁護士にとっては当たり前のことですが、国家間の紛争では、いまだ常識にはなっておりません。自力救済論争の根本はここにあります。
今回のテーマである国の自力救済から話がとびますが、「鯨食」は日本の伝統文化だという日本の反論にも違和感があります。だって鯨を食べた記憶ははるか昔のことで、貧しかったためだけに食した記憶です。裁判では他国も納得する他の論点に焦点を絞るべきだったように思います。弁護士に求められる資質である「粘り」が、今回の司法裁判では全く感じられません。前々回のコラム、3「子の奪い合い」を読んでください。私が代理人になりましょうかと申出したい位です。
 
(2)  話を戻します。国際司法裁判所の登場とは何とラッキーなのでしょうか。今回のテーマである「自力救済」に関する究極の論点、「国家間の紛争解決」の仕組みが説明しやすくなったと喜んでおります。そういえば前回のテーマである「不動産は放棄できない」という題材においても新たな論点が出てきました。現在、私は、裁判所の依頼を受けて極度に珍しい破産管財業務を行っております。都下のある地域において、先の戦争直後から放置されたままの遺産を処理しております。主としては当該地域に存する不動産の整理ですが、事務所を挙げて取り組んでおります。何と「不動産は放棄できない」という論点に新たに付加しなければならない発見もありました。早く付加したいのですが、来年度まで書けません。それまでこの破産管財業務は終わらないからです。
国際司法裁判所のおかげで自力救済の掲載も一回増えました。
 
 2 戦争は典型的な自力救済
 
(1)   察しの良い方は既にお分かりでしょうが、国と国が争う戦争はまさしく「自力救済」以外の何ものでもないのです。裁判所の利用などあり得ない世界なのですから、救済手段は、究極的には暴力、つまり殺し合い、そして戦争と言う人類にとって最も効率の悪い方法に発展する可能性を有しております。最近問題になっている尖閣列島を考えなくても戦争は自力救済そのものなのです。
 
(2)  我が国の法学界は自力救済を毛嫌いしております。学者の先生方の解説書を読みまくりましたが、自力救済そのものを法の世界の異端児として放逐したがっていることがよく分かります。「不動産の放棄」でも同じことを感じましたが、「自力救済」についても全く同じです。
偉い学者の先生方も半端だと、しみじみ考えざるをえません。私にとって、学者の偉い先生方も、私の悩みと、それ程差がないことに気が付いたということが、本コラムを書き始めた最大の収穫でしょうか。自力救済規定を詳細に定めるドイツの国とは大分様相を異にしており、学者の先生方の論調も各人で違い、その主張にも深さがありません。この辺は次回のコラムに譲ります。
 
二 私が何故「自力救済」に関心を持つのか?
 
1 私の学生時代
 
(1)  私が「自力救済」について書こうと思い至った理由は、そろそろ法律の枠からはみ出た自分の思考過程・価値観を書いてもいいのではないかと思い始めたことにあります。
 
(2)  私は高校二年生の夏、60年安保で亡くなった樺みち子著「人知れず微笑まん」を読んで震えました。両親に、どうしても大学つまり都会に出てみたい、家業は弟に譲るからと大学進学を頼みました。我が故郷は、狭い町を外れると田が広がる田園地帯ですが、我が家は不在地主の家であったものの、当時の田舎並みに経済は厳しく、不遇の時代を迎えておりました。でも両親は進学させてくれました。
 
(3)  大学は一年生の時には多少授業に出席しましたが、二年生からは自慢ではありませんが、語学少々とラクビー少々の授業以外一度も出ておりません。当時の私の雰囲気をお話しするいい題材があります。
法律を売りにする大学に入ったのですが、法律については教えてもらったとは思っておりません。さすがに一年目で憲法の授業があり、当初は出席しましたが、高校レベルの講義でしかありませんでした。期末試験で「国民の義務について述べよ」と出題されました。私は十分に国民の三大義務を述べた後、当時の私の信念であったスローガンである「国民の生活の実力防衛」義務についても付加して論じました。驚いたことに結果は不可でした。
弁護士になった現在も、私の解答で出題の意図は十分こなしていたと考えております。学生時代、既に大学教授が採点しているとは思っておりませんでしたが、その狭い思考態度に呆れ、学問を標榜するならもっと自由であるべきだと思いました。
私の反省点は、憲法第12条「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」を引用したものの、憲法上の根拠づけの展開が不十分だったということです。幸福追求権(憲法第13条)、国民主権(前文及び第1条)、基本的人権の本質(第97条)まで歴史・沿革を述べ、究極の自力救済義務までに敷衍させるべきだったということです。
 
2 自力救済的思考
 
  私は法律の勉強はしませんでしたが、司法試験受験生と同じくらい本を読み、自由に考  え、学んだつもりです。
いずれにしましても、学生時代は自力救済を是とする「やんちゃな学生」だったのです。
     続きは次回にします。
 
 

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一 小説の上手な組み立て方―自力救済を題材にする
 
1 前回紹介した本
(1) 「弁護士が悩む家族に関する法律相談」という本で書いた事例3「離婚に伴う婚姻費用・養育費・財産分与」の項で、村上春樹著「1Q84」を読んで訂正するべき内容も出てきたと書きました。
私の書いた部分、46ページの記載です。「そもそも控訴審は憲法20条信仰の自由を巡る論争でした。憲法論争に負けたと感じた私には大変な衝撃でした。しかしA女は「親方(意味不明ですが)の仰ることですから」と淡々と受け入れた姿勢に対し、私は敗訴判決以上に衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えています」というものです。
「親方」ではありませんでした。「1Q84」を読んで分かったのですが「親方」は「お方様」だったのです。「1Q84」には『さきがけ』と言う新興宗教団体を登場させていますが、私の依頼者は「お方様」と言う根源的な出会いを経て、結婚以上の幸せを勝ち取られたのだと今では思います。私は彼女からいただいた手縫いのガウンを今でも愛用しております。離婚後、布教活動をされる幸せそうなご様子には、宗教を信じないと豪語する私ですら羨ましかったものです。
ところで余計な話で申し訳ないが、私は控訴審から受任して勝訴に導いた経験が極めて多い弁護士です。つい先週も東京地裁判決を高裁でひっくり返し、最高裁で確定したばかりです。
この事実は私を追っかけしてくれていたある有名国立大学教授も認めておられる事実です。そもそも「粘り」は才能であると言う標語を若手弁護士に語るぐらいですから、敗訴の経験は極めて少ないことをお断りしておきます(「子供みたい」と言われても主張します)。
 
(2) 驚きましたが、「1Q84」には、前回書きましたドメスティックバイオレンス事件(家庭内暴力事件、即ちDV事件)の自力救済がテーマの一つになっておりました。
 DV事件の経験のある老婦人が、DVで苦しめられている女性を救うためにDVをする男性をこの世から抹殺してしまうという展開がされております。主人公の女性は老婦人から殺人を請け負うのですが、まさしく自力救済が問題となるストーリー作りでありました。
 自力救済と言う同様なテーマが小説になっていたことで「1Q84」を紹介した訳ですが、6巻もあって読みにくいですね。新興宗教独特の思考パターンの展開もあり、村上春樹の世界は、ますます自己没入型という印象を受けました。しかし特別な味があります。
 
2 葉真中顕著「ロストケア」という小説
(1) この小説も現在の高齢化社会をとらえる小説としては、紹介に値するものと確信しております。本小説も自力救済を題材にとっている小説で、老人を介護する家族を守ることを目的にして、その介護を受ける老人を43人も殺してしまうと言うまさしく壮絶な本なのです。
 
(2) 口頭では私の知合いの何人かにこの本を紹介しました。これからの超高齢化社会、介護の在り方等種々考えさせられる本でありました。私の事務所の図書箱にも常置しております。
 
  作家宮部みゆき
(1)  私の父は、93歳で亡くなる前、自分の机の上に宮部みゆき著『火車』という本を開いたままにして旅立ちました。何時か、何かの形でこの話を残しておきたいと思っておりました。
 
(2) 『火車』は消費者金融の世界をテーマにしております。破産するべき一人の女性が他の女性になりすますなどして生き抜く姿を追うもので、法に通暁した話が満載された小説です。父は、こんな難しい話を読んでいるのかと驚きました。彼女の作品は、社会のひずみを、その時の社会的テーマで切り取る手法で構成されるものが多いです。
消費者金融の取立て事例が判例として検討され、民事判例索引集では民法709条の自力救済の項で出てくるのですから、まんざら今回のテーマと無関係ではありません。
 
(3) 宮部みゆきの本はあらかた読んでおりますが、自力救済に関係する話としては、直ぐに「理由」が出てきます。この本の主人公は、いわゆる占有屋(通常、強制競売されそうな建物に入り込んで、立退き料等を請求する危ない人たちを我々はそう呼びます)の話しでした。この占有屋を裁判でなく実力で追い出せば自力救済の話になることは賃貸借の項で既に説明済みです。
 
(4) すごい本だと思ったものとして、昨年12月に発刊された新本「ペテロの葬列」があります。この本は豊田商事の話を基本にして書かれております。この小説の最後に、参考資料として「豊田商事事件とは何だったのか 破産管財人調査報告書記録」が上がっているので驚きました。宮部みゆきは裁判所で記録の閲覧謄写までして破産資料を入手されているのだろうと驚きを感じております。
 
二 面白い小説には自力救済を題材にしたものが多い
 
  小説の組み立てに自力救済を題材にしたものが何と多いことかと驚きませんか?でも私には、自力救済の切羽詰まった程度の話しでは感動できません。人の本質に迫らないとだめですね。
前述の「ペテロの葬列」は、《事件もの》の枠を超えております。人間の本質を追及しています。最後の落ちが不満だという意見には私も賛成ですが・・。
  我々の生活は前の項目で如何に小説の材料が多いかをお教えしました。昨年は、若い先生と大沢在昌の著書で小説の書き方を読み合いましたが、弁護士より小説家になるほうが圧倒的に大変だと思いました。

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一 「子の奪い合い」は身近な事例
 
1 出版された本の紹介
(1) 「弁護士が悩む家族に関する法律相談」という本を出版した際の  ベテラン弁護士の嘆きを紹介し「子の奪い合い」をテーマにした自力救済について話してみたいと思います。「子の奪い合い」はハーグ条約にも関係する自力救済を論じる上での恰好のテーマなのです。今回、ハーグ条約は論じませんが、国際結婚した日本女性が、婚姻破綻後、アメリカから日本に子供を連れ帰り、子供に会えないアメリカ男性は数百件もあるという報告があるそうですが、「本当ですか」と言いたくなりますよね。これを「拉致」と言うんだそうです。
 
(2) 話がそれました。上記の本は、昨年3月、日本加除出版から第一東京弁護士会の法律相談センターによって、主として若手弁護士に向けたエールとして出版されました。私は、かつて法律相談センターの委員長をしていた関係から、始めは編集委員として旗振りをしておりました。しかし編集や座談会等の雑務は若い先生方に任せてしまえばいいということで編集委員から降ろさせていただいた経緯があります。
そのような経緯から、事例3「離婚に伴う婚姻費用・養育費・財産分与」及び事例20「弁護士倫理と遺言執行」は私が全文を書いております。事例3では、村上春樹著「1Q84」を読んで訂正するべき内容も出てきましたが、面白いテーマにも結びつきますので次回に紹介しましょう。
 
(3)ここで何故弁護士向け専門書を紹介するかを説明します。つまり、この本の出版に際して、私の後の法律相談委員会委員長であるベテラン弁護士が嘆いていた内容をお教えすればよいのです。即ち、自救行為乃至自力救済と言う言葉の持つ意味が、弁護士の成長度を測る測定機のような関係にあることを理解いただけると思ったからなのです。
 
2 別居時の子の奪い合い
(1)  あなたは自分の子が自分から引き離されることに我慢ができるでょうか?
別居時、夫の暴力から逃れるため、命からがら身一つで家を出たが、置いてきた子供を奪い返したいという相談はドメスティックバイオレンス事件(「家庭内暴力事件」、これを「DV事件」といいます)の担当になると通常よくある話なのです。
私の委員長時代には、DV事件は社会的に問題となり、暴力から逃れる妻のために、妻を保護するシェルターまでも用意されるようになりました。子供をおいて暴力から逃れる妻が、「ほっ」と一息ついて、置いてきた子供をどうしても連れてきたいと弁護士に相談したら、あなたが弁護士なら「連れ出してくる」ことに協力するのではないでしょうか?これが誘拐になるのでしょうか?
少し考えてみてください。子供を実力で奪った夫を誘拐罪で処断した最高裁の判例(最高裁判決平成17126)もありますから。
 
(2)  ベテラン弁護士の問題意識はここにあります。
この本の総仕上げである座談会で(巻末に載せられています)、現委員長である司会者より問題提起がありました。その問題提起は、まさしく「子の奪い返し」について相談があったらどうしますかというものであったのです。
当然、司会者は難しい問題だと思っての問題提起だったのでしょうが、元委員長のベテラン弁護士は、女性を可哀そうだと考え、その子の幸せを考えるなら懲戒覚悟で闘うのだと発言したのだそうです。ところが若い先生方から反発を受けたそうです。私は出席しませんでしたが、自力救済には否定的だったのでしょうね。本当に面白いですね。私は、このベテラン弁護士や司会をされた現委員長よりは圧倒的なお爺さんですから、思わず「にやり」というところでしょうか。
2乃至3日程度しかたっていないなら自力救済は認めてもいいと言う結論で上記座談会は体裁を整えて発刊されました。事実を検証されたい方は是非買って読んでください。
 
(3) 離婚の際、審判で子供の親権をとっても、子供を奪い返す直接強制が困難なことなど、子供を巡る問題は本当に難しい。
でも子供を奪い返すことが、母にとって必要な場合も多くあるでしょう。私は男ですから、母の愛なくして生きられないとまで思います。女性と少し違うのかもしれませんが、幼少期の母の愛は絶対的なものではないでしょうか。
2年程経ちますかね。男性弁護士が別居して3か月以上でしたか?子供を奪った事件がありました。この場合、男性の子供に対する愛は分かりますが、自己の庇護のもとで子供を育てていた原状がないのですから、自力救済とは言えません。誘拐罪で逮捕されました。
 
二 「自力救済」への反応は、サラリーマン弁護士かどうかの測定機
 
弁護士でない皆さん、付き合いたい弁護士はどちらでしょうか。
前述のベテラン弁護士に「自力救済は、一人前の弁護士になったかどうかの測定機だね」と話し、今回私のコラムで自力救済を書こうと思うという話をしました。その弁護士は私のコラムに自分の実名を載せていただいて構いませんとまで話され、熱く賛同の言葉を述べられました。
ベテラン弁護士は若手弁護士のサラリーマン化を憂えておられます。ベテラン弁護士の思いは私も同じです。紹介しましょう。
「簡単に諦めてはいけない。何とかしようという『粘り』こそが、弁護士にとって必要な資格だと思う」。
次回は「自力救済と小説」について書いてみます。

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1 連帯保証人立ち合いによる自力救済(前回からの続き)
 
(1) 連帯保証人になっているその筋の兄貴分の言い分は次の通りで ありました。「自分の連帯保証責任を追及しないのであれば、動産搬出の立ち合いをする、自分が賃借人に搬出の件については承諾させる」という返答でした。これを聞いた依頼者は「これからの賃料収入がないと困る。兄貴分が賃借人に搬出を承諾させると言っているのだから連帯保証責任は免除します。動産搬出を直ぐにしてください」というものでした。
 
(2) 「その筋」のいい加減さを知っている私は本当に困りました。
許されない自力救済は、私自身の弁護士会懲戒問題にも発展し、私自身の多大な経済的損失になりかねません(連帯保証人が親族であれば動産搬出をしていたか?と聞かれると困りますがね)。
信義を唱えられる「その筋」には信義がないことを経験しておりましたので、絶対にややこしい話になると予見しました。私は依頼者に「報酬は一切いりません。代理人を辞任します」と告げました。
その後も依頼者には万全の手を打つようにアドバイスを続けましたが、行方不明の賃借人に辞任通知を出すことができないことに気付いて「あぶねぇな」と愕然としたことを覚えております。
 
(3) 本件の代理人は辞任しましたが、依頼者には段取りを十分に説明し、兄貴分立会いの上で、現場写真を撮って、家具動産類の目録も作らせました。その上で家具等の動産類を搬出し、賃借人が出てくるまで倉庫で保管することにしました。
兄貴分の説明通り家具や動産搬出には苦情は出ませんでした。
 
(4) しかし何と、行方不明の賃借人から「高い絵があるからそれを返してほしい」と言う苦情が私宛にきたのです。「やっぱり」と言うのが私の感想でしたね。でも膨大な滞納賃料があるのによく言いますよね。これが「その筋」の方々の「やり方」なのです。
このような問題が起きることを意識して倉庫に保管していた「見るからに安っぽい絵」を返却する条件として、その他の家具等の返還要求はしないことの確認書を取って、業務から解放されました。
自救行為で「危ない橋」を渡った私は相当に頭に来ていたのでしょうね。依頼者の方には「もう二度と事件の依頼をしないでください」と通告し、20年以上連絡すら入れておりません。 
 
2 賃貸借契約における自力救済は怖い
 
(1) 不動産の明渡等を専門にされる弁護士、これも「ブティック型法律事務所」いうのかもしれませんが、そんな事務所も増えていると聞いております。しかし、依頼者に対してよほど乱暴なことをしないと経営は困難でしょうね。そもそも賃料の相場を考えてくだされば分かると思いますが、事務所維持費用すら回収できない分野だと思います。前回コラムのような依頼者が通常のお客様でしょうから、賃料相場に比例しない諸費用の支出は経済的合理性に反します。
私の事務所ではビジネスになりがたい分野という話になります。
 
(2) しかし、当事務所では賃貸管理を業とされる顧問先は何社もあります。顧問になっていただいた場合には明渡事件もどんどん受任しております。それは当事務所との信頼関係でしょう。
今回は顧問先に迷惑にならない範囲で驚いた自救行為の話をしてみましょう。
先ず最初に、賃貸マンションの家賃不払が続いた場合、マンション入り口の鍵の交換をして利用できなくしてしまう事例は多いですね。さすがに賃貸管理を業とされております顧問先は、これが自救行為として許されない範囲のものであることはよくご存知です。
驚きましたのは、マンション入り口鍵穴を含めたドアノブの上から全体を包み込むようにした器具を被せ、その器具に鍵をかけてしまうという手法です。そして必ず連絡文、「利用される場合には直ぐに連絡してください、お開けします」を付け、賃借人の利用を妨害していないような形をとるというのです。この器具は大阪の顧問先が利用していると言っておりましたので、東京の顧問先に話してみました。顧問先から「その器具が東急ハンズで売却されていたので購入しました」と報告を受け、東急ハンズもすごいと感心しました。
でもこの事例でもマンションが利用できなくなる可能性はあります。業として利用される賃貸だと損害が発生する可能性は高いでしょうね。弁護士としては利用されないようアドバイスするでしょう。
 
(3)  次も顧問先の事例ですが、これは記載しても問題はないでしょう。
 20数年前、賃貸管理を業とする顧問先から明渡の事件を受任し、通常のルールに従い訴訟となって第一回の口頭弁論期日を迎えました。当日、相手方弁護士の弁論は、当社の顧問先が名誉棄損をしたと話され、貸室入り口ドアから横の窓ガラスまで、「金を払ってください」等と抗議と経緯が記された書面が大量に張り付けてある写真を示されました。裁判官も「これはひどい」なんて漏らすのです。
 でも不思議なのですが、これはそれ以上に大事にはなりませんでした。つまり本件の賃借人はこのマンションが気に入っており(名誉棄損のビラを貼られて変ですね)、これからも住み続けたいので和解にしてほしいというのです。顧問先担当者に話をして分割金支払いでの和解にして解決しました。受任してからのビラ貼りであれば私は懲戒申立の可能性もありました。相手方弁護士には「先生の顧問先は下品ですね」と言われましたが、返す言葉がありませんでした。
 
  まだまだ自救行為のコラムは続きますよ。

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一 侵害された権利の回復
 
1 はじめに
(1) これまで「危ない思い」をしたことがありますか?と言う質問は多い。弁護士には「危ない仕事」は本当に多いのです。
  お腹に新聞紙を巻いてナイフ等から身を守る事前準備をしたというような単純な「危ない事件」も確かに多々ありました。しかし、これは私の自慢話に通じるし、馬鹿馬鹿しいので致しません。
でも今回から何回か、私の依頼者の要望或いは言動で「危ない思い」をしたという経験等について話してみましょう。
 
(2) 自救行為乃至自力救済と言う言葉の法律論は終わりで説明しますが、ここでは「裁判手続きを経ないで自分で侵害された権利を回復することを言い、一般的には許されない」と理解しておいてください。
 
2 私の気質
(1) 今までの経験からして、危ない仕事の一つ「自救行為・自力救済」に巻き込まれる弁護士は、その方の気質に原因することが多いと思います。しかし、本心を言うと、その先生は自己の気質に注意をすればいいだけだと思います。依頼者の要望に悩みもしないで初めから自救行為を避け、依頼者と正面から向き合わない弁護士活動をされる先生が多いが、私はその先生を絶対に尊敬しません。そのような先生は誰からも喜ばれないし、何の社会貢献もないサラリーマン弁護士です。危ない仕事で悩む先生こそ素晴らしい気質を持っておられるのです。
 
(2) そこで私の気質について説明しましょう。私は、依頼者の方に対し、ポンポン言っているようであっても依頼者に喜ばれる弁護士足らんとする傾向が猛烈すぎるそうです。
私の事務所の副所長から、このように批判されています。
「所長は『報酬はきちんと貰え!』、『依頼者に迎合的な弁護士活動をするな!』、『人権擁護などという用語は使うな、そんな用語は我々に関係ない!』などと発言するくせに、自分が一番妥協的な「安い」金額で引き受ける、受任後も依頼者に寄り添いすぎて人権擁護なんて言葉以上に弁護士活動をする。そんな逆向きの発言は、若い弁護士に誤解されるし、根本で誤った教育になる。そんな言い方は止めなさい」と何度か注意されたことがありました。事務所副所長は私の気質や発言の本質を直ちに汲み取る本当に優秀な弁護士ですが、でも、その指摘には、「なるほど私は危ない気質を持っていて、それを自覚していないな」と改めて気づき、反省したこともありました。
     こんな私ですから依頼者が自衛行動を主張される場合には本当に「危ない橋」を渡る 
     ことになります。
 
二 自救行為乃至自力救済による「危ない事例」
 
1 典型的な借家明渡事件
(1) 弁護士になりたての頃ですが、賃料不払の方を追い出してほしいという依頼を受けました。依頼者の方はお年を召したご婦人で、きちんとした方でありました。
私は若い先生方に賃料不払による明渡請求事件など、法律論としては本当に簡単な事件だと説明しております。しかし賃料収入で生活されている依頼者にとっては明渡に経費をかけることは経済的に合理性がありません。毎月の安い賃料収入に比して経費のかかる弁護士・裁判費用では収支が合いません。明渡事件は分かり切った手順を踏むだけなのですが、しかし、その手順は法律通りでなければなりません。
 
(2) 依頼事件の賃借人は何か月も賃料を滞納しておりましたが、社会的に問題のある「その筋」の末端構成員の方でありました。こんな方であっても、経費をかけたくない依頼者に配慮して内容証明による解除通知後、出ていってくれるよう訴訟提起前に打診をします。危機管理はきちんとしますが、その筋の方々に恐怖したことは一度もありませんので「危ない話」は、そんなことではありません。「末端の方」に聞いたところ、金はないので滞納金は払えないが、近いうちに引っ越しをするという話でした。
ところが、その「末端の方」は出ていく直前に行方不明になりました。どうも警察に捕まってしまったらしいと依頼者は話されており、どこの警察かも分からないという事案でした。
 
(3) それからの依頼者の要望は苛烈でした。本件の契約書には解除後、残されている動産の放棄条項或いは動産は賃貸人で搬出・処分できる条項を不動産業者のアドバイスでわざわざ入れているのだから直ぐに搬出してください。裁判をして長期化したり、新たな費用をかけたりしないで、一刻も早く新しい賃借人から賃料をとれるようにしてほしいというものでありました。
 裁判所の手続きを経ない動産搬出を自力救済と言うのですが、家具等の動産類を勝手に搬出すると、持ち出された相手方から利用できなかったことを理由にして損害賠償請求される危険性があります。それに動産が壊れたとか或いは無くなったとして器物損壊罪や窃盗罪等の犯罪だと言われる危険性もあると説明しました。依頼者が強調される動産搬出条項を事前に入れておいても判例は厳しい態度をとっており、法的に認められない可能性が高いことも説明しました。
 
(4) 新しい反論が出ました。連帯保証人の立ち合いで搬出してくれればいいというのです。連帯保証人に連絡して賃借人の状況について聞いてみたところ、連帯保証人は賃借人の兄貴分ということではありましたが「俺たち下っ端が、組の重要事項をお前らに話せると思うか」と逆に脅かされる始末です。   ここで次回に続きとします。

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