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コラム - 不動産の放棄カテゴリのエントリ

1 不動産放棄に関する電話相談は本当に多いのです。本コラムをご覧になって、全国から電話がきます。
 私の生まれ故郷の近くに居住される方から電話がきたときは、ついつい、こちらから具体的な内容に踏み込んでしまいました。「その畑では、猪や鹿が山から降りてきて、彼らが生活しているような状況ではありませんか?」、私自身が何とかしたいと思い、「近くの畑や山の所有者と、工夫できないかどうか相談していますか?近隣や役所との相談が絶対に必要ですよ」という具合です。
 最近の電話相談は、私のコラムをよく勉強されている方々が多い。例えば、「もはや管理できない不動産があるので、相続放棄したい。でも相続放棄をすると、次に、この不動産を相続する遠い親戚に、どんな迷惑がかかるでしょうか?」、或いは「全く価値のない不動産だけ、相続が始まる前に処分しておきたいのですが?」というようなものが多いですね。このような一般的な質問であるなら、再度、本コラムを書く必要もありません。

2 次の電話相談には衝撃を受けました。
 相談者は、「売却も放棄もできないで困っている不動産があるのですが、100円で買ってくれるという業者に売却してもいいでしょうか?」というのです。びっくりした私は「それはありがたい。でも信じられないのですが、本当ですか」と返答しました。相談者は「ヤフーのページで閲覧できます」と言うのです。電話中でしたが、慌ててヤフーの検索欄に「不動産の放棄」と入れたところ、確かに“100円で買います”という趣旨の表示が見出し欄にありました。私は、詐欺かもしれない、或は外国人の買い付けかもしれないと考え、その欄をクリックしてホームページを読みました。その広告記事と思われる内容からは、コンサルタント料、登記費用、それに物件調査費用として合計80万円程度、支払いが必要なことが分かりました。でもこれで終わりになるのかどうかは分かりません。私は、「経費が値上がりする可能性もあります。話を聞いて十分検討してください。でも、近い将来、国が放棄できる法制度を作る可能性が高いと思うのですが、それまで待てませんか?」というようなアドバイスをしました。相談者には、注意深くやって下さるようお願いし、この相談自体は終わりになりました。

3 ところで、不動産放棄のコラムについて、私の思いを書かせていただきます。私自身は、不動産放棄のコラムは、数年前の連載で終了したものと考えておりました。ところが昨年、当該論点に関係する国の法制度見直しの準備状況について、お付き合いさせていただいている方から、勉強させていただき、国の姿勢に感心しておりました。その後、その内容が大きく新聞報道されました。直ぐに、この内容を本コラムに掲載し、本当にすっきり終わったと思っておりました。数年前は「不動産の放棄」を論じること自体が珍しく、当時は、講演に引っ張り出されたり、各種の報道機関から取材を受けたりして大忙しでした。でも本件論点について、相続放棄やその他、周辺制度と区別して認識していただく機会を作れたと喜んでおりました。つまり、今後、不動産放棄に関係したコラムを書くことはないと考えていたのです。
 しかし、前項記載のような電話相談を受けたことにより、数年前、数回に亘って連載した本コラムから、その後に変化した事実(特に、「相続財産管理人による不動産の放棄と国庫への帰属」は、一歩進んだと言っていいでしょう)は書いておいたほうがよいと思うようになりました。そもそも社会状況も変わっております。九州の面積より広い所有者不明の土地が、更に増大しているというように、やかましく言われる時代になり、私がコラムを書いた当時と全く違ってきました。前項のような「負動産」と言われる不動産の処分について、これに関与する業者等(司法書士や弁護士も含む)も多数出現し、その広告も多数目にする時代になっております。

4 相続放棄に関係して、相続財産管理人の相続人不存在による不動産の放棄が、一昨年、平成29年6月27付理財局国有財産業務課長事務連絡により変化し、国庫で引き取る方針に変わったのです。
 私も相続財産管理人の不動産放棄に際し、四苦八苦した経験があります。本コラムでも、詳細は触れませんでした。民法第959条があるのに引き取ってもらえないなど、弁護士としてあってはならない事象だと考え、影響の大きさにも配慮したからです。
 残り頁が少ないので「相続財産管理人、不在者財産管理人に関する実務」(著者正影秀明氏 288頁)から引用させていただきます。
 「財務省の方針が変わったこと自体は、あまり知られてはいない状態であるのが現実である。国庫が引き取る方針に変わったといっても、実際に引き渡すにはどうすればいいかが、噂のようにいろいろ飛び交っている。例えば、建物は解体しないといけない、境界が確定しないと引き取らないなど様々な噂が飛び交い、現実がどうなのかは、まだまだはっきりしない。」
 そうなのです。私の案件でも私道部分等の境界が判然とせず、当時、本当に困りました。

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1 これまで本コラムでも、“不動産が放棄できない”ことについて何度も書いてきました。ところで、近時の新聞報道では、今回、“不動産を放棄できるようにするための法整備”が、やっと、なされるところまできたと頻繁に報道されるようになりました。
 実は、昨年、親しくさせていただいている国交省の高官の方から、「役所でも、来年には(本年になります)、“不動産を放棄できるようにするための法整備”の準備を進めております」との内々のお知らせをいただいておりました。この高官の方とは、3年以上前の「不動産は放棄できない」ことを纏めた学術雑誌の掲載を縁に、本当に親しくお付き合いさせていただいております。当時、お会いした際には、これ以外の所用があったことから、お気持ちを頂いたのみで、それ以上の意見の交換までなしえませんでした。
 ところが週刊誌(経済関係)の元編集長で、現在有名新聞にて編集に携わっておられる方からお電話をいただき、事務所でお会いしたところ、“不動産を放棄できるようにするための法整備”について真剣に悩んでおられることが判明しました。
 この論点は本当に難しいのです。正解などないでしょう。
 新聞社という報道機関において、法立法の相当性や妥当性を論じられることは本当に難しい業務になります。編集者が私有財産制度の根源にまで遡り、真剣に悩んでおられるその姿勢に、長くお付き合いしてきた私は、本当に感じ入ってしまいました。でも同席させていただいた若い先生にはあまり面白くなかったと思います。私が、若い先生に「つまらなかったんだろ?」と聞いたところ「はい」という回答でした。不動産の放棄に通暁する私の事務所に所属していても面倒な論点なのです。
 そこで、国交省及び編集者の方の悩みを少しでも知っていただくために、このコラムを急いで書かねばならないと決意しました。

2 本年6月2日、日本経済新聞において、政府が“所有者不明土地の把握や抑制の仕組みづくりを急ぐ”として報じております。そして最も難解な問題は“土地所有権の放棄やみなし制度の導入”であるとして、やさしいものから順に、表入りで報じております。
 法整備の準備に関し、その全体像を知っていただくため、「実現のしやすさ」に関する項目を表に従って挙げておきましょう。先ず一番やさしいものは、①登記官に変則型登記の所有者を特定する調査権限の付与、次に実現しやすいものは、②国土調査法改正で地籍整備を加速すること、次に③土地基本法の改正、④相続登記の義務化、⑤マイナンバーなどで登記簿と戸籍の情報を連携させ、所有者情報を把握することとしております。最後に、“土地所有権の放棄やみなし制度の導入”になるのです。
 どうして最も難しいのですか?
 この疑問に答える前に、私は弁護士ですから、日本弁護士連合会の会報に不満を感じている点を申し上げておきましょう。前項で当事務所の若い先生を題材にしてしまったことも、同じ傾向を感じているからなのであり、決して傷つける意図などありません。
 日本弁護士連合会発行の本年5月1日付会報には「所有者不明土地問題に関するワーキンググループの設立経緯等」なる特集を組んで報じております。しかし、相続放棄或いは相続人不存在の論点が壁になっており、正面から「不動産の放棄」について論じるものではありません。相続財産管理人が国庫に帰属させる手続きの困難さ等、既に私のコラムでも書いておりますが、相続財産管理人や破産管財業務等に通じている者なら自明の話しです。現在、これらの論点に関係して法整備がなされようとしているのですから、一歩前進ではなく、最も難しい論点にも挑み、これからなされる法政策について論じてほしいのです。まさしく法政策に関与する意思を示すべきではないでしょうか?
 国交省の方や、取材に走り回っておられる編集者の方の悩みに通じる議論を、是非して頂きたいと思ってしまうのです。

3 “土地所有権の放棄やみなし制度の導入”の何が難しいのでしょうか。本コラムは、“論じる場”にしたくありません。そこで、編集者の方の疑問を私なりに、勝手に解釈して書いてみましょう。「不動産の放棄が自由に認められることはないでしょう。いらない土地をどんどん国に帰属させることができるとすると、やはり国庫が破綻する。そもそも個人の私有財産制度が他人に迷惑をかけるものであってはなりません。でも漏れ聞くところによると、不動産の放棄には一定の対価が必要との結論になりそうです。賦課金でも名称はどうでもいいのですが、そのような制度になれば、国の要求する対価より安い金額で、外国人に譲渡することになってしまう、そしてそのようなビジネスが新たに出てくるとまで考えてしまうのですが・・」(多分、編集者の方は、国家の存亡に関わると思っておられるのでは・・)。

4 最後に不動産の放棄に関する珍しい私の経験を話してみましょう。
 数年前のことですが、私は、ある財界の方に、不動産の放棄に関する個人責任に関し、常々持ち続けていた疑問を口にしました。その財界人は次のように話されました。「それなら、私は、所有者責任を果たすために、ホームレスの方に無償で譲渡しましょう。所有権移転に関する費用等は、所有者である私がすべて負担します。無償で取得されることになるホームレスの方は、縄文時代と同じく竪穴住居を作って生活されればいい」と言われてしまったのです。確かに費用は、今回放棄に付加される賦課金より安く、竪穴住居ですから、土地の掘り返しも、草屋根も人力で可能で、重機も不要です。発想に驚きました。
 落ちが笑い話みたいで失礼します。

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一 週刊エコノミストの特集
 
  1    平成26年12月16日号「週刊エコノミスト」に私の文章が掲載されました(40、41頁)。
   週刊エコノミストでは、表紙において、特集の内容を「実家の後始末」と大きく題しております。
そもそも「空き家問題」は、現在、週刊誌等で特集ブームになっており、この号も爆発的に売れたようです。当事務所では、同号の大量買い注文を出しましたが、市中にはないとのことで手に入りませんでした。
 
 2    確かに、いずれの雑誌の特集記事においても「不動産を放棄できるか」については触れないままです。空き家対策を如何に論じようとも、最終的に誰しもが思いつく「余計な不動産は捨ててしまえ」という素朴且つ最終解決の疑問に対して答えていません。空き家のゴミ(家具等の動産類)を、どう「放棄」するかついて詳細に論じているため、余計に中途半端で、読んでいて歯切れが悪いのです
週刊エコノミストは、表紙に「放棄できない実家の所有権」と副題をつけ、根本的な法的問題まで論じているのですから、爆発的に売れる訳です。私を取材して原稿依頼された記者の目の付け所の良さを評価します。
 
 3    私の原稿(40頁)には、副題が付けられ掲載されました。「法制度 不動産の所有権は放棄できない。法の陥穽を埋める対策が急務」と題され、小さく「不動産の所有権放棄を認めないことの弊害が出ている」と記載されております。しかし、この原稿では「不動産の放棄」に関する自分の思考過程については書いておりません。
私の考えでは「弊害」とまでは言えないのです。
本コラムにおいて「弊害」になるのかどうかについて、皆様と一緒に考えたいと思い ます。
 
二 週刊エコノミストの原稿依頼
 
1   週刊エコノミストからの原稿依頼は、事前に電話にて大枠の説明があり、その後、記者にお会いして説明を聞きました。内容は、私がホームページに載せているコラム「不動産は放棄できない」という連載物の話を前提にされ、「不動産の放棄ができないことにより困った事例を書いていただけませんか」との依頼でした。当時「実家の後始末」特集とまでは具体的に教えられていませんでした。
単なる困った事例報告でよいと念押しされ、たった2500字程度の原稿依頼ですから、私も、私の主観的な意見は書けないという前提で書きました。
 
2   その後、私の原稿に加筆・訂正のお願いがありました(当時、題及びその副題はまだありませんでした)。その際、記者から、書きたかった私のコラムに関係した部分については要らないのではと言われました。この原稿依頼があるまで、ネットで「不動産の放棄」と検索すると、私のコラムが第一順位になっていることなど知りませんでした。しかも不動産放棄のコラムは、随分前に書いたものなのに、ネットでは、いまだに正確な情報が書かれていないことなどについても、皆様にお知らせしたかったのですが・・。
でも不動産の放棄ができない事実と事例内容に限った掲載ですから、コラムに触れる部分は削られても仕方がないと諦めました。
 
  3   お会いした記者は優秀な方でしたから、私の思考を推論されたうえで、不動産の放棄ができないことは「弊害」であると編集会議で説明されたのだと勝手に推測します。このような考え方も当然に成立するでしょうから。
          記事本文が、私のお願いの内容に訂正されたことについては、大変感謝申し上げております。しかし「不動産放棄」ができないという事実が、「空き家」問題の「弊害」になっているということについては、私の考え方からは馴染みません。
 
三 本論-「不動産放棄」ができないことは法の欠陥か?
 
 1     不動産の放棄を認めますと、所有者のない不動産が生じます。民法第239条2項には「所有者のない不動産は国庫に帰属する」と規定されていますので国が所有者となり、国が不動産を管理することになります。不動産の放棄が自由にできるなら「自由に放棄して国に皺寄せをしたらいい」という結論になるのです。この立場では、不良資産を国が管理することになり、重大な問題に発展します。管理費用も国が負担し、それを一般国民に転嫁することになります。さらに重大問題は不測の責任です。これには刑事責任もありますが、これらの責任を全て国に転嫁する結論となります。
       不動産放棄を認めた場合、放棄する者の所有者責任はどうなるのでしょうか?「自己責任のネグレクト」で許されるのでしょうか。こちらの方が逆に「弊害」です。私はこんな勝手な社会は嫌いです。
 
2   現在の空き家問題は、今後の地方自治体の姿勢を見ることも大切だと考えております。条例に関しては、従前の私のコラムでも十分に展開済みですが、その猛烈な対応ぶりには驚いております。
私の結論は「放棄できないという事実だけを知らせればよい。そして、その認識に基づいて、早期から対策を立てるべきである」というものです。そもそも空き家問題は、上記事実を知らないことから自己管理責任が果たされず、放置されたままになっているというのが実態ではないでしょうか。
しかしながら、私は、破産者や生活保護受給者が不動産を放棄できるようにするという法律の改正は必要だと考えております。
  どちらの立場をとられても立論はできます。どうか不動産放棄のコラム6回分及び週刊エコノミストの私の記事をお読みください。
 
四  民法学研究者の方へ!
 
週刊エコノミストでは、新版注釈民法を引用して民法学の大家と言われる学者の見解を紹介し、法の姿勢を論述しました。
そこで示した参考文献、著者匿名「土地を放棄したい人」ジュリスト5[昭和27年]の著者について、鈴木禄弥教授は、匿名の著者とは我妻教授だというのです。「フランス法における不動産委棄の制度」民商法雑誌27巻6[昭和27年]以下参照)」にそのような記述が出てくるのです。偉い学者はさすがに凄い。当時の民法学における論争の世界を覗き見したいとまで思いました。小説になりますものね。
以上は「不動産の放棄」について研究される方には、必読文献になりますが、この話を、我が事務所の秀才弁護士である田中先生に話したところ、目を輝かせてくれました。

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一 劣悪不動産は減らない
 
 劣悪不動産が問題になる背景として容易に考え付くその一つは、高齢化社会と都市一極集中があるでしょう。65歳以上の老人が4人に一人という我が国の人口構成も皆さまご存知の話です。最近では、限界集落は都心部にまで及び始めたという新聞記事も出ております。新宿区にある戸山団地が事例として挙げられることもあります。都心一等地ですが、不思議な光景だという人もいます。
そもそも日本に存在する現在の家屋の数は、日本の世帯家族数以上に多く、余っている住宅ストックは所帯数より16%多いといわれております。劣悪不動産は増加せざるを得ないです。
 
  土地に対する取り返しのつかない汚染等も劣悪不動産と認定される時代になりました。人の健康に害がある化学合成物や薬品等で利用困難な土地も出ております。
「産業廃棄物に関する条例」等も現在はポピュラーな話になりました。ほんの少し前のことですが、中山間地域の山道を車で走ると、道端や崖に、やたらとごみや家電製品が捨てられていたのは見ておられますね?このような通常の光景も、最近はだいぶ変わってきたように思います。地方公共団体の取り組みが効果的であった事例ですし、皆様の意識がそれを許さない文化度に成熟しているのです。
これは中国のブラックユーモアです。「北京では窓を開ければただでタバコが吸える(PM2.5ですね)、上海では蛇口をひねれば豚のスープが飲める(川に豚の死骸6000匹が流れる)」という中国の文化度と比較すれば、言わずもがなの話です。
 
3 似たような話のとどめは、東北大震災による福島第一原子力発電所事故でしょう。これこそ土地を持っていても利用できない典型であります。災害復興まちづくり支援機構の議長まで務めさせていただいたので、話せばきりがありません。
その一部を紹介します。今回のコラムは不動産の話なので、土地の面積が変わってしまったという話です。この話は阪神淡路大震災当時に聞いており不思議でした。新潟県中越沖地震の際にも、地震発生直後、確か越後湯沢からバスに乗り換えて震災現場に入りました。ここでも土地の面積が変わってしまったという話を聞いております。土地は永久の財産のように思っていましたし、前のコラムでもそんなニュアンスで書いていますが、それも事実に反するのですね。
今回の東北大震災において建物の耐震基準の程度について、今までは震度5を超えた地震で工作物が壊れ、それで他者に損害を与えたとしても損害賠償責任はないなどと言っておりました。しかし最近では震度6を基準にするように、などと言っております。
災害に厳しい対応を求められる皆さまの認識が、劣悪不動産の基準を変えるのです。裁判所の判例だって同じですよ。
 
   しかしながら自分を振り返ってみますと、劣悪不動産が減少しない原因は、なかなか変わらない自らの意識(変わりそうで変化していない自らの不動産信仰)にもあると思います。幼いころからの刷り込み、つまり不動産は儲かるという認識はすさまじいのです。
    あなただって同じだと思いますよ。例えば、あなたが限界集落に不動産を持っていたとして、都市に生活場所を移すにしても直ちに誰かに安く譲るという発想が出ないのではないですか?そのうち、もてあまして建物としても機能しないまでになってしまいます。この時、取り壊して空き地にしてしまえばいいものの、土地の固定資産税が跳ね上がると聞くと撤去することにも躊躇するでしょうね。しかし、この税制については、議論はありますが変わらないと思います。住居用なら固定資産税を安くするという政策は大切でしょうから、この税制を前提にして考えましょう。
 
       ところで今回、住まない建物の取り壊しに対して、国から100万円程度補助を出す立法がされると聞いております(この原稿がホームページに載るのは半年後ですから、そのつもりでお読みください)。
政策が一歩前に出ることになり、劣悪不動産を残さない政策も取られているということです。具体的な話が必要な方は、税理士の先生に聞いてみてください。

 

 二 不動産に対する我々の意識の変化
 
  しかし不動産に格差があり、どうしようもないものもあるという認識は、根本的には、不動産に対する価値観が変わったという前提があります。つまり、我々が生活するこの社会の変化によって、我々の意識にも変化が起きざるをえなかった、ということが真実でしょうか。
突き詰めて考えれば、不動産の所有者責任が当然のように認識される世の中になったということも大きく影響していると思います。
瑕疵ある不動産による被害が発生した場合には、民事の損害賠償だけでなく、刑事責任もあるという意識の変化です。「不動産持ちの方は金持ち」という意識も変わり、或いは、このような方が危険不動産を所有されていても、厳しく責任追及ができうる(逆にいえば「される」)文化の進展によって私も変わってきたのだと考えております。
結論は、我々の文化度・価値観の変化によって「不動産神話の崩壊」に繋がったのです。
 
   今後の研究で民法制定時に不動産の放棄がどのように議論されたのかが明らかになる時代が来るかもしれません。そしてその際、不動産の放棄については触れないでおこうという、当時の民法制定時の理由が明らかになるかもしれません。

 

三 「不動産格差」のコラムを終わるにあたっての感想
 
 最初のコラムを思い出して下さい。アメリカの格差社会と私たち弁護士の格差の増大を述べましたが、不動産における格差の進行も似ていると思いませんか。我が国は、50年もしないうちに人口が3分の1減少し、揺るぎなき?老人国家になります。あらゆる場面において、益々格差が広がるとしか予想できません。これらの格差の発生・増大は、我々の生活、社会秩序そのものを破壊することは間違いないのです。
このような社会状況の中で、不動産の格差増大を防止するには、その重要な一つの対策として「地域社会の復権」があると思います。
不動産の格差というような限定された議論でなく、我が国がアメリカのような格差社会(アメリカの貧困)にならないためには、地域社会の復権しかないという政治家や学者の方の意見も聞くようになりました。また「地域主権国家」を目指すしかないという難しい論調の学者もおられます。不動産格差社会への対策と結論が似ていますので、その提案の一つだけでも紹介しておきましょう。
「グローバリズムと老人国家に変貌する明日の我が国において、その夢を託すには『開かれた小国化した地域社会のイメージ』にある」という趣旨のものです。
このような内容を書いた本等の紹介をするのは、弁護士のコラムとして業務から拡散しますので、ここらへんで止めます。
業界紙のニュースに、再生不動産を主要な業務とする会社も出始めたと書いてありました。村おこし、町おこしなどの地方復活の頑張りを、このような会社とリンクさせるとか、その他あらゆることを試して、「地域社会の復権」をなしてほしいものです。

 

今回のコラムは、一度に6回分を書きましたが、分割して掲載します。

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一 劣悪不動産所有者からの相談に対するその対策
 
 1  相談者の方は、先ず劣悪不動産を放棄したいということから始められます。
      当然、既にご承知のとおり、不動産の放棄はできないという法律の話をしますが、なかなか納得されないのですね。
 
2 困り果てられた相談者は、次に、国や地方公共団体に寄付したいと相談をされることが多いです。懸案不動産が、道路部分などであれば建築基準法42条などで検討しましょうとも言いますが、そもそも劣悪不動産ですから道路などに用立てられるような物件ではないのです。
ところで地方公共団体では、昔は不動産の寄付を割合受け付けてくれたように思います。最近は否定的な話ばかりです。確かに、劣悪な不動産で管理費用がかかるだけであれば、地方公共団体の財政を圧迫してしまいます。最近では、地方公共団体でも寄付基準を作成しているところが多いと思います。換価できる等、何か利用価値のある不動産でなければ寄付を受け付けてくれません。
NPO法人等に対する寄付は話にも出てきませんね。これは税金面や諸費用を心配され、既に検討済みだからではないでしょうか。
とにかく「劣悪不動産の所在する地方公共団体に行って聞いてみてください」と申し上げることにしております。
 
  整理回収機構(いわゆるRCC)で行っていたことを紹介しましょう。
整理回収機構では、破綻した金融機関の劣悪不動産を多数所有していたことは既にお話ししました。何とか処分しないと整理回収機構に終わりがやってきません。預金保険機構の子会社ですから、国の業務を代行している訳です。とにかく処分して所有者でなくならねばなりません。
あまり大きな声で言ってはいけない部類に属することかもしれませんが、結論としては、多くの不動産を纏めて、一括売却の手続をするしかないということになりました。
確かに、劣悪不動産を有する会社からの相談で、一括購入したことから発生した相談もありました。メリットのある不動産と劣悪不動産を一緒に購入したが、残った劣悪不動産をどう処理するのかで頭を痛めているという相談でした。整理回収機構と同じ処理をしている会社も多いことが分かります。
 
二 顧問会社の社長が実践されていたこと
 
1 相続財産制度の利用に関する珍しい相談も紹介します。
この方は私が弁護士になったと同時に顧問契約をしていただいた30年来の私の大切な方であります。あまりプライバシーをお話ししたくもないのですが、社長さんは、資産家で、不動産の評価には大変厳しい鑑識眼を有しておられます。当然に多くの不動産もお持ちです。
しかし、不動産の放棄ができないことを知られたときには、大変驚いておられました。社長は、故郷から無一文で大阪に出てこられ、大成功をおさめられ、チェーン店を何店舗も持つ成功者であります。ご両親は、山深き田舎に土地を持っておられましたが、劣悪不動産で苦労されたようです。
ちょうどお母さんが亡くなられ、この話になりました。社長は、劣悪不動産を子孫に残す必要はないので、今回相続はせず、残る不動産については相続財産管理人を選任するとまで言われました。何故ですかと聞き返した私は、まだ不動産神話を信用する古い体質があるのでしょうか。私は「思い出はないのですか?」とか、質問する自分に疑問を感じつつ、相談に乗った記憶があります。
 
2 この社長さんには、まだ驚いたことがあります
雑草除去条例も制定されていない地方で、趣味を活かす別荘をお持ちでした。その趣味は省きますが、とにかく成長すさまじい雑草には大変悩まされておられたそうです。近所に第三者がお住まいの家もあったようで、毎年ひどい伸びの雑草対策に苦労されたようです。
いろいろ悩やまれたのでしょう。社長さんは、管理人を置くより手数がかからないとして、この土地に鉄板を敷きつめ雑草が生えないようにしたというのです。当然、風で飛ばないかなり重い鉄板を置き、その上に鉄板と分からない工夫をしているというのです。
前回紹介した地方公共団体の雑草除去条例が頭をよぎりました。しかし、一度行って見てみたいとまでは思いませんでした。
 
三 原野商法は劣悪不動産入手の典型
 
 1 今回は自分の反省事例を紹介しましょう。
      私が、破産管財人として選任され始めた頃の昔の話ですので、20年以上も前の事例です。
          破産管財人として、破産会社の破産整理と同社社長の財産を換価していたのですが、担保のついていない北海道帯広の山林が残りました。帯広の土地を買ってくれるような人はいないのかと社長に聞くと「その土地はリゾート開発されるということで購入したが、今回の破産で不義理していて買ってくれそうな人はいない」という話でした。私は何でも調べるのが基本だと思う弁護士ですから、厚かましく帯広の司法書士の先生にまで電話を入れて聞きまくりました。その話では「そこは原野商法の土地です。現地にいらっしゃると言ってもヒグマしか生活していませんよ。その土地は一坪何円の評価が出ればいいほうでしょう」というのです。担保物でないので強制競売もありません。
 
   驚きましたね。女性の裁判官は何とか処分しろと言い続けるのです。不動産を残したままでは終わりにできないというのです。勿論反論はしました。「原野商法の被害者を増やせとおっしゃるのですか?」、「原野商法の片棒を担げとおっしゃるのですか?」と。
       破産管財人において換価処分できなかった不動産は、「財団から放棄」して債務者に所有権を戻してしまうのですが、裁判官はそれにも納得しないというのです。当時は原野商法の第二次被害も言われていない時代だったのです。私は最後の手段として、本当に親しい当事務所お抱えの不動産屋さんに、泣いて買っていただきました。
今にしてみると反省しきりですが、当時は破産者の財産(特に不動産)を財団から放棄することが許されない時代背景もあったのです。
 
3 最近、原野商法の被害者に再度電話がかかってくるようになったと聞いております。今頃、詐欺電話があるなんて不思議ですが、一度騙された方は再度騙されるというのがその業界の常識なのです。買い取ってくださった不動産屋さんに申し訳ないという気持ちで一杯です。
 
  本項でのまとめ
     これまで話してきましたとおり、劣悪不動産を処分する良い方法はありません。原野商法の被害者にならないよう警告することはできますが、遺産の中に劣悪不動産があれば問題が違います。その場合には、相続放棄を検討するしか方法はないでしょうね。遺産の価格を厳密に計算して不動産の価格と管理費用等を比較し、損得を判断するしかないでしょう。それでも、ご両親の思い出の不動産を放棄することなどできないことも多いでしょうね。
困りました。
不動産の放棄に関する抜本的な法律制定もないと思います。国が、劣悪不動産を国の費用で管理しないといけないような法律制度は容認されないと判断できるからです。条例の時のコラムと矛盾しますね。


 

 

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一 地方公共団体の努力
 
 1 今回は条例との関係を見ていきましょう。
    皆さんに「迷惑な不動産」と聞けば、山村の家屋等を思い出されるでしょう。地方公共団体は崩壊寸前の家屋や土地上の工作物により、その危険性を防止するため本当に困っております。
「限界集落」という言葉はご存知ですよね。65歳以上の高齢者が当該地方公共団体の総人口の過半数を占める状態になると限界自治体と言います。急激な高齢化或いは都市一極集中により、再来年には限界自治体が51団体になるという恐ろしい数字も予想されております。
そしてその後「消滅集落」になるのです。住んでいる人がいなくなってしまうのですから、当然、管理できる方もいません。不動産は荒れたままに放置され、私の田舎の山里では、猪や鹿と共存する居住空間に変貌したそうです。
 
2  条例、特に今制定が増加している「空き家管理条例」は、不動産の放棄或いは相続放棄に関係せざるを得ず、今まで説明してきました法律の「罠」に嵌ってしまわないようにする注意が必要なのです。
       そもそも今回のコラムを書こうと思った「きっかけ」は、「空き家管理条例」が制定され始めた最初の頃(と言っても僅か23年前にすぎません)、注意せねばならない重要な視点が欠落しているのではないかと思ったことです。これでは有効性のない条例に終わってしまうぞとも思いました。
つまり「地方公共団体の顧問弁護士の先生よ!しっかりしてくれ!」というエールのつもりが「きっかけ」なのです。
 
  都市町村の地方公共団体は近時1,700を超えているとされています。
         地方公共団体は、憲法によって法律の範囲内で条例を制定できることになっております。地方公共団体は条例を制定して危険物の排除つまり工作物の取壊し等をできるように行政代執行の定めを置くものも登場してきました。先ほど紹介しましたとおり「空き家管理条例」の制定は、今地方公共団体でブームになっています。多分、制定そのものは雑草除去条例のほうが先だったと思いますが、三重県名張市では行政代執行による強制除草をできるようにまで予定して作られております。なかなか頑張っている地方公共団体もありますね。
ところで最も強制力の強い行政代執行ですが、平成24年初め、制定されたばかりの条例に基づいて、秋田県大仙市が雪の重みで倒壊する恐れのある家屋を代執行で撤去しました。その勇気は称されるのですが、残念ながらその代執行費用約178万円の回収が困難になったのです。早速、地方自治法の学者先生から、費用の回収ができないことも含めて住民訴訟の恐れもあるなどと指摘されております。「そんなに責めないで」と地方公共団体担当の方に変わって言っておきます。
 
4   地方公共団体では、これまで産業廃棄物の処理関係、環境保護関係等の条例制定が先行しておりました。例えば、バブル景気頃の産業廃棄物の排出はすさまじいものがありました。他人の土地に不法廃棄する産廃業者。或いは産業廃棄物を自らの土地に集積させて小銭を稼ぐ土地所有者の出現。それによる環境破壊はすさまじく、人の住めない環境になっていく状況に地方公共団体は困り果てました。
       以上を見ていくと、一回目コラムの相談事例がそのまま条例でも問題になっているのですから、驚きませんか?
 
二 条例での注意点
 
1   空き家管理条例に関心をもった最初の「きっかけ」ですが、制定する地方公共団体では、自分の内部のことだから市民たちの個人情報を勝手に見られると思っているのではないかと疑問に思ったことです。地方公共団体は市役所や役場ですが、地方の権力を握っております。個人情報に関しては謙抑的であり、且つ情報開示にも尽くさねばなりません。つまり弁護士等の職業人ですら戸籍謄本を始め個人の情報を取得するには種々条件が付せられるのに、役所なら何をしても平気ということはないでしょう。例えば、住所が同じ市町村内にあり、戸籍謄本或いは除票等まで、同じ役所の中で見られる場合であっても、制度として個人情報の取得ができる規定を制定しなければいけないと判断されます。それが法治主義でしょう。
   このような疑問を感じて条例制定などを検討する地方公共団体の方々の書かれるネットを見ていると、それ以外にも何故もっと突っ込んだ検討をしないのかとアドバイスを送りたくなったのです。
 
2  その一つは、他の地方公共団体や家庭裁判所の利用の仕方です。
空き家の場合、所有者が分からない状態になっていることが多く、登記簿謄本だけでは所有者或いは占有管理者等が判明しない例が多いのです。我々が通常調査をする戸籍謄本や除票或いは附票の取り寄せが必ず必要になります。これらを取得する内部規定或いは外部の地方公共団体と関係する規定を整備しなければなりません。
次に相続放棄をしているかどうかまで調査する必要が出てくるでしょう。放棄をした最後の相続人は、国庫に帰属させるまで不動産を管理しなければならないことは何回か前のコラムで紹介しました。民法第940条ですね。
つまり放棄をしているのかどうか、相続財産管理人を置いているのかどうかについて家庭裁判所に問い合わせをするシステムを立ち上げ、得た情報に基づき、不動産所有者或いは管理者に対して、調査・連絡・警告・その後の処置のシステム作りが必要なのです。
これだけでも、私が当時の空き家管理条例を不十分だと思った理由は分かっていただけるかと思います。
私は、これら検討事項以上に、地方公共団体の方々にもっと自信をもって前にすすめてもらいたいと思う事項もあります。
 
3   代執行の是非論等はさておき、危険不動産を国等の管理に委ねる相続財産管理人制度の利用までを取りこんではどうかということです。
    劣悪建物等の工作物は、最終的に行政代執行の問題にもなりますが、今後は放置された土地も増加するはずです。土地はなくなりません。国土の一部ですから残ります。そこで相続財産管理人制度を利用し、所有権を国に帰属させてはどうでしょうか。確かに相続財産管理人制度には費用がかかることは前のコラムでお教えしました。であるならその費用を公費で負担する制度も検討して良いでしょう。
確かにこれらの検討事項は、国の政策になるかもしれません。でも、そうであるなら、そのような意見を地方公共団体から国にあげてほしいのです。不動産による危険性は今後も増大し続けると思います。
その具体的な例として適切かどうか疑問は残りますが、生活保護法の場合も参考にできます。生活が困窮しているものの価値のない不動産を持っている場合、援助が必要であるなら、当該不動産等必要な調査をした後に支給されております。
代執行費用の経費も前もって予算に取り込む、また管理者等に請求できない場合も予め決めておけば、貸し倒れ等の心配は生じません。そもそも家庭裁判所と相談をして予納金の割引を申し入れるぐらいのことはしてもいいと思います。
根本的には、不動産の放棄条項に手をつけるなど、相続財産管理以外の全く違う制度の検討が必要なのかもしれません。
 
今回は、私もあまり取り扱わない条例に絞ってみました。


 

 

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一 不動産バブル時代
不動産は持っていて損はないと言っていた時代のことを覚えておられますか。昭和48年の石油ショック当時、私は不動産会社に勤務していました。当時、不動産、特に土地は無くなることがないのだから、持っていても損はないという信念がありました。今、私にはそれがなくなり始めています
そもそも国家は、この不動産神話によって成立し、それを法律構成し、税制を作っております。国の税収を支える固定資産税のことなど些細なことです。そもそも領土こそが国家の前提事項です。それが世界の共通認識でした。
すなわち我が国に限定して見てみましても国取り合戦によって歴史が作られてきました。土地に対する信仰は尖閣列島を巡る問題をお話ししなくても、国の制度の骨幹であり、それを基本にして法律もできております。我妻栄という偉い民法学者の先生の教科書を今回見直しました。不動産の放棄についてはきちんと触れてありません。解釈論はおろか、その来歴すらも記述されていないのです。
では放棄と言えば相続放棄と言われる法律制度と比較してみましょう。相続財産の放棄の制度を検討しますと所有者責任がリアルに実感できるのですから不思議です。即ち、不動産の放棄ができない結論の妙が相続放棄でも同じように浮かび上がってくるという手品のような話が続きます。
 
二 単なる放棄と相続放棄は違う
  相続放棄の原因
相続放棄は、亡くなった方が有していた遺産を相続することによって発生する問題であり、民法第938条によって「家庭裁判所に申述」することと方式まで定められています。民法では、相続人の順位や相続割合をきちんと定められていますが、相続放棄は一人に遺産を集中する場合などの遺産分割協議のような事例を除いて、通常は負債が多くて相続したら困る場合に生じる問題です。
民法第939条では「相続の放棄の効力」として規定されておりますが、「その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」ものであって、不動産だけの放棄ではありません。相続人全員で協議して相続財産を区分して不動産だけ別にすることはできますが、単なる不動産の放棄とは全く違う概念なのです。ヤフーやグーグルを見ていると、双方を同じ閲覧場所にアトランダムに掲載していますが、全然法律が分かっていない証拠です。
 
2 驚いたことには、相続財産の放棄には、国庫に帰属させる手続規定として相続財産管理人の制度がおいてあるのです。単純に不動産を放棄する場合には、その登記手続が用意されていないのですが、それとは違う取扱いなのです。
そもそも相続財産管理人の制度は「相続人不存在」の項として第六章において規定されております。相続財産管理人は「相続人のあることが明らかでないとき」に選任されます。管理等により処分されなかった相続財産は、民法第959条によって「国庫に帰属する」と定められているのです。とうとう国庫帰属規定が出てきました。
この場合の登記手続ですが、注釈民法という全部で30巻前後の解説書をみないと出てきません。その記述も簡単です。
「(相続財産)管理人の引継書に基づいて、国庫帰属による所有権移転登記(登録)手続を国が申請することになる」と記載されています。私も引継書の段階までしか実務をしておりません。詳細は家庭裁判所の書記官実務書でも読まねば分かりません。
 
 不動産放棄はできないのですから、逆に解釈すると、相続財産管理人を選任しないと不動産を国庫に帰属できないと言っていることと同じなのです。
しかしながら、この条文から推測しましても、民法制定時、不動産放棄に関し考慮されなかったなどと言うことは考えがたいのですが・・。
 
4 ここからが急所です。
次の民法の規定を見てください。土地の放棄が可能な方法である相続放棄をしても、次の管理人が管理を始めることができるまで「自己の財産におけると同一の注意」を払わないといけないと規定されているのです(民法940条)。つまり相続放棄をしても、他に相続人がいない場合には、相続財産管理人を選任して、不動産を国の所有権に帰属させておかないと所有者責任と同じ責任を負わされ続けるという結論になるのです。
民事事件となって損害賠償責任があることは紹介済みですが、刑事責任にまで及ぶことを思い出して下さい。
 
5 変な話なのですが、実態は違うのです。
相続放棄をしてもこの制度を利用する人は少ないという事実です。この事実は空き家管理条例でも紹介しますが、相続財産管理人の制度を知っていても、お金がないと相続財産管理人になる方に費用等を支払えません。相続財産管理人制度を利用しますと、地方の裁判所でも最低数十万円は費用として予納する必要があると言われております。これでは固定資産税を支払うほうが安い場合が多い。そもそも放棄した人は借金の支払いができず、或いは支払いたくないから放棄するのですよね。わざわざ費用のかかる相続財産管理人の選任申立などしません。
私自身の経験を申し上げましても、相続財産管理人の選任を受けたのは抵当権を執行したい立場の債権者である金融機関の依頼を受けて受任したものばかりです。
そもそも相続放棄は相続人の財産は一切もらいませんと言って家庭裁判所に届け出れば受理されます。従って、相続放棄をした人でもこのような制度は知らないと返答する人が多いはずです。
矛盾があるのですね。
 
三  まとめ
以上、相続財産の国庫帰属規定より分かりますことは、民法制定者は不動産の所有者責任について十分意識していたということです。
 今後は、劣悪不動産を持っていても固定資産税その他の管理費用がかかるだけで何の利益もないのにかかわらず、最悪の場合には、所有者・管理者責任まで課されることが分かりました。故に、相続財産に劣悪不動産がある場合、多少の遺産しかないのであれば、遺産全部を放棄してしまう事例も増えるのではないかと予想できます。
 
 
 次回は条例との関係で考えてみましょう。

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一 相続放棄や破産事件での放棄と混同するな!
 
1   今回は、前回のコラムと異なり、法律家らしい所見を開陳しますが、読んで少し疲れる方も、我慢して読んでいただきたいコラムであります。実は、本コラムの内容は、本年初頭、新年会で講演する内容の原稿を下敷きにしておりますが、一部上場企業不動産会社の尊敬する社長さんからも絶賛されたものであります。
 
2  ヤフーで「不動産の放棄」と入れて検索すると、殆どと言っていいほど相続放棄に関するコメントが出てきます。
平成251012日現在では、初めの3件でかろうじて「不動産の放棄」として閲覧はできますが、しかし、その他の欄では、相続放棄や破産事件関係での不動産放棄に関する説明ばかりです。6ページ閲覧しても、しかも弁護士記載のページですら、まともな回答は1件しかなく、それも私を満足させるものではありません。でも本年初頭今回と同じように「不動産の放棄」で検索しました際には、直接答えるページは1003件もあればいい程でした。法律上の解釈すらもなく、弁護士の先生の勉強不足を嘆いたものであります。
 
3  結論からいきましょう。
「民法だけでなく、現在の法律では、『不動産の放棄』は予定されていない概念」というのが正確なのです。
エッと驚かれる方もおられると思いますが、前回のコラムで指摘しましたように「不動産の格差社会」という新しい社会現象が出てくる社会になって初めて、このような結論に種々疑問が生じるのです。
 
二  不動産に関する法律の規定
1 民法の規定
 日本は憲法第29条において財産権を保証し、私的財産制度を採用しております。
 私的財産制度を定めている民法からみていきましょう。
 動産は放棄することができます。
 野生の狸を岩穴に追い込み、入口を石で塞げば所有権を取得するという相当古い有
 名な判例もあります。これを「無主物先占の法理」(民法239条)と言いますが、「お札を
 私の前で捨ててください」と願望する人は多いですかね?(比喩が悪いか)。
 では不動産はどうでしょうか?
   民法第177条では、「不動産に関する物件の得喪及び変更」として、不動産登記法
 める登記をしないと第三者に対抗できないとしております。もっとも民法第239条 
2 項では「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」と規定しております。
   このような条文があることから、弁護士の先生方に、不動産の放棄はできますかと  
問すると、不動産を放棄したい人は国に不動産を帰属させることにより放棄できる
いう結論が多くの方の回答でした。
  別に意地悪をしているのではありません。整理回収機構不動産部の顧問時代に
は、私もそのように考えて民事局まで聞くようにと若い先生に指示を出しております。
 
2   民事局の回答
  単に聞いてきましたでは都合も悪いでしょうから、多少古くなりますが、昭和418
27日付民事甲第1953号民事局長回答を紹介しましょう。
   昭和41年、ある神社から二点照会がなされました。第一の質問は「神社所有地の
部が崖地のため、崩壊寸前にあって、神社は勿論付近の氏子住家数件も危険状
にあるため、これを防止すべく考慮したのであるが、この工事に要する費用が数千
を見込まねばならず、到底神社においては、これを負担する資力はなく、然しなが
らこのまま放置することは危険である」、したがって「不動産土地所有権を放棄して所
有権を国に帰属せしめたい」。第二の質問は「前項の不動産放棄の登記上の手続き
方法を指示してほしい」という照会です。
   なんと国の回答はにべもなく「所有権の放棄はできない」、故に、登記手続きについ
ては「前項により了知されたい」という乱暴なものであります。
   上記相談事例は、前回のコラムの「放棄したい不動産」とほんとに似ていますね。

 
三 不動産の放棄ができないと所有者責任が続く
 1  所有者・占有者責任とは何か?
所有者責任は民法第717条「土地の工作物等の占有及び所有者の責任」という規定をみるのが早いでしょう。本条は土地の工作物ですから典型的には建物(念を押しておきますが、建物は典型的な不動産です)から考えればいいのです。
ここは丁寧に条文からみましょう。「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害が生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない」とあるのです。
平成16130日付最高裁の判例を紹介しておきましょう。
この判例は、国に対する損害賠償請求を一部認容した控訴審に対して上告された事件ですが、最高裁はこれを棄却しました。宮城県盛土崩壊事件といい、国が管理する道路沿いの私有地斜面に盛り土がされていましたが、豪雨で崩壊する危険性を予知している場合には道路管理者に管理責任があるとして一部損害賠償を認めた判例であります。
上記717条の解釈に対する適当な事例の一つです。
 
2 刑事責任
所有者責任は刑事責任まで発展するのですから、大変な責任なのです。
最高裁が業務上過失致死傷罪の成立を認めた平成51125日付決定であるホテルニュージャパン火災事件は古くて聞いたこともないという方もおありでしょう。
枚挙にいとまがありませんが、記憶に新しいJR福知山線脱線事故を例に、多少詳しく説明しましょう。この事故で107名が亡くなられた当時について思い出していただけるでしょうか。
この事故で、平成2178日、神戸地方検察庁は、当時の社長を業務上過失致死傷罪で在宅起訴をしています。起訴理由は、この事故が起きた地点の線形に注目し、当該区間にATS-Pを設置すれば事故が防ぐことができた趣旨の発言を社長がしていることを理由にしました。社長は危険性を認識していたことが起訴理由になるのです。ATS-Pの設置は条文で見た先ほどの「工作物」になるでしょう。
本コラムでも、神社所有土地の崖崩壊事例を紹介しました。崖の崩壊を認識して照会した神主の方か、その氏子総代になるのか知りませんが、崖が崩壊する可能性があるとして国に照会までしているのですから、照会した人を始め関係者はその危険性を知っていたことになります。
崩壊すれば、その方々は刑事責任を追及される可能性があることになります。恐ろしいことです。
 
  次回は、今回の「不動産を放棄できない」という恐ろしい結論の纏めと「相続放棄の制度」とを比較してみましょう。

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一 自由競争は格差社会
 
1 あなたの周りには激しい格差が生じておりませんか。
   あなたのことを言うのは余計なお節介ですから、私の業界である弁護士業界と格差社会の典型であるアメリカについて話しましょう。
  弁護士業界での格差、即ち食べていける弁護士と、プアーな弁護士との格差が司法改革後すごい勢いで進んでおります。司法改革全部を悪いとは申しません。どんな職業であろうと利用者からの選別、即ち自由競争原理にさらされることは必然の成り行きだからです。
そもそも日本経済がグローバルスタンダードと言われる新自由主義の波を受けるのは、アメリカがその模範型なのですから必然のことでしょう。でも司法改革は自由競争の理念を先取しただけでなく、十分な検証もせず、フランス並みの弁護士人口と言って弁護士を爆発的に増大させました。マスコミ等の報道機関は自らの特権を顧みることなく、弁護士をその特権階級の見本の如く見做して全く擁護しませんでした。私は日弁連法曹人口問題委員会の当初のメンバーでしたが、既に数年前「宅弁」の実態を調べてほしい(意味は後述)などと日弁連執行部に都合の悪いことを言うためか、すぐに排除されました。寧ろ名誉ですね。
 
  アメリカの絶望的なまでの格差社会については、堤未果著「ルポ貧困大国アメリカ」(岩波新書発行)を読んでいただければ唖然とされるはずです。この本は、世上いわれるブラック・ユーモア「盲腸になると破産する」という話が真実であることを証明している本なのです。
アメリカの所得格差の拡大は歯止めがかからなくなっています。人口1%の人が全体の富の約20%を握るという統計は、今後もどんどん増大するでしょう。
今日の新聞にオバマ大統領の暫定予算の編成について年度内成立の目途が立たなくなったと報道されております。オバマケア(医療保険改革法)の柱である個人への医療保険加入義務付けに関し一年延期が争点ですが、共和党が反対する根本理念は自由競争原則に反するというものです。自由競争といっても平等なスタートラインに立って公平に競争している訳ではないのですが、しかしながらアメリカにおける労働力の補充政策、今後も移民を受け入れ続ける状況を考えると自由競争という理念は絶対に放棄できない哲学なのでしょうね。
上記「ルポ貧困大国アメリカ」では、格差社会の原因として医療保険制度があることを指摘しています。我が国でも問題になっているTPPの論点も弁護士である我々は知的財産関係を問題視していますが、TPPでの重要争点は医療制度にあるように考えたほうがいいでしょう。
 
  今回は問題指摘だけにしておきますが、弁護士業界に話を戻しますと、我が国の弁護士業界でも格差社会は激しい勢いで進行しております。法律事務所に入れてもらう形だけで給与のない「軒だけ借りる弁護士(通称、軒ベン)」、事務所がなく携帯電話だけで業務を行う「携帯電話弁護士(通称、ケー弁)」、自宅で法律事務所を開業する「自宅開業弁護士(通称、宅弁)」(人数の調査をしない儘放置)など面白おかしく新聞をも賑わすほどであります。もっとも私と同様の立場の経営者弁護士に景気はどうですかと聞いてみても、収入が増大したという弁護士は全くいないのが不思議です(ラッキーな事件は必ずありますがね?)。弁護士は増えすぎなのです。犯罪に手を染める弁護士も急増しています。
 
二 不動産を持っていれば何とかなるか(不動産神話の崩壊)
 
   「不動産格差社会の到来」は前項に述べました自由競争とは少し場面を異にして発生しております。しかし価値観が崩壊する経緯を見ると、その近似性に唖然とせざるを得ません。
      その昔から土地という不動産に執着してきたのが歴史です。不動産神話を前提にした対応、不動産を持っていれば何とかなるという意識が通用しない場合もある新しい時代の到来なのです。
 
    そこで、先ず今回は不動産に格差が生じている相談事例をみて、次回は「不動産は放棄できない」という法律論を説明しましょう。放棄できないことによる絶望的状況と相続放棄等の法律論、更に「空き家管理条例」等も検証してみましょう。皆様ご期待の、このような場合に取り得る対策があるのかまで検証する意図も勿論あります。
このテーマは、現在の社会状況に端を発するものでありますから数回のコラムで終わるのか疑問なくらいです。とにかく「不動産の格差」という言葉が意味するところを先ず紹介します。このような序論を書いておりますと、私は、人間社会のあるところ、必ず全てにおいて格差が生じるという哲学的な話をしたいのかなとも思います。しかし弁護士の枠からは拡散しないように戒めております。
 
三 所有不動産を放棄したいという相談
 
1 整理回収機構(いわゆる「RCC」)時代
  10年程前、私は整理回収機構の不動産部を創設した顧問の立場にあったことは既に本コラムでも紹介しております。採用時の面接で専務から「好きにやっていいですよ」と言われた話は今回省きます。
   皆さん、整理回収機構は潰れた金融機関の整理が業務であったことはご存知ですよね。どんな立派な銀行であっても、どのようにしても処分できない不動産を借金のかたに取得したなどということはあると思いますが、RCCでの業務は本当に潰れた銀行の清算です。どうしようもない不動産が大量にありました。
   田舎の一軒家のような限界集落の話のような皆様が考える物件だけでは面白くありません。例えば海の潮位が上がって、一日のちょっとの時間しか現れない土地、三重県の田舎に廃棄自動車が埋めまくられていて売るに売れない山林、産業廃棄物で健康に影響があって生活できない土地や値の付かない湯口権などがありました。処分の方向性について、いろいろ検討はしましたが、最後には、経済的に割の合う方法として、若い先生に不動産が放棄できるかどうかの法律調査までさせています。
 
2 近時の相談案件
   最近、不動産を放棄したいという相談が急激に増えました。何故だか分かりますか?土地をもっていると固定資産税がかかり、税金がもったいないからというような「まっとうな回答」ではコラムにする価値がありません。
世の中の常識はどんどん変わっていきますが、「所有者責任」という理念が浸透してきたことも重要な一因です。
小学校の傍の土地を借金のかたに取り上げたが、井戸や段差があって土地の管理責任を尽くすように町からやかましく言ってくる。「井戸を埋めてください」、「子供が侵入しないように長い柵を設けてください」まではよかったが、最近は草を刈ってくださいとまで言ってくる。しかも細長い土地で、街道に接しているものの段差があって有効利用の工夫もできない。駐車場にしたくとも車を置いてからの交通手段もない。誰も買ってくれないので、結論として捨ててしまいたいという相談です。
捨ててしまいたい相談はまだあります。
崖のある高所の土地を買ったが、雨がすごくて崩壊する恐れが出てきた。崩壊して下の人の生命身体に何かあれば所有者責任だと責められている。雨が怖くて、このままではノイローゼになりそうだ。誰も買ってくれる人もいない。あげると言っているが誰も貰ってもくれない。所有者責任は刑事事件になる可能性もあると脅され、本当に怖い。
このような社会状況は「不動産の格差社会」と言わざるを得ませんね。

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