新宿の顧問弁護士なら弁護士法人岡本(岡本政明法律事務所)

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コラム - 破産事件カテゴリのエントリ

1 前回は、破産法上配慮されねばならない複雑な立場の利害関係人について書きました。第二次世界大戦にまで、遡って考えねばならいことに驚いていただけたでしょうか。
 そもそも、前回コラムの私の最大の関心は、借地権という法的権利を有しておられる借地人です。しかし、借地人と申しましても、破産法上の位置づけは借地料を払うだけの債務者でしかありません。考えなしの破産管財人なら、ガンガン借地料を回収して、それでも支払わない借地人には、法的権利がないのだから保護に値しないと切り捨てるだけで終わりです。
 家庭裁判所に破産の申立てをお願いされた国の税務署の立場は、何十億という相続税の回収、即ち破産法上の債権者そのものの立場です。しかし、本件に関与された心ある役人の方の関心は、借地人の将来をも見据えた解決策を希望されていたように判断できます。それも、近時評判の「町づくり」という行政的な関心をも示されていたのです。大分昔のことなのですから、本当に驚いていただきたい。
 開発業者の方から、当事務所の事務方が作成した、本件に関与する者の何枚もの地図的なチャ
ート(借地人の分布を示すもの)を高価で買い取りたいと申し出されたときには、本当に管財人冥利に尽きると思いました。開発業者にとって宝の山だったのです。

2 前回のコラムで、破産法上における「債権者」という概念については、破産法第1条の全文を紹介して、法的権利者として第一位に考慮されるべきものであることを示しました。
 債権者と言っても種々です。典型的な破産業務では、通常のビジネスで失敗した破産者から取引代金を回収しなければならない債権者が思い出されます。また通常の取引でない損害賠償請求もありますし、税金や離婚の際に生じる養育料などもあって、本当に種々様々です。
 詐欺的取引の被害者という事例もあります。弁護士が被害者を集めた被害者救済の会のような破産事件もありました。私が、裁判所から任された被害者の会の事件では、弁護団の究明に耐え切れず、詐欺取引に走った会社が逆に破産の申立てをした事例もありました。
 通常、弁護団が破産の申立てを行います。しかし、この事案では、弁護団が法的な手段を含め、種々の方法で会社を追い込んでいたようです。確かに、会社の末期には、目の見えない老人にファックス機を何台も売りつけるなど常軌を逸した商売をしておりました。
 被害者の会は、裁判所が任命した破産管財人である私に協力的ではありませんでした。被害者の会が、私に面会を申し入れてきたのは2週間以上経過した後ですから、この被害者の会を軽蔑したくなる私の気持ちを分かっていただけるでしょう。2週間もあれば、できる破産管財人は、本店及び支店3カ所、倉庫程度であれば現状を押さえ、在庫等の商品の換価についても、遅くとも目途がたってきている段階です。
 弁護団は、動産執行類似の法的ではない行動もされていたのでしょう。破産管財人の私達が倉庫に入ろうとすると倉庫管理業者の弁護士が“入庫を実力で阻止します”という訳の分からない抗議をしてきました(安心してください。破産管財人の私は“ワクワクして”、「警察に連絡するぞ」と言いながらドンドン入庫しました。この時は、若い肉体派の当事務所の先生も活躍してくれました)。
 弁護団の弁護士先生は、女性先生を中心に来所されましたが、最初は批判的な姿勢でした。私の経過説明で批判のトーンが徐々にダウンしたことが不思議で、昨日のことのように思い出します。

3 既に30年近く昔のことになりますが、新興宗教法人の破産管財人になって財産整理をした経験もあります。この破産管財事件では通常想像できない経験をしました。この事件は、弁護団の先生方が大変に活躍されておりました。破産申立て時には、一般の債権者に対する支払いは終わり、何億もの現金をどう精算するかという段階にありました。
 宗教法人の解散ですが、理由があって破産の道しかありませんでした。
信者の方の帰依により浄財が寄付され、通常の財産整理をしても残存する現金があまりにも多額でした。詳細を述べることはできません。当時の関係者の方の「心の平安」に影響することが予想されます。概略にとどめますが、関係者の皆様方の誠意ある対応及び破産事件の結末については、ご紹介するに値すると信じます。
 先ずは、都庁や法務省等に問い合わせを行い、残財産を宗教法人の構成員である信者の皆様に配当することになりました。住所移転等により裁判所の破産通知書がつかないため住民票だけでも500通は取り寄せしました。土曜日及び日曜日は、事務所の数メートルの廊下を信者の方への連絡票で埋め尽くされました。電話連絡のために、特別チームを作って対応しました。
 これほど頑張って連絡したのに、何と!殆どの方が信仰を理由にお金を受け取ることを拒否されたのです。本当に驚きました。いろいろ書きたいのですが、ここらへんで辞めさせていただきます。

4 宗教法人の構成員である信者の方々に受け取っていただけないとなると、本件破産管財事件は終わりになりません。破産事件ではありえない残現金の処理に煩悶の日々が続きました。弁護団の先生方の報酬か、破産管財人の報酬とするには高額すぎるし、あまりにも下品です。
 再度の役所巡りの結果、当時、裁判所に出向されている大蔵省の役人の方とお話しして国庫に納めることで一件落着しました。
 破産事件になるまでの経過は複雑ですが、結末は、本当に爽やかな話で終わるのです。

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  1.  ここ何回かは、法的紛争に関して「弁護士が寄り添う」ことの意味について考えてきました。その続き物のコラムとして「破産管財事件では誰に寄り添うのか」と考えますと、紹介することが多すぎると直ちに分かります。題をつけた最初のところで、(その1)としてしまったほどなのです。
      本コラムでも破産事件については幾度も紹介してきました。個別事案の紹介では、プライバシーに関係する詳細については話しておりません。しかし、それでも本コラムに関心を寄せていただいている方からは、破産事件のコラムも大変面白いとお聞きしました。
    破産管財事件は、まさしく「弁護士が寄り添う」ことの意味について大変複雑な様相を呈するのです。種々の事件を処理しておりますと、私という弁護士は“少し変わり者なのか?”とも思ってしまいます。
     
  2.  弁護士のコラムですから、寄り添いの相手を考えるにも、やはり法律から考えねばなりま せん。破産法の条文第一条では、目的として次のように規定しております。「この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする。」
       先ず、上記条文で、寄り添わねばならない人たちが網羅されていることに驚いてほしいのです。破産法が配慮するべき人は、第一に債権者です。そして第二に債務者(ここでは破産者)。債務者の経済生活の再生の機会の確保が必要であるとされ、破産者に対する配慮を要請しております。でも「債権者その他の利害関係人の利害」と定められていることに驚いてください。 つまり「その他の利害関係人の利害」を明確に認識して対応しなければならないのです。破産の事例に接しておりますと、かかる認識のない破産管財人・弁護士はかなりおられます。
     
  3.  今回紹介する事件は、相続財産管理人が破産の申立てをされた破産管財事件です。破産管 財人として任命された私は、記録を取り寄せ、事案を検討して直ちに破産申立人である相続財産管理人の弁護士をお呼びしました。私よりかなり高齢の女性弁護士でしたが、会った最初で、種々配慮をされ、思いやりのある方だと好印象を持ちました。
       事案も的確に説明されましたが、「事前に、大手町に行って国税からのお願いや説明を聞いてください。国税から強くお願いされています」と言われたのには驚きました。更に「調査の前に訪問されるのがいいと思います。本事案の特殊性もお分かりいただけるでしょう。」とのお願いでした。
       大手町合同庁舎では、偉い役人の人が部下を連れて面会され、大変丁寧に応対していただきました。「本件は、東京大空襲の際、焼夷弾から逃れるため、川を渡って田畑に仮住まい小屋を建ててしまい、戦後、バラックを建てた人たちを借地人として取り扱ったことから、今回最終処理となる公売予定案件です。国税はもとより都税事務所も大変困っております」と話されたのには驚きました。「公売処分等をしたくとも、この場所に住む方々は、国に反感を持っておられ、十分な調査ができません」と話されたのには更に驚きました。その後、街づくりに関する貴重な話もありました。私は、まさしく、国税を含む行政の街づくりも利害関係があると思いました。私は、調査した結果について報告することを約束しました。帰途、エレベーターまでお見送りいただいたのは、官庁に来て初めての経験でした。
     
  4.  翌日から一週間程は現場巡りです。事務所からもベテラン二人を動員し、三人で広範囲の調査活動に入りました。
       驚きました。都心のど真ん中なのに救急車も入れません。このような状況を打破したいと夢を語られた国税の高官の言葉通りのひどさです。座敷にいるお婆様が隣のうちのお婆様と道路を挟んで話しているのですが、道があまりにも狭くて誰も通れません。(私はどんどん入ります)。
       このような方達が、国税や都税の調査官に対し、「国は、我々に何をしてくれたのか?」と言って調査に応じず、しかも殴りかかる人までいると聞いておりましたが、その通りです。私たち三人の聞き込みに対して、私たちを「詐欺師だ、詐欺師だ」と喚きながら、自転車でずっと追いかけまわしていた老人もいました。(驚きませんか?)
       戦後に始まり、救急車も入れない場所で生活される方々こそ、破産法でいう利害関係人以外の何者でもありません。私は、この人達を、本件の最大の利害関係人であると位置付けました。確かに、この人たちは、借地料を滞納する借地人かもしれませんが、借地料回収と別途の配慮も必要です。その後、私は、このような人達を地域ごとに集め、将来の展開を説明しました。即ち、不動産業者は、喉から手が出るほど皆様の土地を欲しがっている、この機会を逃すな。皆様が生活されている土地は、戦後初めての急展開となる。皆様が団結し、協力して対処しないと、良い結果にならない等と演説しました。
     
  5.  更に現場廻りを続けますと、壊れた建物も数多く存在し、強風が吹けば負傷者が出かねない建物もかなり発見しました。
       これらの不動産は、相続財産管理人の弁護士名義で登記されています。崩壊寸前の不動産が処理されず残ってしまった場合には、登記名義人である女性弁護士の管理責任すら生じかねません(私のコラム、「不動産は放棄できない」を読んでくださいね)。私は、相続財産管理人の先生も利害関係人と認識して破産管財業務に邁進しました。       (次回に続く)

 

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1 パターン?の事例紹介
    (1) 会社支配を巡る民事再生型パターン
 ここで紹介するパターン?の事案の場合も社長の解任を発端にしております。元社長派が貸している債権の返済のないことを理由にして債権者破産の申立をしました。?の事案と異なり、現社長は元社長のやり方では事業が継続できないとして叩き出したのですから対抗心むき出しです。破産手続中止の申立、多少遅れて民事再生の申立をしました。
私は当初より調査委員に任命され、主として再生計画を遂行できるかどうかの調査をしたことになります。民事再生を分かりやすく説明しておきますが、要は、「経済的に窮境にある債務者」(民事再生法第1条による)を建て直すため、再生手続開始決定後も、従来の役員が引き続き会社を経営して(このような民事再生を「DIP型」と言います)再生計画案に基づいて事業を継続して再生させることを認めた法制度なのです。こんなありがたい制度はないでしょう。調査委員は利害関係人の申立による場合もありますが、裁判所の裁量で決まります。
 
 (2)  パターン?の論点(再生計画の弁済率は低額)
現経営陣は何としても現在の経営を続けていきたいというものでありますが、弁済期 にある債務を返済できないなら債務不履行となり、裁判所は破綻原因と認定するしかありません。現経営陣の当初の見込みも空しく旧経営陣に対する返済金は集められませんでしたが、現金商売ができる見込みがたったことから民事再生の申立をしました。
民事再生は、各債権者に対して総債権額の一定割合による返済をすることで企業の存続を目的にする制度なのですが、旧経営陣は再生計画案を認めることはないのですから、難しい案件になります。
大雑把な講義になってしまいますが、民事再生では、返済するべき債権額に関し、本当に低い弁済率で、且つ何年にも分割にして返済計画案を作ります。債権者(議決権者)の出席過半数及び議決権総額の2分の1以上の賛成を得ないと認可されません。旧経営陣からの賛成は期待できませんが、でも皆さん、債権者集会での賛成率の実態を知られれば驚かれることでしょう。私の近時の経験では50パーセントぎりぎりの賛成しか得られない案件ばかりが続いております。薄氷を踏む思いとはこのことなのです。
本件も本当にぎりぎりで返済計画案が賛成されました。私の職務は3年間の監督により、そして債権者名簿を裁判所に提出して終了となりました。
 
2 パターン?の事例紹介
(1)  営業譲渡をする民事再生型パターン
 最後のパターン?の案件は、会社の支配権を巡り経営権を取得した現社長派が破産申立をしたが、解任された元社長グループは事業譲渡を内容とする民事再生の申立をして争った大変珍しい案件です。職種は申せませんが、世界的企業につながる業界でも有名な会社でした。
現経営陣は、破産申立直前に設立した別会社による事業の継続を図り、旧経営陣は新会社を設立して、その会社に対して事業譲渡(事業承継)を目論むという企業支配では通常考えられそうな典型事例でした。私は、調査委員、保全管理人そして破産管財人に順次任命されました。
当時、部の最も偉い裁判官から、営業譲渡までを想定した保全管理人による処理の仕組みを破産部の制度として作り上げたいとして依頼された経緯もありました。しかし、所詮、いずれの主張が破産法・民事再生法の理念に適合するかの調査・検討です。
双方が提起する諸条件を法律に従って調査・検討するのですが、双方の陣営の猛烈に緊張した熱い歓迎ぶりには、当事務所所属で私が代理人として選任した2名の若い先生方も刺激的な交渉だったと思います。
 
(2)  論点1(破産会社財産の取り込み)
先ず現経営陣グループの破産申立は、破産する会社の重要財産を別途設立した会社に殆んど取り込むという破産法にいう詐欺破産罪にも問擬しうる悪質さでした。経営紛争に起因する破産申立の場合、注意点はここにもあります。この会社は大会社でしたので珍しく関係ありませんでしたが、通常は、社長も破産申立を同時にします。社長も破産申立をしていたならば、本件では免責が得られなかったでしょう。免責制度は悪質な処理への歯止めとしても十分に機能しています。
私の財産取戻しは苛烈を極めたと思いますが、別会社の担当部長は最後には随分協力してくれたことが私の自慢であります。刑事告訴や損害賠償責任の追及にならなかったことだけでも、ましな結果だとご判断ください。
 
(3)  論点2(営業譲渡)
幾度も述べました事業譲渡が次の論点です。でも民事再生により行う場合、結論から言えば譲渡価格の適正性に尽きると断言できます。本件も著作権や無形の暖簾代が争点となりました。これらの財産は事業承継に不可欠なものですが、専門的な説明をしてもつまらないでしょうから省きますが、やはり「相当な価格」というのは高いですね。旧経営陣にも厳しい結果となりました。
裁判所から任命された私の職務は、双方のグループの思惑にまどわされることなく、法に従い適正に処理することです。双方が提起する条件を厳しく検討させていただき、営業譲渡後に破産決定を得て無事終了させました。偉い裁判官のご指示通り、東京地裁20部(破産部)のみの関与にて決済されたことになります(この運用は前々回のコラムを読んでいないと分からないだろうな?)。
 
3 破産事件コラムの感想 
法をまとっても思惑は人の欲望に忠実であります。言葉を換えればその思惑は単純明快であります。パターン?の事件では迷惑を受けた者として別々の会社に区分される結果となった従業員「労働者としての苦渋」を書きたかったのですが、またの機会にしたいと思います。つまり破産関係のコラムは刺激的でもありますが、ちょっとした人としてのユーモアやアイロニーも少なく、味わいも「ギトギト」し過ぎて詰まらないと思うようになりました。
次回からは私が単なる「イケイケドンドン」の弁護士ではないことを示したいと思います。事件の関係者は繊細であり、事件処理に限っても「イケイケドンドン」だけでは通用しません。そもそも細やかな配慮と熱心に事件に向き合うこととは矛盾しないのです。
従って、学術的な側面も加味して「不動産の格差社会・不動産は放棄できるのか?」を論点として書こうと思っております。

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1 具体的な事例紹介
 
(1)       パターン?の紹介
この原稿は早めに書いておりますが、「会社支配権と破産手続(その1)」において、掲載する事案をパターン化した当時、三井造船との合併を推進していた造船・重機業界第二位の川崎重工業の社長が臨時取締役会で取締役から解任されたという記事が報道されました。合併構想を阻止するための事実上の社内クーデターという報道内容でした。株主総会を直前に控えた経営トップの解任劇として注目に値する案件でした。
ところで、既に紹介しております?の事案も派遣等の特殊な労働者をいれると○万人以上を抱える親会社の経営支配権を巡る紛争により派生的に発生した破産事件といえます。
親会社の社長は伝説的な人物で、その方の死亡により親族内で経営支配権を巡る紛争が激化し、本件は、当時週刊誌に幾度も報道された数多くの訴訟事件の一つです。破産会社の出資者で、同時に多額の貸付けもしていた親会社は、当時、未上場企業であっても誰しもが知る有名な会社でした。親会社による債権者破産の申立をされた子会社社長は、現社長でない未亡人をその企業の継承者に押しましたので、経営支配権の行く末が定まれば、現社長に糾弾されるべきは当然のことでありましょう。親会社から返済期限が到来した貸付金の一挙返済を迫られれば、その会社は破産するより方法がなかった事案です。本来話し合いで解決されるべき案件でしょうが、紛争の経緯から懲罰的会社整理もやむをえないとも判断できます。
 
(2)       本件の処理
裁判所から私が保全管理人、その後に破産管財人として選任されました。本件は民事再生も事業譲渡の準備すらもできないまま、突然に会社を整理された案件です。
当事務所の事務員が、「在庫の宝石を勘定するだけでも一日以上かかる、重要な処理が何もできない」と言って、これらの在庫整理を親会社社員に任せっぱなしにしたのには頭にきましたが、それもやむを得ない程に慌ただしい終末整理でした。
いずれにしましても、破産管財人としては債務超過という破綻原因があれば、粛々と整理するしかございません。
破産会社は、親会社のある一部門を担っておりましたので、驚くような内容は種々ございますが、これ以上記載しますと当時を知る人には何の事件かも分かってしまいます。
2 債権者破産等の破産申立について
 
(1)  事例での紹介
パターン?の事案のような債権者破産の申立は、当時数多くありました。
議員等に対して、債権者破産の申立が頻発したのも当時のことではなかったかと思います。そもそも破産者になると議員としての資格がなくなることを逆手にとり、国会議員等に対して破産の申立をして借金返済を迫ることが、手っ取り早い債権回収の手法であるとして相談を受けたことも多々ありました。下品だなと思いながら、返済されない場合には債権者破産の申立をしますとの趣旨を記載した内容証明は出しておりますね。当時は、本当にひどい議員が多かったのですが、著名な本にはこのような方法は破産法の本来の趣旨に反すると批判されています。
 
(2)  債権者破産の申立方法
債権者破産の一般的な説明をしておきましょう。難しいことは、支払不能の証明です。金を支払ってくれないというような債務不履行事由だけでは裁判所は破産原因と認めてくれないからです。パターン?は親会社ですから、会計帳簿一切を持っていました。支払不能の証明は容易な事案でした。
次の難しい論点は裁判所に予納する費用が、少額管財事件より多額になるということです。既に少額管財事件は法人にも適用され、予納金は20万程度で認められます。しかし、従来は債権者破産の申立には100万円単位の予納が常識でした。これは最近の話ですが、若い弁護士が「申立費用は、財団債権として申立債権者に必ず戻される」と確定的な説明を債権者にしていたため、財団形成のない返還困難事案であったことから、裁判所をまじえて混乱したことがあります。破綻会社の財産状況について、都合のよい説明をすることは危険ですから、若い先生はリスク管理を自覚して下さい。もっとも私の扱った事件では、上記を除き、そのほとんどを債権者に返金しています。
 
(3)   準自己破産の申立(代表者がいなくなった場合)
 随分昔の事件を思い出しました。破産事件の受任翌日、代表者が自殺された案件です。受任した翌日、会社の状況調査のため、朝一番で会社所在地に行ったところ、警察の車が多数止まっておりました。直ぐに理解できましたが、ご遺体の傍で警察の方から渡された私宛の遺言書を読んだのが忘れられません。
この時に一番困ったことは代表者の他に取締役がいなくなっていたことです。債権者破産だと費用負担に耐えられません。関東の北部にある裁判所が管轄でしたが、申立権のない監査役である親族の上申書等を添付して準自己破産として取り扱っていただきました。
昔はこのような深刻な事件が多かったですし、裁判所のほうも現在よりも機械的ではない「暖かい気持ち」があったように思います。

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1 破産手続利用の思惑と実態
 
(1) 末期的状況での事業譲渡の思惑
  事業譲渡を考察の中心にしますと、少しでも金に変えたいという切羽詰まったものを除き、民事再生を含む破産手続を利用される方々の意図は、次のように把握されるでしょう。要は会社が赤字で破産手続をとらざるを得ないものの、ある部門を営業譲渡して本体は民事再生により企業再生を図る通常の場合、或いは破産会社の中心的な部分を別会社に移して別会社で営業を継続したいというずるい意図が見え隠れするもの。つまり企業の看板となる会社名、人材、ノウハウ、特許権、一部の営業部門或いは重要設備等何でも営業譲渡できます。ですから営業譲渡をコラムの中心にしても経営権を巡る紹介材料に事欠きません。しかし経営の継続ではなく、労働環境の保全のみを考えて事業譲渡をした事件も経験しております。
以前、本コラムでも紹介しましたが、私が顧問であった中規模の病院を、そっくりそのまま全国的に展開する大医療機関に対して営業譲渡した事案は、看護師等多数の労働者の職場環境の維持が目的でした。経営者はきれいさっぱり破産により清算されました。本事案は産業再生機構の公開ネットにて事業譲渡の見本として閲覧できるようになっていると以前コラムで紹介しておりますが、上記の目的まで記載されていて驚きます。
 
(2) 事業拡大という思惑
他方事業譲渡を受ける全国的な大医療機関にとっては、まさしく事業拡大というMAそのものです。同じく関与するのなら、MAをする側にいたいと「変なアカデミック」志望の方には喜ばれるコラムになるのではないかと邪推(?)しておりますが、とんでもない。弁護士の業務としては事業譲渡をする側の業務こそ圧倒的に難しく、且つ弁護士の関与の仕方だけで事件の成否を分けます。MAの契約書チェック作業などは面倒なだけのつまらない実務作業だと思います。
 
(3) 逆に会社破綻の懸念がなかった珍しいパターン
パターンで紹介した?の案件は、会社破綻の懸念はなかったと言っても過言ではない破産事件です。しかし「思惑」と言う意図が、あからさまで「会社支配権の意味」を強く認識させられる事件です。
親会社(巨大企業)である関係会社からの資金援助は厚く、従来の資本構成からは一括返済を迫られる状況などありませんでした。整理する側の主張される建前は不採算部門の整理でした。しかしそうであるなら、会社法などの法的手段により、穏健に話し合いでなされるのが常識的で、通常そのようにして整理されます。その意味では、?のパターンは特殊であり、週刊誌の格好の標的にもならざるをえない側面がありました。すなわちこのような珍しい案件は、親会社の経営権を巡る深刻な紛争の渦中にあって、商法による穏当な手法を採用できない煮詰まった状況があったのです。?の事案は、次回再度紹介しますが、破産手続によって、やみくもに整理してしまった案件です。
他の弁護士先生がお書きになる企業小説に出てくるような悲喜こもごもの話もありました。就職面接に来てくれた方々の興味には応えられそうです。巨大企業といえども所詮人が経営するものですから、紛争の根の深さとして事実は小説よりも奇なりと言えましょう。
 
2 破産手続と民事再生手続の区分
 
 (1) 東京地裁運用の詳細説明
営業を継続することを目的とする場合には、民事再生の申立により会社を存続させて手続を進めるのが無難な方法であります。営業している会社を譲渡するのですから、破産申立のように申立と同時に営業の停止をしては企業価値を損ねるだけです。もちろん事前に譲渡相手との交渉があったとしましても債権者から詐害行為或いは破産の申立をされるなどのリスクが残り、問題は残されたままです。前回のコラムでは書きたいことが多すぎて、東京地方裁判所の運用の紹介が不十分でした。当該案件は、営業譲渡を前提にして、最終的には破綻会社を破産にして会社清算をするが、その場合であっても企業価値を損ねないように営業活動を存続させる必要があった特殊な場合であります。東京地裁の取扱いはこのような事案は破産部(20部)でなく商事部(8部)とするのが慣行です。前回、調査委員として任命され、破産と民事再生双方の申立を検討後、保全管理人の任命という破産手続のみで進行させる方法の紹介をしました。結論として、破産となるのですから、この運用のほうが実際に適しております。本事案は、民事再生と破産という二つの申立が併存し、両陣営のそれぞれの思惑が見え隠れする特殊な案件ではありました。私は、裁判所の意向に従い、破産法による保全管理人制度にて事件を終了させました。
 
(2) 保全管理人制度
保全管理人制度の紹介をしましょう。保全管理人は破産法でも民事再生法でも法律に規定されている制度であります。しかし民事再生法でも保全管理は事業継続が困難となり破産に移行することを前提とした制度と言えます。そもそも民事再生においては会社の業務活動は会社に任せられており、私は単に監督業務を行うだけでしかありません。監督委員は主体的な財産保全業務は行わないのです。つまり最初から、破産法上の保全管理人が財産処分をし、その後破産管財人になるなら、商事部に移管する必要もないのです。
実際の実務の理解がないと、裁判所の運用も理解困難ですが、これでも難しいですかね?

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1 会社支配権を巡る破産手続の利用
 
(1) 小説のような題材が必要
  今回から、多少アカデミックに、且つ多少センセーショナルに“会社支配権を巡る企業紛争、それも破産手続を利用する場合”に関し、4回に渡って書いてみます。
何故こんな題材にしたくなったかは、当事務所に就職を希望する司法修習生や弁護士採用面接での質問にあります。当事務所の企業法務の内容に関心を寄せる質問が多いのには驚きます。
でも「企業法務ではどのような事をされていますか」と質問をされてもどのように答えたらいいのか迷うのですね。
「何でもありますよ。時には刑事事件もね」と本当のことを言いますと、その顔つきから「何だ、アカデミックでないな」という反応が分かるからです。もう少しましな返答をしようと思って「やはり労働法に関係した相談は多いですよ」と再度本当のことを言うと殆ど無視ですね。労働法の人気のなさが分かりますし、「そんな泥臭いことは期待していないのだ、やはりアカデミック(?)でないとね」という気持ちがありありと分かるという具合です。私のやるせない気持ちを分かってほしいものです・・。
 
  (2) 当事務所の企業法務度のチェック
私の監査役に関する質問も多くの方から寄せられました。しかし監査役は、少なくとも当事務所の企業法務とは関係ありません。
監査役は、その会社に紛争があっても代理人はなれないですし、私は会社の役員ですから当事務所の若い先生に任せる業務など本来ないからです。会社法を勉強されていれば直ちに予想できることなのに、何故そんなことに関心をもたれるのかと疑問に思います。当事務所の企業法務の程度を確かめておられるのでしょうが、そもそも私はある顧問会社を監査役に振り替えたことについては大変後悔しております。顧問業務は監査役と異なり、会社に対しては外部から第三者的な立場において関与できます。故に、事務所全体で取り組む課題も多く、その違いは大きいのです。
以上のような雑感のなかで、それなら思い切り小説風の題材にして満足していただくのも一興だと思いました。「会社支配権を巡る破産手続の利用」として書きましょう。
 
 (3) 東京地裁破産部のアカデミックな運用
この題材は、東京地方裁判所破産部の事業譲渡に関するアカデミックな運用をも説明することができるのです。
すなわち営業財産に関して事業譲渡が必要な場合、通常は事業譲渡を目的として民事再生の申立をし、事業譲渡をした後に民事再生申立会社については破産決定をして破産手続にのせるという面倒な手続が必要です。保全管理人の制度を使うなら当初より破産決定前の保全管理人として任意売却による財産保全を行い、民事再生手続を省略できるのです。二重の手続を破産のみで済ますことができるのですから、さすが破産部の裁判官は実践的だと当時感心させられました。
 
2  会社の支配権と破産手続のパターン
 
 (1)通常の顧問業務
  通常の顧問業務ではこれから書きます題材は多くはありません。
当事務所では、この事態に至るまでに何らかの結論を出しております。確かに親子紛争だとか兄弟紛争、或いは専務派との争いとかもあります。しかし当事務所では「それどころではないでしょう。もっと前向きに議論しましょう」と言って、仲介に立つのが通常です。当事務所の顧問先が中小企業だからと言われればそのとおりかもしれません。でも、そんな紛争に巻き込まれる前に何らかの工夫をするのが私の職務だと思っております。
確かに末期的状況を迎えて経営方針を巡って争いになり、その相談に来られる案件もあることはありますが、それはそんなに劇的でもありません。
  従って、前回からの流れを尊重し、破産関係のコラムの続きとして紹介するのが適当でしょう。紹介する案件は、当時週刊誌に面白おかしく報道されたものと、破産関係情報として流布されたものです。それでも固有名詞の使用を避けるなどして、紹介しましょう。このような心構えこそ氾濫するネット情報社会に対する姿勢とすべきではないかと痛感しております。このように考えます理由は、近時扱った事件の教訓であり、必然として神経質にならざるをえない心境にあるのです。
 
 (2)    会社の支配権と破産手続のパターン
私が東京地方裁判所破産部から調査委員、保全管理人或いは破産管財人として選任された経験の中から企業支配に関係する事案のパターンを三つ程度あげてみましょう。
?    会社の大株主でもある関係会社が現経営陣を追い落とすため巨額の貸付を理由に債権者破産の申立をしたが、現経営陣は当然に争った案件
?    社長追い落とし派が社長を解任して代表者となったため、元社長派が債権者破産の申立をしたものの、現社長派が破産手続中止の申立、後に民事再生の申立をして争った案件
?    会社の支配権を巡り現経営陣が破産申立をしたが、元社長グループは事業譲渡を内容とする民事再生の申立をして争った案件
次回は、破産手続をお考えになる意図から考察しましょう。

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1 免責制度とは
 
(1)    皆さん、破産申立をしたら、破産手続で配当されなかった残金はなくなるとお考えですね。破産をするメリットはこれしかないという弁護士もおります。前回のコラムで書きました破産者に「経済生活の再生の機会」を与えるということです。
これを免責制度と言いますが、このような重大な効果を有する制度ですから、泣き笑いのエピソードは枚挙にいとまがありません。
 
(2)    免責を受けるためには裁判所より別途免責許可の決定を受けなければなりません。私が弁護士になった頃は、個人破産即ち免責を求める事例はあまり多くはありませんでした。破産申立と免責申立が別の制度として存在するような形になっていたことから「木に竹をつないだ制度」などと言われておりました。バブル経済が破綻し個人の倫理観の変遷を経て、平成に入ってから爆発的に免責事件が増加しました。平成18年からの倒産法制の見直しで改正がなされ両制度を統一的なものにしたのはごく最近のことなのです。
 私の笑えないエピソードの紹介から始めましょう。私は、20数年前、約束事により多くの事件を他の弁護士に引き継いでもらったことがあります。今回の改正では破産の申立をすると免責の申立も同時にしたものとみなされるのですが、当時は免責の申立は別途しなければなりませんでした。引き継いでもらった事件には個人破産の申立事件もあったのですが、引き継がれた先生は、破産廃止後うっかりして1カ月以内の申立期限を超過することになったのです。あわてて調べたところによりますと免責申立期限の徒過は、当時機械的に弁護士会より戒告処分に付されるとの情報も得ました(戒告処分は、弁護士にとっては大変なことなので、この近時の改正は大変ありがたい?)。依頼した先生のミスとはいえ、申し訳なくて大騒ぎをしましたが、官報公告が遅れていて助かったことを昨日のことのように思い出します。
 
2 免責されない場合としての浪費
 
(1) 免責されない場合については、免責不許可事由として破産法に列挙されております。
    その要件にあてはまると免責を受けられず借金がなくならないのもご存知ですね。浪費
    や賭博をして借金をしていると免責にならないことも有名です。
 
2) 浪費の事例はたくさんあります。浪費とは「当該破産者の職業、収入、資産状況に照ら
     して社会通念上、不相応な消費的支出をする全ての行為をいい、収入に比して支出の
     程度が過大である場合」をいいます。具体的には、飲食費、高価品の購入、海外旅行
     費、エステ、化粧品、布団、補正下着、英会話、自己啓発セミナーの受講料、株取引、
     投資目的の不動産購入、接待費等も入るのです。
以上は、これまで経験した事例をあげたのですが、これ以外にも競馬の馬主になっている事案もありました(これは浪費でなく、賭博ですかね。本人は馬を見るのが趣味と言っていましたが)。
発覚したきっかけは、破産者の郵便物が破産管財人の私の元に全て転送されてくるのですが、ある日、破産者の所有馬が入選して高額の賞金が出ることになったとの通知がきたのです。驚きましたねー。賞金はかなり高額で破産申立ではなく任意の整理も可能になる金額だったので、徹底して調査をしました。ここで知ったことは、馬も生きていくためには毎日飼い葉を食べないといけない、解約したくても馬の飼い葉料の関係で容易に解約できないこととか勉強になりました。これまでその馬が入賞することなどなかったので、どうせ分からないだろうと放置していた破産者は本当に驚いておりました。
 
(3)    そもそも破産法の改正前(ちょっと前のことです)、浪費は破産懈怠罪として5年以下の懲役になるという条文があったことを知っておられたらビビりませんか。
改正前は、法廷という威厳のある場所で免責審尋期日を入れて丁寧に裁判が行われておりました(今はこんな「丁寧」さはありません)。この免責審尋の法廷で、エステや高額化粧品の購入をばらされたこともありますし、裁判所に意見書が送付されてきたことも多々あります。一つ例を挙げますと「自分は高級クラブでよく酒を飲んでいるが、破産者もよく飲みに来る、許せない」とありました。
頭に来たのは海外旅行しているとの書面が送られてきましたので、書面について説明しないままで破産者を呼び出したら、日焼けした真っ黒な顔で「イヤー、グァムに潜りに行ってましてねー」と悪びれない態度には本当に頭にきましたね。
 
3 その他の免責不許可事由
 
    免責については書き出すときりがありません。
次回は、免責のこと以外を書きたくなる可能性があります。したがって、自宅を親族に売却(廉価売却が通常ですが・・)したことにし、自分の居住場所を確保して破産申立をする方、親族の借金を債権者名簿にあげないで、返済は破産管財人に告げないまま返済を継続するという事例が多々あることについて触れておきましょう。自宅に担保が設定されているのであれば、担保権者により追及されますからこのようなことは起こりにくいのですが、たまたま無担保の自宅の場合には意外とよく起きる事例だと思います。
私が破産申立代理人となる場合には、これらが裁判所に問題にされることを事例で説明し、むしろ逆に危険であるとお話します。これらの行為は、破産債権者を害する行為とい   ことで免責不相当となりますが、破産管財人には容易に見つけられてしまうと警告しております。

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1 破産法の規定
 
(1)   破産法上でも破産管財人の規定は種々おかれております。破産法に強い先生方でも国税徴収法において定義規定(第2条)にまでおかれていることはご存じないようです。私は、破産者の社長さん等が菓子折りなどを持参されるような場合に、お断りする説明として本条文も使わせていただいております。
  もちろん破産法上、破産管財人に関し、収賄罪・贈賄罪の規定があり(第273及び274条)、懲役まで定めてあることは公務員と同様です。その反面、破産管財人の業務が厳重に保全されており、「破産管財人等に関する職務妨害の罪」(第272条)までもあります。これらは皆様にぜひ知っていただきたいことです。
 
(2)  では破産管財人の定義から業務内容を見てみましょう。
前回、破産法第1条、すなわち破産法の目的を書きました。この目的規定を受けて第2条に破産管財人の定義規定があります。それには「破産管財人とは、破産手続において破産財団に属する財産の管理及び処分をする権利を有する者をいう」とされております。実は、破産管財人は、公平な配当の実施のために所有者と同等の処分権まで与えられているのです。
前回コラムで引用した裁判官著作の「破産・民事再生の実務」を見てみましょう。
「破産管財人は、・・破産者に代わって・・狭義での破産財団の管理・換価を行うほか、否認権を行使して財団を巡る実体的法律関係を整理したりすることで、その管理下にある破産財団を本来あるべき財団の範囲に一致させ、配当の基礎となる財団を作り出す。他方で、配当の相手方となる破産債権者の権利内容を調査し、配当を受領すべき債権者の範囲及び債権額を確定させる。このほか、破産管財人は、特に破産者が個人の場合であるが、免責審理に際しての調査・報告にみられるように、破産手続のもう一つの目的である『債務者について経済生活の再生の機会の確保を図る』こと、すなわち破産者の経済的再生にも注意を払わなければならない。」とされています。
 如何ですか?具体的に話したほうがよさそうですね。
 
2 破産管財業務のエピソード
 
(1)  破産管財人の仕事は、先ず破産者の有する財産を確保することから始まります。申立代理人である弁護士が財産全部を整理されて当事務所に持参されれば問題はありません。しかし持ってくることのできない物もあります。その典型は不動産です。事務所、工場、倉庫、社宅等全て決定が出るのと並行して現地を調査するのが私のやり方です。こんなこともありました。会社本社事務所が賃貸であったため、その巨大ビルの管理会社から入室を物理的に妨害されたこともあります。まだ決定が出ていないということで相手の弁護士までも関与してきた案件も2件あります。私はこのような状況も予想して対応してきました。これらの案件でも社長を同道させておりましたので物理的に押し切って入室しました。抗議のあった弁護士には当事務所職員が裁判所から決定書を受領に走っているから、私を妨害できないこと、そして決定がすぐ出るので弁護士が物理的に抵抗されるなら破産法第84条に基づき「警察上の援助」により入室するとも伝えました。
昔の破産事件は派手でしたね。ここ10年程はこんなに揉めることもありません。
 
(2)  もう一つ愉快な事例(「みっともない」かな?)を紹介しましょう。私が破産管財人として管理している工場に、深夜、上場企業の会社が何台ものトラックで乗りつけ、リース物件である巨大機械を運び出そうとした事件がありました。この事件は機械を朝までに持ち出せず未遂に終わりました。実は、破産会社の社長さんはこのようなことが起こることも予想され、人の出入りできる出口を除いて全てのカギ穴を蠟で塞いでおられたため、手間がかかりすぎて未遂に終わったのです。でもこれは犯罪です。当時はこんな馬鹿なことも起きると予想しないと「辣腕の破産管財人」とは言えない時代でした。
 
(3)  破産会社の財産確保は以上のようですが、「破産・民事再生の実務」で次に出てくる否認権の行使は難しい。これまでコラムで書きました「築地事件」ではつい最近でも否認訴訟を2件やっております。当然相手方も上場企業ですから徹底抗戦してきます。一勝一敗というのが正直なところで、当事務所は訴訟で負けることなど殆どないのですから、とても許される結果ではありません。
事件の一つは破産申立前に営業権を担保に入れた事案、もう一つは破産直前に3億程度の債務の返済を受けたものです。これらの担保設定行為や支払不能後の弁済は他の破産債権者を害することを知って行ってはならないのです。入門編で利用される先生方のために注意点だけをお話ししておきましょう。つまり訴訟というものは早期に終わらせることは大変に難しい。でも破産事件ですから、通常の訴訟のような経過をたどるのでは破産裁判所に苦情を言われます。何年も要するであろう否認訴訟を、如何に当方有利に早期決着させるかという工夫こそが腕の見せ所なのです。
そろそろ時間切れです。次回は破産管財人の業務として重要な「免責」のお話をしないとなりません。しかし一か月を経過しますと違うことを書きたくなるのです。その時は諦めてくださいね。

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1 破産管財人はタフな業務
 
(1)  破産管財人とは何でしょうか?
詳しいことはお分かりにならないのが普通ですね。そんな単語、聞いたことがないという人も多いはずです。しかし破産の申立をした人は当然にご存知でしょうし、破産に関係する本コラムを読もうとされる方々は知っておかれるべき入門編の知識になります。
 
(2)  破産管財人は破産手続で最も重要な機関です。東京地裁破産部に所属される裁判官による力作「破産・民事再生の実務」をひもときますと、「破産手続の機関の概要」の項目第一行目において「破産管財人は、破産手続開始の決定と同時に裁判所によって選任される、破産手続の中心的役割を担う機関である」と記載されております。破産事件の帰趨は破産管財人の腕で決まると言っても過言ではありません。
私が破産管財人に選任されて管財業務を行ってきた約20年間の詳細をお話しするだけで皆様の興味を呼ぶ何回分ものコラムを書けますし、それは同時に破産手続の中心的役割についての説明にもなってしまいます。破産管財人には緻密な法理論の武装と決断力が問われる世界であり、少数ではありますが、難事件になりますと、「その人(弁護士)のなり」までが問われます。私は、このような事件を多数任され、職業冥利に尽きると思ってやってきました。東京地方裁判所には、充実した日々をおくらせていただき感謝しております。
 
(3)  ところで本コラムはどのような人が読んでくださっているのでしょうか。執行費用のコラム欄が若い弁護士の先生方から大好評です。でもあんな実務の情報など、私には何の意味も見出せません。コラムを書いている者の心情が出てくる訳もなく、ちっとも面白くないからです。
当初は、弁護士としてのいろんな体験をお話しして、弁護士でない方々に「いろんな人がいるなあ、見方もいろいろあるなあ」と思っていただくとか、読む人の趣味程度で読んでいただきたいと思って本コラム欄を作りました。しかし、読まれている方々の評判をお聞きしておりますと、小説のような感じで楽しんでいただいている訳ではなく、事件解決のヒント或いは知識として読まれている場合が通常のようです。或いは本コラムが法律の世界の入り口として読まれていることも聞きました。これらを考えて、コラムの内容も当初とは大分変わってきております。
今回は、破産事件等について関心を持たれている方々のために、面倒でも破産事件の基本理念から説明し、破産管財人の在り方に関するエピソードを紹介しましょう。
 
2 破産法の目的
破産法第1条では
「この法律は、支払不能又は債務超過にある債務者の財産等の清算に関する手続を定めること等により、債権者その他の利害関係人の利害及び債務者と債権者との間の権利関係を適切に調整し、もって債務者の財産等の適正かつ公平な清算を図るとともに、債務者について経済生活の再生の機会の確保を図ることを目的とする」と規定されております。
上記条項には破産における目的が書かれております。この目的とされる事項は、?債権者、利害関係人との権利関係の調整、?債務者の財産の適正かつ公平な清算、?債務者の再生の機会の確保と多数にのぼります。破産管財人はこれらの目的を実現する機関であります。破産管財人はこれらの使命を決して忘れてはなりません。
 
3 破産管財人の使命に関係したエピソード
 
(1)  破産管財人が具体的に何をなすのかは次回のコラムに先送りして、私が小説に使いたいと思ったエピソードを紹介しましょう。
 10年以上前のことになるでしょうか、東京にある三つの弁護士会の弁護士同士の間で、破産事件をやっていて自分の悩んでいること等をネットによって相談ができるシステムが開発されました。
 ある時破産管財人をやっている若い先生から、免責の意見に関して、これまで免責不相当の意見を2回も出したと多少「自慢げな感じ」で投稿があったのです。この若い弁護士に対して、わっと多数のメールが入り、この先生を強く非難するメールが溢れました。これを今流に言うなら「ネット炎上」というのでしょうね。私もこの若い先生に対して破産者に対する配慮、即ち破産法の三つ目の理念「債務者の再生の機会」に対する自覚が足りないと強く思いました。でも罵倒のようなメールに接しているうちに間に入らねばならないと焦り始めました。当時私はこの三つの弁護士会で法律相談の協議をする議長でしたから、総責任者として当然にその責務があります。
 
(2)  10日も経たない頃、別の若い先生から、免責について真剣に悩んだ経験とその破産者の内容が書かれたメールが投稿されました。
 最初の先生から「私は泣きながらこのメールを書いております」と「三回」も、「泣きながら」感謝するメールが入りました。本当に苦しまれていたことが分かる内容でした。私は事務所の若い先生に、小説に書く材料としてすごいネタだと何回も言ったものです。
 
4 感想として
  昔は破産法の基本理念を随分議論したと思います。
  最近増えた弁護士同士の種々のメールを見ていても、このような熱いメールは減りまし 
    た。破産法も定着し、破産に対する考え方もそれほどシビアではなくなっております。これはいい傾向でしょうか?

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1 破産会社と整理屋さん
  バブル崩壊当時の破産は深刻なものが多かった。
  東京地方裁判所裁判官から、浅草のかばん屋さんから破産の申立てがあったが「整理屋」が入っているようですと教えられました。私は破産管財人に選任されると同時に社長を伴って会社に行きました。通常は破産管財人選任許可が出る前から行動しておりますが、整理屋さんの実態が明らかであるため決定書の写しが必要だと判断しました。
    会社に乗り込んだ当時は冬の本当に寒い時期でした。石油ストーブだけの寒い中で、ワイシャツだけの中年男がチンピラ風の男性達を連れて事務所に座っておりました。その方に当方の事情を説明して、これまでの経緯をお聞きしたところ「債権者が勝手に商品を持って行ってしまうので、頼まれて自分達が会社を守ってやっているんだけど、社長が無責任に行方不明になって」というような説明をしておりました。確かにいくら寒くても薄いワイシャツからは刺青がはっきり見えており、一見しなくても「怖い方々」だと分かりました(効果歴然というのですね)。社長は「頼んだ訳ではない。この方々は最初債権者の代理人だから金を払えと言ってきた。払えない状況なら商品で払ってもらうしかないと言われて、いつの間にか商品管理までするようになった」との返答でした。
確かに、確認書を交わそうとしてハンコを押す赤い印肉を探したところ全く見当たらず、よく見てみますと文房具らしいものが殆んどなくなっているのが分かりました。火事場泥棒にあったとはこのような状況だろうと思いました。「普通のおじさんが(債権者)が持ち帰った」とその「筋の方々」の話を聞くにつれ、人間の卑しさを見たように思いました。しかしながら、自分の債権を保全すると言って全商品の売掛金を自分のものにするというこの「筋の方々」はもっとひどい。犯罪にあたりますと説明しましたが、これを「釈迦に説法」というのでしょうね。
この金銭の回収も困難を極めました。ここで私の自慢はその「筋の方々」が警察に解散届を出してくれたことです(もっともその方々は、もっとやむに已まれぬ事情があって、それを利用されただけだと当方も分かっていますが)。
 
2 荒れた債権者集会
  当時、東京地方裁判所が開廷する債権者集会そのものが荒れた事件もありました。
  当日は、街宣車が裁判所の前を行ったり来たりしておりましたので、裁判官も意識はしていたのでしょう。しかし開廷が15分程度遅れたのです。事情は分かりませんが、本当に間が悪いとはこのことだと思いました。始まった法廷では、先ず裁判官が遅刻したことについて謝罪をするようにという不規則発言から始まりました。当時は、債権者集会も通常の法廷で開かれておりましたが、裁判官も新たな廷吏を動員する一歩手前まで事態が混乱しました。でも裁判官が遅刻をしたのは事実であり、その点については私も弁護の必要を認めませんでした。
   荒れるに荒れたその日は、二回目の債権者集会が開かれる日程だけを決めて終わりましたが、法廷はその筋の方々が殆んどでした(多分全員のように見えました。債権者の確認もできなかったのです)。中心で発言される債権者は当時右翼的な大学で知られる大学教授が代理人で出席されていると聞いてびっくりしました。世も末だと嘆きました。
   でも最近は、こんな映画や小説のような話は本当になくなりました。破産制度が定着し、皆様も破産慣れしたのです。
 
3 会社社長の深刻度
  当時は、筋悪の債権者に社長が拉致されたという話もよくありました。拉致した会社は、ちゃんとした上場会社で馬鹿馬鹿しくなったこともあります。その会社の支店長に電話して、「警察行かせるから待ってろ」と怒鳴って本当に即時解放させた事件もありました。破産される社長さんも破産になると抜け殻のようになって、自宅にもどこにも行く場がなく呆然とされておりますので、会社と同様私の事務所に出勤してもらい座っていてもらう処置をした社長も多数おられました。今はこんな方は殆んどおられません。
   我が国では、通常、社長個人も連帯保証人になっており会社と同時に破産申立をしますが、免責の裁判が引き続き行われます。かっては厳格に一人ひとり法廷で証言をして免責審査されるのが常でした。現在は破産の責任を感じる暇もありません。免責手続きもすこぶる簡単で、寧ろこんなことでいいのかと裁判所の姿勢に疑問を持つほどであります。
築地の仲卸の事件で、給料も会社経営のために貸付けていた従業員が債権者集会で「社長、頼むから隅田川に飛び込んでください」などと叫ぶ事件も今は見ません。この社員の方は、築地の業務が終わる午後3時頃になると毎日事務所に抗議の電話をしてきましたが、私と意気投合して、3回続いた債権者集会で、他の金融機関の方の質問に対して「そんなありえないことを聞くな」と私を庇って?くれるほどになりました。
 
4 時代は確実に変わった。
  免責には分割弁済が必要な時期もありました。若い弁護士の諸君には驚きと思います
 が、1年程、払える金額を決めて当該分割金を支払わないと免責されない時代もありまし
 た。破産申立前、債権者説明会を開くのも通常弁護士の仕事でした。灰皿などは飛んで来
 るので置かないようにしようなどと打ち合わせをしたのが信じられません。現在は民事再生
 のような場合以外説明することもなくなってしまったのです。
  かって、破産は当事者である債務者の責任か?などと論じられることが多々ありました
 が、現在はあまりないですよね。

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