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有効な競業避止義務契約を締結するために (その9 不正競争・情報漏洩)
- カテゴリ :
- 情報管理・不正競争
一 以前紹介した経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック ~企業価値向上に向けて」(平成28年2月8日公表)というハンドブックのうち、今回は有効な競業避止義務契約を締結するための基準を紹介したいと思います。
二 これまで本コラムでも紹介しております通り、従業員退職後の競業避止義務規定を定めることについては、職業選択の自由を侵害し得るため、判例上制限的に考えられております。
具体的には、①守るべき企業の利益があるか、②従業員の地位について、③地域的な限定があるか、④競業避止義務の存続期間、⑤禁止される競業行為の範囲について必要な制限がかけられているか、⑥代償措置が講じられているか、が重要な基準になると考えられております。
経済産業省のハンドブックにおいては、上記①~⑥について裁判例がどのように判断しているかを詳細に検討しておりますので、ご紹介します。
三 まず、守るべき企業の利益について、経済産業省のハンドブックは、不正競争防止法上の「営業秘密」とまでいえなかったとしても、営業方法や指導方法等に係る独自のノウハウについては、企業側の利益があると判断されやすい傾向があるとされています。
実際に当事務所が対応している案件において良くある反論として、あくまで従業員が個人的に人的関係を構築して営業活動を行っていたので会社の財産ではない、というものがあります。
もっとも、経済産業省のハンドブックは、「人的関係の構築が企業の信用や業務としてなされたものである場合には、企業側の利益があると判断されやすい」としていますし、実際に当事務所で対応している経験からしましても企業の業務の一環として構築された人的関係の場合には会社側の主張が認められ易いように感じております。
四 従業員の地位について、経済産業省のハンドブックは、合理的な理由なく全従業員を対象にした契約、特定の職位にある者全てを対象にしている契約は有効になりにくいとしています。
言うまでもないことですが、使用者が守るべき利益との関係で当該従業員の具体的な業務内容が重要であるといえなければ、競業避止義務は有効になりにくいと言わざるを得ません。
五 地域的限定について、経済産業省のハンドブックは、「地域的限定について判断を行っている判例は少ない」とした上で、「地理的な制限がないことのみをもって競業避止義務契約の有効性が否定されている訳ではない」としています。
もっとも、地域的制限ができるのであれば、制限をしておいた方が競業避止義務契約の有効性が認められ易くなることは言うまでもありません。
六 期間について、経済産業省のハンドブックは、「1年以内の期間については肯定的に捉えられている例が多い」とした上で「近年は、2年の競業避止義務期間について否定的に捉えられている判例がみられる」としています。
当事務所が実際に相談を受けている印象としても、一般的に2年の競業避止義務を課している契約書や誓約書等が未だに多いと考えられますので、注意が必要だと考えています。
七 禁止行為の範囲について、経済産業省のハンドブックは、「禁止対象となる活動内容や職種を限定する場合においては、必ずしも個別具体的に禁止される業務内容や取り扱う情報を特定することまでは求められていないものと考えられる」としています。
もっとも、一般的・抽象的にしか規定されていなければ有効性が認められない可能性が高いわけですので、実際に契約を締結する場合には注意が必要です。
八 代償措置について、経済産業省のハンドブックは、「代償措置と呼べるものが何も無い場合には、有効性を否定されることが多い」とした上で、「みなし代償措置」のようなものでも肯定的に判断されているとしています。
実際に当事務所で相談を受けている事案を考えてみても、代償措置がなされていないケースが極めて多く、競業避止義務契約を締結する際には工夫が必要です。
九 以上の通り、有効な競業避止義務契約を締結するために必要な考え方を紹介しましたが、実際にどのような契約を行えば良いかどうかについては非常に微妙な判断が必要になりますので、是非一度ご相談ください。