1. HOME
  2. コラム
  3. 相続事件
  4. 全遺産を家政婦へ (相続事件簿 その4)

新宿の顧問弁護士なら弁護士法人岡本(岡本政明法律事務所)

当事務所では、上場企業(東証プライム)からベンチャー企業まで広範囲、かつ、様々な業種の顧問業務をメインとしつつ、様々な事件に対応しております。

アーカイブ一覧はこちら

全遺産を家政婦へ (相続事件簿 その4)

カテゴリ : 
相続事件

 

一 テレビ及び週刊誌の過熱報道
 
 1 「遺産は全て家政婦に渡す」という遺言書
(1) 朝の出勤前はテレビをつけっぱなしにしております。たまたま気づいたのですが“家政婦に遺産全額を遺贈したところ、実の娘たちと訴訟になり娘側が負けた”と報道しておりました。私の経験則では“遺言書が有効と見做されるのは通常のこと。裁判所はなかなか遺言書を無効になどできない。通常ありきたりの判決”と思い聞き流しておりました。ところが、知り合いの弁護士がコメントに出演しましたので、つい全部見てしまいました。
このコメントをしていた弁護士の舌足らずな解説に“こんなコメントだったら不要。専門家の名前が泣く。しかも、せっかく出るのなら遺留分についても説明するべきだ”などと苦情を言いたくなり、つい全部見てしまったことが不快でした。
誰しもが、この報道に疑問をもたれる内容の第一は、この娘たちは遺留分の主張をしなかったのかどうか?でしょう。この娘たちは遺留分として遺産の2分の1を主張できるのですから、それで十分ともいえるからです。
 
(2) 上記報道を聞いた後、2月4日号の週刊文春で「家政婦vs実の娘 遺産相続訴訟 高齢の母が残した遺言は有効」という記事を読み、また報道が過熱していることも知りました。
事案は単純です。
97歳で亡くなられた女性資産家が、50年以上親身に仕えてくれた家政婦に、遺言書で全財産を遺贈していたようです。親身に世話をしてくれた家政婦に比較して、娘たちは、「海外に移住するという名目で3000万円を援助させ」、無心を繰り返していた旨記載されています。
このような事件は、裁判になる場合の典型的な相続事件の一例でしかなく、どうして過熱報道になるのか、私には不思議です。
先ず、娘側の訴えは、遺言無効による遺産の返還及び家政婦が着服した約6000万円を支払えとするもので、家政婦側は、死去当日、娘が預金口座から3000万円を引出している現金等遺産全ての返還を要求しています。
判決文は見ておりませんが、上記記事の内容からすると、娘側は遺言書を無効と判断したのか遺留分の請求をしなかったようです。遺留分についてはどの報道も教えてくれません。
遺留分の請求権は、正確には減殺請求権と言い、その時効は1年という短期消滅時効にかかります。ここでは弁護士が受任した時期が問題になります。つまり問題になる1年以内に弁護士が受任しており、何らの事情もなく行使しなかったとするなら、この弁護士業務は手落ちであると批判されるでしょう。
仮に、遺言書が無効と判断されても、予備的に遺留分の請求をしておくのが常識です。内容証明郵便で証拠を残しておきましょう。
 
  今回の報道に対する疑問
 今回の報道による自筆証書遺言は、遺言能力がある限り老女の最終的な意思として当然に有効です。遺言は、所有する者の全能の権利と言っていいでしょう。今回と同じく、全ての財産を血の繋がらない者に対してした包括遺贈も「公序良俗に反しない」という古い判例(大審院当時)もあるくらいです。
従って、本件遺言書に関する争いは、この女性に遺言能力があるか否かが争点になりますが、報道された内容では、遺言書は8年も前に作成されたもののようです。
 
3 でもこの事案は、私が前回のコラム(相続事件簿3)で紹介した事件程劇的ではありません。
前回のコラムの老女は天涯孤独と称し、自らの相続人の存在すら信じておりませんでした。遺言書の無効を訴える相続人は、その姉の養子なのです。そもそも姉には遺留分もありません。遺留分の制度については次回ふれますが、遺留分がないということは「家という家族共同体に属しない」ことを意味するといえます。相続法理における調整は予定されていないのです。しかも、お世話した弁護士は、老女の自筆証書遺言に多少不安をもっていたのでしょうか、自ら公証人に関与させ秘密証書遺言にしております。
この相続紛争のほうがよほどミステリアスで展開も複雑です。
この案件の面白さにはかなわないはずなのに、やはり「家政婦は見た」的な論調に負けてしまうのでしょうね。
 
二 私の思い―次回のテーマは「遺言と遺留分」
     過熱報道に接し、民法の最も未解決と言われる遺留分について思いが及びます。「家族主義と民主主義」にも関係する私の従来からのテーマを書いてみましょう。
遺留分の制度は上記考察をするには、最も適した分野です。遺留分の制度に関し、ある 解説書では、次のように記載しております(基本法コンメンタール相続第五版213)。「(遺留分制度については)かなりの部分が今なお発展途上にある。遺留分制度論自体が今なおわが国では創成期にあるあるといってよい。」
次回は「遺言と遺留分」をテーマにし、相続法理に関係したコラムを書くことにします。

お問い合わせ

お電話でのお問い合わせ:03-3341-1591

メールでのお問い合わせ:ご質問・お問い合わせの方はこちら

  • 閲覧 (30207)