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年初めに遺言書を書こう (相続事件簿 その2)

カテゴリ : 
相続事件

  

一 新年にあたってのご挨拶と思い出
 
  本年も宜しくお願い致します。
 
1   新年を迎えまして、「新年の始めには遺言書を書こう」と宣伝していた10数年前のことを思い出しました。
      当時、私は、東京にある三つの弁護士会が作っていた法律相談センターを構成員とする東京法律相談連絡協議会の議長をしておりました。各々の弁護士会が、別個に組織していた法律相談センターを纏める組織としての協議会ですから(当時新しい弁護士会館ができ、三弁護士会を束ねる組織がやっと機能し始めた頃です)、この協議会の影響力は大変なものがありました。そこで種々議論をした結果、新年の始めには、「遺言書を作成すると言う習慣」を作って頂きたいという宣伝活動をすることになったのです。現在、各弁護士会には遺言センターなども組織されておりますが、当時は遺言書の作成について、組織として議論する環境はなかったのです。
 
 2   弁護士会のことなど、どうでもいいのですが、「新年の始めに、遺言書を書きましょう」と提案したことには特別な意味があると思います。これは“死後の相続争いを避けるため”という実用的な面だけではなく、人生の締めくくりや希望の意味を込めて、年の始めに自分の思いを遺言書で残すことも大切な習慣になるはずです。
      ところで遺言書の作り方はネットで氾濫しております。私のコラムではそんなつまらないことは書きたくありません。毎年作成するということに疑問をお持ちの方に説明しておきますが、民法の定めに従って作成していただく限り、最後に作成された日付けの遺言書が有効になります。従って、前の遺言書が残っていても何の問題もありません。このような私の思いのせいでしょうか、当事務所の貸金庫には遺言書が大量に保管されていたこともあります。
 
二  遺言書を巡る事件
1    遺言書に関係する事件も本当にたくさん扱ってきました。遺言書作成当時の遺言能力に疑問を感じ、医療鑑定をした経験もありますし、自ら長谷川方式で認知症テストまでしたこともあります。遺言書の筆跡鑑定程度の事件なら、たくさん扱ってきました。
今回は、一つ目として、遺言書の作成で受任した弁護士が失敗した事例を紹介しましょう。この事案なら私の依頼者と関係がありません。そして、もう一つは、一昨年「判例時報」という弁護士にとっては有名な雑誌に紹介されていた事案を紹介しましょう。この事案のような、まるで時代小説のような事件も経験しましたが、公開されている事例を紹介するのですから、遠慮なくその詳細をご紹介できます。
 
2   最初の事件ですが、弁護士が遺言書の作成で失敗したにもかかわらず、その後始末にも失敗された事案です。つまりその遺言書で自らを遺言執行人に指定されておられました。私はその弁護士(巨大事務所の有名弁護士さんです。一度事務所をお尋ねしましたが、驚くほど広かった)の遺言執行人解任の申立(民法10191項)のみ受任しました。その際、関係する相続事件等には一切関与しておりません。                                                          
        この事案は、遺言書の作成について注意するべき論点の一つです。
 
       本論ですが、有名な弁護士さんは、超資産家の顧問のような立場におられたのでしょうか?奥様の話を聞いて自筆証書の遺言書を自ら下書きされたようです。二点の曖昧な記述部分についての説明で、弁護士さんは他の相続人に対し、以上のような説明をされたそうです。
          不明点の一つは、超高級賃貸マンションの奥様の持ち分5分の3(5分の2は、元々長男所有)の遺贈に関する規定が疑問でした。この弁護士さんは「この持分五分の参のうちの五分の壱」を長男に相続させると記載されたのです。通常の常識からは「うちの五分の壱」ですから、全体で25分の3になります。しかし、この弁護士さんは奥様から直接、長男の取り分を5分の1にしてくださいと話されていたと主張されました。つまり25分の5です。長男には絶対的な持ち分ということ以外に、何十億の物件なのですから、金額としても大変な違いなのです。
          皆様、面白いでしょう。単純に5分の1になるように計算して表記すればよかったはずです。或は奥様の言う通りに書いてしまってもよかったのです。もちろん登記できない表現では、長男が遺言書に基づいて単独で登記できませんから、弁護士として失格ですが・・。
          結論として、有名な弁護士さんの言うとおりの登記申請は法務局が受理せず、遺言書に基づく登記はできませんでした。やはり失格です。
 
4   第二は、重要文化財クラス()の骨董品等の所有権の来歴を調査されないまま、奥様の申されるとおりに長男への遺贈として下書きされたようです。これは先に亡くなったご主人の遺産分割協議書等、多少調査されれば事実が違うこともすぐに分かったはずです。
        弁護士さんは、その後も遺言執行人として「奥様の話しを直接聞いた」として長男の弁護をされ続けたため、私は遺言執行人解任申立事件のみ受任しました。家庭裁判所裁判官は「みっともない」と感想をもらされ、私の知らないところで有名弁護士さんに「辞任する」ことで話をつけられ、私は依頼者の説得を頼まれ、事件は終了しました。
       上記事件の依頼者は、優秀な方で資産家ですから、その後の相続については「普通に終わりました」という報告しか受けておりません。つまり弁護士さんの介入がなければ何の問題もない事件だったのです。
予定ページになってしまいました。第二の事件紹介は次回のコラムに譲らざるを得ません。
次回は、「時代小説もどき」の紹介ですね。

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