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忘れられる権利と検索結果の削除(その3 ネット社会)

 

1 サイト管理者に対する検索結果削除要請の頻出
 
(1)   ネット社会における変化のスピードは驚くほど早い。
つい最近まで、ネットのサイト管理者は、表現の自由・国民の知る権利を建前に、誰が見ても不都合と判断できる書き込みの削除など歯牙にもかけない対応を続けてきました。
しかしながら、近時、グーグルやヤフーのネット管理者は、自ら削除基準等を公表せざるを得ない社会状況になってきたことを認めております。もちろんその背景として、ネット社会に対し正面から対応してきた当事務所などの努力も評価してほしいものですが・・。
 
  (2) 裁判所もひどかったですね。唾棄すべき判決をいただいた(?)こともあります。
例えば、卑劣且つ虚偽だらけの事実をネットに書きこんだ者に対して損害賠償請求をするため、書き込んだ者の情報開示を求めてサイト管理者に提訴しましたが、東京地方裁判所女性裁判官は「当該書き込みは名誉毀損ではない」と呆れるような判断をし、書き込んだ者に関する情報開示請求を認めなかったのです。当然、東京高等裁判所で逆転勝訴しましたが、この一事をもってしても、時代の急激な社会的変化に追いつくことは、裁判官といえども大変なのです。
ところで法曹界の内輪話として聞いてほしいのですが、裁判官の世界では、上級審で逆転された裁判官には、今後厳しい裁判官人生が待っているというのが相場です。
 
(3) ネット関係の人権侵犯事件の激増を見るだけでも、上記事実は容易に理解せざるを得ません。
2チャンネル等に書きこまれた中傷(実際に相談を受けると衝撃です)や自分の個人情報、逆に安易な気持ちで書いてしまった投稿をインターネットから消したいという相談(そもそも事件)は本当に多いのです。でも、やっと裁判所も検索結果の削除を認める仮処分命令を出し始めた時代になってきました。でも、まだまだ裁判所の判断基準は厳しい。
 
2 「忘れられる権利」への関心
 
(1)  昨年末、「忘れられる権利」が、こんなに新聞記事になるとは思っておりませんでした。
そもそも今年の始め、一部上場企業の新年会の挨拶でこの権利を紹介しました。近年、海外に進出する企業の法律相談を受ける機会が増え、日本人の思考パターンが海外では通用しないこともある説明のキーワードとして紹介し、激励しました。
 
(2) 当時は、上記会社とは別の上場企業が中国進出に失敗し、相談にのってきた当事務所でも嫌な思いをしただけに、「忘れる文化」と「忘れない執念深い文化」とを比較したい気持ちもありました。
昔流行した映画「君の名は」の一節まで譬えに出しました。「忘却とは忘れ去ることなり。忘れえずして忘却を誓う心の悲しさよ」というものです。
「忘れるとは許すこと、私はこれを日本人の美徳と考えます」というような話をしたと記憶しております。ちょうどこの新年会の数日前に施行された、アメリカ、カリフォルニア州の「消しゴム法」の説明までしたかと思います。
 
(3) もちろんヤフーの削除基準の事例の一つとして「忘れられる権利」に関係する基準も出てまいります。
このような基準を公表するということは、ヤフーは、自らの法的責任(もちろんヤフーに対する損害賠償責任の追及です)についても受けて立つ決意をしたことになります。表現の自由や国民の知る権利を主張し、ネットサイト事業者は情報を機械的に集めているだけという無責任な姿勢はもはや時代遅れなのです。
 
3 忘れられる権利と検索結果の削除要請
 
(1)   紹介する判例の事案は、それ程多くありません。
欧州連合(EU)では裁判所が認め、法整備されて明文化されたなどと言われ、議論が始まりました。
日本では昨年109日、東京地方裁判所が検索結果の一部削除を認める仮処分の決定を出したのが最初となります。本件は、ネット検索すると、当該男性の犯罪への関与を連想させる単語の検索結果が出てくるということで、当該男性の生活が脅かされるという訴えでありました。アメリカ本社のグーグルに対し、どのように法的効果を与えられるのかと、当時疑問に感じたものですが、ネットによりますと、グーグルはその後自発的に削除したようです。
 
(2)   新聞によりますと、ごく最近、千葉地裁松戸支部やさいたま地裁がグーグルに削除の仮処分決定を出したようです。すごいですね。
事例が面白いので新聞報道を纏めてみましょう。松戸支部の事件は、グーグルが提供すする地図サービス「グーグルマップ」に事実無根の口コミが掲載されたというもので、医療機関からの削除申立です。これは忘れられる権利というより誹謗中傷の削除ですね。
さいたま地裁の事例は625日付ですが、「罰金の略式命令という過去の逮捕報道」が表示されるのは人格権の侵害だというものです。些細な事件ですから、知る権利より忘れられる権利の方に軍配は上がるでしょう。正確には分かりませんが、グーグルは前者の事例については異議申立てをしているようです。
 
 4 ネット社会に関するコラムは難しいですね。3回分を纏めて書くのが習慣なのですが、状況がすぐに変わってしまうので無理です。

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