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強制執行と財産開示手続(その4)

カテゴリ : 
強制執行

 

一 財産開示手続の必要性
 
1 苦労の末、勝訴判決を得ても相手方が一円も払わない事例は多い。日本弁護士連合会が過去調査した報告によると、最近3年間に確定判決による債務名義を取得しながらも、債権回収できなかった事例に接した弁護士は79%にもなるとのことです。
これでは「絵に描いた餅」と言わざるを得ません。
前のコラムで自力救済について書きましたが、自力救済をしては駄目です。話し合いすら拒否する債務者に対しては、法的手続である強制執行をして債権回収するしか方法はないのです。
 
 では何に強制執行をすればいいのでしょうか?
信頼関係のない債務者は、貴方からの強制執行を恐れて、預金は別の銀行に移したり、不動産には多額の担保権を偽装するなどして財産隠しをする事例まであります。
でも、そもそも貴方が債務者と人間関係がない場合には、債務者の財産状況など全く分からないですよね。自力救済を否定し、債務者の財産を裁判手続のなかで明らかにできないとすると、強制執行制度は意味のないものになります。
 
3 言葉を変えて言いましょう。
法律で、裁判手続に則って債権を回収しなさいという法治主義を唱えるなら、判決結果を実現する手段をも法は保証しなければなりません。実効性のある執行制度を実現しないと、自力救済の蔓延、力の強い者の勝ちとなります。(自力救済のコラムが生きてきますよね)。
上記事情に配慮して、財産開示の制度が立法され、平成1641日に施行されました。評判通り、使いにくい半端な制度です。しかし、顧問業務を中心に受任しております当事務所では、法制定時より、財産開示制度を利用して依頼者の要望に応えられるよう努力してきました。もちろん費用倒れになる場合には依頼者に説明して行いません。
 
  財産開示制度とは?
 
  私のコラムは若い弁護士の方が多く読まれています。
このように考えますと、民事執行法第19711号と2号の要件の違い、限定説乃至非限定説、そして通常行う2号に基づく探索必要説乃至探索不用説、或いは二重基準論等解説したい論点は多々あります。しかし深入りしても「つまらない解説書」にしかなりません。
故に、当事務所で通常行ってきました同条2号が中心になります。実際にも、財産開示手続は年間1,000件前後にとどまり、その殆んどが同条2号による申立てであるとされています。
 
2  同条1号は「強制執行又は担保権の実行における配当等の手続」が前提とされております。預金の差押えをして、仮に少額の預金があったとしても、配当手続を受ける時間的なロス等を考えますと、当初より意識的に同条2号「知れている財産に対する強制執行を実施しても、申立人が当該金銭債権の完全な弁済を得られないことの疎明があったとき」として申し立てる方が実益に叶うのです。そもそも裁判官は財産の探索を厳しく要求することが多く(探索必要説)、同条2号の要件を満たすことで随分労力や費用を要します。従って、当事務所では最初から強制執行を意識して事件を進行させます。具体的には当初より預金差押のための情報収集を積極的に行うのです。預金差押の失敗事例を裁判所に示し、2号要件を満たすことに注意しております。
 
3 財産開示手続は、裁判所が財産を見つけ出してくれるというような制度になっておりません。しかも裁判官の運用も厳しく、これでは国が裁判を受ける権利を保障し、反面、自力救済を禁じる趣旨に反します。財産開示の制度が憲法的価値を有するという学者もいますが、かかる運用には憲法違反を主張する実務家はいるのでしょうか。
   当事務所では財産開示手続をうまく使って、債務者に和解を納得していただくなど、中途半端な制度を逆利用、つまり裁判所と言う舞台を上手に利用することで、その効果を期待しております。
 
三 どの様に財産開示手続を利用するのか?
 
1 財産開示手続では、事前に当方より質問事項書を提出しますが、これに基づいて裁判官が債務者に対して質問してくれます。この質問事項書の質問事項を工夫しましょう。個人と法人に分けて考察します。
 
2 個人は給料債権が中心でした。就職先、給料の振込先、退職金の有無等聞くことは多いのですが、無職と答える債務者もいます。それを真に受けてはいけません。保険関係の質問で就職していることを明らかにしたこともあります。保証人でない父の財産を聞いて、裁判官に止められ、意識的に裁判官に抵抗しました。しかし、これを契機に債務者は、父を保証人とする和解に納得してくれました。
そもそも債務者は財産目録の提出をしなければなりません。しかし郵貯銀行の預貯金が意外と漏れております。生命保険関係や最初の就職先である旧第一勧銀の給与振込銀行支店を聞くこともコツですね。
 
3 法人に聞くコツもたくさんあります。このような債務者法人は、通常、事務所は賃貸です。質問事項書には保証金、敷金と記載して裁判官或いは貴方が質問する場合に裁判官の理解を得なければなりません。従来の取引銀行は事前に差押えしておりますので、現在の給料、取引先の利用銀行も聞きましょう。この質問の際、債務者会社の対応に頭にきて、債権者は「債権者破産の申立をしたいと言っているが、それでもよいか」と質問をしたら、裁判官に止められました。後日、債権者破産の申立を検討しておりますと連絡したところ、和解になった事例があります。財産開示手続は、法律論の話しにならないのです。

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