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空き家問題と不動産放棄(週刊エコノミスト掲載に当たって)

カテゴリ : 
不動産の放棄

 

一 週刊エコノミストの特集
 
  1    平成26年12月16日号「週刊エコノミスト」に私の文章が掲載されました(40、41頁)。
   週刊エコノミストでは、表紙において、特集の内容を「実家の後始末」と大きく題しております。
そもそも「空き家問題」は、現在、週刊誌等で特集ブームになっており、この号も爆発的に売れたようです。当事務所では、同号の大量買い注文を出しましたが、市中にはないとのことで手に入りませんでした。
 
 2    確かに、いずれの雑誌の特集記事においても「不動産を放棄できるか」については触れないままです。空き家対策を如何に論じようとも、最終的に誰しもが思いつく「余計な不動産は捨ててしまえ」という素朴且つ最終解決の疑問に対して答えていません。空き家のゴミ(家具等の動産類)を、どう「放棄」するかついて詳細に論じているため、余計に中途半端で、読んでいて歯切れが悪いのです
週刊エコノミストは、表紙に「放棄できない実家の所有権」と副題をつけ、根本的な法的問題まで論じているのですから、爆発的に売れる訳です。私を取材して原稿依頼された記者の目の付け所の良さを評価します。
 
 3    私の原稿(40頁)には、副題が付けられ掲載されました。「法制度 不動産の所有権は放棄できない。法の陥穽を埋める対策が急務」と題され、小さく「不動産の所有権放棄を認めないことの弊害が出ている」と記載されております。しかし、この原稿では「不動産の放棄」に関する自分の思考過程については書いておりません。
私の考えでは「弊害」とまでは言えないのです。
本コラムにおいて「弊害」になるのかどうかについて、皆様と一緒に考えたいと思い ます。
 
二 週刊エコノミストの原稿依頼
 
1   週刊エコノミストからの原稿依頼は、事前に電話にて大枠の説明があり、その後、記者にお会いして説明を聞きました。内容は、私がホームページに載せているコラム「不動産は放棄できない」という連載物の話を前提にされ、「不動産の放棄ができないことにより困った事例を書いていただけませんか」との依頼でした。当時「実家の後始末」特集とまでは具体的に教えられていませんでした。
単なる困った事例報告でよいと念押しされ、たった2500字程度の原稿依頼ですから、私も、私の主観的な意見は書けないという前提で書きました。
 
2   その後、私の原稿に加筆・訂正のお願いがありました(当時、題及びその副題はまだありませんでした)。その際、記者から、書きたかった私のコラムに関係した部分については要らないのではと言われました。この原稿依頼があるまで、ネットで「不動産の放棄」と検索すると、私のコラムが第一順位になっていることなど知りませんでした。しかも不動産放棄のコラムは、随分前に書いたものなのに、ネットでは、いまだに正確な情報が書かれていないことなどについても、皆様にお知らせしたかったのですが・・。
でも不動産の放棄ができない事実と事例内容に限った掲載ですから、コラムに触れる部分は削られても仕方がないと諦めました。
 
  3   お会いした記者は優秀な方でしたから、私の思考を推論されたうえで、不動産の放棄ができないことは「弊害」であると編集会議で説明されたのだと勝手に推測します。このような考え方も当然に成立するでしょうから。
          記事本文が、私のお願いの内容に訂正されたことについては、大変感謝申し上げております。しかし「不動産放棄」ができないという事実が、「空き家」問題の「弊害」になっているということについては、私の考え方からは馴染みません。
 
三 本論−「不動産放棄」ができないことは法の欠陥か?
 
 1     不動産の放棄を認めますと、所有者のない不動産が生じます。民法第239条2項には「所有者のない不動産は国庫に帰属する」と規定されていますので国が所有者となり、国が不動産を管理することになります。不動産の放棄が自由にできるなら「自由に放棄して国に皺寄せをしたらいい」という結論になるのです。この立場では、不良資産を国が管理することになり、重大な問題に発展します。管理費用も国が負担し、それを一般国民に転嫁することになります。さらに重大問題は不測の責任です。これには刑事責任もありますが、これらの責任を全て国に転嫁する結論となります。
       不動産放棄を認めた場合、放棄する者の所有者責任はどうなるのでしょうか?「自己責任のネグレクト」で許されるのでしょうか。こちらの方が逆に「弊害」です。私はこんな勝手な社会は嫌いです。
 
2   現在の空き家問題は、今後の地方自治体の姿勢を見ることも大切だと考えております。条例に関しては、従前の私のコラムでも十分に展開済みですが、その猛烈な対応ぶりには驚いております。
私の結論は「放棄できないという事実だけを知らせればよい。そして、その認識に基づいて、早期から対策を立てるべきである」というものです。そもそも空き家問題は、上記事実を知らないことから自己管理責任が果たされず、放置されたままになっているというのが実態ではないでしょうか。
しかしながら、私は、破産者や生活保護受給者が不動産を放棄できるようにするという法律の改正は必要だと考えております。
  どちらの立場をとられても立論はできます。どうか不動産放棄のコラム6回分及び週刊エコノミストの私の記事をお読みください。
 
四  民法学研究者の方へ!
 
週刊エコノミストでは、新版注釈民法を引用して民法学の大家と言われる学者の見解を紹介し、法の姿勢を論述しました。
そこで示した参考文献、著者匿名「土地を放棄したい人」ジュリスト5[昭和27年]の著者について、鈴木禄弥教授は、匿名の著者とは我妻教授だというのです。「フランス法における不動産委棄の制度」民商法雑誌27巻6[昭和27年]以下参照)」にそのような記述が出てくるのです。偉い学者はさすがに凄い。当時の民法学における論争の世界を覗き見したいとまで思いました。小説になりますものね。
以上は「不動産の放棄」について研究される方には、必読文献になりますが、この話を、我が事務所の秀才弁護士である田中先生に話したところ、目を輝かせてくれました。

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