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強制執行(その2 動産売買の先取特権)

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強制執行

 

一 高任和夫さんの経済小説
 
1 前回紹介した高任さんは、三井物産退職後、作家としてデビューした際の処女作として「商社審査部25時」を出されたそうです。当初は、?商事法務出版のNBLという法律雑誌に連載物として書かれたとのことです。法律専門家を相手にする本なのですから、こんな難しい案件が複数、てんこ盛り状態になっているのも当然なのでしょう。私が本書に関心をもったのも、こんな状態で受任し続けたら、誰でもパンクするぞと思い、実体験に基づく迫力もあって強く印象に残ったのでしょうね。
 
2 本書の前半部分は、商社マンである課長が、モーターを販売した取引先の破綻を聞きつけ、売掛金の回収のために奮闘する様子を展開しております。
     特筆すべきは、破綻先にあるモーターの動産売買先取特権を法律論として展開せず、更に破綻先から転売された先にあるモーターに対する動産売買先取特権を論じるところに味噌があるのです。この場合、破綻先が有する先取特権を物上代位して行使するという難しい法律構成が必要になってきます。
実務においては、転売先に当該モーターが存在すること、そして破綻先の有する先取特権の存在を証明しなければ法律構成ができません。誰が想像しても、金を払わない転売先が協力しないだろうと分かります。当然、破綻先も協力をしないでしょうから、裁判所の納得の得られる証拠集めができないということになります。
 
3 本書の後半は、破綻先が破産ではなく会社更生法を利用する方針とされたことにより、会社更生の仕組みと資金回収の兼ね合いに揺れる駆け引き、そして別途船舶に関する紛争をテーマとし、その双方の糸が繋がっていくという多少強引な話に展開していきます。
感心したところは、会社更生法の再生計画案の作成に関して、主人公は、抵抗する裁判官に対し、第191条を示して新会社の設立による清算型事業譲渡を主張し徹底的にねじ伏せるのです。本書出版後、第191条は改正され、小説の内容が第185条となりました。裁判官に対する小説の指摘事項が、その儘、不明点を明らかにするという条文変更となって実現したのです。出版されて10年後に読んだ私は「法律オタク」そのものなのですから、震えない訳がありません。
 
  動産売買先取特権の物上代位
 
  私が経験した「動産売買先取特権物上代位」の事例は、「商社審査部25時」と同じような状況下でなされました。前項で説明しましたとおり、証拠集めに壁のある事例ですから、同様の場面でしか利用できないのかもしれません。このような趣旨でも、上記小説は半端な経済小説でないことが分かります。
以前、当欄において「昔の破産事件は乱暴だった」という題をつけて「整理屋」介入事件のコラムを書きました。今回紹介する事案も、当時の整理屋に怒った上場企業の破産申立によって破産管財人の私が直面することになった事案です。前回は鞄屋さんでしたが、今回はワイシャツ屋さんであります。
 
2 有名な繊維メーカーは、長年月、ワイシャツ屋さんに生地を卸し取引してきました。ところがワイシャツ屋さんが不景気のため高金利の街金からお金を借りました。街金は整理屋としてワイシャツ屋さんに乗り込み、製品であるワイシャツの叩き売り、生地の横流しを始めたのです。繊維メーカーとしては売掛金の回収ができないだけでなく、せっかく育て上げたワイシャツ屋さんが食いつぶされていく状況を目の当たりにすることになりました。
結論として、繊維メーカーは、弁護士に相談をして債権者破産の申立てをしました。さらに私が破産管財人に任命されるとすぐ、生地の転売先であるワイシャツ屋さんの協力企業に対する売掛金についても、動産売買先取特権の物上代位権を行使し、当該生地に対しては先取特権があると言ってきたのです。
 
3 私は怒りました。裁判所に援助を頼んだにもかかわらず、破産管財人の上前をはねることに頭にきたのです。そもそも全てを破産管財人に任せると決めたのならその全てを私に任せるべきではないでしょうか。繊維メーカーは、違法は許さないという姿勢に徹するべきです。
私は、繊維メーカーが担保に取っていた不動産の別除権について破産債権から担保物未回収金つまり予定不足額が証明されていないとして、債権者集会における議決権行使を認めない旨、宣告しました。
   結局、繊維メーカーは自ら申立てた破産事件で債権者集会の責任もあり、協力企業に対する売掛金は私が回収することになりました。
 
三 当事件の後始末
 
1 当時の債権者集会はよく荒れました。
この債権者集会も荒れ、裁判所の警備員の出動を得ました。債権者集会当日、大量の資料を運ぶ必要もあり、事務局が付き添ってくれましたが、反対側の法廷で開廷されていた当時の有名事件「オウム真理教殺人事件」の法廷に警備がつかないのに、何故こちらにつくのかと不思議そうに感想を述べられたことが印象的でした。
 
2 在庫として残っていたワイシャツの販売も大変でした。売りに出してもばかばかしいほど安い値段しかつかなかったため、自分で大量に購入し、知り合いに配ったりしました。実は、このコラムを書こうと思い、当時購入せざるを得なかった「モダンなワイシャツ」を着て、出勤しました。首回りのきつさに、その年月が感じられます。

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