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自救行為或いは自力行為(その4 小説のテーマ)

 

一 小説の上手な組み立て方―自力救済を題材にする
 
1 前回紹介した本
(1) 「弁護士が悩む家族に関する法律相談」という本で書いた事例3「離婚に伴う婚姻費用・養育費・財産分与」の項で、村上春樹著「1Q84」を読んで訂正するべき内容も出てきたと書きました。
私の書いた部分、46ページの記載です。「そもそも控訴審は憲法20条信仰の自由を巡る論争でした。憲法論争に負けたと感じた私には大変な衝撃でした。しかしA女は「親方(意味不明ですが)の仰ることですから」と淡々と受け入れた姿勢に対し、私は敗訴判決以上に衝撃を受けたことを今でも鮮明に覚えています」というものです。
「親方」ではありませんでした。「1Q84」を読んで分かったのですが「親方」は「お方様」だったのです。「1Q84」には『さきがけ』と言う新興宗教団体を登場させていますが、私の依頼者は「お方様」と言う根源的な出会いを経て、結婚以上の幸せを勝ち取られたのだと今では思います。私は彼女からいただいた手縫いのガウンを今でも愛用しております。離婚後、布教活動をされる幸せそうなご様子には、宗教を信じないと豪語する私ですら羨ましかったものです。
ところで余計な話で申し訳ないが、私は控訴審から受任して勝訴に導いた経験が極めて多い弁護士です。つい先週も東京地裁判決を高裁でひっくり返し、最高裁で確定したばかりです。
この事実は私を追っかけしてくれていたある有名国立大学教授も認めておられる事実です。そもそも「粘り」は才能であると言う標語を若手弁護士に語るぐらいですから、敗訴の経験は極めて少ないことをお断りしておきます(「子供みたい」と言われても主張します)。
 
(2) 驚きましたが、「1Q84」には、前回書きましたドメスティックバイオレンス事件(家庭内暴力事件、即ちDV事件)の自力救済がテーマの一つになっておりました。
 DV事件の経験のある老婦人が、DVで苦しめられている女性を救うためにDVをする男性をこの世から抹殺してしまうという展開がされております。主人公の女性は老婦人から殺人を請け負うのですが、まさしく自力救済が問題となるストーリー作りでありました。
 自力救済と言う同様なテーマが小説になっていたことで「1Q84」を紹介した訳ですが、6巻もあって読みにくいですね。新興宗教独特の思考パターンの展開もあり、村上春樹の世界は、ますます自己没入型という印象を受けました。しかし特別な味があります。
 
2 葉真中顕著「ロストケア」という小説
(1) この小説も現在の高齢化社会をとらえる小説としては、紹介に値するものと確信しております。本小説も自力救済を題材にとっている小説で、老人を介護する家族を守ることを目的にして、その介護を受ける老人を43人も殺してしまうと言うまさしく壮絶な本なのです。
 
(2) 口頭では私の知合いの何人かにこの本を紹介しました。これからの超高齢化社会、介護の在り方等種々考えさせられる本でありました。私の事務所の図書箱にも常置しております。
 
  作家宮部みゆき
(1)  私の父は、93歳で亡くなる前、自分の机の上に宮部みゆき著『火車』という本を開いたままにして旅立ちました。何時か、何かの形でこの話を残しておきたいと思っておりました。
 
(2) 『火車』は消費者金融の世界をテーマにしております。破産するべき一人の女性が他の女性になりすますなどして生き抜く姿を追うもので、法に通暁した話が満載された小説です。父は、こんな難しい話を読んでいるのかと驚きました。彼女の作品は、社会のひずみを、その時の社会的テーマで切り取る手法で構成されるものが多いです。
消費者金融の取立て事例が判例として検討され、民事判例索引集では民法709条の自力救済の項で出てくるのですから、まんざら今回のテーマと無関係ではありません。
 
(3) 宮部みゆきの本はあらかた読んでおりますが、自力救済に関係する話としては、直ぐに「理由」が出てきます。この本の主人公は、いわゆる占有屋(通常、強制競売されそうな建物に入り込んで、立退き料等を請求する危ない人たちを我々はそう呼びます)の話しでした。この占有屋を裁判でなく実力で追い出せば自力救済の話になることは賃貸借の項で既に説明済みです。
 
(4) すごい本だと思ったものとして、昨年12月に発刊された新本「ペテロの葬列」があります。この本は豊田商事の話を基本にして書かれております。この小説の最後に、参考資料として「豊田商事事件とは何だったのか 破産管財人調査報告書記録」が上がっているので驚きました。宮部みゆきは裁判所で記録の閲覧謄写までして破産資料を入手されているのだろうと驚きを感じております。
 
二 面白い小説には自力救済を題材にしたものが多い
 
  小説の組み立てに自力救済を題材にしたものが何と多いことかと驚きませんか?でも私には、自力救済の切羽詰まった程度の話しでは感動できません。人の本質に迫らないとだめですね。
前述の「ペテロの葬列」は、《事件もの》の枠を超えております。人間の本質を追及しています。最後の落ちが不満だという意見には私も賛成ですが・・。
  我々の生活は前の項目で如何に小説の材料が多いかをお教えしました。昨年は、若い先生と大沢在昌の著書で小説の書き方を読み合いましたが、弁護士より小説家になるほうが圧倒的に大変だと思いました。

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