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不動産格差が生じる原因と我々の文化度チェック(その6)

カテゴリ : 
不動産の放棄

 

一 劣悪不動産は減らない
 
 劣悪不動産が問題になる背景として容易に考え付くその一つは、高齢化社会と都市一極集中があるでしょう。65歳以上の老人が4人に一人という我が国の人口構成も皆さまご存知の話です。最近では、限界集落は都心部にまで及び始めたという新聞記事も出ております。新宿区にある戸山団地が事例として挙げられることもあります。都心一等地ですが、不思議な光景だという人もいます。
そもそも日本に存在する現在の家屋の数は、日本の世帯家族数以上に多く、余っている住宅ストックは所帯数より16%多いといわれております。劣悪不動産は増加せざるを得ないです。
 
  土地に対する取り返しのつかない汚染等も劣悪不動産と認定される時代になりました。人の健康に害がある化学合成物や薬品等で利用困難な土地も出ております。
「産業廃棄物に関する条例」等も現在はポピュラーな話になりました。ほんの少し前のことですが、中山間地域の山道を車で走ると、道端や崖に、やたらとごみや家電製品が捨てられていたのは見ておられますね?このような通常の光景も、最近はだいぶ変わってきたように思います。地方公共団体の取り組みが効果的であった事例ですし、皆様の意識がそれを許さない文化度に成熟しているのです。
これは中国のブラックユーモアです。「北京では窓を開ければただでタバコが吸える(PM2.5ですね)、上海では蛇口をひねれば豚のスープが飲める(川に豚の死骸6000匹が流れる)」という中国の文化度と比較すれば、言わずもがなの話です。
 
3 似たような話のとどめは、東北大震災による福島第一原子力発電所事故でしょう。これこそ土地を持っていても利用できない典型であります。災害復興まちづくり支援機構の議長まで務めさせていただいたので、話せばきりがありません。
その一部を紹介します。今回のコラムは不動産の話なので、土地の面積が変わってしまったという話です。この話は阪神淡路大震災当時に聞いており不思議でした。新潟県中越沖地震の際にも、地震発生直後、確か越後湯沢からバスに乗り換えて震災現場に入りました。ここでも土地の面積が変わってしまったという話を聞いております。土地は永久の財産のように思っていましたし、前のコラムでもそんなニュアンスで書いていますが、それも事実に反するのですね。
今回の東北大震災において建物の耐震基準の程度について、今までは震度5を超えた地震で工作物が壊れ、それで他者に損害を与えたとしても損害賠償責任はないなどと言っておりました。しかし最近では震度6を基準にするように、などと言っております。
災害に厳しい対応を求められる皆さまの認識が、劣悪不動産の基準を変えるのです。裁判所の判例だって同じですよ。
 
   しかしながら自分を振り返ってみますと、劣悪不動産が減少しない原因は、なかなか変わらない自らの意識(変わりそうで変化していない自らの不動産信仰)にもあると思います。幼いころからの刷り込み、つまり不動産は儲かるという認識はすさまじいのです。
    あなただって同じだと思いますよ。例えば、あなたが限界集落に不動産を持っていたとして、都市に生活場所を移すにしても直ちに誰かに安く譲るという発想が出ないのではないですか?そのうち、もてあまして建物としても機能しないまでになってしまいます。この時、取り壊して空き地にしてしまえばいいものの、土地の固定資産税が跳ね上がると聞くと撤去することにも躊躇するでしょうね。しかし、この税制については、議論はありますが変わらないと思います。住居用なら固定資産税を安くするという政策は大切でしょうから、この税制を前提にして考えましょう。
 
       ところで今回、住まない建物の取り壊しに対して、国から100万円程度補助を出す立法がされると聞いております(この原稿がホームページに載るのは半年後ですから、そのつもりでお読みください)。
政策が一歩前に出ることになり、劣悪不動産を残さない政策も取られているということです。具体的な話が必要な方は、税理士の先生に聞いてみてください。

 

 二 不動産に対する我々の意識の変化
 
  しかし不動産に格差があり、どうしようもないものもあるという認識は、根本的には、不動産に対する価値観が変わったという前提があります。つまり、我々が生活するこの社会の変化によって、我々の意識にも変化が起きざるをえなかった、ということが真実でしょうか。
突き詰めて考えれば、不動産の所有者責任が当然のように認識される世の中になったということも大きく影響していると思います。
瑕疵ある不動産による被害が発生した場合には、民事の損害賠償だけでなく、刑事責任もあるという意識の変化です。「不動産持ちの方は金持ち」という意識も変わり、或いは、このような方が危険不動産を所有されていても、厳しく責任追及ができうる(逆にいえば「される」)文化の進展によって私も変わってきたのだと考えております。
結論は、我々の文化度・価値観の変化によって「不動産神話の崩壊」に繋がったのです。
 
   今後の研究で民法制定時に不動産の放棄がどのように議論されたのかが明らかになる時代が来るかもしれません。そしてその際、不動産の放棄については触れないでおこうという、当時の民法制定時の理由が明らかになるかもしれません。

 

三 「不動産格差」のコラムを終わるにあたっての感想
 
 最初のコラムを思い出して下さい。アメリカの格差社会と私たち弁護士の格差の増大を述べましたが、不動産における格差の進行も似ていると思いませんか。我が国は、50年もしないうちに人口が3分の1減少し、揺るぎなき?老人国家になります。あらゆる場面において、益々格差が広がるとしか予想できません。これらの格差の発生・増大は、我々の生活、社会秩序そのものを破壊することは間違いないのです。
このような社会状況の中で、不動産の格差増大を防止するには、その重要な一つの対策として「地域社会の復権」があると思います。
不動産の格差というような限定された議論でなく、我が国がアメリカのような格差社会(アメリカの貧困)にならないためには、地域社会の復権しかないという政治家や学者の方の意見も聞くようになりました。また「地域主権国家」を目指すしかないという難しい論調の学者もおられます。不動産格差社会への対策と結論が似ていますので、その提案の一つだけでも紹介しておきましょう。
「グローバリズムと老人国家に変貌する明日の我が国において、その夢を託すには『開かれた小国化した地域社会のイメージ』にある」という趣旨のものです。
このような内容を書いた本等の紹介をするのは、弁護士のコラムとして業務から拡散しますので、ここらへんで止めます。
業界紙のニュースに、再生不動産を主要な業務とする会社も出始めたと書いてありました。村おこし、町おこしなどの地方復活の頑張りを、このような会社とリンクさせるとか、その他あらゆることを試して、「地域社会の復権」をなしてほしいものです。

 

今回のコラムは、一度に6回分を書きましたが、分割して掲載します。

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