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劣悪不動産を抱え込まないための方策(その5)

カテゴリ : 
不動産の放棄

 

一 劣悪不動産所有者からの相談に対するその対策
 
 1  相談者の方は、先ず劣悪不動産を放棄したいということから始められます。
      当然、既にご承知のとおり、不動産の放棄はできないという法律の話をしますが、なかなか納得されないのですね。
 
2 困り果てられた相談者は、次に、国や地方公共団体に寄付したいと相談をされることが多いです。懸案不動産が、道路部分などであれば建築基準法42条などで検討しましょうとも言いますが、そもそも劣悪不動産ですから道路などに用立てられるような物件ではないのです。
ところで地方公共団体では、昔は不動産の寄付を割合受け付けてくれたように思います。最近は否定的な話ばかりです。確かに、劣悪な不動産で管理費用がかかるだけであれば、地方公共団体の財政を圧迫してしまいます。最近では、地方公共団体でも寄付基準を作成しているところが多いと思います。換価できる等、何か利用価値のある不動産でなければ寄付を受け付けてくれません。
NPO法人等に対する寄付は話にも出てきませんね。これは税金面や諸費用を心配され、既に検討済みだからではないでしょうか。
とにかく「劣悪不動産の所在する地方公共団体に行って聞いてみてください」と申し上げることにしております。
 
  整理回収機構(いわゆるRCC)で行っていたことを紹介しましょう。
整理回収機構では、破綻した金融機関の劣悪不動産を多数所有していたことは既にお話ししました。何とか処分しないと整理回収機構に終わりがやってきません。預金保険機構の子会社ですから、国の業務を代行している訳です。とにかく処分して所有者でなくならねばなりません。
あまり大きな声で言ってはいけない部類に属することかもしれませんが、結論としては、多くの不動産を纏めて、一括売却の手続をするしかないということになりました。
確かに、劣悪不動産を有する会社からの相談で、一括購入したことから発生した相談もありました。メリットのある不動産と劣悪不動産を一緒に購入したが、残った劣悪不動産をどう処理するのかで頭を痛めているという相談でした。整理回収機構と同じ処理をしている会社も多いことが分かります。
 
二 顧問会社の社長が実践されていたこと
 
1 相続財産制度の利用に関する珍しい相談も紹介します。
この方は私が弁護士になったと同時に顧問契約をしていただいた30年来の私の大切な方であります。あまりプライバシーをお話ししたくもないのですが、社長さんは、資産家で、不動産の評価には大変厳しい鑑識眼を有しておられます。当然に多くの不動産もお持ちです。
しかし、不動産の放棄ができないことを知られたときには、大変驚いておられました。社長は、故郷から無一文で大阪に出てこられ、大成功をおさめられ、チェーン店を何店舗も持つ成功者であります。ご両親は、山深き田舎に土地を持っておられましたが、劣悪不動産で苦労されたようです。
ちょうどお母さんが亡くなられ、この話になりました。社長は、劣悪不動産を子孫に残す必要はないので、今回相続はせず、残る不動産については相続財産管理人を選任するとまで言われました。何故ですかと聞き返した私は、まだ不動産神話を信用する古い体質があるのでしょうか。私は「思い出はないのですか?」とか、質問する自分に疑問を感じつつ、相談に乗った記憶があります。
 
2 この社長さんには、まだ驚いたことがあります
雑草除去条例も制定されていない地方で、趣味を活かす別荘をお持ちでした。その趣味は省きますが、とにかく成長すさまじい雑草には大変悩まされておられたそうです。近所に第三者がお住まいの家もあったようで、毎年ひどい伸びの雑草対策に苦労されたようです。
いろいろ悩やまれたのでしょう。社長さんは、管理人を置くより手数がかからないとして、この土地に鉄板を敷きつめ雑草が生えないようにしたというのです。当然、風で飛ばないかなり重い鉄板を置き、その上に鉄板と分からない工夫をしているというのです。
前回紹介した地方公共団体の雑草除去条例が頭をよぎりました。しかし、一度行って見てみたいとまでは思いませんでした。
 
三 原野商法は劣悪不動産入手の典型
 
 1 今回は自分の反省事例を紹介しましょう。
      私が、破産管財人として選任され始めた頃の昔の話ですので、20年以上も前の事例です。
          破産管財人として、破産会社の破産整理と同社社長の財産を換価していたのですが、担保のついていない北海道帯広の山林が残りました。帯広の土地を買ってくれるような人はいないのかと社長に聞くと「その土地はリゾート開発されるということで購入したが、今回の破産で不義理していて買ってくれそうな人はいない」という話でした。私は何でも調べるのが基本だと思う弁護士ですから、厚かましく帯広の司法書士の先生にまで電話を入れて聞きまくりました。その話では「そこは原野商法の土地です。現地にいらっしゃると言ってもヒグマしか生活していませんよ。その土地は一坪何円の評価が出ればいいほうでしょう」というのです。担保物でないので強制競売もありません。
 
   驚きましたね。女性の裁判官は何とか処分しろと言い続けるのです。不動産を残したままでは終わりにできないというのです。勿論反論はしました。「原野商法の被害者を増やせとおっしゃるのですか?」、「原野商法の片棒を担げとおっしゃるのですか?」と。
       破産管財人において換価処分できなかった不動産は、「財団から放棄」して債務者に所有権を戻してしまうのですが、裁判官はそれにも納得しないというのです。当時は原野商法の第二次被害も言われていない時代だったのです。私は最後の手段として、本当に親しい当事務所お抱えの不動産屋さんに、泣いて買っていただきました。
今にしてみると反省しきりですが、当時は破産者の財産(特に不動産)を財団から放棄することが許されない時代背景もあったのです。
 
3 最近、原野商法の被害者に再度電話がかかってくるようになったと聞いております。今頃、詐欺電話があるなんて不思議ですが、一度騙された方は再度騙されるというのがその業界の常識なのです。買い取ってくださった不動産屋さんに申し訳ないという気持ちで一杯です。
 
  本項でのまとめ
     これまで話してきましたとおり、劣悪不動産を処分する良い方法はありません。原野商法の被害者にならないよう警告することはできますが、遺産の中に劣悪不動産があれば問題が違います。その場合には、相続放棄を検討するしか方法はないでしょうね。遺産の価格を厳密に計算して不動産の価格と管理費用等を比較し、損得を判断するしかないでしょう。それでも、ご両親の思い出の不動産を放棄することなどできないことも多いでしょうね。
困りました。
不動産の放棄に関する抜本的な法律制定もないと思います。国が、劣悪不動産を国の費用で管理しないといけないような法律制度は容認されないと判断できるからです。条例の時のコラムと矛盾しますね。


 

 

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