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退職後の競業避止義務特約は有効か?(その4 不正競争・情報漏洩)

カテゴリ : 
情報管理・不正競争

 

1 会社の利益と職業選択の自由のせめぎあい
(1)安倍政権が安定し、今後の政治課題として雇用改革が論点の一つになってくると考えられています。終身雇用制が崩れ、雇用が流動化していくことになるのでしょうか。
   会社としては「問題社員」に辞めてもらいやすくなることは好ましいでしょうが、優秀な社員まで退社してしまうのは考え物でしょう。優秀な社員であればあるほど退社後は今までのキャリアを生かして同じ業種で一旗あげたいと考えるはずです。
   今後、退職後の競業避止義務特約を締結するかどうか十分な検討を必要とする例が増えてくると思われます。 
(2)もっとも、みなさんご存知の通り、退職後の社員には職業選択の自由があります。職業選択の自由は憲法に規定されている人権です。
   そのため、会社と元社員が退職後の競業避止義務特約を締結したとしても簡単に有効になるわけではありません。
 
2 裁判例の考え方
(1)不正競争防止法で規定されている範囲内のことを定めたにすぎない場合(例えば「営業秘密」の持ち出し)の特約は原則として有効になると考えられます。(不正競争防止法の具体例については以前より当コラムで紹介しておりますので、ちらをご覧ください)
   問題は、不正競争防止法で定める範囲を超えて新たに競業避止義務を作り出してしまったような場合です。
   このような場合、裁判例の考え方からすれば、使用者の確保しようとする利益と労働者が受ける不利益とを比較して、制限の範囲が合理的だと判断される限度でしか有効だと認められません。
   具体的には、退職前の地位と役職(地位が高いか)、競業行為の態様(地位を利用しているか)、競業が禁止される職種・業種の範囲、期間、地域が限定されているか、代償措置の有無などを基準にして判断されることになります。 
(2)会社の方に、期間や地域が限定されている必要があります、というお話をすると、では何年なら良いのか、と聞かれることがあります。
   しかし、競業避止義務を退職後2年に限定している例について、長いと判断した裁判例も短いと判断した裁判例もあります。
   もちろん、短ければ短いほど特約の有効性は高まりやすくなることになりますが、裁判例はそれだけで判断しているわけではないということです。 
(3)退職後の競業避止義務を有効と判断した主な裁判例を挙げると次の通りです。
   東京地裁平成19年4月24日判決(ヤマダ電機事件)は、元従業員が全社的な営 業方針、経営戦略等を知ることができる地位にいたことなどを重視していると一般的に考えられています(期間は1年間)。
   東京地裁平成16年9月22日決定(ト―レラザールコミュニケーションズ事件)は、代表者に次ぐ高額給与を支給されていたことや会社のノウハウが利用されてしまえば価格競争を展開することで取引を奪うことが容易であることなどを判示しています(期間は2年間)
   東京地裁平成14年8月30日判決(ダイオーズサービシーズ事件)は、市場支配するためには相応の費用を要することなどを判示しています(退職後の秘密保持義務を前提として、期間は2年間、区域は隣接都道府県、職種はマット・モップレンタル類のレンタル事業、態様は顧客収奪行為に限定)。
   東京高裁平成12年7月12日判決(関東ライティング事件)は、長時間経費をかけて営業して始めて利益を得られる業態であることなどを判断の要素としています(期間は6ヶ月、対象は得意先に限定)。 
(4)以上の裁判例からわかることは、裁判所は決して2年間なら無効だが1年間なら有効というように画一的に判断しているわけではなく、会社が当該競業避止義務特約を必要とする理由と元従業員の不利益を比較考量して判断しているということです。
 
3 会社の対策
(1)会社の対策で重要なこととして、まずは、退社時に有効な競業避止義務特約にするよう努力することです。
   何も考えず単に競業避止義務を負わせたとしても無効になることは火を見るよりも明らかです。
   後で使えるものにするためにも実態に合わせて作成する必要があります。 
(2)仮に裁判をせざるを得ないような事情になったときは、当該競業避止義務特約が必要な理由をしっかりと立証していくことです。2年で短いから有効です、などという主張だけしていてもあまり意味がないと思います。
   特約の必要性と比較して元従業員の不利益がそれほど大したものではないと立証できるかどうかがポイントです。
 
    (今回の記事は岡本直也弁護士が担当しております。)

 

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