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昔の破産事件は乱暴だった

カテゴリ : 
破産事件

 

1 破産会社と整理屋さん
  バブル崩壊当時の破産は深刻なものが多かった。
  東京地方裁判所裁判官から、浅草のかばん屋さんから破産の申立てがあったが「整理屋」が入っているようですと教えられました。私は破産管財人に選任されると同時に社長を伴って会社に行きました。通常は破産管財人選任許可が出る前から行動しておりますが、整理屋さんの実態が明らかであるため決定書の写しが必要だと判断しました。
    会社に乗り込んだ当時は冬の本当に寒い時期でした。石油ストーブだけの寒い中で、ワイシャツだけの中年男がチンピラ風の男性達を連れて事務所に座っておりました。その方に当方の事情を説明して、これまでの経緯をお聞きしたところ「債権者が勝手に商品を持って行ってしまうので、頼まれて自分達が会社を守ってやっているんだけど、社長が無責任に行方不明になって」というような説明をしておりました。確かにいくら寒くても薄いワイシャツからは刺青がはっきり見えており、一見しなくても「怖い方々」だと分かりました(効果歴然というのですね)。社長は「頼んだ訳ではない。この方々は最初債権者の代理人だから金を払えと言ってきた。払えない状況なら商品で払ってもらうしかないと言われて、いつの間にか商品管理までするようになった」との返答でした。
確かに、確認書を交わそうとしてハンコを押す赤い印肉を探したところ全く見当たらず、よく見てみますと文房具らしいものが殆んどなくなっているのが分かりました。火事場泥棒にあったとはこのような状況だろうと思いました。「普通のおじさんが(債権者)が持ち帰った」とその「筋の方々」の話を聞くにつれ、人間の卑しさを見たように思いました。しかしながら、自分の債権を保全すると言って全商品の売掛金を自分のものにするというこの「筋の方々」はもっとひどい。犯罪にあたりますと説明しましたが、これを「釈迦に説法」というのでしょうね。
この金銭の回収も困難を極めました。ここで私の自慢はその「筋の方々」が警察に解散届を出してくれたことです(もっともその方々は、もっとやむに已まれぬ事情があって、それを利用されただけだと当方も分かっていますが)。
 
2 荒れた債権者集会
  当時、東京地方裁判所が開廷する債権者集会そのものが荒れた事件もありました。
  当日は、街宣車が裁判所の前を行ったり来たりしておりましたので、裁判官も意識はしていたのでしょう。しかし開廷が15分程度遅れたのです。事情は分かりませんが、本当に間が悪いとはこのことだと思いました。始まった法廷では、先ず裁判官が遅刻したことについて謝罪をするようにという不規則発言から始まりました。当時は、債権者集会も通常の法廷で開かれておりましたが、裁判官も新たな廷吏を動員する一歩手前まで事態が混乱しました。でも裁判官が遅刻をしたのは事実であり、その点については私も弁護の必要を認めませんでした。
   荒れるに荒れたその日は、二回目の債権者集会が開かれる日程だけを決めて終わりましたが、法廷はその筋の方々が殆んどでした(多分全員のように見えました。債権者の確認もできなかったのです)。中心で発言される債権者は当時右翼的な大学で知られる大学教授が代理人で出席されていると聞いてびっくりしました。世も末だと嘆きました。
   でも最近は、こんな映画や小説のような話は本当になくなりました。破産制度が定着し、皆様も破産慣れしたのです。
 
3 会社社長の深刻度
  当時は、筋悪の債権者に社長が拉致されたという話もよくありました。拉致した会社は、ちゃんとした上場会社で馬鹿馬鹿しくなったこともあります。その会社の支店長に電話して、「警察行かせるから待ってろ」と怒鳴って本当に即時解放させた事件もありました。破産される社長さんも破産になると抜け殻のようになって、自宅にもどこにも行く場がなく呆然とされておりますので、会社と同様私の事務所に出勤してもらい座っていてもらう処置をした社長も多数おられました。今はこんな方は殆んどおられません。
   我が国では、通常、社長個人も連帯保証人になっており会社と同時に破産申立をしますが、免責の裁判が引き続き行われます。かっては厳格に一人ひとり法廷で証言をして免責審査されるのが常でした。現在は破産の責任を感じる暇もありません。免責手続きもすこぶる簡単で、寧ろこんなことでいいのかと裁判所の姿勢に疑問を持つほどであります。
築地の仲卸の事件で、給料も会社経営のために貸付けていた従業員が債権者集会で「社長、頼むから隅田川に飛び込んでください」などと叫ぶ事件も今は見ません。この社員の方は、築地の業務が終わる午後3時頃になると毎日事務所に抗議の電話をしてきましたが、私と意気投合して、3回続いた債権者集会で、他の金融機関の方の質問に対して「そんなありえないことを聞くな」と私を庇って?くれるほどになりました。
 
4 時代は確実に変わった。
  免責には分割弁済が必要な時期もありました。若い弁護士の諸君には驚きと思います
 が、1年程、払える金額を決めて当該分割金を支払わないと免責されない時代もありまし
 た。破産申立前、債権者説明会を開くのも通常弁護士の仕事でした。灰皿などは飛んで来
 るので置かないようにしようなどと打ち合わせをしたのが信じられません。現在は民事再生
 のような場合以外説明することもなくなってしまったのです。
  かって、破産は当事者である債務者の責任か?などと論じられることが多々ありました
 が、現在はあまりないですよね。

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