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「アイヌ民族の権利の保障」
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1. 私達弁護士の強制加入団体である日本弁護士連合会「8月号会報」を見て驚きました。
今月(9月)29、30日、旭川市で開催される第64回人権擁護大会において、決議される決議案の一つとして「アイヌ民族の権利の保障を求める決議案」が掲載されていたからです。
私は、昔から北海道に旅行する都度、アイヌ民族の展示物を見て回っておりました。釧路や帯広に行った際には、何とか日高地方に行って、アイヌの博物館等(アイヌ文化伝承地)を見て回れないかと検討したほどです。2006年の釧路市で行われた人権擁護大会には妻と出席し、種々検討したのですが、予定が取れませんでした。
2. アイヌ文化の保護に関する事例として、私にとって一番印象が深いものは、1997年の「二風谷ダム建設差し止め訴訟」判決です。
この訴訟は、アイヌ民族の聖地とされる「二風谷(にぶたに)地区」にダムが建設されることになり、紛争が継続した結果、提起されたものです。アイヌの人々の生活の場が奪われることに対して、北海道開発局も補償金の支払等種々努力をしたのですが、結論として、土地収用法に基づく強制収用となりました。このことから、札幌地裁にダム建設差し止めの行政訴訟が提起されたのです。
札幌地裁は、工事のための土地取得等は、アイヌ民族の文化保護などをなおざりにして収用を行ったことになり、土地収用法第20条3号の裁量権を逸脱しているとして違法性を認めました。しかしながら、土地収用裁決を取り消さなかったという珍しい判決なのです。
認定と逆の結論になるとは、当時予想できませんでした。
3. 逆の結論を導き出せることになった行政事件訴訟法第31条第1項を見てみましょう。長いですが、本当に面白い条文なのです。
「取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は採決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない。」
この判決の主文においても、行政側の処分又は裁決が違法であると認めておきながら(アイヌの方に旗をあげながら)、土地収用を是認するなど残念でなりません。
4. では最初に戻り、今月末、第64回人権擁護大会において、提議される「アイヌ民族の権利の保障を求める決議案」の内容を見てみましょう。私の感想を抜きにして、そのまま引用させていただきます。長いですが、私見を述べるよりましでしょう。
「アイヌ民族は、北海道などに住んできたアイヌ語を母語とする先住民族であり、自然の恵みを享有し、伝統的な宗教的儀式や祭事等を行うなど、独自の文化を育んでいました。
しかし、明治政府による同化政策等を経て、自然環境を維持管理する権利を始め、アイヌ民族の人々が各地で伝統的に形成してきた自治的集団(アイヌコタン)としての権利や、アイヌ民族の人々が公の場でアイヌ語を使用する権利、アイヌ語教育を受ける権利等は、現在も保障されていません。
日弁連は、国及び北海道に対し、①固有の伝統の尊重及び文化的・精神的な権利を認め保証すること、②アイヌ語教育を受ける権利等の保障、進学や就職状況の改善を始め社会的地位を向上させること、③日本が既に批准した国際条約において先住民族の集団としての権利が認められていることを確認し、ILO169号条約の批准の検討及び国内法の整備を行うことを求めるとともに、アイヌ民族の権利の保障に力を尽くす決意です。」
5. アイヌ関係の本や小説は、昔から、かなり読んできました。
日弁連の会報を読む前、偶然、川越宗一氏著作の「熱源」を読んだところでした。会報の内容が具体的に盛り込まれた内容ですが、当然、同化政策に反抗する主人公の姿が印象的でした。
最初はサハリンが舞台で、近時のプーチン大統領の政策を見ていると、ロシアの恐ろしさが実感されました。でも、小説の主人公は、最後、南極大陸の探検に「犬使い」として参加するという内容になっており、その展開に驚きました。
6. 今回のコラム作成に際して、もっとアイヌ関係の紹介本や小説を読みたいと思い、ネットを見て驚きました。アイヌ関係の小説がブームのようだと書かれているのです。川越宗一氏著作の「熱源」は直木賞受賞作ということもあるのでしょうか?
ネット調査の結果、船戸与一氏著作の「蝦夷地別件」と池澤夏樹氏著作の「静かな大地」を買いたいと考え、紀伊国屋書店に行きました。何とないのです。売り切れなのかどうか・・。
残念です。