新宿の顧問弁護士なら弁護士法人岡本(岡本政明法律事務所)
当事務所では、上場企業(東証プライム)からベンチャー企業まで広範囲、かつ、様々な業種の顧問業務をメインとしつつ、様々な事件に対応しております。
越境する木の枝を切っていいのか?
- カテゴリ :
- 法律相談
1. 私は、農山村の田畑に囲まれた古くからの集落で生まれ、そこで育ちました。木々の生育は凄まじく、隣地に入り込むなど当たり前のことでした。でも燐家の広大な庭に、季節により変化しつつ生育する木々を見たり、近くの山々を覆う山林を眺めて、心に安らぎを覚える生活であったことも確かです。
このような環境で育ったことから、古い友人や親族から「自分の土地に隣地の木々の枝(或いは幹が)が、越境してきて困っているんだよね」という相談は随分受けてきました。でも、よく考えてみますと、木々の越境に関する紛争は、経済的に高額の損失が発生するような事例は殆どないのです。
例えば、単純に竹林の枝が境界を越えて困っているというような事例を考えてみましょう。弁護士に依頼する場合、弁護士に支払う事件費用(着手金等)は、その紛争によって生じる経済的利益によって決まります。つまり、相談者は、「枝の伐採によって、どの程度得をするのでしょうか?」
これを経済的利益と言いますが、庭師等の業者に伐採依頼をしたとしても、それ程高額にはならないでしょう。(むしろ近隣との付き合い方に問題が生じることのほうが問題かもしれません。)弁護士も、このような相談ばかりでは報酬もいただけません。(もちろん、管財事件や財産管理人として、樹木そのものの撤去や処分するべき山林の境界整理等のために同種の事件は多数処理してきました。)
2. 昨年4月21日、所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直しが行われ、同月28日に公布されました。当時、当コラムでも紹介しておりますが、所有者不明土地の解消に関係する論点ばかりにとらわれ、越境する枝の切除に関する民法の改正に関する紹介が不十分であることに気付きました。でも当時の新法令紹介記事も殆ど同じです。弁護士向けの会報も種々出ておりますが、どれも民法の一部改正に関する法律には殆ど関心を寄せておりません。当事務所も、所有者不明土地の解消に向けて、本当に活躍した事務所ですから、やむを得ないと思います。
改正条文を読んでいただけるだけで、すぐに理解いただけるでしょう。もちろん改正の限界も分かります。
1項 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2項 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
3項 第1項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
4項 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。
3. 限界はありますが、すごい前進ですね。
それに伴ない、第209条の隣地使用権も改正されています。長いので第一項だけ紹介しておきましょう。
ることができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなけれ
ば、立ち入ることはできない。
4. 電気、ガス又は水道水等の生活必需品に関係した設備の設置に関係する新たな規定も盛り込まれました。
民法213条の2ですが、この法律は、電気、ガス又は水道水等の設備の継続的給付を受けるため、設備が設置された近隣土地所有者との関係を調節した規定です。もちろんこれらの設備が設置された土地所有者との関係にも配慮し、利用に際しての土地の損害に対する補償も規定されております。
確かに、ガス管を設置するため、私道部分の土地掘り起し工事に際して、裁判所に仮処分申請をしたことがありますので、有意義な規定が置かれたと評価できます。
5. これらの近隣との関係に配慮した規定は、所有者不明土地に関係して規定整備がなされたものです。
本論点は、これまでも当コラムでも紹介してきました。特に、民法239条2項では、「所有者のない不動産は、国庫に帰属する」と規定されています。しかし、今回、民法に不動産放棄の条項を置くことなく、相続土地国庫帰属法を設けたのです。解説書によると、民法では所有権放棄に関する新たな規定を置かず、相続土地国庫帰属法において、土地所有権を国に直接移転する制度を創設することになったものと解説されています。
「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(相続土地国庫帰属法)は、本当に重要な法律になります。