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入居者の自殺−アパートの事故物件

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所感

 

  1.   つい先日の新聞報道で、国土交通省が、「過去に人の死亡が発生した物件に関し、賃貸や売買時において、当該死亡に関する事実の告知義務」についてのガイドラインを纏めたことを知りました。この指針案は、不動産業者及びその関係者が、入居予定者や購入者に伝えるべきであると判断される従来からの問題点をテーマにしております。
      今回、広く意見を募って、今年の夏の終わりまでに正式決定を目指すそうです。
      私が弁護士になった頃、賃貸物件の事故管理に関する相談が度々ありました。アパートを管理する管理会社が、賃借人と連絡が取れなくなったので、強制的に賃貸物件の部屋に入りたいという相談から始まります。更には、連絡が取れなくなってから、相当時間が経ってしまったが、嫌な匂いがしてくると隣の居住者から苦情が出されているという相談までありました。管理会社ですから、入り口の鍵はあるのですが、他人の家に無断で入る訳にはいきません。私は、死亡等の事件性が考えられる場合でなくとも、警察官立ち合いにて入室しました。

      管理会社の社員といっても、当時は慣れていない方々ばかりでしたから、警察官が入るより先に、どんどん室内に入ってしまう方もおりました。私は、彼らに「物を触らないように」、「手袋をしなさい」、「ゴミ箱の中の日付のあるものをチェックしなさい」と種々注意をした記憶があります。
      その調査の結果、所有者やご近所、更に、新たな賃借人や購入者等の関係者に対し、どの程度お知らせするのか等についても、相談を受けました。
      最近は、上記事故物件の扱いもマニュアル化され、私たち弁護士の出番も無くなってきたように思います。有難いことです。
  2.   国土交通省の指針を見てみましょう。
      新聞の見出しには「事故物件 病死は告知不要」と大きく題が付けられています。その新聞によって内容を紹介します。
      指針案の対象は「住居用」で、オフィスは対象外になっております。
      指針案によりますと、「告知が必要ない事案」には、病死、老衰などの自然死、転倒など日常生活に伴う不慮の事故死が盛り込まれています。一方、「告知すべき事案」には、他殺、自殺、事故死(不慮の事故以外)、事故死か自然死か不明な場合、長期間放置され、臭いや虫が発生するなどした場合を含みます。
      ただし、上記他殺や自殺、事故死については、賃貸物件と売買物件とでは条件が異なっています。賃貸物件の場合、死亡から「おおむね3年間」の間は告知が必要で、それ以上の年月が経過した物件は告知する必要がありません。ところが、売買物件では、死亡からの期間にかかわらず告知が必要というものです。
      これまでの経験から考えますと、基準が決められるということはすごいことだと判断できます。期待しております。
  3.   では判例はどうでしょうか?
      ビックリするくらい様々です。買主及び仲介業者の主張を認める判断をした  判例の要旨を紹介します(東京地裁八王子支部平成12831)
      農山村地域における殺人事件で、凄惨なものだったようです。“当該事件から約50年、経過しているとしても、当該事件は、近隣住民の記憶に残っていると考えられる。買主が、同場所に居住し、近隣住民と付き合いを続けていることを考えれば、通常保有すべき性質を欠いている”として隠れたる瑕疵に該当すると判断しました。「農山村地域」が八王子というのですから、驚きました。でも確かに「いわくつき物件」、「訳あり物件」を購入する方々には壁があるのでしょうね。
      賃借物件での入居者自殺事件は何度か経験しておりますが、その保証人或いはその相続人の方々との交渉は辛いですね。例えば、息子が自殺し、悲嘆にくれる保証人(ご両親が保証人になられる場合が多い)に対して、今後、減額せざるをえない賃料との差額や、或いは賃借人が付かない場合の損害賠償を請求する立場を想像していただければ納得いただけるでしょう。発見が遅れ、しみついた臭い等の原状回復費用、或いは隣室の退去による損害も考えらます。
     相当高額な紛争に発展する可能性があるのです。
  4.   特に印象的な事件で、よく思い出すものもあります。
      弁護士になった頃、友達の弁護士から依頼され、相続事件を共同で受任させていただいたことがあります。友人の弁護士は、足の具合の悪い依頼者と本当に真摯に付き合っておられました。依頼者は、兄弟と深刻な相続紛争を抱えておられ、その事件を我々に依頼されたのです。
      結果として、我々の必死の頑張りで、依頼者の希望する○○万円を獲得しました。依頼者が現金○○万円の入った紙袋(本当に重い)を、足を庇いながら帰られるのを、お見送りした記憶が鮮明です。ところが、この依頼者の方が、友人の弁護士と連絡が取れなくなったそうなのです。友人の弁護士の凄いところは、直ぐに依頼者の家を訪ねたところなのですが、依頼者は布団の上で亡くなっているのを発見されたそうです。私も駆けつけましたが、到着するまでに時間が経っており、依頼者の方は解剖に廻されておりました。事情聴取が終わり、呆然とされている友人の弁護士を誘って、湖の見えるベンチに座りました。長時間、何も話さないで、どんどん暗くなる湖面を見つめていたことが鮮明に記憶されております。その後、相続人から、「売るに売れない」との苦情があったかどうかについては知りません。

 

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