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弁護士の能力 ー 「事件の見通し」をつけられること

カテゴリ : 
顧問弁護士の選び方

 

1 弁護士に能力差はあるのか?
 
当事務所では、現在新人弁護士を募集しております。応募される修習生或いは若い弁護士諸君の提出される大量(本当にすごい)の履歴書を見ておりますと、皆様、当コラムを熟読されていることは明白です。応募する事務所の実態を知りたいと思えばホームページは分かりやすい媒体です。逆に、当事務所のコラムまで閲覧されることは採用にも有利に働くでしょう。
ところで、本コラムを読んでいただきたいお客様こそ、弁護士の能力に大きな疑問をもって、種々弁護士のホームページを閲覧されているものと判断します。お客様から弁護士を選別することは相当に難しいことでしょう。私たちは、日々いろんな弁護士と接しておりますので、その能力差は肌で分かります。これについては説明不要ですね。
しかし、当コラムで弁護士の能力差を種々書いても、自分の自慢話か、或いは嫌味な宣伝活動程度にしか聞こえないはずです。そこで私の経験で、事件の見通しをつけることが本当に大切だと痛感した具体的な事例を挙げてみましょう。事例は限りなくあります。
 
2 「事件の見通し」を痛感した事件
 
(1)  はじめに
事例を三つ紹介して事件の見通しとは何かを考えてみましょう。借地契約における家屋撤去・土地明渡請求事件、借家契約の正当事由を巡る二つの裁判例を紹介し、その案件の「見通し」をつけることが如何に大切であったかを説明します。当ホームページ掲載の「借地借家の秘訣」で紹介した事例3件で説明します。これは一つの事件が全然違った角度から見てもらえることを考慮し、且つ「借地借家の秘訣」を読んでいただくために敢えてそうします。
 
(2)  ゴルフ練習場断行の仮処分
一例目は、整理回収機構(RCC)でなければできなかった通常「○○城」事件と称する案件です。本件は種々の段階で興味深いのですが、大がかりになった最初の段階は「ゴルフ練習場」の撤去、即ち断行の仮処分といって、本来の裁判を経ないで建物群を取り壊して撤去してしまうという仮処分事件です。この事件は、後に「○○城」の取り壊しとなり、そして延々と裁判が続きました。
先日、整理回収機構の元社員と久しぶりに会食したところ、この事件に少しでも関与した社員は、他の不動産屋に「あれをやりました」と自慢しているという話を聞きました。皆さん大手金融機関及び大手不動産会社の不動産専門家です(本当に私を助けてくれた社員は亡くなりました)。やはりその方も自慢気にしておられましたので、その方に「何が事件解決の方向性を決めたのか、その後の流れを決定づけたのか分かりますか」という質問をしました。この事件は金融機関が全く手を付けられない状況の中で、整理回収機構に土地所有権が移転しているという案件でした。当時、肝心の相手の方が服役中で、特別急ぐ理由がありました。ゆっくりやれば、またこれらの建物群は利用開始となり、契約は継続する可能性が高かったのです。私の部下の弁護士が、同様に弁護士である専務に対して、何回諮問を受けても満足いく回答ができなかったことも既に記述済みです。
「事件の方向性」を決めたのは荒れ放題になっている運転手用建物について朽廃を理由にして所有権登記の抹消登記ができたことです。裁判官もこの事実なくして断行の仮処分申請を認めなかったでしょう。「先読み」として、多くの整理回収機構所属の不動専門家を相手にして抹消登記を機構で行うべきであると主張し続け、結局、実行した私の「先読み」が事件解決の帰趨を分けたのです。
 
(3)  建物賃貸借契約解除の正当事由が問われた2案件
ここで紹介する建物賃貸借契約はいずれも解除を可能とする正当事由に関し、信頼関係破壊の法理から解除が認められなかった事例です。この2例は、相談者の立場が賃借人と賃貸人であり相談者にとって納得のいく解決が全く逆の結論となりました。
前者は、有名な池袋駅前北口の事案であり、専門雑誌にも紹介されています。「借地借家の秘訣」で紹介済みです。この事例は、訴訟になったことで私が受任しましたが、判決・和解で解決済みの近隣に関する証拠資料が文字通り段ボール箱一杯、訴状添付の証拠として開発会社から提出されました。ここまで解決事案が多ければ高額の立退き料をもらえばいいという判断もあり、第一審裁判官も、当初は、敗訴に傾いていることを隠そうともしない状況でした。依頼者要求の居座る結論を貫くのは意外と難しいのです。
方向性が決したのは、開発会社が法的に宅建業者として東京都に届出している会計帳簿の閲覧にありました。バブル崩壊による同社の会計内容の悪さを知り、当開発会社のすべての開発物件の調査を実行したところ、勝訴判決通りの開発がなされていないことが判明しました。この事実が急所となり当方の勝訴になるのです。
二つ目は、会社を借主として賃貸契約をした事案です。会社倒産によって会社がなくなり、賃貸借の信頼関係が入居者個人との間で成立しているように判断できる案件でした。当初お話しを聞き、依頼者が「些細なことで口論となったが、賃借人は許せない」と個人的な関係を説明されたのです。この事実にこそ本案件の将来を予測できます。当方から、信頼関係の破壊という事態は、賃貸借契約関係をみるのですから、個人的な信頼関係破壊では不十分ですと説明して和解を勧めたのですが、依頼者は私の親友である税理士の先生を全面的に信頼されており、説得できませんでした(契約主体がなくなっているのですから無理がないかもしれません)。結論は予想通り敗訴判決になりました。私の「先読み」が意味をもたなかったのですが、親友との友情は更に深まりました。
 
3 「見通し」或いは「先読み」は必要か?
 
弁護士に依頼する結論は、簡単に言えば、頼んで良かったということにつきます。それは当然、満足のいく結果を出してほしいということです。交渉では獲得した結果に満足できるのか?訴訟になれば勝訴判決を得たのか?分かりやすく言うと実際に得をしたのかということでしょう。弁護士と馬が合って「要求した結果は出なかったが、それはそれで良かった」なんていう都合のいいお客様はおられません。そう言われるお客様は、要求するものが通常の要求とは内容が違っただけであり、それはそれで厳しい結果を求めておられるのです。お金の多寡なら分かりやすい。しかしお客様の希望はお金以外にもあります。一つ事例を挙げますと「従業員が会社の企業秘密を持ち出したが、まだ実害がない。しかし会社のモラルの側面を考えるとお金ではなく(むしろ大損だけど)厳しく追及してください」というような要求は日常茶飯事なのです。
お客様の要求を的確に把握することが第一歩です。それが実現できるかどうか種々検討することが必要です。他分野の専門家を利用するのも結構、あらゆる方向性を検討することです。結論が依頼者の意に染まないなら、事件として受任できないことも当然なのです。
依頼があった当初、その結果がどうなるかを推測して、その結果を吟味しないと成り行き任せ、風任せになります。「風任せ事件」もありますが、それを自覚しているのかどうかなのです。
 
 
 
 

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