1. HOME
  2. コラム
  3. 民法改正
  4. 「配偶者居住権」に関する法律相談

新宿の顧問弁護士なら弁護士法人岡本(岡本政明法律事務所)

当事務所では、上場企業(東証プライム)からベンチャー企業まで広範囲、かつ、様々な業種の顧問業務をメインとしつつ、様々な事件に対応しております。

  • カテゴリ 民法改正 の最新配信
  • RSS
  • RDF
  • ATOM
アーカイブ一覧はこちら

「配偶者居住権」に関する法律相談

カテゴリ : 
民法改正
1 つい先日、大学時代の友人から電話がありました。
 「女房に、今住んでいる土地建物を遺贈しようと思うので相談したいんだけど」という電話でした。私は「いいよ。相続でもめそうなの?」と返答したところ「いや、相続税を軽減させておきたいんだ」という返答でした。友人は、東京都心に立派な家を建てており、悠々自適の生活をしていると思っておりましたので、私は「配偶者居住権の相談だね。でも、そんなに急いでいるの?」と質問したところ、「実は体調がおもわしくないので、早めに遺言書を書こうと思っている」と病状を含めて説明がありました。私は、元気な彼と今年の春、会ったばかりでしたから、子供たちとの折り合いに問題でもあるのかと通常の相続紛争を想像しており、最初は会話が噛み合いませんでした。
 彼の説明にびっくりして、私は「でも来年の4月1日以降の遺言書でないと、配偶者居住権の適用がないんだよ」と返答したところ、彼は「それまで生きている自信がないから電話しているんじゃないか」と怒り出しました。
 この友人の電話でも、今回の法改正に限界があることも分かりますが、しかし、配偶者居住権とそれに付随する相続税の節税に関心のある高齢者の方が多いことは以前から知っておりました。改正案発表直後は配偶者の立場の強化に論点があり、節税策として論じるには税務署の対応も不明で、節税策という論点に飛躍があるように思えたこと、しかも弁護士として節税を言うことに抵抗感がありました。でも私の友人のように、後期高齢者になってみると種々のしがらみに遭遇し、現実的な問題として節税に直面せざるを得ないのでしょうから、必要不可欠な論点とも言えますね。

2 確かに、配偶者居住権を設定した場合、税法上節税になるというのが今日この頃の通説的立場です。
 そもそも配偶者居住権制度は、配偶者に建物の所有権を遺贈するものではありません。配偶者居住権とは、「居住していた建物(以下『居住建物』という)の全部について無償で使用及び収益をする権利」(民法1028条1項)を意味します。単に、建物の使用収益権限が無償で与えられるのみで、所有権ならばあるはずの当該不動産の処分権限はないのです。財産評価においても、取得する不動産の価値がそのまま評価される訳ではありません。配偶者居住権は、使用収益権限しかないということから配偶者の相続財産が低額に抑えられ、その結果として、配偶者に他の相続財産の分配も受けられる可能性を増やすなどして、配偶者の財産上の保全を実現し、老後の安心を得やすくしようとして立法された制度です。
 ところで配偶者居住権や残された当該不動産の財産評価については、法制審議会の部会においても明確な指針は出されていなかったはずであり、今後の解釈及び実務運用に委ねられているというのが真相です。しかし、本コラムでの論点は、配偶者居住権により減額された相続財産が、当該配偶者の死亡などにより終結して配偶者居住権が消滅した際、当該配偶者居住権に相当する相続財産を取得することになった者に対する課税(当該減額分の課税です)がなされるか否かにあります。
 現在の多くの見解は、配偶者死亡による配偶者居住権価格に関して課税されるかどうかに関し、課税されないという結論が支持されていると判断できます。結論として、友人の言うとおり節税が実現できるという結論に至るのですが、税務署の対応は未定ともいえます。
 私は、当時、本コラムにおいて、節税ができる「抜け道」なるものを書こうかどうか随分迷い、“品がない”と思い止めました。
 でも近時、“配偶者居住権制度を利用すれば節税できます”と新聞や出版物で賑やかに発表されるようになりました。しかも当初に述べましたとおり、配偶者居住権の遺贈が、附則10条「施行日前にされた遺贈については、適用しない」という規定(令和2年4月1日施行)の制限があるのですから、友人のためにもコラムを書いておいたほうがよいと考えるようになりました。

3 配偶者居住権については、家庭裁判所の審判によっても認められる場合があります。条文(1029条)を見るのが早いでしょう。
 家庭裁判所は、次に掲げる場合に限り配偶者が配偶者居住権を取得することができるとしております。その一つとして「共同相続人間に配偶者が配偶者居住権を取得することについて合意が成立しているとき」、二つ目として「配偶者が家庭裁判所に対して配偶者居住権の取得を希望する旨を申し出た場合において、居住建物の所有者の受ける不利益の程度を考慮してもなお配偶者の生活を維持するために特に必要があるとき」をあげております。
 将来、このような判断事例が増えることによって、配偶者居住権は定着するのでしょうが、税法上の扱いは通説の言うとおりだろうと考えております(保証の限りではありません)。
 また配偶者短期居住権の制度も規定されておりますが(1037条以下)、この場合には節税効果はないでしょう。

4 ここまで配偶者居住権の節税効果について書いてきましたが、最後は節税効果の対象となる配偶者居住権の財産評価の方法が論点になるでしょう。これまで還元方式なるものや、簡易な算定方法など種々議論されておりますが、当初は税理士や不動産鑑定士の先生を含めて配偶者居住権の財産評価をせざるを得ないと判断しております。書き出すときりがありませんね。

お問い合わせ

お電話でのお問い合わせ:03-3341-1591

メールでのお問い合わせ:ご質問・お問い合わせの方はこちら

  • 閲覧 (16061)