1. HOME
  2. コラム
  3. 書評
  4. 書評その3 「国境の銃弾」著者濱嘉之(文春文庫出版)

新宿の顧問弁護士なら弁護士法人岡本(岡本政明法律事務所)

当事務所では、上場企業(東証プライム)からベンチャー企業まで広範囲、かつ、様々な業種の顧問業務をメインとしつつ、様々な事件に対応しております。

  • カテゴリ 書評 の最新配信
  • RSS
  • RDF
  • ATOM
アーカイブ一覧はこちら

書評その3 「国境の銃弾」著者濱嘉之(文春文庫出版)

カテゴリ : 
書評

1.     「国境の銃弾」は、先月(8月)10日、文春文庫より出版されました。

この本は、濱さんの「警視庁公安部・片野坂彰」新シリーズの最初の本ですが、現在の朝鮮半島問題について、公安小説を通して考えることのできる傑作です。
実は、出版された同日に本書を入手し、直ぐに読了しました。
韓国が見える対馬北端の展望台から事件が始まるのですが、一度、行きたいと思っていた対馬に対し、強い郷愁に誘われました。8月6日、7日に開催される対馬の「厳原港」夏祭りや高麗王朝の使節を昔語りとする「朝鮮通信使の行列」をネットの写真でみたりして、事後の余韻を楽しんでおりました。数年前、仏像盗難事件から、日韓関係が悪化し、お祭りの前記「朝鮮通信使の行列」を廃止するという話しがあったことも漠然と覚えておりましたので、最近どうなっているのか、知りたかったのでしょうね。

2.      ところが8月23日、各新聞が一面大見出しで報じました。

韓国による「日韓軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)の破棄通告です。北朝鮮のミサイルに対応できるのか、私は不安を感じました。
その後、問題はどんどん拡がり、現在は、両国の輸入関税問題、韓国の日本製品不買運動にまで発展し、世界貿易機関(WTO)をも巻き込んでいるのですから、日韓関係の将来に不安を感じない人はおられないでしょう。
朝鮮半島問題に少しでも関心をもたざるを得ない社会状況に突入してしまったということは、過熱する週刊誌報道やテレビ報道からも顕著で、逆に、最近は、過熱する報道叩きも盛んになりました。

3.      問題点は何か?

論点整理をするなら、文藝春秋9月号の特集目次を挙げるだけで十分でしょう。9月号は、上記の破棄通告前に出版された本ですから、冷静に読むことが可能です。近時問題になっている週刊ポストの記事が大衆迎合主義?と言って騒がれておりますが、現在ならもっと過激化した論文が並んだはずです。
文藝春秋の目次の筆頭では、次のように題しております。
「輸出管理の先にある『日米同盟vs統一朝鮮』」
次に、大きな字で「日韓炎上」と題され、その横に「文在寅政権が敵国になる日」と記載されております。韓国問題に詳しい著名人が、次のような順で、各章を執筆しております。再度、目次を見ましょう。
  日韓基本条約を踏みにじる「歴史の恨」  黒田勝弘
  慰安婦「贖罪」が韓国に利用された  櫻井よしこ
  徴用工判決は「李氏朝鮮」への回帰である  宮家邦彦
  文在寅「ひきこもり大統領」の危ない戦略  牧野愛博
  日米合同演習「脅威国」は韓国  麻生幾
 冷静に考えるなら、論点はこんなところかもしれませんが、「8月初めの出版物」です。紛糾する現在の論点と変わりがないことに、私は驚いております。歴史的な検証からは当然なのでしょうか。 

4.      もちろん、「国境の銃弾」は小説ですから、上記のような論点を飛躍する部分もあります。北朝鮮主席の暗殺計画や北朝鮮の内部に宗教組織が絡んでいるなど、小説だから書けるのでしょうが、本当のことは分からないものの、さもありなんと思ってしまうのです。

でもその背景事実については客観的な論拠を指摘されております。特に、北朝鮮に関係する中国とロシアの利害や国益の分析、或は文在寅大統領の分析など濱さんの小説のほうが面白いし、勉強になると思ってしまうのです。特に、私は、「韓国のり」に一時期はまっており、食しておりました。でも韓国の沿岸汚染からは、注意しなければならないことも大変勉強になりました。
ところで、本小説のもう一つのテーマは、ファインセラミックスの銃弾で、3人の頭部を一発で貫通するという驚くような銃器の使用にあります。ダイヤモンド加工の技術についてアントワープまで探索し、事実を明らかにされていくと世界旅行もしたくなります。この同じ銃器が東京大学構内でも使用され、二人の政治家が暗殺されるという話しの「ぶっ飛び方」には、ちょっとついていけませんでした。大きな二つの筋の話しに勿体なさを感じてしまいました。私は、余程、対馬の現場の話が気に入ったのでしょうね。

5.      濱さんの小説は、話の進行が二人語り形式(会話形式で物語が進行する)で進行することが多いのですが、今回、同じ朝鮮との関係から、昔からの愛読書「徳川家康 全16巻」(著者山岡荘八 講談社文庫出版)を思い出しました。歴史上、「文禄・慶長の役」と言われる豊臣秀吉の朝鮮に対する出征ですが、第14巻「明星瞬くの巻」から第16巻までがこの時期の話になります。対馬から直線距離で僅か50キロしかない距離での戦いであっても、秀吉不利となる歴史小説です。山岡荘八さんの小説は、その登場人物の心理描写が中心になって、歴史に関連付けされて進行します。濱さんの作風と比較し、その違いに驚きます。

豊臣秀吉の話を出しましたが、対馬と朝鮮との接近した隣国関係では、日本からのみの侵犯だけが歴史ではありません。倭寇だけでなく、朝鮮からの海賊行為もありました。
このような歴史は、ご存知の方も多いでしょうが、一方だけを批判している訳ではありません。
今回のコラムでは、濱さんの小説「国境の銃弾」が面白く、楽しませていただきましたという読後感をお知らせ致します。

お問い合わせ

お電話でのお問い合わせ:03-3341-1591

メールでのお問い合わせ:ご質問・お問い合わせの方はこちら

  • 閲覧 (17020)