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書評 「神になりたかった男 徳田虎雄」著者 山岡淳一郎 出版社平凡社

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書評
1 今回の書評は、この本の面白さを宣伝するためのものではありません。著者の「あとがき」最後の2行に新鮮な驚きを感じた事を伝えたかったのです。徳田虎雄とは、徳洲会を率いて、医療の世界に巨大な変革をなしとげた人物ですが、この本は、その人物を巡る波乱の人生を描いたノンフィクションです。では著者による最後の2行を紹介しましょう。
 「徳田氏と、氏に伴走して旧態依然たる医療をあらため、無人の荒野に病院の砦を築いてきた人たちにとって、徳洲会とは・・・、かなり長めの「青春」そのものだった。」
 前回のコラムで、オウム事件を巡る朝日新聞の対応に疑問を呈しましたが、この本は、法律に抵触することなど厭わず、社会的な運動に身をかけた人たちについて「かなり長めの青春そのものだった」と言える著者の姿勢に驚いたからです。オウム事件との区別も、その線引きも必要ではないかと感じます。

2 先ず、この本を通じて知った徳田虎雄さんを紹介しましょう(まだご存命なので徳田さんと言います)。
 徳田さんは、選挙では公職選挙法違反になることなど全く意に介さず、周囲を巻き込んで、違法な「どぶ板選挙」に邁進し、マネー戦争でも、多分税法や特別背任罪などの法的考慮も一切されなかったのでしょう、徳洲会のため必要な金を獲得することだけを目的にして、あらゆる手段を行使されたのですね。
 でも金で買う一票は(一票などと言うレベルではないが・・)、民主主義の根幹に反します。私は許せません。また金儲けだけを考えて行われるマネーゲームも、読むに値するものでしょうか。
 そもそも私は弁護士ですから、法に抵触する方々ともお付き合いをすることが前提です。また弁護士と言う以前に、自分の若かりし頃を思い出し、どこまでの違法が「青春」と言う美名?の上で許容されるのか、常々考え続けてきました。
 つまり、どこまでの確信犯が、小説として読むに耐え、共感に値する範囲と言えるのでしょうか。

3 昔、私は、カンボジアの共産主義革命に絶望しました。でも常に関心を持っておりました。当時、カンボジアを描いた面白い本はなかったのですが、昨年夏、発刊された「ゲームの王国」上・下(著者小川哲 早川書房)というSF小説は、当時のカンボジアを題材としているため、直ぐに購入して読みました。
 やはり衝撃的でした。この本も紹介したくなります。でも下巻は、脳波でコントロールするゲームの開発と言うように、近未来のSF小説になってしまうのです(私は上巻だけで充分です)。故に、カンボジアの歴史としてその要約を紹介します。
 カンボジアの指導者となったポルポトは、毛沢東に憧れていることもあったのでしょうか、原始共産主義を目指したクメールルージュを組織しました。彼は、階級や格差のない原始共産時代の状態に戻すというスローガンの下に、邪魔になる富裕層や知識人を対象として100万人以上を殺害したとされています。共産主義であっても私有財産制度は廃止されないのですが、農本政治を行う限り、全ての私有財産が消滅してしまうのだということも、この本で十分に理解できます。マルクスの言う経済学はやはり理想論であって、特に農業を主産業とする発展途上国では学問的な理念など通用しないのですね。
 しかし、何を理想にしようと、革命のためだと言って、人を殺害することなど許される訳がありません。オウムも、坂本弁護士一家虐殺は、オウムの唱える理想国家創造のためだというでしょう。こんな単純で明らかな事実・犯罪を「オウム事件の闇」などと呼ばないでほしいのです。オウム事件が「みんなの責任」だとする朝日新聞の論調がおかしいと思う私の認識もこれに尽きます。如何なる説明をしようとも、人を殺めることが理想実現の手段として許される訳がありません。「みんなの責任」などである訳がない。
 朝日新聞の論調は、逆にオウム関係者を甘やかすことになりませんか?と言うのが私の結論なのです。

4 「神になりたかった男」は、聞取り風のルポルタージュになっておりますが、読み飽きません。そもそも医療は、私たちの生命に直結しています。徳田さんは「命は平等」を唱え、先ず休日・夜間の救急患者の受け入れから始めます。そして医療空白地域に病院の進出を図ります。当初は、病院建設費用等の金策、そして進出地域を管轄する旧態依然たる医師会との闘い、その後は、医療行政の是正など、拍手喝采を送りたくなります。病院通いが絶えない私自身の関心事なのですから、「命は平等」なるスローガンには泣けますね。
 この本を読んで、医療に対して違った側面から見られるようになったと思います。近時の新聞報道でも、不足する医師・看護師の実態、医療機関の休廃止・破綻の増加、或いは医薬分業制度や医療保険制度等枚挙にいとまがない程です。
 結論ですが、徳田さんやその周りにいる人たちにとって、徳田さんの戦いは、やはり「かなり長めの青春」なのでしょう。
 公職選挙法違反位で目くじらはたてられないか?
 皆さん、読んでご判断ください。

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