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証人尋問の劇場性

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顧問弁護士の選び方

1.  前回のコラムでは、次回、証人尋問の劇場性について書いてみましょうと結びました。証人尋問に劇場性など不要というコラムばかり書いておきながら、その劇場性についてお話ししたいのは、その意外な結末が小説より面白いからです。

 世紀の裁判と言われたO.Jシンプソンの裁判を視察に行きましたが、そのサンフランシスコでの経験は、半端ではありませんでした。今回、同時に紹介しようと考えておりますアメリカ大統領、リンカーンの弁護士時代の証人尋問も、刑事弁護等の多くの専門書に掲載されています。劇場性を紹介するなら、この二つの事件しかないでしょうが、やはりO.Jシンプソンの裁判・刑事裁判無罪は別格です。

 それまで勉強してきた証人尋問の教科書等が色あせる裁判でした。

 

2.  証人尋問の劇場性について触れる前に、一番驚いた話から始めます。20年以上前の話といっても、正確に復元することは問題があるかもしれません。多少、トーンを落とします。

 それは、報酬数億円と言われた、当時アメリカの超一流弁護士を集めた弁護団「ドリームチーム」に関与された方から直接聞いた話です。

 最初のうちは、陪審裁判の証人尋問のやり方を勉強してきた私たちにとって、通常よくある話でした。その一部が、役に立つよう標語式に纏めたメモの形で、私の古いノートに残っておりました。これだけでも我が国の弁護士には驚きでしょうが・・。

陪審員の会議で、中心的な役割を演じる者を見抜け。 彼がターゲットだ。

靴やネクタイを見よ。ラフな見かけの人は楽な方向に流れる。それ以上に偏見を持つ人を見つけて扇動することが重要。

弁護士は、陪審員の誰を見て話すのかなど、証人尋問の際のパフォーマンスを検討せよ。証人尋問はショーである。

二日目に目標とする人を見定められないとすれば、あなたは無能弁護士だ。

 国民の司法参加を標榜して世界中の裁判制度を視察していた私には、上記の項目は、それ程刺激的な話ではありません。

 次に、俗な話題になりました。弁護士の報酬が数億円であったかどうかについて、お聞きしたのです。ところが煙に巻かれました。しかし、高い報酬は当然だという話をするためでしょうか。「弁護団は、陪審員の属性等の細部についても調べ上げる」との説明がありました。これにはショックでした。ここで話しが終わってしまったのです。 探偵を使ったのかどうかなど詳細は聞けませんでした。

 我が国の裁判員のプライバシーに関する調査を事前にされたら、裁判員裁判制度は終わりです。国民の司法参加を標榜していた我々にとって、こんな恐ろしい話はありません。陪審員・裁判員には、絶対アンタッチャブルでいてほしい。

 

3.  O.Jシンプソンの裁判で、劇場性そのものと考えられた事実は、O.Jシンプソンの自宅の門の通路に落ちていた右手の革手袋です。

 この手袋は、刑事によって発見されたものです。私たちも驚いたのですが、当時、裁判はテレビでそのまま放映され、超人気を呼んでおりました。法廷でこの手袋を嵌める実演があったのです。なんと、この手袋はO.Jシンプソンの右手には小さくて嵌まらなかったのです。この実演を見て陪審員は、この手袋に証拠性はない、無罪であると判断するのは無理からぬことではないでしょうか。

 確かに、捜査機関の証拠保存の不手際(血液の保存方法や現場に残された靴跡の靴等)や、刑事の黒人差別発言もあったのですが、極めつけは手袋を嵌めさせようとしたものの、小さくて入らないという劇場性・ショーにあったことは明白です。 O.Jシンプソンは、その後の民事裁判では逆に敗訴し、巨額の損害賠償責任を負いました。現在、無罪判決は間違いだったという風説が強いようです。事実、ネット情報というのでしょうか、右手に手袋が嵌まらなかったのは、当時、手に関節炎を患っていたが、薬を飲まないで腫れをそのままにしていたからだという話しも読んだ記憶があります。

 

4.  リンカーン大統領の証人尋問での劇場性に触れましょう。

 頁の残りが少ないので「弁護士リンカーン」(フレデリック・トレヴァー・ヒル著)の引用に留めます。小説のように楽しまれたい方は、「反対尋問」(ウエルマン著 旺文社文庫)をどうぞ。この本は、我が国に裁判員裁判制度を導入された平野龍一先生が解説されており、裁判員制度を勉強されようとする方の必読書でもあると思います。

 引用「(殺人事件の現場を目撃したという)証人は、被告人がパチンコか何かそのような武器(ピストルではない)で致命的な一撃を与えるところを実際に見たと証言し、リンカーンは彼を問い詰めて、凶行の時刻を夜の十一時頃だったと言わせておいてから、そんな時刻にどうしてそんなにはっきりと見ることができたのか陪審員に教えてやるよう要求した。「月が出ていたので」と証人は即座に答えた。「でも、起こったことが何でも見えるくらいに明るかったんですか?」と尋問者は迫った。証人は、朝の十時に太陽のあるあたりに月が出ていて、だいたい満月だった、と答えたが、その言葉が口から出るやいなや、この反対尋問者は暦をつきつけて、月は午前零時七分に完全に没したはずであり、したがって十一時には実際上月明りはなかったことを示したのである。これがこの裁判の転換点となり、以降はすべてリンカーンの思うままに運んだという」。これを、証人尋問の劇場性だという人が多いのですが、楽しまれたい方は、「反対尋問」82頁以下(上記引用と異なる)をどうぞ。

 

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