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書評 「私を宇宙に連れてって」と宇宙法

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書評
1 先日、私は、講談社と文芸春秋と共に「濱嘉之さん 文庫200万部突破を祝う会」の発起人として、上野精養軒にて行われた記念パーティーに出席しました。
大広間には驚くほどの人が集まりましたが、20年近く前、宇宙開発を目的として活躍した当時の会社役員とお会いし、昔のことを懐かしく思い出しました。当時の宇宙開発は、軍事目的(?)のロケット開発が中心でしたが、資金繰りに窮して会社に詐欺師が入り込んだため、濱さんと彼と私の三人は、大変苦労しました。特に、株主総会の運営は本当に厳しく、昨年9月、本コラムの「株主総会の運営(IR株主総会 その3)」においても、その一部を紹介しております。
当時の記念に、現在は公安警察小説家、第一人者と言われながらも、いまだ「危機管理が主たる業務」と宣言された濱さんを囲み、当事務所の副所長も含め、四人で記念写真を撮ってもらいました。

2 宇宙開発会社の業務も、人工衛星の利用により、実に多種・多様な業務に利用されるようになってきました。ネット通信や天候関係の業務には早くから利用されるようになっておりましたが、現在は画像の利用による交通や農業・漁業の収穫時期にまで利用できると言われております。日経ビジネスには、伊藤園が茶葉の摘み頃の判断に利用するという記事が掲載されておりました。
 でも生身の人間が宇宙を飛び回るというには時期尚早です。いまだ人類の月面着陸には疑惑があるとする説も唱えられる昨今、どうしても紹介したい本があります。
平成23年発行なので多少古いとも言えますが、人類にとって、宇宙の無重力での生活が如何に人間に馴染まないものであるかについて、詳細に取材した本を紹介したいのです。

3 それが「わたしを宇宙に連れてって」(メアリー・ローチ著 NHK出版)です。メアリー・ローチは、厚かましいおばさん(ごめんなさい)ジャーナリストですから、どこでも“もぐりこむ”という感じで取材します。例えば、日本の宇宙飛行士選抜試験にも実際に突撃取材するのです。型通りの日本で、こんな奇抜な試験をするのかと疑問ですが、“さもありなん”と思うから不思議です。
そもそも宇宙環境が如何に人間になじまないものであるかについて、若田光一さんが初めて宇宙に旅立つ際の記事(平成21年2月8日付日経新聞)が分かりやすいのです。この古い記事を読むと、宇宙に行きたくなくなりますが、その一部を紹介しましょう。つまり「宇宙から大量に降り注ぐ放射線や、方向感覚もまひさせる無重量環境」、しかも宇宙環境では「骨粗しょう症の患者に比べて十倍の速さで骨の量が減っていく」、あるいはストレスや睡眠不足など支障をきたす「自律神経」の問題など頭が痛くなります。現在、宇宙ビジネスの対象となっている数分の宇宙旅行など話の種にもなりません。

4 「わたしを宇宙に連れてって」では、無重力の世界では“ヒューズが飛ぶ”ことで障害を防ぐなどという重力現象の利用はできず、現代の科学技術の見直しという側面も描かれでおります。しかし何といっても極めつけは人間の体そのものに関する突撃取材でしょう。
 この本は、初めからズバリと本題です。「宇宙開発のエキスパートにとって、あなたは巨大な頭痛の種だ。彼らが扱う機械やシステムのなかで一番めんどうくさい相手、それがあなただ。気まぐれな代謝作用、貧弱なメモリー量、統一規格の存在しない形状にサイズ。あなたは予測不能だ。まるで安定していない。壊れるようなことがあれば、修理するのに何週間もかかる。宇宙で水や酸素や食料に困ったらどうするかという心配もしなくてはならない。あなたが小エビのカクテルや放射線たっぷりのビーフタコスを調理して食べるのに、どのくらい燃料を消費しそうか」。 長くなるので引用は止めます。
しかし無重力の世界で、人間の排せつ物の処理が一番工夫を要するという話、「14 別離の不安 無重力トイレの冒険は続く」で笑います。別離とは自分の排せつ物との別離です。
 皆さん、排せつ物が重力を利用して下に落ちていることを、ここで初めて勉強されると思います。重力がないと、液体は排せつ器官の周りで液体として漂うのです。物体も出てしまった空間に留まるのです。
宇宙開発のエキスパートがどのように苦労をしているのかを知るとおかしくも、せつなくなります。

5 今年の初め、宇宙法の説明について、アポロ11号の月面着陸に際して議論された題材をテーマにして紹介するつもりでいました。つまり月面にアメリカの国旗を立てるということは、宇宙条約に違反しているのではないかということです。北米旗章学協会に提出された論文を紹介して宇宙法の説明をしようと計画しておりました。でもメアリー・ローチの本により、旗がうなだれることは予想され(月の引力は地球の六分の一)、実際には横棒をつけたというエピソードの紹介で疑惑も解消するという腹積もりだったのです。でも宇宙法を概論するだけでもコラム一回分になります。そこで当事務所の秀才田中弁護士に宇宙法の概論を、今年夏過ぎ頃に、コラム形態で書いてほしいとお願いしました。
そもそも宇宙法の専門書は、私の所属する弁護士図書館でも2冊しかありませんでした。硬い表紙のほうの本を借りたのは、この14年間で私が二人目です。即ち、弁護士のコラムで宇宙法を宣伝にする弁護士は多いのですが、体系だった解説書は薄い表紙の本、学者先生方編著になる「宇宙法入門」程度しかないのです。
田中先生。宇宙をじっくり楽しんで、コラムはゆっくりやって下さい。

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