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労働力こそ、その国の有する根源的な資源
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- 労働事件
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1 我が国の労働時間
前回コラムに書きましたが、「我が国の労働法制が社会主義化しているか」という問題提起に対して、そのような問題提起は愚問であることを説明しました。しかし上記問題提起に対しては、さらに違った側面から実態的に分かりやすく説明ができることをお教えしたいと思います。
それは、現在の先進国間における労働時間と、我が国の労働時間を比較対照することです。わが国の労働時間は先進国での労働時間と比較して、とても自慢などできるものではありません。
日本は欧米に並ぶ先進国とされていますが、フランス、ドイツ、デンマーク、スウェーデン等の労働時間と比較すると、日本はなんと年間労働時間は300時間から400時間も長いのです。長時間労働をしている雇用者の比率は5倍にも上ると統計が示しているのですから驚きなのです。市場経済原理が導入されているアメリカは労働時間規制が弱く、長時間労働の比率が高いと問題視されています。それでも週に50時間以上労働している雇用者の比率は日本28.1に対し、アメリカは20でしかありません(「過働社会ニッポン」小倉一哉著 日経ビジネス文庫)。アジアでは先進国とされる韓国が、先進国の中では最も長時間労働だと判断されていますが、これも次のような視点から読み取ると大変興味深くみることができます。
2 労働時間と労働力の関係
それは、労働力がその国のシステムのなかで経済的にどのような意味を持っているのかということであります。私は、その国の世界の中での位置づけは、原則として労働者の商品価格、その国の労働者に要する経費(給与等)で容易に推測できると考えております。
後進国を含めて考えて見ましょう。
そこで質問ですが、ある国で、その国の有する資源とは何を意味するのでしょうか?質問されている当該国が石油やウラン或いはレアメタル等の資源、或いは先進国のように他国に対して売ることのできる技術力等の商品を持っている場合は別個の評価を加えて判断されますが、上記に示す例外的な場合を除いて、その国の経済力は、商品としての労働者の市場価格、即ち当該国の賃金の高さ、低さで評価や推測ができるのです。
労働力の商品価格の決定については、後進国では識字力等の文化的な側面もあるでしょうが、先進国では、その国の経済力の反映として価格付けされていると考えて間違いありません。我が国でも、中国その他のアジア諸国の、労働力の安い国に工場を進出させる企業を見るなら容易に分かることです。即ち、労働力の価格はその国の経済的な位置付けにより決定されており、人という資源によって他国の企業が、労働力の安さという一点において海外進出するのです。企業はグローバルな構図の中で流動しています。
3 労働力の価格と労働時間
結論からいいますが、先進国の中での労働力の価格の決定基準は、単純には労働時間で考えていただければ、意外と単純化してみることができます。労働力に対する規制も諸外国で種々の形態があるとはいうものの、労働者は人間そのものですから、売却できる労働力の中身が検討された後には、その中身に差がなければ、労働時間の長短でその価格が変わるのは当然のことであります。長時間労働させれば時間当たりの価格・経費は低下するのです。
そもそも労働に関する法令は労働時間に関する規制が中心であります。労働規制のないアジア諸国の労働時間は大変に長時間労働です。先進国と称される韓国が長時間労働であることも既に説明しましたが、妙に納得できるのではありませんか。
また我が国の労働法制を中国と比較するなど無知以外の何ものでもないこともお分かりいただけたでしょうか?
もっとも、労働法では労働力を商品として論じることに強く嫌悪感を示す学者もありますが、実用的に物事をみていくべきです。つまり、グローバルな視野において労働時間を考察する必要があります。
あなたは、労働時間が短縮されれば、余暇が増えるので若者が子作りにいそしみ、人口減少化に歯止めがかかり、ひいては経済力が増すし、消費も増大するという主張を聞いたことがあるでしょうね?「そんな簡単な訳がない」という通俗的な反論は遠慮して下さい。フランスで減少していた出生率が増えたのは35時間労働制にしたためと、その因果関係を主張する人もいます。
では、次項で、日本の労働法制は先進国の中でも進んでいると考えているあなたの常識を覆してみましょう。
4 再度労働法制について
日本の労働時間が先進国の中で決して短くないことは既に論証しました。それでも「国民性」を持ち出して反論されるあなたに、日本特有のサービス残業はどう評価されているのかお聞きします。
「サービス」残業なのですから正確な数字を把握することはできません。サービス残業をしましたか?という形での聞取り統計しかありませんが、日本は本当にサービス残業が多い。先進国の中でも異常なのです。しかも非正規労働者ですら残業をしています。これも先進国並みではありません。そもそも非正規労働者(遂に労働者の39%を占めるまでになっていることは前回説明しましたね)の中の「パート労働者」の定義を、EUの殆どの先進国では週30時間以下の労働者であって、残業はないという意味にて説明しておりますが、日本では、これにも絶対に当てはまりません。日本のパート労働者は残業もしております。パート労働者の労働実態によってですが(労基法39条)、パート労働者にも年次有給休暇が与えられるという常識的なことからもお分かりいただけるでしょう。
日本と大違いのフランスでは、労働時間に関する35時間法が見直し議論されているくらいですが、公務員の団結権も認めております。先日、ネットを見ていて、フランスの警察官が集団で団結権を行使しているのを見て、その異様さにびっくりしたとの記載がありました。日本の労働法制が社会主義国のようになっているなどと誤った印象を持たないようにしていただきたいと願います。
5 労働時間の長さは「日本の国民性」だけで説明がつくのか?
私は、労働時間の長さを考えると、日本は本当に先進国なのかと時々疑問にも思います。しかし争いごとの嫌いな、真面目な国民性を考えると、争いごとの最先端にいる我々弁護士の業務に影響することはあっても、やはり自慢できると思います。東北大震災での争いごとを好まない国民性が、国際的に評価されたことを誇りに思う気持ちは、既に弁護士として失格なのでしょうか?
以上、国民性を含めて現在の日本の状況を考察しますが、やはり日本は先進国なのですから、「国民性」に甘えている訳にはいかないでしょう。それだけの代償を払うのが先進国であり、「国民性」云々よりも労働力に見合った技術或いは革新性が日本にはあるはずです。ヨーロッパの先進国並みの時間労働であっても、十分に先進国に張り合える国民であると私は思います。
これらから結論付けるとすると、法規制の典型である労働時間は、将来もっと短縮される方向で法立法がなされるのではないでしょうか。
今後、労働時間を巡る紛争、弁護士の出番が減ることはないというのが結論でしょう。
6 まとめ
今回は、労働に関する法的な側面からの考察ではなく、世界の資本の流れのなかで、その国の労働法制が決定され、しかもその国の経済力に影響されて法規制として定められ、その過程の中で労働力の価格が決まることを話してみました。
逆説的には、労働法制がその国の経済力まで決定してしまうという側面から労働法制を考えてみましたが、真実は論理が逆で、その国の経済力によって労働法制が定まる、つまり給与が決定されるというのが私の話したい、悲しい結論です。
しかし、給与が高ければ国民の購入意欲が高まり経済力が増すという意見もありますから、本当に難しい問題なのですね。
これから日本はどうなるのでしょうか。