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「サピエンス全史」 書評その2

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書評
疑問に答える本書の面白さ
1 皆様と同様、私もいろんな疑問をもって生活してきました。でも「サピエンス全史」は思考の方向性を示してくれているように思います。
  これまで疑問に思っていたことで本書に関係するものとしては、次のものがあります。
第一は、何故、我々が、猛獣或いは他のサピエンスを排して現在の地球上に残れるようになったのか?その原因が「知力」にあるとするなら、何故「知力」が生まれたのか?「知力」の仕組みとは?
第二に、人間は「知力」という武器を持ったのに、何故こんなに不自由な共同体(国も家族も含む)を作り、それに属することでしか生きていけないような結末になってしまったのか?
第三に、私が学生時代、夢中になったマルクス・エンゲルスのいう共産主義的な思考はもはや宗教と同程度なのか?或いは又、経済的な側面においても採用困難な思考なのか?
2 第一および第二の疑問については何となく考えるべき方向性が分かってきたように思います。
この本では「知力」とは、我々が何も知らないという事実を知ることから始まり、不知であるが故に探求心が生まれ、科学等の学問に発展し、文明が爆発するという経緯も説得的です。
そして開花した「知力」がどのような終末を迎えるのか、あるいは幸せな将来になるのかについては、決して油断できないことも結論付けされています。前回のコラムで、我々の将来に必然はなく、期待できない結果を招来するかもしれない場合についても書きました。
3 前回触れなかった農業革命の詳細について、楽しみたいと希望される方には次の書籍を勧めます。
4年前、当時ランキング第一位と言われて売り出されたジャレド・ダイアモンド著「銃・病原菌・鉄」です。この本も有名で「サピエンス全史」と一体となる本です。この本は、地球上の併合される以前の文明を紹介しながら、消滅する必然性を銃・病原菌・鉄に理由を求めます。読んだ当時、やはり書評を書きたいと思ったほどでした。
この本の著者は「サピエンス全史」の著者と交流があります。本書末尾の謝辞でジャレド・ダイアモンドに「全体像をつかむことを教えてくれた」と感謝している程です。
「銃・病原菌・鉄」は、論点の掘り下げ型で書かれているところに特色があり、具体的な事実が展開されます。特に太平洋に浮かぶ島々の先住民の文化、例えばニューギニアやオーストラリアの先住民(マオリ族やモリオリ族など)の論評は本当に楽しめます。
ところで研磨加工をほどこし、刃先の長い石器を最初に作ったのは日本人だったということは皆さま知らないでしょう?これはヨーロッパで石器が研磨される1万5000年も前のことだそうです。
4 三番目の疑問は、私の若き日の感傷のようなものです。
「サピエンス全史」を読む直前、「マルクスの心を聴く旅 若者よ マルクスを読もう番外編」(かもがわ出版)を楽しみましたが、このような単純な宣伝文句につられちゃうのです・・。
 ところで、ある事情があって昔の蔵書を整理することになり、レーニンやロシア文化人の本が大量に出てきて嫌になりました。中国文化大革命における凄惨な家族及び自己体験記、ユン・チアン著「ワイルド・スワン」は複数あり、一つは出版直後の英語版(当時、日本で出版されていなかった)だったこともショックでした。つまり挫折して最後まで読めなかったのです。
本論に入ります。マルクス経済学に対する批判は、いまだ経済的な側面については十分になされていないと言い訳してきましたが、現状、労働者階級なる概念はもはや通用しないでしょう。労働者も一元的ではありません。会社に属していても投資等のクレジットに取り囲まれて生活しており、単純に労働価値や剰余価値などのみで分析できない時代に入っております。
体験的に考えればもっと単純です。つまり中国文化大革命が日本で起きるなら最初に抑圧されるのは単純な私でしょう。詰まらない予測は別にしても、これまでの歴史を見れば分かることです。
いやー、若き時代の熱を冷ますのは大変です。
5 怒りを一つ。
先に紹介した本、「マルクスの心を聴く旅」のなかで「過去の日本の左翼運動には身体性がなかった」という記述、そして「パートタイムの学生運動だった」という感想には腹がたちました。
“遊び半分の学生運動は東大生だけでしょう”と言いたい。マルクスを訪ねるドイツやイギリスの旅に「いいな」と思っていたところ、終わりの211頁で呆れました。こんなことを言う大学教授(名前は書きません)が“マルクスの心を聴けるのか”と文句をつけたい。そもそも東大生には選択の幅があり、恵まれた学生でした。学生運動にのめりこんでいても選択の幅がありました。それ以外の学生は、人生における強烈な分岐点に立っていたのです。
文句はこれくらいにしますが、不服なら何時でも受けます。
6 そろそろ終わりにしましょう。
  長いけど気持ちがいいので「サピエンス全史」の冒頭を紹介します。
「今からおよそ一三五億年前、いわゆる「ビッグバン」によって、物質、エネルギー、時間、空間が誕生した。私たちの宇宙の根本を成すこれらの要素の物語を「物理学」という。
物質とエネルギーは、この世に現れてから三〇万年ほど後に融合し始め、原子と呼ばれる複雑な構造体を成し、やがてその原子が結合して分子ができた。原子と分子のそれらの相互作用の物語を「化学」という。
およそ三八億年前、地球と呼ばれる惑星の上で特定の分子が結合し、格別大きく入り組んだ構造体、すなわち有機体(生物)を形作った。有機体の物語を「生物学」という。
そしておよそ七万年前、ホモ・サピエンスという種に属する生き物が、なおさら精巧な構造体、すなわち文化を形成し始めた。そうした人間文化のその後の発展を「歴史」という。
歴史の道筋は、三つの重要な革命が決めた。約七万年前に歴史を始動させた認知革命、約一万二〇〇〇年前に歴史の流れを加速させた農業革命、そして僅か五〇〇年前に始まった科学革命だ。」

凄いテンポではありませんか。

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