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株主総会運営の変遷 (IR株主総会 その3)
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- 株主総会
一 これまでの株主総会
1 前回のコラムでは、次回「ためにする不規則発言」とその対策等についてご紹介するとお話ししましたね。
近時「総会屋」なる用語は出なくなりましたが、昨年の総会シーズンでは、ある「特殊株主」について話題に出ることが多く、意外と緊張しました。新聞や週刊誌にも出たこの方からご紹介しましょう。
この方は76歳の男性で、元お医者さんです。ネット情報を要約させていただくと、2年前(平成26年度)には都内で179社の株主総会に出席され、124社で発言されたそうです。訳の分からない不規則発言や言動が多く、株主総会の進行を混乱させることもあって、我々株主総会担当者の間で評判になったのです。しかし何と昨年、株主総会真っ盛りの6月20日に逮捕されてしまいました。識者の見方としては、株主総会の円滑な進行を図るため、多分この時期に合わせて逮捕したのだと指摘されております。何故なら、すぐに出所しておりますから。
この男性は議長不信任動議を出しまくる方で、その動議が否決されても騒ぐため、やむなく退場命令を出されるような荒れた株主総会になってしまったこともありました。そもそも議長不信任動議を出す前の発言も要領をえず、これらの行為は明らかに業務妨害になります。もちろん刑事告訴した会社もあったと聞いております。
2 株主総会といえば作家濱嘉之氏
毎年地獄のような株主総会が続く中で、「助っ人」として依頼した作家濱嘉之氏を紹介
しない訳にいきません。最近はテレビにもよく出ておられますね。濱氏は公安警察の世
界を描かせると、この人の右に出る作家はいないと言われておりますが、平成の初め
、警察を辞めて危機管理を業とされておられました。濱氏をネットで調べると本名は最
後の方でしか出てきませんが、危機管理コンサルティング会社経営者と言う事実は、最
初のほうで出てきます。危機管理を依頼していたのは、まだ作家になられる前でしたか
ら、今から20年以上も前のことです。濱氏がいてくれると前に述べた異常な特殊株主さ
んの心配もなく、準備した予定表・想定問答集に従って粛々と進行したものです。
濱氏は2007年に「警視庁情報官」(講談社)を出版され、作家としてデビューされました。当時、私は自ら幹事役を買って出て出版記念会の司会もさせていただきました。現役警察官が多く出席され、多少雰囲気が違って楽しかったです。
「警視庁情報官」は、私の好きな作家佐藤優氏が激賞したもので、公安捜査の紹介としては最初の本でしょう。ご一読ください。
二 株主総会指導書に書きにくい理念
1 「危ない株主総会」を多く経験しましたが、当然の突発事故も予定のうえです。どの株主総会も無事に終了しておりますが、その反動でしょうか?もっと株主の皆様にソフトな運営もできたという気持ちもあります。もちろん株主総会議長役の方の了解なくして勝手なことはできません。しかし、このような視点から、現在氾濫する株主総会指導書の一部には不満を持っております。今はやりの「IR」の意味を再度検証していただきたい。「IR」とはInvestor Relationsの略です。企業が株主や投資家に対し、投資判断に必要な企業情報を、適時、公平、継続して提供する活動のことをいうとされていますが、私は株主総会が形式的に、時には権威的に運営されることに疑問をもっております。「できるだけ開示」などと低次元のことを言っているのではありません。そもそも「IR株主総会」と言われる程度に、情報開示に努力した事前準備の想定問答集を作成してほしいのです。
確かに株主総会というものは出たとこ勝負の側面もあり、いくら事前に準備しても、突発事故の起きる可能性は排除しきれません。
私の経験でも、会社の製造物から被害を受けたとして、わざわざ株主になって株主総会で質問・謝罪を要求された事例や、会社役員個別に具体的な報酬額を明らかにするよう迫った質問で、異議まで出された経験もしております。ハンドマイクを持ち込もうとして受付で乱暴が行われた危ない事例から、笑ってしまうものとして、事業報告においては英単語を使わないで説明しろというようなこともありました。
2 会社法では、取締役説明義務の規定(314条)もありますし、同時に説明を拒絶できる事由についても規定しております(会社法施行規則71条)。説明義務を果たしたかどうかの判例も大量に出ております。
でも上から目線の対応は好きではないのです。このようなことを社長にどのように説明できるのかが私の近時の関心でもありました。
実は前回のコラムで、ソフトバンクでの副社長に支給してきた報酬取扱いのまずさを指摘しました。悪口のつもりで書いた訳ではありませんが、多少気分が良くないので、その後も孫正義社長の発言等を追っかけしておりました。
孫社長は、7月28日の決算説明会において次のような説明をしたそうです。「我々はリングに立つボクサーのようなもので、何発目に左を出すとは言わない。勝つことが大事で、勝つプロセスを説明することが大事ではない」。この説明は「IR株主総会」の説明義務の分岐点を示しております。つまり、株主に対する説明の範囲が明らかにされ、私も当事務所の依頼会社社長に、具体的に総会で説明するべき限度をお教えするのに使えます。権威主義が嫌いな私の考えに少し馴染まないところもありますが、このような議論をすることによって、少しずつ形式主義の壁が取り払われるのでしょうね。